幸せ家族計画

 死からの復活――そんな最悪の目覚めをしようとも、朝の日差しは穏やかにそして平等に参加者に降り注ぐ。

はるか空高くある太陽には、地を這う人間のことなど――いや、神々のことすらも何も思わないのだろう。
どのような状況でも全てに対して平等であるのならば、物言わぬ太陽のほうが余程神然としている。
殺し合いを開いた――いや、開かざるを得なくなった哀れで人間的な神々のことを思って、ダテンは笑う。
 
「……嫌いだけど、もう一度好きになりたい……自分にもう一度振り向かせたい…………乙女かっての」
いや、神の何柱かは女だったな。
自分の発言を省みて、もう一度ダテンは笑う。
今の冗談みたいな状況全てをひっくるめて、ダテンは笑わざるを得ない。
現実と向き合うためには、現実逃避も時には必要となる。
逃げた先もまた、いつだって現実にたどり着くのだ。
 
「ハァ……ハァ……おっかしくてたまらねぇ……」
顔のニヤケはそのままに、ただ疲れてしまってダテンは声を上げて笑うのを止める。
笑い声に支配された空間は、再び他の音を受け入れる。
 
軽い足音。
靴と地面が軽く擦れて砂が舞い上がる音。
クスクスと女の笑い声。
 
「アンタもおかしくておかしくて笑ってんのか?」
「いいえ……今日はとてもおめでたい日なの」
 
ダテンの前方から向かってきていたのは、妙齢の女性だった。
ほんのりと赤く顔を染め、吐息を荒くし、そして何が楽しいのかクスクスと笑う女性は、
この異常な状況下でありながら、過剰なまでの色気を発していた。
 
「おめでたい……か、いや俺もよくわからないけど祝福するよ」
「ええ、ありがとう……この子もきっと喜んでいるわ……」
そう言いながら、妙齢の女性は愛おしそうに腹を撫で回す。
細身の体であるが故に一見した程度では気づけなかったが、その腹部は明らかに新たな生命のための寝具と成っていた。
 
「もうすぐかい?」
「ええ、もうすぐ生まれるの……」
 
「……クリムエールはいるかい?」
「遠慮しておきますわ、だってこの子のためにならないもの」
穏やかで幸福な会話、それを続ける二人がこの状況下においては逆に狂っているように見えた。
だが、そんな狂いなどは二人には関係のないことである。
ダテンは女性に対し、「そうかい、そりゃそうだ」と形見の鞄からクリムエールを取り出して一息に煽り、
女性はそれを微笑ましげに眺めていた。
 
全身に心地の良い酩酊感が回り、目の前の女性と同じように顔にほんのりと赤が差し込む。
かといって、ゲロゲロを吐くほどでもないし――もちろん、拒食もありえない。
ただ、酔いは肉体だけでなく精神の方にも回りこみ、ダテンにとある言葉を言わせる。
本来ならありふれた、つまらない言葉である。
だが、彼女に対してだけは――そして、それを察していたダテンには禁断の言葉に近い。
それでもその言葉を言ってしまったのは、
酔いのせいだけではなく、ダテンの性格によるものだろう。
 
 
「で?誰の子だ?」
「もちろん、夫の子ですわ……」
女性の表情は変わらない。
相変わらずの笑みのまま、腹が裂けた。
 
血しぶきが飛び、肉片がちらばり、女性がぐらりと倒れ、
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
 
子供が誕生した。
 
「元気な子だな」
「ええ……私の……自慢の…………子………………です」 
 
 
 
女性が己の名前を最後に呼んでもらったのは何時のことだろうか。
長命のエレアである彼女にとって1日も100年も大した差はない。
それでも彼女が自分の名を忘れてしまうほどの膨大な年月が流れてしまったはずである。
 
昔、彼女はありふれた冒険者で
ごくありふれた出会いの末に、将来の伴侶を見つけた。
幸福だった。
幸福であるはずだった。
遺伝子を継ぎ、隣で微笑みかけてくれる男の子供を生むはずだった。
 
昔、妊娠という状態異常があった。
エイリアンという新たに出現したモンスター、奴は母体となる人間に己の子を植え付け、そして強制的に出産させる。
今では寄生と呼ばれ、対策もある程度わかっている。
だが、当時は――突如、現れたエイリアンにどう対処すればいいかわかるものはいなかった。
 
