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現実《リアル》の救い手は用心棒、夢は無いだろうけど、救いがないよりましだろ?




「はいはい、痛くないからね、どちらかと言えば熱いからね。」



楽しそうな、愉快そうな男の声が響き、
その場に液体を降り注ぐ音が流れている。

近代的な街並みが並び、それに反して人の気配が毛薄な場所である「赤い国」。
名前の通りに建物に赤色が多いこの場に、異様な光景が展開している。
全身をコートのような形状の防火服に身を包み、
顔をガスマスクのような形状のマスクで覆い隠している男。
両手で持ったポリタンクを地面におろし、
男は凡そ正気とは思えないようなギラギラとした視線でひとりの女性を見つめている彼。

その視線の先にいる女性は、支給品なのか両腕に手錠をかけられ、背後の電柱に体を拘束されている。
特殊な刺激臭を放つ液体……おそらく男の持つポリタンクに入れられていたガソリンを、
まんべんなく頭から振りかけられたのか、全身が濡れている女性。
男に暴行を受けたのか、顔には青あざが目立っている。
全体的にやつれた印象の女性は、虚ろな視線で男を見つめ返している。

女性にガソリンを注いだ彼の名は、姫園炎間(ひめぞのえんま)という男で、なんと32件もの連続放火殺人の犯人であり、自称炎の芸術家を名乗る全国指名手配の、異常犯罪者である。

その異常者っぷりは、「誘拐した赤ん坊にガソリンをかけ、火をつける映像」をネットにアップしたという狂った犯罪行動にも裏付けられているもの。

『燃える炎』に興奮を味わう性癖を持つ炎間の行動は、『燃やす事』を全ての基本とする。 
 それは、突如強制された殺し合いの中でも、変わることはない。

 そんな炎間は、早速生け捕りにし、拘束した目の前の女性を、最高の炎の芸術作品に仕上げるつもりである。
まあ、ようは殺し合いの勢いをつけるために、燃やそうと考えているのだ。

「君は運が良いよ。あまり美しくはないが、俺の炎で最高の美しさを得るんだ。幸運な事なんだぜ。」

コートのポケットから、マッチ箱を取り出し、その中からマッチを一本取り出す。
鼻歌交じりにマッチをすり、火をつけようとする炎間を、女性ーー宮野陽子(みやのようこ)は、相変わらず虚ろな視線で見続けている。

その顔に一筋の涙を流してーー

■ ■ ■

宮野陽子は、強烈な絶望を味わっていた。
周りに流されやすい彼女は、これまでの人生、何一つ思い通りにいかず、
人生最高の幸せと言われる結婚も、夫の失踪という不幸が飾った。
 そんな彼女の支えであったひとり娘も、暴漢に襲われ、殺された。

 このことから察しはつくだろうが、陽子の未来の死因は練炭自殺。


 生きることに疲れ、人生から逃げ出すはずの運命だったのに、首輪をつけられ、殺し合いを強制される。
それでいて、今まさに、殺し合いに乗った参加者に焼き殺されようとしている。

 こんな不幸があるだろうか?

「(私はただ、幸せになりたいだけなのに……どうして私だけがこうなるの?なぜ?。)」

ガソリンまみれの顔に一筋の涙を流し、絶望する陽子。

「よぉぉし!俺の炎の芸術のために死ねぇぇ!!芸術は炎だぁぁぁ!!!」

火のついたマッチを片手に、高らかに奇声をあげる炎間。

 もしも、此処が物語《フィクション》の世界なら、このピンチに救いの『ヒーロー』が現れてくれるのだろうか?
ここは現実《リアル》であり、無情にも火のついたマッチが放たれーー


「何やってんだい?あんた。」


ーーなかった。

突如その場に小さく、しかし広く響き渡る声により、マッチを投げる寸前だった炎間の腕が止まる。

■ ■ ■

白いポロシャツにグレーのネクタイ、ショートパンツに身を包んだその人物は、腰に手を当て、炎間のことを目を細めながら見つめ、顔を傾けている。
明るい金髪と、額に入れられた逆十字の刺青がそれに合わさり、同じく揺れる。
ボディーピアスという物だろうか?
複数のピアスを瞼の下、そして両耳に入れている。
露出した腕、脚の肌に巻き付くように彫られている『茨』と『蛇』の刺青。

その異様な姿は、本人から出される威圧感もあり、より一層恐ろしさを醸し出している。

「なにをだって?これから俺、炎間の芸術作品を建造するのさ!!炎の芸術《ファイアーアート》さ!!」

出鼻を挫かれたためか、少々不機嫌な声で答える炎間。
陽子は驚いたのか、目を見張って来訪者を見つめている。
炎間が手に持っていたマッチも、振り向いた際の衝撃で消えてしまっている。

