何をしたいのか


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朝日が眩しい、シーツはほどよく暖まり、触れる肌に心地よかった。
寝返りをうち、むにゃむにゃと枕を抱き締める。
彼のお気に入りの抱き枕、布地の表面に神々の一柱、癒しのジュアの絵が縫い込まれた……
そう、細やかな緑髪にすべらかな白磁のごとく美しい肌……筋骨隆々の二の腕、胸板……汗臭い男の……
……ちょっと待て、すっごく待て。
 
男は悪夢の違和感とともにバネ仕掛けの人形のように跳ね起きた。
 
「にゃ、にゃんじゃあこりゃぁああ!!?」
 
そして、憚ることなく絶叫する。
それもそうだ、彼が日頃愛用するジュア抱き枕とは似ても似つかない、マシッブな男神の描かれたごっつい枕がその腕のなかにあるのだから。
 
「えんがちょ!地のオパートス抱き枕なんてドコ需要だよ!!」
奇妙な指の形を作り切る。祈りの仕草の類いなのか、あまりそのことに詳しいものはここにはいない。
実にいい笑顔を浮かべたオパートス抱き枕を彼は放り投げて、渾身の回し蹴りを食らわした。
乾坤一擲、やりきれない、実にやりきれない思いが枕の中身の羽根とともに窓ガラスを突き破り飛翔していった。
 
「はー……あ?なんでおれってば、こんなとこで寝ていたんだっけ」
ふかふかのベッドにぼふんと着地して、あたりをキョロキョロ見回す。
この作りはパルミアの宿屋か?
外に出ないことには分からないのだが、それよりももっと大事なことを忘れている気がする。
なので、指折りしながら一つずつゆっくり思い出していく。
 
「おれの名前はオプティ……ゴブリンの戦士で……ジュア様を……あ!」
三つめの指を曲げたときオプティは思い出す、唐突に過ぎたことの始まりを。
「ジュア様に、モノホンのジュア様に会えたなんて、おれは幸せもんだよなあ!」
 
彼は非常に楽観的な幸せ主義者であった。
「殺しあいってーのは確かに面倒くさいが、愛しいジュア様のためならえんやこらだ!今試されるおれのジュア様への愛!」
流石ノースティリスの冒険者、善は、善ではないが急げとばかりにベッドから軽快に降り立ち階段をくだる。
るんるん気分で、今ならなんだってできるんじゃないかと、軽やかにオプティは走っていく。
 
階下、本来なら宿屋の主人がいるはずの場所にたどり着くが、やはり姿はないようだ。
いや、誰かいる、宿屋の主人ではない……なんだか悲しくなるくらいに小さな声で何事かを呟く声がする。
そうっと、気付かれないように覗くと、椅子の上に他の冒険者がたっていた。
 
「わたくしは……わたくしはもうダメです、イツパロトル様……お詫びに……我が命をあなたさまへ…………!」
 
がたん、と、椅子を蹴り女は首を括った。
「あかんて!死んだら!」
何も考えず、オプティは反射的にその足元に滑り込んで支えを無くした女を肩車した。
しまった、と青ざめたのは、気まずい沈黙が流れ始めたときであった。遅すぎる。
殺しあいに乗るぞ!と宣った舌の根も乾かぬうちに人命救助とは、どうしたものか。
 
「……余計なことをありがとうございます。でもこのまま死なせてくださいませ、わたくしはもう、不幸の底にいるのでございます、もうダメなのです」
 
彼女の名前はペシミット、根暗でマイナス思考のリッチである。
不幸不幸とズブズブ埋まっていく不仕合わせな女だ。
「な、なにがダメだってんだよ」
 
「わたくしは死を否定し手に入れた永き命をイツパロトル様に、全て捧げると決めていたのに、信仰が足りなかったのでございます」
ペシミットは語る、試される時点で自分は愚かで、生きるに相応しくないと。
目覚めとともに自身が受けた神託は死の他にないと(形見の鞄から頑丈なロープが出てきたそうだ)悟り、
神の意のままにこうして縄に首を預け生と死の境にいると。
 
