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 それは今から14年前のこと。
 地球にひそかに危機が迫っていました。
 
 しかし、勇気ある女の子たちが力を合わせて戦い、平和を取り戻しました。
 とても辛く苦しい戦いでしたが、友人たちとの絆と思いは不可能を可能にしたのです。
 
 彼女たちに力を与えた小動物からは、成長するにつれその力は消えて行ってしまうと説明を受けました。
 それでも戦いの中でお互いに感じたものや芽生えたものたちは決して変わらない。彼女たちはそう笑いました。
 なんて素敵な関係だろう。彼女たちへと力を渡したのは間違いじゃなかった。
 改めてそう、彼は思ったそうです。
 
 実際それからもよき友人として、仲間として過ごすことができました。
 できました、が――
 
 
 ――時は流れ流れて、現代。
 ある日突然「特別」が「特別」でなくなりました。
 
「片づけも大変だなぁ……」
 
 イタズラ程度で済むことはともかく、怪獣や怪人などが暴れてものが壊れたあとは大変です。
 『能力』で直したり、戻したりできる人もいるそうですが……全てを任せることはできないのですから。
 
 だから自分のことは自分で。
 彼女――三船美優はショップの前の掃除と片づけにおわれていました。
 
 お店は決して繁盛しているわけではないけれど。
 こんな世の中だからこそ、ほのかな癒しを求めてやってくる人たちもいるのだから。
 
「……うん、がんばらなきゃ」
 
 誰に聞こえるわけでもない小さな声で自分を鼓舞すると、ある程度まとまったごみを袋へ。
 単純に通りで暴れていったのでしょう、そこまで大きな被害もなく今日もお仕事はできそうです。
 
 
 ――おそらく、昨晩あたりにこのあたりで暴れたのは怪人か……能力を悪用する『人間』だろう。
 美優はそう推理していました。
 
 たくさんの『能力』や『異邦人』が現れてすごす中、当然すべての人が善人というわけにはいかないわけで。
 悪用してお金を盗んだり、犯罪を起こす人もいるというのが事実です。
 
「ふぅ……あ、いけない」
 
 思わず出たため息に、美優は口元へと手をやって反省をします。
 そろそろ開店時間も近くなってきたようで、とりあえずお店を開けようと店内へと入っていきました。
 
 店内の清掃は店長さんが済ませていました。
 彼は昔馴染みで、美優のことをよく知っている相手です。
 
 小さなお店だけれど、日常はとても幸せで2人はそれで満足していました。
 
 
「そういえば、今日はまーくんが遊びに来るんだっけ?」
 
 店長さんが思い出したように言いました。
 まーくんはおなじみのお客さん。小学生の男の子です。
 
 お母さんのことが大好きで、よくお店へお使いへ来てくれます。
 お父さんといっしょにサプライズの計画をしたり、とても仲のいい家族だなと美優は微笑ましく思っていました。
 
「そうですよ。だから、片づけもがんばったんですよね……?」
 
「……ははは、忘れてたよ。俺も年かな」
 
 店長さんはそういって頭をぽりぽりかきました。
 
「……本当に忘れてたんですか?」
 
「なんとなく、しなくちゃいけないことがある気はしてたんだ。勘は衰えてないかな」
 
「もう……」
 
 美優がくすりと笑います。
 ゆったりとした時間が店内を流れていきました。
 
 
 
 
 
 
       ――突然、外から爆音が響きました。
 
 
 
 
 
 
「っ……!?」
 
「なんだ……って、あれは!」
 
 驚いて2人が外へ視線をやれば、そこにはなにやら怪しい人影が。
 どうやら普通の人間ではなさそうです。
 
 まだ時間としては昼前で人通りの少ない、こんな時間。
 人を襲ったり、ものを盗んだりするには向かないだろうということは想像に難くありません。
 
 ということは、無差別にあたりを破壊しようとしているか、能力が暴走しているか、あるいは――
 
「ウオオオォォォォォォォォォォン!!」
 
 ビリビリと、聞いているだけで体が痺れるようなすさまじい咆哮があたりに響きわたります。
 何らかの組織に属している怪人の場合はたいていその怪人に因縁のあるヒーローが駆けつけるのですが、今はその気配はありません。
 
 つまり、探知できるヒーローのいない突発的な怪人。
 理不尽な暴力があたりを襲おうとしていました。
 
 
 美優は考えます。
 
 怪人や怪獣の中には一定のプロセスを踏まないで倒してしまうとあたりへ甚大な被害を及ぼしてしまうものがいること。
 ひょっとしたら駆けつけるのが遅れてしまっているだけで、この怪人がそうではないとは言い切れないこと。
 それから自分自身へとかかってしまう負担……これだけは、ほんの一瞬で流してしまいました。
 
