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「へぇ、なかなか面白いものを持ってきたね」
薄暗い私の『製作室』その部屋の中で私ことリンとアコとの久々の邂逅が密かに行われていた。
私の前には一人の『スカベンジャー』、数少ない地上でのアンダーワールドからの知り合いだ。
…もっとも…私は大分昔から地上に住み着いていてアコと会うのも久しぶりなんだけど…。
「リン、お一つどうです?」
アコ……商魂逞しいところ相変わらず変わってないな…。
手渡されたプラズマブラスターと……これは……。
「『超小型核融合電池』…?」
プラズマブラスターなんかの比じゃない…こっちのほうが私は気になる…。
ここまで小型化出来るなんて…。中どうなってるんだろう……。
「…アコ、ただの『テクノロジスト』の私にそんなにお金がある訳ないでしょ」
…超小型核融合電池だけでいくらするのやら…。
「…やっぱり商路の確保が優先やなー」
…やっぱり最初から私を取引相手には考えて無かったんだね。
「あ…でもこれ欲しいかな…」
私はアコの持ってきたガラクタから傷ついて完全に壊れてしまっているプラズマブラスターを取り出す。
「…それ、持って来といてなんなんやけどぶっ壊れてて完全にジャンク……」
「うん、ジャンクだから欲しいんだよ」
…まだこのプラズマブラスターには命を吹き込める…。
「そのくらいだったら物々交換の方がワンチャンある気がするわ…」
「ってな訳で何かありまへん?」
物々交換かぁ…。あぁ、そういえば…。
「これなんてどうかな?」
私は懐から巾着を取りだし中からいくつかのビー玉を取り出す。
「…ただのビー玉やないですか?これは…」
ビー玉を覗きこんで訝しげな顔をするアコ。
「…ううん、ちょっと見てて」
そう言って私は緑のビー玉を一つ掴み上げて窓の外に放り投げる。
『草木よ!』
その瞬間窓の外で投げたビー玉を種子にしたかのように、一本の巨大な樹が生える。
「こいつは驚きましたわ…」
それを見て唖然とするアコ。
「これをどこで手に入れたんです……?」
「これは私が昔作った『杖』の持ち主の成長記録みたいなものかな…?」
「『杖』…?」
「昔作ったんだ、魔法使い用の杖」
「なるべく現代社会に溶け込みやすいものって言われてさ、たまたま胸ポケットに差してたボールペンを改造してみたんだ」
「…なるほど、それなら違和感もないわぁ…」
「うん、そんな手抜き品だったんだけどお礼がしたいって言われて送られてきたんだ」
「杖…つまり魔法のビー玉ってことかいな」
「そう、使い捨てだからさっきのも結構貴重なんだよ?」
「こ、これはえぇもんです!」
「これが地上の魔法か…!」
興奮気味で色とりどりの硝子球を覗きこむアコ。
「でも全部持って行かないでね」
一応釘を差しておく。
「…あ、当たり前やんかぁ~!」
…怪しい…。
「赤に炎の魔法、青に氷の魔法、薄い水色に水の魔法、緑に植物の魔法、黄色に雷の魔法が入ってるから気をつけて扱ってね?」
「しかし、こない貴重なもんまで出して一体そのガラクタどうする気なん?」
「これさ、フォルムが気に入っただけだからプラズマブラスターであることはそんなに大事じゃないんだ」
「…まぁフォルムは大事やね、仕方ない」
こういうところで気が合うからアコは嫌いになれない。
「その魔法のビー玉もなんだけどさ、最近は珍しいものが良く手に入ってさ…」
そう言って私は巾着から少し歪んだ球体を取り出す。
「これは魔法のビー玉やないん?」
「これはね……『カース』の核だよ」
私がそう言うとアコは少し驚いた顔をする
「カースの核ぅ!?でもそんなもん素手で掴んだら…!」
「…そう、侵食される…」
…普通はね。
「これはね、浄化されてるんだ」
「浄化って一言に言われても反応に困るなぁ」
…うーん、確かにそうかも。
「…精神感応系の能力者がまっさらにしたカースの核って言えばいいかな?」
「それでもよくそんな恐ろしいもん素手で持てますなぁ…」
「…鍛えてるから?」
「んなの関係あるかい!」
「まぁ、それはともかくカースの特性って知ってる?」
「七罪の名前が付いてること、核を壊すまで復活する…くらいしか知らんなぁ…」
「うん、カースの核は周囲から黒い感情を吸って自己修復や回復するんだ」
「…それならまっさらな浄化すれたカースの核はどうだと思う?」
「…もしかして前向きな感情を糧にするんか?」
…引っかかると思った。
「残念ハズレ。清濁問わず全ての感情を取り込むよ」
「…それって危なくないん?」
「これはリミッターを掛けて持ち主以外からは感情を吸えないようにしてあるから大丈夫」
「まぁもし私が思いっきり負の感情抱えたら一気にカースになって私ごと取り込まれちゃうけど」
「全然大丈夫ちゃうやないか!」
「大丈夫、私が持つのは探究心だけだから!」
「自慢にならんわっ!」
「……まぁ見ててよ」
私は慣れた手つきでプラズマブラスターに細工を始める。
アンダーワールドの『テクノロジスト』…舐めないで欲しい。
「…はぁ、どうでも良くなりましたわ…」
夢中でプラズマブラスターを弄り始める私を呆れた目で見るアコ。
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「…こんな感じかな…?」
プラズマブラスターへの細工を終えて私は顔を上げる。
「相変わらず仕事の早いことですなぁ…」
そんなに褒めないで欲しい。
「多分いけると思うんだけど…」
そう言って私はプラズマブラスターの引き金を引き、唱える。
『氷よ!』『氷よ!!』
立て続けに二発。
軽い反動の後にプラズマブラスターから二発の力の塊が飛び出し、被弾した製作室の壁が凍りつく。
「…出来た…!『魔法銃』」
「こいつはまたどえらいもんを…」
「カースの周囲の感情を取り込んで力を蓄える性質と魔法を込めたビー玉…」
「要はビー玉自体の魔力を使わないで魔法の発射口に出来ればって思ったんだ!」
「ビー玉を取り替えれば色んな魔法が擬似的に使えるよ!」
「……うん、満足した。これあげるね?」
「は?」
そんなこいつアホかみたいな目で見ないで欲しい。
「これ、使う時にくれぐれもカースの核に飲み込まれないようにね?」
「それとまた面白そうな素材が見つかったら持ってきて欲しいな」
「…リン、アンタやっぱり偉くはなれんわ…」
…うん、知ってる。
「…それにしてもやっぱり地上は面白いものに溢れてて飽きないね」
今日も私は地上で『テクノロジスト』として生きている。
最終更新:2013年06月26日 19:42