名前: ◆zvY2y1UzWw[sage saga] 投稿日:2013/07/15(月) 00:55:33.70 ID:usembZnn0
[2/14]
「ただいまー」
「ユズ、帰ったぞー」
「姫様、蘭子様、今日はお早いお帰りですね…」
「ちょっとあの街に近いから警戒態勢だそうです。午前授業で終わりました。あ、貸したゲーム、やってくれてたんですね。」
帰宅してみると、ユズは蘭子のゲームを借りていたようだ。
「…ユズ、一体何をしている…?」
「魔術の研究ですよ。…あー!姫様アタシを可哀想な人を見る目で見ましたね!誤解ですから!本当に役に立ちますから!」
「あー…そうかそうか。」
「もう…姫様、問題です。魔力管理人の古式の呼び方は?」
「…忘れた。」
「なんなんですか?」
「古式の呼び方では魔術管理人だったのです。そのため契約の際は魔術管理人と名乗る必要があるのですよ。」
「魔術に関する勉強をしていても何の不思議もないと言い張りたいのか…」
「結構ややこしいんですねー」
「まぁ私を召喚できる魔術師なんて、きっと世界を自在に操れるような輩でしょうけど…。役職持ちは強制召喚ではないですし。さて、今日の講義は『世界』です。」
ユズが本を持ちながら講義を始める。魔術の基礎であったり生い立ちであったり魔法と魔術の違いであったり…蘭子はそれをノートにまとめている。
「異世界なんてもう珍しくもないと思いますが、意外と世界の境界はいまだにはっきり残っています。」
「その境界が比較的薄い魔界、人間界、天界…我々魔族や天使たちはこの3つを軸として移動できます。」
「…この3つ以外の世界もあるんですか?」
「はい。昔とある魔族たちが異世界へ争いから逃げるために旅立った記録もあり、確実にそれらの種族はこの3つ以外の世界にいるそうです。」
「…軸を外れて移動したってことですか?」
「そのとおり。かなりの人数で大規模な魔術結界を形成し、その結界に乗って世界を渡ったと推測しています。これは結構な無茶です。」
ユズの講義に蘭子は実に楽しそうに質問をする。…それとは対照的に昼子は暇そうなのだが。
「どういった理由で無茶なんですか?」
「そうですね…電車がレールを外れて大嵐の中を走っているような物です。それを魔力で制御しながら目的の世界へ飛んだということ…わかりますか?」
「はい、分かりやすいです!」
「よかった…管理塔はそんな世界の狭間に漂っています。世界を箱やボールのような形と考え…それを敷き詰めようとしてもできる隙間が世界の狭間なのです。」
「そして常に世界は動いており、時には激しく衝突することもあります。それでも世界同士には境界が存在し、お互いに干渉することがないのです。」
「…もしも境界が無かったらどうなっているんですか?」
「予測ですが…世界は一体化するでしょう。人間の言う天国も地獄も一緒になって…生死の境界も失うでしょう。きっと無法地帯です。キヨラさんが忙しくなるなぁ…まあ無理だとは思うけど…」
「…キヨラさんって誰ですか?」
「えっと…罪を犯した人間を裁く施設の職員さんです。全ての生物の罪を回覧することができ、重罪人の魂を処刑することも許可されています。」
「どんなふうに裁かれるんですか?」
「裁き方は簡単。罪の確認の後、無力化されて強制労働の刑です。」
「私も…裁かれますか?」
「そうですねぇ…『身の程知らずの罪』『嘘をついた罪』『ズルをした罪』『裏切った罪』…いろいろありますからねぇ…ぶっちゃけると裁かれたことのない魂はないですよ。」
「えっと…たしか最短は聖人と称えられたような人で…刑期二週間です。それより短いのは…まともに生きることのできなかった子供とかですね。」
半分眠っていた昼子が目を覚まし、話に加わる。
「ん…ああ…キヨラの話か。あいつの処刑器具やら拷問器具やらのメンテナンスの時の笑顔は恐ろしいぞ…」
「…キヨラさんは良い人ですから。それにいつも笑顔でしょう?蘭子様に先入観を植え付けないでください。」
「…喜々として新たに習得した処刑器具召喚魔術の『ファラリスの牡牛』とやらの説明をしてくれた件についての弁明は?」
「ないです。というかなんでそんな話聞いてたんですか…」
「怖いですね…」
「まぁ、能力の悪用をしたり誰かの罪を誰かに教えたりした途端に自分の能力に殺される職業ですからねぇ…そういう人が選ばれるのかも。」
「…あ、処刑を受けた魂は二度と思考できる生物に転生できなくなるんですよ。」
付け足すようにユズが解説をする。
「例えばどんな生物にならなれるんですか?」
「虫とか草とか石とかです。」
「え…」
「犯罪者にはお似合いの末路だな。」
「悪魔もそうなんですか…?」
「まあ悪魔は基本的に緩和されますけど…その職員の持つカルテの顔写真に×マークがついたら処刑されます。大罪の悪魔のように例外もありますけど。」
「へー勉強になります!」
(そういえば蘭子は我の配下になったんだったな…すっかり忘れてたぞ。なら魔界について詳しくなっても損はないか…)
同じ頃、竜帝キバことマナミは憤怒の街へ向かい地下を歩いていた。
異常なほどの感情エネルギー。力に飲み込まれない事はできるが問題はこのエネルギーの主だ。
怒りを解放したサタンや自分よりは劣るものの、感染するようにそれは広がり続けている。
…誰だかは知らないがまともな相手ではなさそうだ。そしてかなりの実力者だろう。
憤怒を司る者が二人とも正常なのにこれほどのエネルギーを振りまいている。
カースドヒューマンなどという呪われた人間のレベルではない。…誰か、魔界の者が補助をしている可能性が高い。
調べる必要がある。そう彼女は断定していた。
だから目立たないようにわざわざ地下から侵入しているのだ。
『ユルサン…コロシテヤルウウウウウウウウウウ!』
『ボクノタイセツナヒトヲヨクモオオオオオオオオ!』
『オワル、セカイハオワルウウウウウウウウウウウウ!』
『ウソツキウソツキウソツキウソツキイイイイイイイイ!』
湧き出るようにカースが生まれる。挟み撃ちの形で。
「邪魔だ。」
『~~、~~~~』
『冷気よ、大いなる我が力に従い、音すら凍らせるその身で我が平穏を奪う愚か者を永久の眠りへ送り込め!ヘルブリザード!』
竜族言語魔法と魔術の同時使用。
人間として魔王の城で生きている間に身に着けた術。
右手に魔力で作った竜の顔を模したパイルバンカーから青い業火が吐き出され、左手からは命の灯を掻き消す猛吹雪が襲い掛かる。
通路の前後にそれらはそれぞれ襲い掛かり、カースを掻き消す。
綺麗に片付いた後、魔力の残骸が残らぬように掻き消す。
嫌な予感がする。それも行かなければ後悔するタイプのものだ。
僅かな不安を振り払い、マナミは街へ向かって地下のさらに奥へ歩き出した。
イベント情報
・木場さんが地下から街に侵入しました
・目的は元凶の調査です