4スレ目>>338~>>348


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338 名前: ◆lhyaSqoHV6[saga] 投稿日:2013/07/16(火) 07:39:36.08 ID:JU1FnDSro [2/13]

──宇宙の何処か──

真っ暗闇の空間に、何者かの声が響く。


「以上が、偵察ドローンから送られてきた映像だ」

「ふむ……ソラの洗脳プログラムが解除されるとはな……」

「我々でさえ解けなかったというのに……此奴は何者だ?」

「恐らく、地球人が『神』あるいは『悪魔』と呼んでいる者だろう」

「そもそも、我々とは全く異質の存在だよ」

「ソラの得た情報によると、中には因果律を意のままに制御できる者もいるらしい」

「なんと……そのような存在が闊歩しているとは、やはり特異な星であるな」


「それで、地球についてはどうするのだ? ソラの代わりを送り込むか?」

「いや、迂闊に手は出さん方が良いやも知れぬな」

「では見過ごすか? いつまた連中の文化に当てられた種族が、暴走するとも分からんぞ」

「……ここは私が行こう」

「!? 長官が自ら出向くというのかね?」

「今まで我らが成し得なかったソラの洗脳が解除された件もそうだが」

「地球人は、負の感情エネルギーを除去する術も持っているらしい」

「ともすれば、地球は我らの進化のカギとなるやもしれん……」

「……」

「滅ぼしてしまうのは早計だ……実際にこの目で、彼らの様子を見てみたいのだ」

「なるほど……では、我らは顛末を見守る事としようか」

「まあ、吉報を待っていてくれたまえよ」

声が止むと、暗かった部屋に明かりが戻った。
部屋の中央には、今しがた評議会での会合で長官と呼ばれた人物が座っていた。
見た目の年齢のほどは(地球人でいうと)15歳くらいの少女だ。

「ソラの自我が戻った……なんて」

少女は思いつめたように呟く。

「償いになんてならないかもしれない……」

「けど、傍に居ることで彼女の負担が減らせるなら……」

少女は手元のコンソールを操作し、かつて工作員を送り込み、そしてこれから自分も赴くことになる星を目の前のモニターに映す。

「地球……か」


少女は辺境の惑星である地球へ向け出立する前に、父親の下を訪れていた。

「お父様、お加減はいかがですか?」

円筒型の介護用チャンバーの中に横たわる男性──彼女の父親に語り掛ける。

「ユカリか……なんとかな」

ユカリと呼ばれた少女は、評議会での会話の内容を伝えた。

ユカリ「彼らに話は通しました」

ユカリ「私はこれから、地球へ向かおうと思います」

父「うむ……私がもう少し若ければ、お前にこのような役を負わせることもなかったろうに」

父親は苦々しげに呟く。


父「我らは結成当初より、目的の為に手を尽くしてきた……」

父「時には、人道にもとる非情な手段も用いてな」

ユカリ「……」

非情な手段……父の言葉にユカリは身につまされる思いを感じる。

父「だが、未だに宇宙から争いは絶えん……」

父「『先駆者』に追いつくまでの道のりは、果て無く遠い……」

父「すまんなユカリ……お前にまで背負わせてしまって」

ユカリ「いいえ……」

ユカリ「これは我々にとって……ひいてはこの宇宙に住む者達にとって必要なことですから」

ユカリ「地球へ行き、地球人について学べば、きっとその近道になると思うのです」

父「ああ……せめて、お前の無事を祈らせてくれ」

ユカリ「ありがとうございます……それでは、行って参りますね」

ユカリは父親に一礼すると、部屋から出ていった。

──宇宙管理局・太陽系支部──

宇宙連合の本部を離れたユカリは、地球まであと一歩のところに居た。
だが、どうやら懸念事項があるらしく、その顔は晴れない。

ユカリ「(さて……何事もなく太陽系にまでやって来たけど)」

ユカリ「(多分、諜報部の『彼』は、私の事を嗅ぎ付けているだろう)」

ユカリ「(そろそろ私を捕縛するために行動を起こすところだと思うけど)」

ユカリ「……」

ユカリ「(全てを話して、それでも納得させられなければ……その時はその時か)」

「動くな」

ユカリ「っ!」

突然背後から声をかけられ、身体を強張らせる。
背中には何か突起物が押し付けられている感触がある。
恐らく銃の類だろう。


「妙な真似はするなよ」

ユカリ「……あなたが来ることは分かっていましたよ、『CuP』さん」

「ッ!?」

背後の人物の狼狽している様子が、目に見えずともありありと伝わる。
恐らくユカリの指摘の通り、銃を突き付けているのは管理局諜報部の隊員──CuPで間違いないのだろう。

