2スレ目>>8~>>13


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「・・・人探し、ですか。ご家族の方ですか?」

ある日の安斎探偵事務所。翠と由愛に、捜索願いのあった猫を送り届けに向かってもらい、事務所で報告書をまとめていた都の元に、依頼人がやってきた。

「いや、友人だ。どこ探してもまるで尻尾掴めなくてよ」

「で、ここならきっと見つけてくれる、って話を聞いて。それで、こうして依頼に」

二人の名は、向井拓海と原田美世。小さな少女一人しかいない事務所に怪訝そうな顔をした二人だが、都の落ち着いた立ち振る舞いに、とりあえず信用して話を切り出してくれた。

「なるほど。その方のお名前は?」

「木村夏樹。・・・・・・二年くらいまえに、死んだはずのヤツだ」

「・・・死んだ、『はず』、ですか」

苦々しげに呟いた拓海の言葉に、眉をひそめる都。死んだ人間を探し出して欲しいとは、一体どういうことだろうか?

「・・・交通事故にあった、って、そう聞いてたんだけどね。どこの病院にも、運び込まれた形跡がなかったんだって」

「警察にも聞いてみたんだが、まるでわけがわからん、って突っぱねられてよ・・・クソッ」

苛立たしげに、拳をもう片方の掌に打ちつける拓海。

「・・・『人探し』として依頼に来られた、ということは、何か、夏樹さんがまだ生きている、という確証がある、ということでよろしいんですね?」

二年も前に事故にあった人間、それも病院へ搬送された記録がないともなると、普通ならばもう死んでしまったと考えるだろう。

それをあえて『今どこにいるのかを探して欲しい』と依頼してくるということは、それなりに理由があるはずだ。

「・・・拓海がね。見かけたらしいんだ、夏樹ちゃんのこと」

「雰囲気はちょっと変わっちまってたし、そん時はすぐに逃げられちまったが、間違いねぇ・・・アイツは夏樹だ」

「・・・ふむ。見かけられたのは、どの辺りで?」

「街の外れのほうだ。バイク走らせてたとき、休憩してたらたまたま。・・・こんな不確かなことしかわかんねぇが、引き受けてくれねえか・・・頼む、この通りだ」

「あたしからも、お願いします。・・・せめて、もう一度会って、話がしたいの」

そういって、頭を下げる二人。そのもどかしげな表情は、都が一番嫌うものだった。

(・・・だからこそ、真実を探し出して、その表情を笑顔に変えるのが、探偵たる私の仕事。そうですよね、おじいちゃん)

