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「待てッ!まだや、まだ終わってへんッ!」
立ち去ろうとしていた聖たち一行の背中に、威勢のいい声が浴びせられた。
気を失っている優樹の両脇から手を差し込んで支えていた亜佑美とさくらが驚いて振り返る。

すでに中天を過ぎて傾きかけている太陽を背負い、シルエットが立っていた。
その人影は、大きく両手をさしあげて、戦いのポーズをとるあかりだった。

聖はゆっくり振り返ると、赤や青のクレヨンで落書きされたようなあかりの顔をじっと見つめた。
「戦いに臨むには、まだ休養が足りないように見えるけど?」
憐れむと同時に、小馬鹿にするようなトーンで聖がいう。
「うちは本気や…約束したんやッ!J農は…J農はこんなところで終わられへんねんッ!」
瞳をクワッと見開き、髪を逆立てるようにしながら、あかりは叫んだ。

そのあまりの気迫に、さすがの聖も一瞬たじろいだ。
それほどまでに凄まじい、それは気迫だった。
ユラーッと聖が前に出る。闘気が揺らいでいるのが、明らかに感じとれる。
「ふ、譜久村さん!?」亜佑美が狼狽えながら声をあげた。
背筋をまっすぐに立てた美しい姿勢で、聖は静かにいった。
「お相手しなきゃ失礼だわ。こういう子にはカラダで教えてあげなくちゃ」

「かかってきなさい…でも覚悟なさい。命の保証はできなくてよッ!」
聖があかりにビッと指をつきつけた。
「のぞむところやッ!」それよりも早く、あかりもそう叫んで、飛びかかる。
だが、聖も素早くそれを迎えうち――ガッキンと2人は組み合った。
しかし――そう見えた瞬間、あかりの身体は大きく投げ飛ばされている。
「あうッ!」そのまま地面に叩きつけられ、あかりは驚きの声とも悲鳴ともつかない声をあげた。

なんや、なんで投げられたん…?
そこに、間髪入れずに聖が間合いを詰めてくる。
かろうじて立ち上がったあかりのふところ――飛び込んできた聖が、掌底を叩き込む。
「うッ!」肋骨がミシッと音を立て、顔が苦痛で歪んだ。

「石田さん!止めてください!あの子、死んじゃう!」
さくらの目に恐怖の色が走った。
「無理無理無理!あたしが死んじゃうでしょ!」

聖の手刀があかりの喉咽を突き上げた。
「はッ!?」あかりの息が詰まった。肩から地面に落ちかけたところへまた手刀が叩きこまれた。
(あかん…)感覚が失せて、意識が闇に吸い込まれそうになる。

ガシッ!あかりの右手が聖の豊かな胸の膨らみをつかんだ。
「――!?」隙ができた。あかりの両腕の拳が聖のみぞおちを力任せに突き上げる。
「あんッ!」衝撃に聖が上体を屈めた。チャンスや!拳を顔に叩き込む。
聖は鼻血を吹いた。なんて重いパンチなの…。目がかすむ。
こんなのを何発も食らったら…。ガツンッ!アッパーが飛んできた。
血が鼻腔を塞いだ。聖は相手を侮っていたことを悔やんだ。
(この子、強い…)聖の目がキラッと光る。
次のパンチが耳もとをかすめた。聖はあかりの手首をつかんでねじる。
反り身のまま身体を転倒させた。こんがらがった2人が地面をゴロゴロと転がった。

聖が飛び起きる。あかりが跳ね起きる。
「くうッ!」あかりが聖の股間を蹴りあげた。
弾みで聖が後方に飛ぶが、素早く体勢をなおし、あかりの側頭に手刀を見舞う。
グワンと頭が鳴った。吐きそうになる。聖の左足が顔めがけて飛んできた。
あかりはその足に抱きつくと、軸足を刈った。
「きゃッ!」転がりながらヒールホールドを狙う。

唖然としながら2人の攻防を見つめていた亜佑美がいう。
「…あの譜久村さんが…苦戦…してる」
驚異的なタフネスと、力任せに押していく戦闘スタイルは生田衣梨奈を彷彿とさせる。
だが、さくらはもうひとつ気づいていたことがあった。

「石田さん、あの子、ただのハードパンチャーじゃありませんよ…」
先ほど亜佑美が見せた蹴り技、以前さくらと戦ったときにさくらが見せた関節技…。
「それに譜久村さんの合気柔術まで…」
「どういうこと?」亜佑美が訊く。
「たぶん…あの子、戦った相手の技をトレースできるんじゃないかと…」
格闘技術を見て、食らって、すぐさま体現できる…。天才か…?

ガゴッ!斜め下から繰り出された聖の掌底が、あかりのアゴにきれいにヒットした。
(あれ…)痛みを感じなくなった。
頭の中が麻痺したようにジンジンと鳴っている。
あかりはストンと尻餅をつくと、そのままバタッと仰向けに倒れた。

今にも落ちてきそうな空模様。
聖が、そろそろかしら、と空の匂いを嗅ぐように鼻を上げたとき、低くたれこめた雲に光の筋が走った。

身体の力が全部地面に吸い尽くされた感じで、あかりは目を開けているのがやっとだった。
息を弾ませたまま、聖があかりに近寄る。
スイッと手を伸ばされ、あかりは反射的に目をつむった。
おそるおそる目を開けると、聖の手はなにかを待つように差し出されていた。

「あ…」聖が大きく息を吐きながら、ホレッという仕草で手をプラプラさせる。
あかりが聖の手をつかむと、グイッと引き起こされた。

「あなたのことはよおく覚えておくわ。」ニヤリと微笑んだ。
雷の音とバケツをひっくり返したような雨が一緒になって落ちてきた。
「わ!わ!傘、傘!」亜佑美たちが慌てて近くの軒下に駆け込む。

「風邪ひかないうちに帰りなさい」熱っぽくあかりの手を握ったまま、聖がいった。
「またいずれ、どこかで」聖が手を離した。
「つ、次は負けへんから」大人の女の色香にむせそうになりながら、あかりが応じる。

聖たちの姿が見えなくなり、あかりはヘクシッと大きなクシャミをした。
「あ!カリンちゃん!忘れてた!」急いで駆け出した。

 

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