エイリアンは女性を妊娠させた。
女性はエイリアンの子を産んだ。
子は悲劇を生んだ。
 
何度でも甦れる者がいれば、死ぬままになる者もいる。
 
女性が前者であり、男は後者だった。
 
泣き叫び。
 
痛みにのたうち回り。
 
そして狂った。
 
今の状況は間違っている。
 
本来私は幸福であるべきだ。
 
男はどこかに行ってしまったが。
 
私には子供がいる。
 
そう、私と最愛のあの人の――
 
妊娠が寄生と呼ばれるようになっても、彼女は優しく己の子が眠る腹を撫ぜる。
行き着くところまで行き着いた狂気度は、現実をねじ曲げさせる。
 
生まれでた怪物の画像はエレアの標準的な子供に差し替えられる。
怪物が街の住民を襲えば、それを元気に遊んでいると解釈する。
怪物がさらに子供を孕ませれば知らない間に兄弟が増えていると喜ぶ。
そしてガードに己の子が殺されれば――そんな子供など最初からいなかったのだ。
 
彼女のカルマは下がらない、彼女に罪はない。
全ては怪物の罪。狂気は罪ではない。
 
だから、そんな生活を彼女は続けていたし、
そしてこの場所でもこうなった。 
 
 
 
 
慈しみの視線を向ける母。
狂気の雄叫びを上げる子。
 
そして――
 
「テレポートアザー」
事も無げにダテンは詠唱する。
 
子が何処かへとテレポートする。
 
「あら……?あの子……ったら……ど……こへいっ……たのか……しら?生……まれたば……っかり……だって……いうのに…………」
「遊びたい年頃なんでしょ」
「あ……ら……あ…………ら……」
「それより、アンタが心配だ」
「大……丈夫…………慣れていますから……」
 
「どっかベッドにでも寝かせたいなぁ、なにせ……」
こんなところで死んでもらったらつまらない、と言いそうになってダテンは言葉を呑み込む。
ダテンの性癖は歪んでいる。
ダテンは召喚したモンスターが他人を襲っている所を見ることに異常な興奮を感じる。
他人がモンスターを返り討ちにしている所を見ても興奮する。
 
パルミア王族がモンスターと戦っているところなど、思い出すたびにダテンは気持ちいいことを行う。
なお、この場合の気持いいこととはボランティアなどの清々しく気持ちいい事であり、変な意味ではない。
 
しかしサモンモンスターの杖もなく、丁度魔法も尽きていた現状では
この密かな楽しみも行えないだろう、と諦めていた矢先のことである。女性と出会ったのは。
 
使える、そうダテンは判断する。
エイリアンが腹を掻っ捌いて宿主を襲うところで、気持ちいいことを3回は出来るだろうと皮算用すら開始する。
 
そのために、今目の前の子供を殺すことは躊躇ったし、宿主が死ぬことなど言語道断である。
 
「パルミアなら王様ベッドがある、どこまで再現してあるかわからないが……行ってみよう」
消耗故に気絶した女性をピアニスト特有の重量挙げで優しく担いで、ダテンはパルミアへと走りだす。
 
状況を問わず、狂ってしまっているのだ。
 
【E-6/中央/一日目・朝】
 
【ダテン@ジューア】
【職業:ピアニスト】
【技能・スキル:テレポートアザー】
【宗教:幸運のエヘカトル】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持]:基本支給品、形見の鞄(不明支給品2アイテム)
[思考・状況] 基本:他人がモンスターに襲われている所をおかずに気持ちいいことをしたい
       1:パルミアの王様ベッドに女性を寝かす
 
 
【女性@エレア】
【職業:戦士】
【技能・スキル:不明】
【宗教:◦癒しのジュア 】
[状態]:妊娠(寄生)、出血、ダメージ(中)
[装備]:なし
[所持]:基本支給品、形見の鞄(不明支給品3アイテム)
[思考・状況] 基本:どこまで何を認識できているのか不明
 
【備考】
・エイリアンがエレアの子供に見えています
・狂っています
・エイリアンはテレポートアザーで何処かへ飛んでいきました、E-6内ではないかと思われます 
 
 
 
Buck :6 Next
何をしたいのか 投下順  
何をしたいのか 時系列順  
ダテン Next→
女性 Next→
 
 
 
 

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最終更新:2013年09月22日 03:25