5スレ目>>434~>>443

434 名前: ◆lhyaSqoHV6[saga] 投稿日:2013/08/07(水) 07:37:11.77 ID:50kJ6ylUo [2/12]

遍く生物の存在を拒絶する深淵の世界──宇宙。
未だ人智の及ばないその漆黒の空間を、まるで自分の縄張りだとでも主張するかのように我が物顔で航行する宇宙船の一団があった。

宵の闇に包まれたかのような暗闇の中にあってなお、自らの偉容を誇示するかのように輝く白亜の船体は、
まさしく宇宙連合の誇る航宙艦のものだった。

提督「ついに追いつめたぞビアッジョ一家め……」

提督「宇宙連合軍特務艦隊の名に懸けて、今日こそお縄をくれてやるわ!」

船団の中で一際大きい船の艦橋では、司令官と思しき人物が鼻息を荒くしていた。
これらの艦隊は、どうやら捕り物の為に出張ってきたらしい。

見る者を威圧する鋭角的なフォルムと、船体の随所に配された砲が、
それらの船が戦闘用に作られた物であることを物語っている。

「各艦、隊列を解除……包囲陣形を取りつつ目標に接近中」

提督「うむ、上首尾だ」

提督「連中には、これまで辛酸を嘗めさせられ続けてきたからな、心して掛かれ!」

彼らはその進路を数多の漂流物が集まる宇宙の流刑地──暗礁宙域へと向けるのだった。

435 名前: ◆lhyaSqoHV6[saga] 投稿日:2013/08/07(水) 07:38:19.74 ID:50kJ6ylUo [3/12]

 

件の艦隊の目的地である暗礁宙域に、息を潜めるように停泊している一隻の宇宙船があった。
提督が必ず捕らえてやると息巻いていた相手……ビアッジョ一家の母船、プリマヴェーラ号である。

ビアッジョ一家──夢と希望とロマンを求めて大宇宙を飛び回る冒険家の二人組だ。
冒険のついでに、行く先々で困っている人々が居ればそれを助けるというヒーローのような事もしている。

また、諸々の事情により宇宙連合に追われるお尋ね者でもある。


「ミサト、起きて!」

一家の片割れメグミが、艦橋のデスクに突っ伏して寝ている相棒のミサトを揺り起す。

ミサト「ふぁ~? メグミちゃん……なぁに?」

メグミ「もう、休む時は休眠チャンバーでって何度も言ってるじゃないの」

メグミがため息交じりにたしなめる。
とは言っても、言って聞かせるのは半ば諦めているのだが。

ミサト「ここが落ち着くんだからいいでしょー」

メグミ「まあいいけど……お客さんよ」

ミサト「お客さん……?」

ミサトはボーっとした頭で今まで突っ伏していたデスクに備え付けられたコンソールを操作し、中空に浮かぶ半透明のディスプレイに映像を流す。
するとそこに、数隻の宇宙船が映し出された。

436 名前: ◆lhyaSqoHV6[saga] 投稿日:2013/08/07(水) 07:39:33.35 ID:50kJ6ylUo [4/12]

ミサト「お客さんて、連合軍じゃない」

メグミ「私達を捕らえに来たんでしょうね……P子、敵の編成は?」

P子「クルーザー四隻、バトルシップ一隻を確認……識別ID照合……以前に接触した艦隊に間違いありません」

母船の頭脳である最新型の人工知能が、接近している艦隊の情報を分析する。

P子「これまでのデータより、当艦隊を敵性と判断します」

ミサト「ここも見つかっちゃったのかぁ……しつっこいなぁもう」

メグミ「しかしまた、随分と豪勢ね」

P子「敵バトルシップから通信が入っています」

メグミ「繋いで」


艦橋の中で一番大きいメインモニターに、純白の軍服に身を包んだ厳めしい風貌の男が映し出される。
男は威厳を込めた口調で告げた。

『こちらは、宇宙連合軍第213特務艦隊である……宇宙犯罪者のビアッジョ一家に告ぐ』

『貴様達は完全に包囲されている、直ちに武装を解除し、投降しろ』

ミサト「お断りしますぅ」

『なっ……おいっ! まて──』プツッ

わざわざ通信に出ておいてけんもほろろにあしらう。
……完全におちょくっている。

437 名前: ◆lhyaSqoHV6[saga] 投稿日:2013/08/07(水) 07:40:44.78 ID:50kJ6ylUo [5/12]