「・・・『夏樹さんがいなくなった具体的な日付』、それと、何でもかまいません、『事故に関する情報』。それだけあれば、きっと、お役に立てるかと」

「・・・引き受けて、くれるのか?」

「もちろん。可能な限り、力をお貸ししますよ」

「・・・ありがとう。事故があったのは、ほぼまるまる二年前。あと、事故に関する情報、だっけ・・・」

「・・・そうだ、確かもう一人、夏樹と一緒に事故に巻き込まれたヤツがいたよな!?」

「うん・・・えっと、確か、『多田りいな』ちゃん、だったっけ?ゴメン、名前の漢字はハッキリ憶えてないや・・・」

「いえ、特徴的な名前ですし、それで充分でしょう。では、少し待っていて下さい。すぐに『調べて』みます」

そう言って、応接用のテーブルから立ちあがった都は、デスクに置いてあった本を手にとる。

目を閉じ、深呼吸をひとつ。そして、『そのまま』手にした本を開き、ページを次々めくっていく。

「おい、アンタ一体何やって・・・!?」

その行動の意図が見えず、ソファから立ち上がり都の持つ本を覗き込んだ拓海は、そこに信じられないものを見た。

装丁の繊細さに反して、その本には『何も書かれていなかった』のだ。都がいくらページを捲れど、延々と白紙のページが続いている。

「都さん、ただいま戻りました・・・あら、お客様ですか?」

「あ、あの、こんにちは・・・あ、都さん、『検索中』みたいですね、翠さん」

ちょうどそのタイミングで、猫を送ってきた由愛と翠が戻って来た。

「・・・オイ、コイツ一体何やってんだ?さっきから何も書いてねぇ本ペラペラ捲って・・・」

「ちょっと拓海、まず挨拶しなよ。あたしは原田美世、こっちは向井拓海。探して欲しい人がいて、それで依頼に」

「美世さんと拓海さん、ですか。私は水野翠、この事務所で助手を務めています」

「な、成宮由愛です。えっと、都さんは今、たぶんその人の『情報』を探してるんです」

「探す?こんな本で、しかも目ぇ閉じたまんまでどうやって・・・」

「・・・『木村夏樹』・・・『多田リイナ』・・・『二年前の交通事故』・・・『見かけた場所は・・・』・・・」

訝しむ拓海をよそに、都は検索の為の『キーワード』を呟き、ページを捲る手が加速する。

そうして間もなく、ぱたん、と都が本を閉じ、目を開く。

「・・・あ、翠さん、由愛さん、お帰りなさい。翠さん、帰ってきて早速で申し訳ないんですが、『例の依頼人』に連絡を取ってもらえますか?」

「例の・・・あぁ、『管理局』の方ですね?わかりました、ちょっと待っていてください」

電話を翠に任せて、都は拓海と美世の方へ向き直る。何が起きたのか把握しきれない拓海は、未だに納得のいかない表情のままだ。

「連絡、って・・・今ので、何か解ったってのか?」

「えぇ。夏樹さんは今、『ネバーディスペア』というチームで、カースや悪人と戦っているそうです」

「っ、『ネバーディスペア』って、あの!?そんな、夏樹ちゃんがなんで・・・」

「その辺りは、本人から聞いた方がいいでしょう」

「本人から、って・・・」

「・・・えぇ、はい。わかりました。少々お待ちください・・・都さん、あちらが電話を代わってほしいと」

「わかりました。・・・もしもし、お電話代わりました、安斎です。・・・えぇ・・・えぇ」

「・・・どうなってんだ、アイツ」

翠に呼ばれ、電話に出る都から視線を外さず、拓海が呟いた。それを聞いた由愛が、彼女の『能力』を説明する。

「えっと、都さん、『見通す者の目(サードアイ)』っていう能力が使えるんです。いくつかの『キーワード』があれば、いろんなものの『隠された真実』がわかる、っていう」

「白紙の本は、意識を集中させるための道具だそうですよ。何も書かれていないほうが、かえってやりやすいそうで」

「・・・では、そのように。・・・そこはわかってますよ、プロですから。えぇ、ではまた後ほど連絡します」

翠がそう付け加えると、丁度そのタイミングで都が電話を終えたようだった。

「お待たせしました、拓海さん、美世さん。とりあえず、面会の約束は取り付けました」

「本当か!?」

「えぇ、これからお時間があるようでしたらすぐにでも。どうされますか?」

・・・どうやら、コイツは『本物』だったみたいだ。

ようやく納得のいった拓海は、自分でも気づかないうちに、安堵した微笑みを浮かべていた。

しばらくの後、気を遣った都らが席を外した安斎探偵事務所に、もう一人の来客があった。

「・・・・・・二人とも、久し振り」

木村夏樹。拓海と美世の友人であり、すでに死んだものと思われていた少女であり、人体改造を施された改造人間であり、人知れず怪物と戦う『ネバーディスペア』のメンバーの一人。

「・・・ったく、生きてたんなら連絡の一つくらい寄越せってんだよ・・・・・・」

「ホントだよ・・・どれだけ心配したと思ってるのさ・・・・・・でもよかった、またこうして会えて・・・」

四肢の全てを義体化され、ふよふよと浮かぶ球体が眼の代わりで、空間に穴を開けて現れた彼女を見て、それでも二人の友人は、かつてと全く変わらない視線を彼女に向けていた。

「・・・何も、言わないのかよ」

夏樹には、それが不思議だった。

「こんな、手も足も機械になっちまってさ。妙ちきりんな球でモノを見てさ。何もない所から現れたり、物を取り出したり」

いくらかつての非常識が日常になった世界であっても、それでも自分の存在はとびきり異端なもののひとつだ。それなのに。

「・・・こんな、バケモノみたいになっちまったのに。何でアンタら、そんな昔みたいに――――」

ぱしん、と乾いた音とともに、夏樹は頬に熱い痛みを感じた。視界が動かなかったからか、自分が美世に頬をはたかれたのだと気付くには、少し時間がかかった。

「・・・・・・ふざけないで」

俯いて、絞り出すような震えた声で、美世がぼそりと呟く。

「手足が機械になったのが何?ちょっと物の見え方が変わってるからって何さ?・・・夏樹ちゃんは、夏樹ちゃんでしょ?自分で自分のこと、バケモノだなんて言わないでよ・・・ッ」

こらえきれず、美世の頬を涙が伝う。その肩を抱きながら、拓海が口を開く。

「夏樹。オマエ今、『ネバーディスペア』っつーチームに居るんだったな・・・『カミカゼ』って名前に聞き覚えはあるか?」

「・・・バイクから変形させたアーマー使って戦う、っていうヒーローか?知ってるけど、何で今その名前が・・・」

「アレ、アタシだ」

「っ!?」

確かに、拓海は腕っ節の強い方ではあったし、やんちゃな連中に絡まれることも少なくなかったが、それでもカースと渡り合えるほどの力があるとは思えない。

夏樹の中の拓海のイメージでは、そう判断するしかできなかったが。

「オマエがいなくなってからさ。色々あって、アタシも能力に目覚めたんだよ。それで、美世がいじったバイク使って、正義の味方なんて始めてさ」

ぽつぽつと言葉を探しながら、言いたいことを纏めるように、拓海はゆっくりと夏樹に声をかける。

「だから、その、何だ。少々のことなら、もう慣れっこっつーか。今さら、見た目がどうのとか、能力がどうのとかさ。・・・アタシらの仲で、気にするほどのもんじゃねーだろ、その位はさ」

「・・・なんか。変わっちまったと思ってたのって、案外アタシだけだったのかな」

「っ、ぐすっ、そうっ、だよっ。夏樹ちゃんは、ひっく、夏樹ちゃんでしょっ。何もっ、変わってなんかっ、っ」

「だーもう、いい加減泣きやめっての・・・ったく」

そうだ。美世は三人の中で一番年上なのに、一番泣き虫で、よく拓海と二人して苦笑いしながらなだめていた。

何も。何一つ、変わってなどいないのだ。姿かたちや能力くらいでは、紡いだ絆は崩れはしない。

「・・・またそのうち、美世さんのガレージ、寄らせてもらうよ。そんときは、だりーも連れていく。・・・あー、ちょっとビビるかもしんないけど。お互い」

「お互い、ってなんだよ。・・・おう、いつでも来いよ。待っててやるからさ」

「ぐすっ、それあたしのセリフだと思うんだけど・・・まぁ、最近拓海ずっと入り浸ってるけどさ」

そんな軽口を叩きあうと、誰からともなく笑い声が上がる。

「・・・一件落着、ですかね」

少し離れた場所からも聞こえるその笑い声に、都はひとつ満足げに頷いた。