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振り下ろした金属バットから、グシュッと鈍い感触が伝わってきた。
佳林はニマッと口元を歪ませると、つづけてバットを頭上に構えた。
ビチャッ!振り下ろされたバットの下、赤いものが飛び散った…。
「キャハハハ♪」佳林は楽しげに、ゲスい笑い声をあげた。

「カリン、お見事」先ほど佳林が叩き割ったスイカにかぶりつきながら、紗友希がいった。
J農果樹科の実習室のなか、甘い香りが空気を満たしていた。
「ところでゆかちゃん。例の件はうまくいきそう?」
シャクシャクとスイカをかじりながら、朋子が訊いた。

「たぶんね…」いつも泣きそうな顔の由加だが、今日はなおのこと声が小さい。
先日、ポッシハイと共闘して他の地域のヤンキー高と一戦交えたのだが、
惜敗という結果に終わってしまった。由加は責任を感じて凹んでいたのだ。

「まだ気にしてんの?」能天気にあかりがいう。
由加は一瞬プクッとふくれたが、気を取り直すようにクイッと姿勢をただした。

「今度の作戦は穴がないわよ。絶対うまくいく」
「そうそう、ゆかちゃんにしか根回しできないんだからさ。しっかりして」
励ますように朋子が応えた。

「ちょっと!あーりーったら種飛ばさないで!」
佳林が怒りながら、注意した。
「なんで~?おもろいやん。プッ」
ピトッ。飛ばした種が佳林のおでこにくっついた。
「インド人や」「千昌夫でしょ」「古いな」
口々に好き放題いわれて佳林がキレた。
プッ!プッ!プッ!一気に飛ばし合い戦争が始まった。

 

真っ赤に焼けた鉄。熱気がゆらゆらと陽炎のように空気を揺らしていた。
その揺らぎを見つめる佳林の頬にツーッと一筋の汗が伝う。
ジュウッ!たちまち焼け焦げる様を見て、佳林は妖しげな笑みを浮かべた…。

「あーもうクソ暑い!」あかりが大声で叫んだ。
“種飛ばし戦争”で実習室を散らかしてしまった罰として
佳林とあかりは、炎天下でトウモロコシを焼かされていた。
七輪の上の網には、整然とトウモロコシが並べられている。
ペタペタと刷毛で醤油を塗りながら、佳林がキッとあかりをにらんだ。
「あんたのせいでしょ!」
「カリンちゃんが暴れるからや!」

佳林は無言のまま、まだ焼いていないトウモロコシをつかむと、
しゃがんでいるあかりの頭頂部めがけて振り下ろした。
ゴンッ!「あたッ!なにすんねん!」
負けじとあかりもトウモロコシをつかみ、佳林のボディーを突いた。

「ケリつけたるわ」「上等。かかってきなよ」「吐いたツバ飲まんとけよ!」
まるで古代コロッセオのグラディエーターよろしく、
トウモロコシを短剣のように構えて、
佳林とあかりはジリジリと間合いを計った。
シュッ!佳林のトウモロコシがあかりの喉元めがけて突き出された。
あかりは紙一重でトウモロコシをかわし、そのまま前進して懐に飛び込む。
抜き胴の要領でトウモロコシを水平に払った。
だが佳林は素早く上半身を後ろに倒すと、
まるでカンフー映画のように優雅な動きでとんぼを切った。

ピシャッ!「わあッ!」いきなり水をかけられ、2人は同時に振り向いた。
ホースを手にした朋子が仁王立ちしている。
「いい加減にしなさい。トウモロコシ焦げてるじゃない!」

 

「ハァ…ハァ…」下校時刻の校門前。
おぼつかない足取りでヨロヨロと校門に寄りかかるひとりの少女がいた。

「なにあれ?」「しッ」「行こ行こ」
J農の生徒たちは、関わり合いになるのを避けるように足早に立ち去っていった。
それもそのはず、少女の制服は土で汚れ、顔が腫れている。
おまけに乾いた血がこびりついていた。