 
 ――怪人が歩いていく方向に、まーくんがいることに気づいてしまったから。
 
 
 美優が駆け出そうとしたその瞬間、黒い影がまーくんを抱きかかえ横へ飛びました。
 直後に、まーくんがいたはずのところを怪人の拳が砕きました。
 
「……すごいパワーだな」
 
 呆然とするまーくんを抱きかかえた男が思わずつぶやきます。
 アスファルトは砕け、まともに当たれば命は簡単に奪われてしまうでしょう。
 
 だからこそ、腕の中でふるえるまーくんへ向けて男は努めて冷静にこういいました。
 
「大丈夫だ、まーくん。このシビルマスクがついてるから!」
 
 
 まーくんは、顔を上げて助けてくれた男の人のことを見ました。
 
 普通のスーツに、少し飾りのついたヘンテコな仮面。
 少なくとも『変身』のできるヒーローではないことは確かです。
 
 すごく強い力のある『能力者』なら、独特の雰囲気を纏っているはずなのにそれもありません。
 さっき怪人が砕いた欠片がぶつかって、流れている血は赤。普通の人みたいに、ケガをしています。
 
 それでも。
 ちっともかっこよくないはずなのに、まーくんは不思議と大丈夫な気がしました。
 
「……うん」
 
「よし、いい子だ……来い、怪人!」
 
 シビルマスクはポンとまーくんを撫でたあと、逃げるように指示をして怪人に向かい合いました。
 怪人も一見変質者にしか見えない乱入者を敵とみなしたのか向き合います。
 
 
 あたりの人たちは先ほどのやり取りの間にどうにか避難したようで、障害物はすっかりありません。
 特性の防災シャッターを閉めてヒーローコール。普段からの避難訓練の賜物です。
 
 獲物が減ったことに機嫌を悪くしたのか怪人が唸り声をあげました。
 
 スンスンと何回か鼻を鳴らすような動作をして目の前の弱そうな獲物以外に何かいないかと探ると、
 後ろから何かが近づいてくることに気付いて振り返りました。
 
 そこに立つのは1人の女性。
 今、避難が完了したまーくんの知り合い。
 シビルマスクとも、浅からぬ関係を持つ人です。
 
 あぁ、どうせならこちらのほうが美味そうだ。
 怪人はそう思って女性へと飛びかかろうとしました。
 
 しかし――
 
「ハートアップ! リライザブル!」
 
 
 まばゆい光が女性から――いえ。美優から、あふれ出します。
 全身が光へ包まれ、そして凝縮し衣へと変化していくのです。
 
 頭には美しいフォーテール。腕には滑らかな布のガントレット。
 希望の証であるエンブレムは胸へ。そこを起点に胸部へと加護を伴うドレス。
 さらに、ヘソ出しルックにミニのスカート。
 
「魔法少女……エンジェリックカインド!」
 
 さらにはキメポーズ。
 
 
「きゃはっ☆」
 
 
「………………………」
 
 思わず怪人が言葉を失います。
 風が吹いて、近くにあったゴミがころころと転がりました。
 
 
 一瞬の空白のあと、シビルマスクが叫びます。
 
「いまだ、カインド! 一気に決めろ!」
 
「はいっ! カインディング……アローッ!」
 
 エンジェリックカインドの腕に沿うように光の矢が現れると、ポウと小さな音だけを残して消えます。
 怪人が戸惑いを覚えるのと、胸の違和感に気付いたのは同時でした。
 
「グ……ゥ……」
 
 光の矢は怪人の胸へと深く突き刺さり、怪人の力の源とともに空へと溶けて消えていきました。
 それを確認することなく、怪人は普通の人間へと姿を変え――いえ、戻って気絶してしまいましたが。
 
「……大丈夫でしょうか、店長」
 
「うん? ……たぶん、大丈夫さ。それより今はシビルマスクだぞ、カインド」
 
 2人はコールを聞いてヒーローが現れる前にそそくさと店内へと隠れることにしました。
 
 
 そのあとすぐに、近くにいた『アイドルヒーロー同盟』のアイドルが駆けつけましたがすでに事件は解決済み。
 不思議なこともあったものだ、と思いつつ通りすがりのどこかのヒーローが助けてくれたのだろうということになりました
 
「……やれやれ、やっぱり俺も年かな」
 
「だいじょうぶですよ、店長は……私なんて……」
 
 美優が両手で顔を覆います。
 店長は頭をポリポリと何回かかいてから、ふぅと息を吐いて真面目な顔で美優のほうを向きました。
 
「……その、なんだ。似合ってるし可愛いし。平気だぞ、美優?」
 
「…………」
 
 ……美優の顔が一層赤みを増すことになりました。

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最終更新:2013年06月26日 18:43