ミサト「それにしても、こんなに近づかれるまで気付かなかったのぉ?」

ミサトが当然の疑問を口にした。
本来、航宙艦程の質量を持った物体であれば接近を許す前にセンサー類が捉えるはずだ。

P子「敵艦隊は高度なクローキングデバイスを使用していた模様」

P子「ある程度の距離に近づくまで、こちらの持つあらゆるセンサー類から秘匿されていました」

メグミ「艦隊ごと覆えるほど遮蔽スクリーンを発生させるなんて、なかなかやるわね」

敵はどうやら新兵器を投入してきたらしい。
P子の分析結果を聞いて二人は思案する。

ミサト「新装備を持ち出してきた上にこの戦力って……」

メグミ「よほど私達を捕らえたくて仕方ないみたいね」

ミサト「やっぱり……P子ちゃんが目的かなぁ」

P子「それでしたら、私を明け渡せば、お咎めも軽く済むのではないでしょうか」

メグミ「まさか! そんな事の為にあなたを手放す訳ないでしょう」

ミサト「そうそう、P子ちゃんはもう私達の仲間なんだからねぇ」

P子「仲間……ですか」


メグミ「まあそれはそれとして、どう切り抜ける? ……取れる手段は多くないけれど」

ミサト「これはもうしょうがないかなぁ……P子ちゃん、ジャンプの用意お願い、無目標で」

ミサトの発言にメグミが顔をしかめる。

メグミ「……本気? 宇宙の何処へ飛ばされるか分からないのよ?」

ミサト「そうは言ってもぉ、通常航行で逃げようにも囲まれちゃってるし」

ミサト「どうせここから飛べる範囲のポータルは抑えられてるだろうし」

ミサト「他に手は無いよぉ」

メグミ「……まあいいわ、あなたに任せる」

空間跳躍──いわゆるワープを使って逃げた場合、飛べる範囲が限られているためすぐに座標を特定されて追い付かれてしまう。
そこで、行先を指定せずに空間跳躍を行う事で座標を特定されることは無くなるのだが……
行先を指定しないという事は、宇宙の果てに飛ばされそのまま戻って来られないなんてこともあるため、
真っ当な神経を持った者であれば取り得ない手段である。

438 名前: ◆lhyaSqoHV6[saga] 投稿日:2013/08/07(水) 07:41:45.78 ID:50kJ6ylUo [6/12]

「目標、ジャンプ準備に入った模様です」

提督「ふん、周辺のポータルは全て掌握済み、何処へ逃げようと袋のネズミだ」

「……っ!?」

「目標のジャンプ進路、近隣の何れのポータルも対象としていません!」

提督「何だと……? まさか、ポータレスジャンプか? まだ理論が出来上がったばかりの技術のはずだ」

「いえ……これは……無目標ジャンプです!」

提督「バカな!? 自殺行為だぞ!」

提督「このままでは拿捕は困難だ……科学者連中からは"アレ"を取り戻すよう言われているが……」

提督「この際沈めてしまって構わん! 絶対に奴らを逃がすな!」

提督が席を立ち荒々しく声を上げる。

「提督……よろしいのですか?」

提督「そう何度も奴らを逃していては、連合軍の沽券に関わるのだ! 全砲門開け、砲撃戦用意!」

提督「僚艦に通達、各個に攻撃を開始せよ!」

 

ミサト「あ、撃ってきた」

ミサト達が空間跳躍の準備に入ったのを確認すると、退路を断つように動いていた敵の艦隊が一斉に砲撃を開始した。
青白い光弾が雨あられと降り注ぐ。

ミサト「もっと動力にエネルギー回せない? これじゃ避け続けるのも難しいよぉ」

P子「これ以上はジャンプドライブへのエネルギー供給が滞ります」

そのうちの一発が直撃してしまう。

ミサト「うわっ……損傷はぁ?」

P子「ありません、当艦装備のフォトニック・レゾナンス・シールドはクルーザークラスの主砲であれば五発は耐えられます」

メグミ「上等よ」

敵艦の放った光弾は、船体にそれが直撃する瞬間に四散した。
いわゆる、電磁バリア的な物で防いだのだ。

439 名前: ◆lhyaSqoHV6[saga] 投稿日:2013/08/07(水) 07:43:09.84 ID:50kJ6ylUo [7/12]

「命中弾確認! ……これは?」

「目標は強力なフォースフィールドで覆われている模様」

「僚艦の砲撃では有効打を与えられません!」

通信士の報告を聞いて提督が歯噛みする。

提督「小癪な……マスドライバー用意!」

「マスドライバー、用意!」

しかし、どうやらまだ奥の手が残していたらしい。

 