「あ、あんた…どないしたん?」
見覚えのある顔。あかりは怪訝な表情で声をかけた。
あかりを認めると、その少女は校門に背中をつけてズルズルとへたりこんだ。

「あーりー、知り合い?」あかりの肩越しに佳林がヒョイとのぞきこむ。
「こないだのモー商のやつや。うちにチョーパンかましたやつ」
「こんなとこでいったいなにを?こんなボロボロで」
「んなこと、うちが知るわけないやん。ええからちょっと手ぇ貸して」

さくらを抱えようとしたとき、ふたつの人影が近づいてきた。
「間違ってたらごめんなさいよ。あんた植村かい?」
小柄な茶髪の女の子が訊いてきた。
もうひとりは黒髪デコ出しの女の子である。
「…だったらどうする気ぃやねん?てか誰やあんたら?」

「あたしらモー商天鬼組のモンだよ。あたしは石田」
「まーちゃんです♪」

「…で、なんの用や?」若干あかりの声が震えた。
悪名高い天鬼組…。なりは小さいけど凶暴なやつらや…。

「先輩がたの手前、J農とコトを構える気はないよ」
「じゃ、フルーツのお礼?わざわざ義理堅いこと」
佳林が挑むようにアゴをあげた。ビビってる様子はまるでない。

「あんた植村の仲間?」亜佑美が訊く。
「まあいいや。とにかく後輩が世話になったみたいだからケジメはつけなきゃね」
「J農ごときにてこずるなんてモー商の面汚しだもん。そうだろ小田!」優樹が一喝する。

「というわけで情けない後輩に気合いを入れてやったわけ」
あかりがギリッと奥歯を噛んだ。「売られたケンカは買うたるで」
「どっちか選んでタイマンと思ってたけど…ちょうど2対2…ナイスシチュエーション」
「イヒヒ♪」佳林めがけて優樹が突進する。
「危ない!」へたりこんでいたさくらが叫んだ瞬間、
優樹の右ストレートが佳林の顔面にめり込んだ。

「まさラ~シュッ!」いいながら優樹は次々とパンチを繰り出す。
佳林は防戦一方。すさまじいラッシュにガードを固めるしかなかった。

「カリンちゃん!」叫んだあかりのボディーに亜佑美のパンチが飛ぶ。
「よそ見すんな!」こちらの攻撃も恐ろしく速い。
胃袋、肝臓。身長差のせいで亜佑美の攻撃はボディーに集中している。
的確に急所を狙ってきた。パンチに重さはないが、連打がじわじわ効いてきた。
組みつこうとするあかりの手をスルリと抜け、撹乱される。
あかん…。読むんや、次の動きを…。わざと大振りのパンチをだす。
チャンス。亜佑美のふたつ縛りの髪、片方がつかめた。
「痛い!痛い!」暴れる亜佑美に足払いをかけ、バランスを崩した。
「おりゃあッ」あかりは低い姿勢になって、もう片方の手で亜佑美の足首をつかんだ。
「わ!わ!わ!」そのまま力任せに、亜佑美を180度回転させる。
グシャンッ!脳天直下で地面に叩きつけられ、亜佑美はブレイクダンサーのように倒立した。

一方的に佳林をタコ殴りしながらも、優樹は妙な感覚にとらわれた。
普通ならもう倒れるはずなのになぜ?
まーちゃん疲れてきたよ…。

わ、笑ってる!?ガードの下から見つめてくるその黒目がちの瞳は間違いなく笑っていた。
優樹のパンチがあたるように見せかけ、微妙にポイントをずらしている。
まったくダメージがなさそうだ。

(このひと…強い…)優樹の息がきれてきた。
「ゲボッ!」すくいあげるようなアッパーが優樹の鳩尾に突き刺さった。
「攻守交代しよ♪」佳林の飛び膝蹴りがまたも鳩尾に入る。
すでにスタミナぎれ寸前の優樹は、たまらずクリンチした。
「甘い」佳林はススッと後退する。抱きついていた優樹が前のめりになったところ、首に腕を巻きつけた。
フロントチョーク。優樹は眠り込むように、佳林の腕のなかで気を失った。

