735 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 00:55:55.05 ID:JTBMxD540
[2/31]
摩訶不思議な品物を扱うお店があるらしい。
昔アコから聞いた話だ。
私も最初はとんだ与太話だと笑い飛ばしていたが『現物』を見て驚いた。
それはなんてことない木製の丸椅子だった。
しかし、その丸椅子は不思議なことに『芽吹く』丸椅子だった。
あの時の衝撃は忘れない。
訝しむ私をニヤニヤとした笑みを浮かべて見ていたアコ。
私がその丸椅子に恐る恐る腰掛けてみた。
すると、私の座った丸椅子の脚が台座を貫き、私の背中に沿うように、成長した。
成長した椅子の脚から枝葉が広がり背もたれになり、まるで樹木そのものが椅子となったのではないかと錯覚してしまうほどだった。
驚いた私が椅子から慌てて立ち上がると成長した枝葉も伸びた椅子の脚も静かに引っ込んでいった。
アコがスカベンジングによって入手した椅子だが、結局、私がアコから買い取ることになって不思議な椅子は私の愛用品になっている。
736 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 00:56:53.50 ID:JTBMxD540
[3/31]
リン「結局お店の情報コミコミで結構持っていかれちゃったけどね…」
春菜「…それでこれからそのお店に行くんですよね?」
リン「行くんだけど…なんで春菜がついてくるの?」
春菜「…不思議な眼鏡とか魔法の眼鏡とかもありそうじゃないですか!」
リン「いや、無い……どうだろう?」
正直あまり自信はない。
その前にそのお店がもしも一見様お断りなお店だったら入れないかもしれない。
春菜「ふふふ、期待が持てますね!」
私はスマートフォンをタップしてカピバラを模したアイコンに触れる。
リン「ハンテーン、道はこっちで合ってる?」
『てーん!てーん!』(この先300m先みたいだぞ)
私のスマートフォンからハンテーンの鳴き声と共に翻訳が表示される。
737 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 00:58:10.96 ID:JTBMxD540
[4/31]
春菜「それにしてもなんでカピバラの頭の中身、全部移しちゃったんです?」
スマートフォンに映るデフォルメされたカピバラをじっと見つめる春菜。
リン「いや、最初は生首のまま『製作室』に置いてたんだけどさ…」
春菜「置いてたんだけど……?」
リン「朝起きたら私の研究用のメー君の友達に囲まれててピンチだったからハンテーンの
メモリーを全部PCに移動してスマートフォンで呼び出せる様にしてみたんだ」
春菜「メー君の友達ってことは害はないんじゃない?」
リン「…そう思う?」
春菜「…?」
リン「最近、イワシ型のロボットが街で暴れてるって話聞いたことあるでしょ?」
春菜「…ありますねぇ」
リン「……も、もし…もしも戦うことがあったらサンプルが欲しいなぁ……?」
春菜「…もっとメー君の友達が世界中にもっと増えないでしょうかね?」
738 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 00:58:44.76 ID:JTBMxD540 [5/31]
リン「…これは地上のカース浄化に貢献してるだけだよね」
春菜「…もちろんですよ♪」
私と春菜の間で契約が成立した瞬間だった。
739 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 00:59:44.86 ID:JTBMxD540
[6/31]
リン「……話逸れたね、そのイワシ型のロボットなんだけど、カースで汚染された個体が居るみたいなんだ」
春菜「…まさかメー君を使って私の眼鏡もパワーアップ出来るんじゃ……!」
春菜「マスク・ド・メガネ with メー君!?」
リン「…いや、そっちの実験もしたいんだけど今はそうじゃなくて……」
春菜、眼鏡が関わると恐ろしく脳の回転早くなるなぁ…。
リン「無機物にもカースが干渉出来るってことは春菜の言うとおりメー君たちも例外じゃないみたいで……」
春菜「ですよね、ですよねっ!」
リン「ハンテーンをそのまま『研究所』に置いてたら眼鏡のカースに半ばズブズブって……」