ユカリ「こちらに抵抗する意思はありません」

CuP「……ついて来い」

CuPに連れられ人気のない路地裏にある居酒屋に入る。
店の外見も内装も、雰囲気は場末のバーのそれである。

ユカリ「(ここは……諜報部の隠れ家の一つか)」

周囲に人の気配が無い事を確かめると、CuPが口を開いた。

CuP「それで、どうして俺の事を知っている? 何処から漏れた」

ユカリ「父の育てた諜報部の人員は優秀だと、知っていますから」

ユカリ「あなたが私の行動を察知するであろうことは予測できていました」

CuP「父の育てた……?」

CuP「ちょっと待て……父って、長官の事か?」

ユカリ「一線を退いて久しいですが、未だにそう呼ばれることもあるみたいですね」

ユカリ「お察しの通り、私の父……宇宙管理局初代長官は、『評議会』の構成員です」

CuP「な……なんてこった……」

目の前の男の表情を見るに、かなり動揺しているらしい。
自分が今まで追ってきた組織の一員が、元上司だと知らされたのだ。
ユカリにも、その心情は察するに容易だった。

CuP「……お前達は……何なんだ……何が目的なんだ……?」

CuPはユカリを睨みつけながら震える声で訪ねる。
ユカリは、評議会の結成理由と、その目的を語り始めた。

ユカリ「かつて我々に知性を授けた、創造主とも言える存在……あなたも聞いたことがあるでしょう」

CuP「『先駆者』か……でも、あれは単なるおとぎ話だろう」

かつて宇宙を席巻していたという超文明があったという。
現代においてそれが実在していたという確認は取れていないが、
宇宙連合内では口伝だとか、伝承といった形で話を聞いたことがある者も多い。

ユカリ「おとぎ話ではありません、彼らが存在していたとされる根拠は多く見つかっています」

ユカリ「彼らはより高次の存在へと進化を遂げ、肉体を必要としなくなり、その結果この宇宙──物質界から姿を消したのです」

CuP「……」


ユカリ「かつて起こった宇宙規模の大戦の理由、今では知っている者は殆どいないでしょう」

かつて起こった宇宙戦争……宇宙に住む者にとって忘れる事のない出来事である。
何時から、何が原因で始まったかも定かでないほどの長い年月を、宇宙に住む者達の間で争ってきたのだ。
その間に多くの種族が滅亡し消えていくこととなり、戦争が終わってしばらく経った今でも、その傷は癒えていない。