ぐるんッ!白くなっていた亜佑美の目が元に戻った。
逆立ちの体勢のまま、尻餅をついているあかりの頭めがけて強烈な蹴りを放った。
「わわッ!」避けようとしたあかりの鎖骨にガシッとヒットする。
「うッ!」鎖骨がミシリと嫌な音をたてた。

転がるようにあかりは亜佑美から離れるが、
亜佑美は変わらず逆立ちのまま、クルクル回ってキックを振り下ろす。
「あたしを本気にさせたね!」
いうが早いか、カポエラのように変幻自在の蹴り技が繰り出された。

まるきりブレイクダンサーの動きである。
重力を無視するように、亜佑美の手足は目まぐるしく動きつづけた。

ゲシッ!ついに勢いをつけた蹴りが、あかりの顔面をとらえる。
「がッ!」あかりの目の前が唐突に暗くなった。

「あーりー!」ギロチンをキメたままあかりのほうを振り返った佳林の腹部に、衝撃が走った。
「うぐッ!」気絶して脱力していた優樹の身体が自力で動いている。
衝撃の正体はアイアンクローだった。胃袋をわしづかみにされ、内容物が喉元にこみあがる。

もう回復しただと?そんなバカな…。
佳林はたまらず腕をほどき、思いきり優樹を突き飛ばした。
ザザッと踏みとどまった優樹の顔を見て佳林は戦慄した。
目の焦点が合っていない。いや、その角膜はなにも見ていない。
優樹は気絶したまま、レスリングスタイルの構えをとった。

それを見たさくらが悲鳴に近い声をあげた。
「ビーストモード!」気を失うことにより覚醒する優樹の戦闘形態。
リミッターが外れた優樹の獸性が、いま解放されようとしていた。

「ガルルッ!」予備モーションのない高速タックルをくらって、佳林が倒された。
速い!ガードに叩きつけるようにパウンドが雨あられのごとく降り注いだ。
「あ!う!」横っ面からのパウンドが耳の後ろにヒットする。
意識が遠のいた。「ガルルッ!ガルッ!」容赦なく拳が飛んでくる。

このままでは撲殺されてしまう。
必死に頭部を両手でガードしながら、佳林は一か八かの攻撃をしかけた。
優樹の脇腹を狙って両手貫き。

パァンッ!破裂音が響いた。
貫手になった佳林の両手が脇腹に突き刺さる寸前、
ガードがなくなった佳林の耳に、
優樹の平手打ちが頭を挟むように叩きつけられていた。

「あ…」仰向けのまま、佳林は細い悲鳴をささやいた。
ピシュッ!佳林の両耳から鮮血がほとばしる。
「あ…」テレビのスイッチをきるように、佳林の視界からすべてが消えた。

佳林に馬乗りになったまま、ハンマーのように拳を振り下ろそうとした瞬間だった。
ガッ!手首をつかまれ、優樹の身体がそのまま持ちあがった。
グリンッ!小手返しで地面に叩きつけられた優樹の後頭部にゴツンとゲンコツが飛ぶ。
「!?」電池切れのように優樹は動かなくなった。

「あ…」二の句が告げられず、立ち尽くしている亜佑美にその人物が冷ややかな視線を投げた。
「あゆみちゃん、そのへんにしときなさい」

艶やかな髪をフッとかきあげて、譜久村聖はつづけた。
「様子がおかしいから尾行てきたら…」
フゥと息をつく。「勝手な真似は慎んでちょうだい」

聖はチラリと転がっている佳林とあかりを一瞥した。
「あなたたちを本気にさせるなんて…J農にも骨のある子がいるのね…」
イタズラっぽく、だがあくまで冷ややかに聖は微笑した。

きびすを返すと、ビビってすくんでいる亜佑美をキッとにらんだ。
「まさきちゃんを運んで。さくらちゃん、あなたも手伝って」

天鬼組襲来…。この事件はJ農を騒乱の渦に巻き込むきっかけとなった。
西の空、急速に広がった雨雲が雷鳴を伴って近づいてきていた。

 

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