あの時のハンテーンの首の絶望に満ちた表情は忘れられない。頭だけになった時以来だろうか。
リン「慌てて救出したから平気だったんだけど…」
『はんてーん!』(あのジワジワと自我が削られていく感覚は忘れられない)
リン「ボディも大破してたし首だけじゃ活動停止しちゃうからデータ化したんだ」
『てーん!』(その点は感謝してるよ)
そう言ってデフォルメされたカピバラは背中を向けてスマートフォンの画面から去っていく。
春菜「居なくなっちゃいましたけど」
春菜はカピバラが画面から消えたのを見て不思議そうな顔をしている。
740 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 01:01:51.80 ID:JTBMxD540
[7/31]
リン「…ハンテーンの思考とかは何も弄ってないからね」
リン「それにハンテーンがこれ以上のナビゲートは不要だって思ったんじゃない?」
ハンテーンをデータ化する時に気づいたが、ハンテーンの意思には元から何の枷も施されていなかった。
ならば製作者の意思を無視する訳にはいかない。
私が枷を追加してしまうことは製作者への侮辱にほかならないからだ。
リン「だから今回その不思議なお店に行くのもハンテーンの新しいボディの製作ヒントになればいいなって……」
まぁ本当の目的は別にあるのだが。
春菜「わぁ!『アンティークショップ ヘルメス』このお店じゃないですか?」
うん、聞いてないね。
カランとベルの音を鳴らして春菜はヘルメスに入っていく。
春菜に続いてお店に入っていくことにする。
741 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 01:03:46.58 ID:JTBMxD540 [8/31]
リン「…これは…」
驚いた。
ヘルメスに一歩足を踏み入れた瞬間気づく。
この感覚。
この『違和感』私は知っている。
清潔に保たれ、洋風な雰囲気が漂う店内で感じる『違和感』。
これの『違和感』は一体なんだ。
春菜「お洒落なお店ですねぇ」
一足先に入った春菜は燭台付きの鏡に見入っている。
雪乃「いらっしゃいませ、何をお探しですか?」
ひと目で分かるような気品を漂わせた女の人が店の奥からゆったりと歩いてくる。
リン「いえ、今日は……」
今更になって気づく。
気付かされる。
このお店の『違和感』の正体に。
742 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 01:05:04.08 ID:JTBMxD540
[9/31]
リン『魔力……?』
確証は無い。
けれど似ている。
ボールペン型の杖の持ち主と、その師匠、イヴ・サンタクロースから感じたものと。
このお店のアンティークを見た時に感じたものと懐にある魔法のビー玉を使う時に感じるもの。
雪乃「…普通のお客様ではないみたいですね?」
どちらにせよ試してみれば分かることだ。
リン「これを」
私は懐から殆ど中身を使い果たしてしまった巾着を取り出し、彼女に手渡す。
彼女は巾着の紐を緩め、中を見る。
雪乃「…なるほど、面白いものをお持ちのようですね、こちらへどうぞ」
彼女は店の奥、大きなテーブルを指差す。
リン「うん、ありがとう」
リン「春菜、行くよ?」
743 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 01:06:13.26 ID:JTBMxD540
[10/31]
―
春菜「凄いですよ!これ、お皿の中で馬がくるくる走り回ってますよ!」
リン「うわっ、どうなってるのこれ!?」
ただの模様かと思っていた一頭の馬のシルエット。
しかし、皿の縁に沿ってシルエットが駆けていく。
雪乃「私の作った少し不思議なお皿です♪」
雪乃「ふふ、楽しんで頂けてるみたいで嬉しいですわ」
リン「…一体どうなってるんだか全く分からないよ」
さっきからワクワクが止まらない。
雪乃「自己紹介が遅れましたね、私がアンティークショップ『ヘルメス』、店長の相原雪乃ですわ」
春菜「上条春菜です、とりあえず眼鏡いかがですかっ!」
雪乃「め、眼鏡……?」
744 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 01:07:10.16 ID:JTBMxD540
[11/31]
リン「…春菜、雪乃さんを困らせない」