ユカリ「宇宙に住まうほとんどの種族は、先駆者の保護の下で繁栄し、文明を発達させてきました」

ユカリ「しかし、彼らが宇宙を去ったために、庇護を失った我らの祖先は怯え、嘆き、怒り……」

ユカリ「そして、いつ終わるとも知れない滅ぼし合いに……身を投じることになったのです」

CuP「……」

ユカリの語った内容は、にわかには信じがたいものだった。
だが、話の真偽はともかくCuPの目下の目的は評議会の情報を得る事である。

CuP「なかなか興味深い話だが……歴史の授業を受けたいわけじゃない、お前達の目的を話せ」

ユカリ「我々の目的は、先駆者達に追いつくこと……この宇宙に住む知的生命体を、次なる段階へと進化させることにあります」

CuP「……知的生命体を進化させる?」

ユカリ「……戦争末期に、我々に向けて先駆者が遺したとされる文書が発見されました」

ユカリ「曰く『置き去りにしてゴメン! 先に行って待っているからネ!』ということでした」

ユカリ「彼らは肉体を捨て、思念体へと進化した今でも、この宇宙を見守っているというのです」

ユカリ「見捨てられたわけではなかったと知った先達は、同士を集め、彼らの後を追うための組織を結成しました」

CuP「それが評議会……か」

ユカリ「はい、その後評議会は争っていた各種族をまとめ上げ宇宙連合を結成し、戦争を終わらせることに成功するのです」

CuP「……」

CuP「(先駆者は実際に存在していて、評議会の結成の理由にもなってるだって……?)」

CuP「(まったくバカげてる……どうかしてるぜ)」


ユカリ「我々評議会は、『負の感情に囚われてはならない』という先駆者達の教えに従っています」

ユカリ「長年の戦争によってそのことを身をもって実感した我々は、感情を抑制する術を学び、宇宙の秩序を保つ為に活動してきました」

CuP「それで、その宇宙の秩序を乱すかもしれない種族を、滅ぼしてきたってわけか」

宇宙戦争の終結後も、内乱によっていくつかの種族が滅びるのを見てきた管理局は、その原因を探るうちにとある組織にたどり着く。
どうやら、その組織──評議会と呼ばれる者達が工作員を送り込み内乱を誘発させ、
彼らにとって邪魔な種族が滅亡するように誘導していたということが判明していたのだが……

CuP「(評議会の調査を命じていた長官自身がそのメンバーだったとはな……実体が掴めないわけだ)」


ユカリ「我々評議会が滅ぼしてきた種族は、皆精神的に未熟で、感情の制御がままならない者達でした」

ユカリ「彼らを放置すれば、負の感情に囚われて暴走し、争いの火種となりかねなかった……」

ユカリ「我々はもう二度と、あの大戦の様な悲劇を繰り返すわけにはいかないのです」

CuP「なるほど……ロクでもない連中だとは思ってはいたが」

CuP「想像以上に過激で、独善的だったんだな」

ユカリ「……っ」

CuPの、ある意味当然ではあるのだが、毒を含んだ物言いにユカリは顔をしかめた。
他人に言われなくとも、自分達のしてきた行為がどういうものであるか、充分に理解している。