「貴方だって、わたくしが死んだほうが得でしょうに」
 
「そぉなんだけどさ……なあ、せっかくあんたらリッチは言う通り長生きなんだし、もっと前向きにいこうぜ」
ペシミットの言はあんまり納得のいくものではない、そうオプティは感じた。
でもそれがうまく言葉にできずもごもごと口ごもる。
だから一旦それは置いて、自分の思うとおりに、言葉を繋げてみた。
 
「気の持ちようだとおれは信じてるからさぁ、死ぬより、生きるほうがいいと思うんだよ」
今死んだらそこでおしまいだ。
不幸どころかもう何もできなくなってしまう。
楽しいことも哀しいことも、美味しいものも不味いものも。
その説得とも自己主張ともつかぬ言葉は、オプティの最初の方針からすると大きく矛盾しているのだが。
本人はそれに気づかず、楽しく生きようといつか殺すはずの相手に話し続ける。
 
「……貴方って変わってるんですね」
ペシミットは、指先に魔力を集中させてロープを切った。
そのまま威力を上げて自殺も図れたが、とりあえずはやめにした。
こんなよくわからないのに思考を変えられるとは、とんだ不幸だ。
すぐに死ぬだの駄目だの暗いことを言う彼女にも言うほど強い意志はない。
 
しゃなりとオプティの肩から降りて、床に立つ。
容姿はリッチらしく腐敗し、ところどころ骨が肉の間から覗いてはいたが、残る生前の面影の輪郭はハートの形を想起させ、
虚ろになる前の名残は青い光としてその瞳を満たしていた。
有り体に言うと、すっごく美人なリッチであった。
 
美人だなあ、でもジュア様のほうが……うーん、なんてオプティが腕を組んでうんうん唸っていると、耳に優しい音色が転がってきた。
「ピアノの音……」
 
「綺麗……」
 
二人はふらふらと、半ば無意識に音の香りをたどり始めた。
うっとりと、耳から肌から染み込んでいく音に目を輝かせる。
まるで色がついたようなその音は近づくほどにその全容を明らかにし、幸福を二人に注ぎ込んだ。
 
生きる歓び、朝の澄み切った空気、まどろんだ布団の暖かさ、オプティが言葉にするなら、そう表すだろう。
死せる安寧、夜の静寂を帯びた風、眠る前の冷たいシーツ、ペシミットが言葉にするなら、そう表すだろう。
そこにはプラスとマイナスの、両方のための幸福が流れていた。
 
この場にいたものは自然と、これは自分のための音なのではないかと覚えただろう。
 
パルミアの酒場の備え付けピアノの前に奏者はいた。
額の中心で別れた黒髪、頬を縁取るそれは肩にかかり、さらさらと溢れる。
三日月を思い出す横顔、通った鼻筋、整い過ぎた顔のつくりはさながら芸術家の作った彫刻。
ぼうっと眺めていた二人は、ふと、不意に訪れた違和感に目をこする。
美しい奏者の青年に重なる無骨な石人形の姿。
あれは確か、ゴーレム。
人間が創りだした、石の生物。
 
名残を惜しませることなく、そこで終わるべく演奏は終わった。
心から満たされた二人はめいいっぱいの拍手と賛辞を奏者に贈る。
 
「ありがとう……」
一礼し、青年は笑みを浮かべる。
「すんごい演奏だったな!おれが今まで聞いた中で一番だったぜ!」
「ええ、ええ、わたくしもこんなに素晴らしい……ああ、言葉が思いつかなくなる演奏は初めてです!」
 
めいめい言葉の限りを尽くしたかったが、喉まででかかった言葉たちは音の感動の前では余りに無意味で。
「はーー……おれ、ここに連れて来られてよかったかも」
「全然よくありませんわ……でも……」
ペシミットも、さっき死ななくてよかったと、ほんの少しだけ幸運を感じてしまっていた。
 
「お前達は、ここで何をするつもりなのだ?」
唐突に青年は尋ねる。
惚けていた両名は、うーんと困ってしまった。
音楽につられて思考を中断していたが、どちらともやりたいことをやれていない。
オプティは殺し合いに乗りたかったけど乗ることが出来ず。
ペシミットは死にたかったが死ぬことが出来ず。
 