リン「私は…しぶ…やっぱりリンでいいです…」
私、苗字なんて滅多なことじゃ使わないしなぁ。
そんなことよりこの皿の秘密や、雪乃さんについて、聞きたいことは山ほどあった。
雪乃さんはビー玉を天井に翳しては別の色のビー玉を摘んで同じ事を繰り返しいる。
雪乃「これは……魔力が完全に密封されてますね…面白いマジックアイテムですわ♪」
リン「…魔法のビー玉色ごとに別の魔法が込めてあります」
リン「一度開放すると無色透明のただのガラス玉に戻っちゃうんですけど…」
雪乃「限りなく錬金術寄りの魔法ですね、付与の力の発展形なのでしょうか?」
リン「…錬金術…?」
魔法や魔術……あと眼鏡があるのだから今更驚かないけど…。
……いや、ほんと、眼鏡があるからなぁ……。
研究しても未だに全然分からないし。
745 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 01:07:58.59 ID:JTBMxD540
[12/31]
雪乃「…失礼しました、少し夢中になってしまいましたわ」
リン「錬金術師さんなんだね?」
雪乃「えぇ、ここにある不思議な品物全て私の作品ですわ」
リン「…見つけた」
春菜「錬金術師が作る究極の眼鏡……!」
違う、そうじゃない。
リン「春菜、ステイ」
春菜「きゅうん……って私犬じゃないですよっ!?」
リン「知り合いへのお土産にしようと思ってるんだけど魔力と相性の良い装飾品とかってある?」
待ってましたとばかりに雪乃さんが微笑む。
746 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 01:09:02.56 ID:JTBMxD540
[13/31]
雪乃「魔力と仰ってるということは…」
リン「うん、魔法使い、今ちょっと出払ってるみたいだけど便利だから
この魔法のビー玉を追加で貰うんだけど手ぶらじゃなんだなと思って」
雪乃「このマジックアイテムの製作者なら面白いものが使えそうですわね♪」
リン「…面白いもの…?」
そう言って彼女は棚の上に飾ってあったものから装飾の一切無い銀の指輪を取り出す。
雪乃「この指輪は魔力を持つ装着者の最も得意とする力が強化されます」
雪乃「このマジックアイテムの製作者なら一体何が強化されるんだか興味は無いですか?」
リン「…これ、貰おうかな?」
これは面白そうだ。
雪乃「ふふ、お買い上げ有難う御座います♪」
747 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 01:09:41.02 ID:JTBMxD540
[14/31]
―
雪乃「とても有意義な時間でしたわ」
リン「錬金術の話、面白かった」
雪乃「次いらっしゃる時はご連絡頂ければお茶菓子を用意しておきますわ」
雪乃「ゆっくりお話しましょう♪」
リン「うん」
春菜「うぅ、何の話してたんだかちんぷんかんぷんなんですけど……」
リン「春菜、帰ったらメー君とマスク・ド・メガネの強化実験しようか?」
春菜「…ふふふ、来てしまいましたか…私の時代!いえ、眼鏡の時代!」
……春菜、切り替え早いね。
748 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 01:11:21.38 ID:JTBMxD540
[15/31]
――その頃の裕美
裕美「一番得意な魔法で行くよっ!」
裕美は足元に転がっていた瓦礫から一欠片摘み上げると翼竜目掛けて放る。
『元ある形に戻れ! 』
すると翼竜の上空で裕美が放った欠片を中心に辺り周辺から瓦礫の粒が、塊が見る見るうちに集まる。
裕美「細かい欠片は無視でいいから重くて硬いのを中心に…!」
翼竜の上空には荒削りではあるが中小サイズのビルが出来上がっていた。
――
一体裕美の最も得意とし、強化される力とは一体何なのか!
749 名前: ◆yIMyWm13ls[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 01:12:02.84 ID:JTBMxD540
[16/31]
終わりです。
錬金術師来たらいいなー!
来たらいいなー!って思ってたら書いてくれたので嬉しい。
凛ちゃんが歓喜して飛びつきそうとか言った人、当たり前のように飛びつきました。
あと裕美ちゃんが斜め上の方向で強化されそうです。