P子「……敵戦艦に動きがあります」

空間跳躍に必要なエネルギーを蓄積しつつ敵の砲撃を回避し続けるという芸当をこなしていると、P子が何かに反応した。

P子は各種センサーから取り入れた情報をイメージ化してモニターに映す。
その画像から、敵の旗艦と思しき戦艦から長大な棒状の物体が伸びているのが分かった。

ミサト「なにこれぇ……」

メグミ「これは……マスドライバーね」

ミサト「マスドライバー? それって正規軍の装備じゃないよねぇ?」

マスドライバーは本来、短距離の貨物輸送に使われる装置である。
超高速で物体を射出し、それを目的地で回収するという仕組みだ。
しかし、例えば撃ち出す物を荷物から砲弾に変えれば、それは兵器にも転用できてしまう。

メグミ「大方、作業用艦艇あたりから徴用したんでしょう」

P子「宇宙連合の戦闘協定では、実体弾を用いる質量兵器の使用は自粛されているはずですが……」

連合は宇宙ゴミ問題の観点から、空間戦闘の際に弾丸を飛ばして攻撃する運動エネルギー兵器の使用を控えるといったことを公言している。
つまり、連合軍と事を構える場合は、主兵装であるビーム兵器の対策だけしていれば盤石なのだが……

メグミ「お尋ね者相手には何でもアリってことね」

ミサト「あれはさすがにもらったらマズイかなぁ」

P子「残念ながら、当艦のシールドは実弾兵器の防御には不適格です」

"控える"と言っているだけであって、"使わない"とは言っていないという事だ。
耐弾性を疎かにしていた事が裏目に出てしまった。

440 名前: ◆lhyaSqoHV6[saga] 投稿日:2013/08/07(水) 07:43:57.56 ID:50kJ6ylUo [8/12]

ミサト「ん……何か光ったねぇ」

敵戦艦はメインカメラの光学望遠を最大にしても距離が開きすぎて豆粒ほどにしか見えないのだが、その周囲に紫電が閃くのが見えた。
次の瞬間、表面がプラズマ化しかかった大質量の砲弾が船体を掠める。

ミサト「あぶなっ……こんなの、もし民間船なんかに当たったらひとたまりないよぉ?」

メグミ「言って聞かせられる相手ならいいんだけど」

ミサト「ジャンプ可能になるまであとどれくらい?」

P子「ジャンプドライブへのエネルギー供給率は現在70%、あと30秒程でジャンプ可能です」

メグミ「30秒……もう一射くらいは来そうね」

ミサト「あの弾、亜光速に近い速度で飛んでくるから、見てから避けるのは無理だねぇ」

メグミ「外れることを祈る……なんて、らしくないかしらね」

敵艦を見やると、またもや船体の周囲を青白い電光が迸るのが見てとれた。

メグミ「って言ってる間に、もう奴さん次弾の装填は済んだみたいよ」

ミサト「これで当たらなかったら、オメデトウってところねぇ」

敵艦の周囲が一際明るく光ると、船体に凄まじい衝撃が走り、損傷を知らせる警報音がけたたましく鳴り響く。

メグミ「当たった……っ!?」

P子「右舷に命中弾、損傷は不明です」

ミサト「とりあえず逃げよぉ」

P子「ジャンプドライブへのエネルギー供給100%……ジャンプ、開始します」

441 名前: ◆lhyaSqoHV6[saga] 投稿日:2013/08/07(水) 07:45:27.00 ID:50kJ6ylUo [9/12]

ミサト「うぅ……なんとか生きてるみたいね……」

メグミ「追手は……振り切ったか」

P子「周辺宙域に連合軍の反応はありません」


ミサト「ここは……どこらへんかなぁ」

P子「現在地は、天の川銀河の中の太陽系と呼ばれる星系です」

P子「管理局の支部が存在しますが、連合軍の支配下には無いようです」

ミサト「どこよそれ……ちゃんと帰れるかなぁ」

P子「……ジャンプドライブの機能に異常が発生しています、恐らく先程の砲撃に因るものと思われます」

P子「正常に機能させるためには修理が必要です」

ミサト「えぇー……どうしよう」

空間跳躍が使えないとなると、元いた宇宙へ帰るのに数十万光年を通常航行で移動することになる。
それは流石に現実的ではない。

メグミ「P子、この星系に文明は存在する?」

ある程度発展した文明があれば、そこで得られる部品から母船の修理も出来るかもしれない。

P子「はい、当星系第三惑星の地球という星に文明を確認できます」

メグミ「地球……? 地球ねぇ」

メグミが地球という言葉に反応する。

ミサト「ん? 何か知ってるの?」

メグミ「噂話を耳にした程度なんだけど……」

そう切り出すと、噂話の内容を語り始めた。

442 名前: ◆lhyaSqoHV6[saga] 投稿日:2013/08/07(水) 07:46:26.71 ID:50kJ6ylUo [10/12]