それを聞くと、青年は悲しそうに目を伏せた。
「そうか……我も分からんのだ……我は創造主様にピアノを弾けと命じられて造られた命」
美しい姿を創造主から賜った彼は、ノースティリスでは毎日ピアノを弾いていた。
それしかやる必要はなかったから。
それが全てであったから。
「ここに招かれたのは……まああらゆる宗教に手を出したからなのだろうな」
創造主が亡くなった後、命令を失った彼はノースティリスを冒険者として歩いた。
そうしているゴーレムはたくさんいると聞き及んでいたからだ。
命令以上の自我を見つけるために、様々なことをした。
敬虔に神を愛してみたことも、無法者として殺人を重ねたこともある。
しかし演奏をするということ以外の新しい自分のやるべきことは見つからなかった。
 
「故に我は、ここで初めてであった人間の方針に沿おうと思ったのだが」
オプティとペシミットは互いの顔を見る。
どちらともまっとうな人間とは些か違うし、なにも方針がない、おまけに初めてであったものが二人ではどちらにも沿えない。
「お気の毒に……やりたいことが見つからないとは……」
 
「でも逆に言えば、ここでやりたいことが見つかるかもしれないんだよな」
オプティは力強く頷き、近くにあったペシミットの手とゴーレムの青年の手を取る。
「ここで会ったのも何かの縁だ!ここでおれたちのやりたいこと、やるべきことを一緒に探そう!」
 
ゴーレムの青年は魅力あふれる柔らかな笑顔で応える。
「この場でお前がそう言うなら、我はそれに従おう」
 
ぎゅっと握り返された手のひらは冷たく。
「わたくしも、貴方のせいでアテはございませんから……」
ペシミットも、不幸の沼から少しだけ手を出した。
 
「うんうん!ようしじゃあ行くぜ!ペシミットと……ええと」
 
「メルキドだ、我の名は、宜しくな」
奇妙な三角の陣は三者三様、先行きは宙ぶらりんながら、しっかりと手だけは繋いでいた。
 
 
【E-5/パルミアの酒場/一日目・朝】
 
 
 
 
【オプティ@ゴブリン】
【職業:戦士】
【技能・スキル:】
【宗教:癒しのジュア】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持]:基本支給品、形見の鞄(不明支給品3アイテム)
[思考・状況] 基本:殺し合いに乗りたかった。
       1:やりたいことを探す。
 
 
【備考】楽観的で前向きな幸せものの男。ジュア様ラブ。若干頭が緩いフシがある。しかし正直でティリスの冒険者にしては
    真の意味でカルマが高い。
 
【ペシミット@リッチ】
【職業:魔法使い】
【技能・スキル:マジックボルト】
【宗教:元素のイツパロトル】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持]:基本支給品、頑丈なロープ形見の鞄(不明支給品2アイテム)
[思考・状況] 基本:死にたかった。
       1:やりたいことを探す。
 
 
【備考】悲観的で後ろ向きな不幸な女性。イツパロトル様命。聡明で美人(でもリッチだから腐ってる)
    流されやすい傾向があるが本人はそれを自覚していない。
 
【メルキド@ゴーレム】
【職業:ピアニスト】
【技能・スキル:演奏】
【宗教:無のエイス】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持]:基本支給品、形見の鞄(不明支給品3アイテム)
[思考・状況] 基本:やりたいことを探す。
       1:オプティ、ペシミットについていく
 
 
【備考】ピアノを弾くためだけに造られたゴーレム。そのため容姿はピアニストの理想である魅力あふれる美しさを誇っている。
    創造主を失ってからピアノを弾く以外の自分の目的を探している。
 
 
【支給品紹介】
 
頑丈なロープ:ガラクタの一種だがいつのころからか自殺アイテムに。本当に使ったのか……。
 
【???】

オパートス抱き枕:原作Elonaには勿論存在しない、かといって現実にもない、そういうオブジェクト。 

 

 

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