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『ついてない』
今の俺を表現するにはこの言葉以外は思いつかない。
「…カインドも居ないのにな…」
目の前には二体のカース。
放っておけば街中に被害を及ぼすだろう。
「…くっ!」
二体のカースは交互に触手による攻撃を加えてくる。
「クソッ!」
避けきれなかった触手を当たる前に思い切り上に蹴り飛ばす。
『グァァ!?』
反撃を予想していなかったであろうカースから苦悶の声があがる。
『ユルサナイ!ユルサナイィィ!』
蹴り飛ばしたほうのカースが激昂して体当たりをしてくる。
「あぐっ!?」
為す術もなく吹っ飛ばされる俺。
「こんなところで倒れてて何がシビルマスクだ…」
…14年前に戦ったやつらはもっと強かった。
『ユルサナイィィィィィ!』
二体のカースが同時に触手を飛ばしてくる。
「はは、歳には勝てないかぁ…」
畜生!……畜生…!
『雷よ!』
頭の中に渋く、低い声が流れこんでくると同時に突然割り込んできたものにぶつかり二体のカースが吹っ飛ぶ。
「…なんだこいつ…?」
目の前には二本の角を生やし、鼻水を垂らしやたら目に輝きを秘めた良く分からない生き物。
『…トナカイだ』
トナカイらしい。
『…通じてるのか?』
小首をかしげる自称トナカイ。
「あ、あぁ…なんか頭の中に直接流れ込んでくるみたいだ…」
『…能力も力も持っていないようだが…まさか…』
『何かの力を持つ存在と長い期間共に過ごしたことはあるか?』
…あー…。
「あるな。14年ほど」
美優と、もっとも現在進行形だが。
『なるほど、影響されたか…』
…影響…?
『今はそれどころではないか』
吹っ飛んだ二体のカースが混ざり合いひとつになる。
『…核が二つになったか、少々面倒だな』
「…地道に一つづつ破壊していくしかなさそうだ」
俺がそういうとトナカイは少し驚いた顔をする。
…多分驚いた顔なんだろう。
……恐らく…。
『その芯の強さ、気に入ったぞ』
なんかトナカイに褒められた。
『私に乗るといい』
…えっ。
―
『雷よ!』
トナカイは雷を帯びた角を振り回しカースを抉る。
「落ちる!?落ちるー!?」
必死で背中に捕まる俺。
『…私の角を引き抜け!』
こうなりゃヤケだ。やってやる。
「うらっ!」
カースを抉ったほうの角を思いっきり引っ張る。
「…抜けたけど凄い放電してるなこれ」
ゴム製の手袋で良かった…。
『…その割には冷静ではないか』
うぉっ、引きぬいた瞬間に新しいの生えてきた…。
「…まぁこれでも人生経験豊富なおじさんだからな、トナカイ」
『ブリッツェンだ。ドイツ語で雷の意味がある』
なるほど雷、そういうことか。
「…シビルマスクだ」
『…精々振り落とされないように頼むぞ』
「…上等だ」
ブリッツェンが角で何度もカースを抉る。
何度も何度も何度も。
何度も何度も何度も。何度も何度も何度も。何度も何度も何度も。
そして…抉られた泥の隙間から。
「見えた!左上肩のあたり!」
『雷よ!』
俺が指示した場所をブリッツェンが抉る。
そして抉られた隙間から見えた一つ目の核に
「せいっ!」
引きぬいた角を突き立てる。
耳障りな音を立てて核が砕ける。
「『一つ目っ!』」
核が一つになったことによりカースがどろどろと溶けて小さくなる。
『グゾォォォォ!』
「見苦しいぞ、泥んこ!」
ブリッツェンがカースの前まで全力で走る。
「大人しく消えてろ!」
ブリッツェンに乗ったまますれ違いざまにカースの胴体を思い切り引きぬいた角で振りぬく。
それと同時に振りぬいた角が一際激しく放電する。
『アグァ!アグァァァァァ!』
カースの断末魔と核の破砕音が同時に響いた。
―
「て、店長!?大丈夫ですか!?」
お店の前には傷だらけの店長。
「ははっ、ちょっとカースが二匹ほど出てきてなぁ…ちょっとだけ危なかったよ…」
「一人でやっつけちゃったんですか!?」
二匹出てきたのに…?
「…あー、ある意味『一人』ではあるかもなぁ…」
…どういう意味でしょう?
「いや、たまには乗馬もいいかもな、うん、あれトナカイだけど」
「…本当に大丈夫ですか?」
……あれ?
「そのうねうねした棒ってなんですか?」
店長はその棒を杖にしてゆっくりと立ち上がりました。
「これか?これな…俺の戦友がくれたんだ」
…戦友…?
「四足歩行のな」
余計訳が分からなくなりました。
「見てろよー、ほっ!」
バチリと棒から電撃が弾けます。
「だからその棒なんなんですか!?」
「だから戦友から…」
…これじゃ堂々巡りです。
最終更新:2013年06月26日 19:35