ユカリ「……この物質界のすべての事象には『寿命』があります……この宇宙でさえ例外ではありません」

ユカリ「我々に与えられた時間は、無限ではない……」

ユカリ「精神的に未熟な種族が、我々と対等な存在になるまで成長するのを待っていられるほどの余裕は無いのです」

CuP「どのように言い繕ったって、その行為は許されることじゃない」

ユカリ「その通りです……我々とて、自らの行為がどれほど大それたものかは理解しています」

CuP「……」

CuP「(開き直ったかのようなこの態度、気に入らんな……)」

CuP「(まだ自己弁護でもしてくれた方がやりやすいってもんなんだがな)」

CuP「まあいい……それで、なぜ評議会の幹部様がわざわざ地球に出向くんだ?」

ユカリ「地球人を調査しているうちに、彼らの持つ能力──」

ユカリ「他者の心を癒す力が、あるいは我々の目的に利用できるのではないかと考えた結果です」

ユカリ「彼らの能力があれば、宇宙から負の感情を取り除くことも可能であるかもしれません」

CuP「つまり、地球を滅ぼす気は無くなったってか? ソラはどうしたんだ」

ユカリ「っ!!」

ソラの名前を聞いた途端、ユカリは驚いたように体を震わせ、表情を曇らせた。


ユカリ「それも、私が地球へ赴く理由の一つです……」

ユカリ「彼女は……ソラは、我々の犯した過ちの象徴なのです」

CuP「ヤツは、ただの工作員ではないのか?」

ユカリ「ソラは本来ならば、他者の幸福と平穏を心から望む性質を持った種族なのです」

ユカリ「しかし、大戦中に彼女の種族と敵対していた者達に誘拐され、他の種族を滅ぼすための洗脳と教育を受け──」

ユカリ「その結果、自らの種族を滅ぼしてしまった……」

CuP「……」

ユカリ「洗脳を施した者達も、戦争の間に滅び……ソラは最終的に我々が保護したのですが」

ユカリ「我々の技術を以ってしても、彼女の洗脳を完全に解く事は出来ませんでした」

ユカリ「そこで、我々の指示に従うように洗脳プログラムを改変し、工作員として利用することになったのです」

CuP「……実に胸糞悪い話だな」

ユカリ「利用できるものは、なんでも利用する……」

ユカリ「……評議会は目的のためには手段を選びません」

CuP「……」

言いながらも、ユカリは唇を噛む。
抑制してはいるものの、良心の呵責に苛まれるだけの感情は残っているのだ。

ユカリ「平和を望み、他者を受け入れる寛容さを持っていたかの種族は、最も進化に近い立場にいたと言えるのですが」

ユカリ「彼らの崇高な精神性も、あの戦争によって……失われてしまった」

ユカリ「その、数少ない生き残りであるソラは、保護されなければならないのです……」

CuP「工作員として利用してた奴が、何言ってんだ」

ユカリ「だからこそです!」

戯れ言だと言わんばかりに鼻で笑うCuPの様子を見て、ユカリは語気を強めて語る。


ユカリ「地球に送られたソラは、現地で何某かの存在によって洗脳が解かれました」

ユカリ「本来心優しい彼女は、いずれ自らの行為を顧みて、悔恨の念に苛まれるでしょう」

ユカリ「その時に私は、彼女に非道な行為を強いた者として、その咎を共に背負っていかなければならない……」

ユカリ「だから私は、彼女に会うために地球へ行く必要があるのです」

CuP「そうかい……」

CuPは急に興味を無くしたかのように呟いた。

CuP「あんたの言い分は分かったが、こっちもようやく捕まえた評議会の人間をみすみす逃す訳にはいかなくてね」

CuPは腰に下げたプラズマブラスターをホルスターから引き抜くと、ユカリに突き付ける。

CuP「コイツはな、形見なんだ……」

CuP「評議会を追っていて、殺された……俺の親友のな」

ユカリ「……」

CuP「俺はこの銃に誓った……いつかお前ら評議会をぶっ潰して、アイツの無念を晴らすってな」

ユカリは銃を突き付けられても動じた様子は無く、決意を秘めた双眸でCuPを見据えていた。

ユカリ「私は、自らの行いに対して、許しを請うつもりはありません」

ユカリ「……それであなたの気が済むのであれば、どうぞ撃ってください」

CuP「ッ!!」


CuP「(この目は……そうだ、長官と同じ目だ……)」

CuP「(長官はどんな逆境に置かれても、使命を遂げるまで決して諦めない人だった)」

CuP「(この娘も、あの人と同じだっていうのか……)」

CuP「チッ……」

CuP「やめだやめだ!」

吐き捨てるように言うと、CuPは突き付けていた銃を下ろした。

CuP「折角評議会の幹部と捕らえたと思ったら、妄想癖のあるわけわからん小娘だったとはな」

CuP「先駆者が実在してるだの、知的生命体の進化だの……そんな与太話を上にどう報告しろってんだ」

ユカリ「……」

CuPはお手上げといった様子で、頭を振る。


CuP「……何処へでも失せな……俺の気が、変わらないうちに……」

ユカリ「……わかりました」

CuPの言葉を受けたユカリは、そのまま出口へと向かう。
彼女が建物から出ていくのを見届けると、CuPは糸が切れたように脱力し、近くのソファーに座り込んだ。

CuP「なあ……俺は、どうすれば良かったんだろうな……」

親友の形見を手に取り、それを見つめながら、CuPは誰にともなく呟くのだった。

 

ユカリ「(CuPさん、ごめんなさい……そしてありがとうございます)」

諜報部の隠れ家を出たユカリは、振り返ると内心でCuPに詫びた。

ユカリ「(許してくれなんて言えない……けど、いつかあなたとも分かり合えると、信じています)」

罪悪感を振り切り、地球へ向かうため宇宙港へと足を向ける。

ユカリ「今は、自分に出来る事をするしかないから……」

ユカリ「ソラさん……待っていてくださいね」

 

 

※先駆者

かつて宇宙のほとんどを支配していたとされる超文明。
その高度な科学力と比例するように高い精神性を有していたらしい。
彼らの庇護の下で多くの種族が繁栄していたが、ある時期を境に宇宙から姿を消してしまう。
残された種族は保護者を失い混乱を極め、その後長きに渡り争い合うことになる。


ユカリ(地球人名:水本ゆかり)

職業:評議会幹部の娘
属性:感情を抑えきれてない系異星人
能力:特になし

老いた父に代わって評議会を取り仕切っていた少女。
地球人の他者の心を癒す力(藍子とか沙織とかの)を研究することと、
洗脳が解けたそらを支えるために地球にやってきた。

ユカリとその父は、異星人の中でも割かし感情が豊かな種族らしい。
評議会で決定された事案に従って多くの非道な計画を進めてきたが、内心ではかなり心を痛めている。