メグミ「ミサトはウサミン星の内乱については知ってるかしら?」

ミサト「一応ねぇ、ここ最近起きた中じゃかなり大きな出来事だし」

メグミ「ウサミン星の内乱は、その『地球』からもたらされた『おたから』が原因らしいのよ」

ミサト「……おたから?」

メグミ「詳しい事は分からないけど、ウサミン星の観察員が地球から、ある『おたから』を持ち帰ったらしいの」

メグミ「その途端、大人しかったウサミン星人達がその『おたから』を巡って内輪揉めを始めたって話よ」

ミサト「おたからっていうより、なんかヤバそうな物ねぇ……それ」

メグミ「それが一体どういうものなのかはさっぱりだけど……」

メグミ「あの機械みたいに冷徹だったウサミン星人が躍起になって奪い合うくらいの物だから」

メグミ「きっと、途方もない価値があるものなんでしょうね」

ミサト「ふぅん……」

ウサミン星人の極端な管理社会……全体主義はかなり有名だ。
そのウサミン星人を狂わせるほどの価値のある物とは、一体何なのか。

情報の出所も定かではない信憑性もへったくれも無い怪しい噂だが、
おたからという響きは冒険家である二人にとってはこの上なく魅力的に聞こえた。


ミサト「じゃあさ、とりあえずその地球って星に行ってみよう」

ミサト「おたからってどんな物なのか気になるし、どっちみちジャンプドライブの修理をしないと帰れないし」

メグミ「そうね……P子、進路を地球へ」

P子「了解しました」

 

命懸けの博打によって連合軍の追撃を振り切ったビアッジョ一家は、母船の修理も兼ねてその進路を地球へと向ける。
果たして彼女達は元居た宇宙へ帰る事が出来るのか? そして、地球に存在するというおたからの正体とは?

宇宙冒険家の新たな旅が今始まる……

443 名前:@設定 ◆lhyaSqoHV6[saga] 投稿日:2013/08/07(水) 07:51:56.74 ID:50kJ6ylUo [11/12]
ミサト

職業:宇宙冒険家

ビアッジョ一家の一人。
一家の母船であるプリマヴェーラ号の艦載機、フェリーチェのパイロットも務める
間延びしたような喋り方が特徴。


メグミ

職業:宇宙冒険家

ビアッジョ一家の一人。
物知りで賢いため、他人との交渉やらを務める。
基本母船からは出ない。


※ビアッジョ一家

七つの銀河を股に掛ける宇宙冒険家の二人組。
宇宙連合からは体制に反発するアウトローという扱いを受けているが、専ら義賊的な活動がメイン。
植民惑星に圧制を敷く宇宙連合の悪代官や、弱きを食い物にする宇宙海賊に真っ向から喧嘩を売ってきたため敵は多い。

現在は、母船の修理と、とある噂話の調査のため地球に立ち寄っている。


※P子

色々あってビアッジョ一家が宇宙連合の研究施設から盗み出した新鋭人工知能。
火器管制からセンサー類の監視からオートパイロット時の操船から……あらゆる仕事をなんでもこなす。
普段は母船のメインフレームに組み込まれているが、特殊な記録媒体に移して持ち運ぶこともできる。

二人との関係?も良好なため、一家の所有物と言うよりは三人目のメンバーというようなポジション。


※宇宙連合軍

多数の艦隊を有する宇宙連合の主兵力。
宇宙海賊や宇宙怪獣と日夜戦い続ける大宇宙の保安官。
規模が大きすぎるためその全貌は不明。
ちなみに、艦艇の主兵装は電磁収束プラズマ砲だとかイオンパルスビーム砲だとかそんなん。


※航宙艦

ある程度の大きさと航続距離と武装を持った宇宙船の総称。
作った種族の規格にもよるが、大きさは全長100m程度から100㎞以上あるものまでピンキリ。
ビアッジョ一家の母船プリマヴェーラ号は全長200m程のコルベットクラス。

 

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最終更新:2019年04月24日 23:41