「芸術?…………あんた、いや炎間だっけ?ちょいと尋ねるけどさ、そこの女にたっぷりとかかってるのはガソリン?かけたのはあんたかい?」

拘束されている陽子を指さしながら、尋ねる。

「そうだが?燃えやすくなるようにガソリンをまぶしたのさ。丁度支給されていたんでね。」

この光景をみたら、すぐに判別できそうなことを尋ねてくる来訪者。眉を寄せながらも、炎間はそれに答える。

「見たところその女、怪我してるようだけど、あんたがやったの?」

陽子の顔の、青あざの事を言っているのだろう。
炎間が陽子を捕らえる際、抵抗した陽子を炎間が何回か殴った時できたあざだ。

「この女は、俺の芸術のための犠牲になってもらうために捕まえた。その崇高な目的が理解できなかったみたいなんでな。
何発か殴った。それがどうした?」

「ん……なるほど、殴ったって事は無理矢理か……じゃあさ、一応聞くけど、おまえは殺し合いに乗っているか?」

炎間の疑問には答えず、再度尋ねる来訪者。
その両目の青い瞳が、静かに炎間を見つめる。

マスクで外からは見えないが、炎間は眉を寄せる。

目の前に完成間近の芸術作品があるのに、こいつが来たせいで作成が滞っている。
そもそも、なぜ俺がこんな悪趣味な野郎の質問に律儀に答えてやってるんだ?
そんな苛つきを込め、怒鳴る。

「乗ってるに決まってるだろ!!さっきからくだらねえこと聞いてんじゃ…」



「そうか、じゃあぶっ飛ばしても文句ないな?」


炎間の記憶は、此処で途切れた。



 本当に、一瞬だった。そうとしか陽子には言えなかった。



それのいたる『過程』ではなく、『結果』だけが陽子が認識できた全てだった。
炎間の言葉が終わるか、終わらないか、とにかく、殺し合いに乗ったという事を発言した後から行われたのだろうか?
少し前まで炎間がたっていた場所に、かわりに立つ『彼女』。
振り抜かれた形の右拳に、刻まれた逆十字が強い印象、雰囲気を放っている。

 べごぎゃ

派手な音をかき鳴らし、空中を何回転も周り、数十メートルほど先の地面にバウンドし、転がる炎間。
何とも嫌な音、とても人体からなったとは思えない濁音がその場に響いた。
粉々に砕け散ったマスクの細かい破片がばらまかれる。

殴ったのだろうか?
たった、たった一発のパンチが此処までの威力を発揮するのか?

彼女が行った行動は簡単でいて、単純明快だ。
ただ、殺し合いに乗ったと炎間が喋った瞬間に、瞬発的に懐に飛び込み、顔面に『軽く』パンチを打ち込む。
それだけ、たったそれだけの行動なのだが、それがあまりにも鮮やかに、異常に手慣れており、容赦が全くなく、素早く行われたため、という三拍子が揃い、
『気がついたら炎間が吹っ飛ぶ』
という結果しか陽子には認識出来なった。

「あんた、大丈夫?こんなイかれ男に捕まったなんて、運が無かったね。」

パンパンッ……両腕を軽くはたきながら、彼女は陽子に近づき、怯えた様子の陽子を全く気にすることなく、拘束している手錠に触れる。
陽子が怯えるのは当然だろう。人間ひとりを、認識できないほどの神業的なパンチで、
どうみても100メートル近くは吹き飛ばせる人間に対して、怯えない者が居るだろうか?
もっとも、陽子は彼女が、炎間を殴った過程すら認識できなかったのだが。

「ふんっ!!」

ベキベキベキ!!

鉄製の手錠、その鎖を引きちぎり、拘束を解いた。

「大丈夫?これ使いな。」

ガソリンまみれの陽子を気遣ったのか、置いてあったバックからタオルを取り出し、投げる。

「あ……あなたは?」

突如現れた《ヒーロー?》に、陽子は尋ねる。

「あたい?あたいは……しがない用心棒って所さ。」

陽子を安心させる為なのか、陽気な雰囲気で喋る彼女。
その青色の瞳が、陽子の顔を真っ直ぐ見つめている。
この時、陽子の目ははっきりと、命の恩人の微笑を捉えた。
心臓がトクンと控えめに、けれどとても熱くはねた。
止まらなくなった胸の高鳴りは、にやにやと笑いながら、こんなふうに語りかけている。

『ヘイ、ユー。今コイしてる?』

し、してるっ。 しましたっ。 心を、奪われましたっ。

宮野陽子、29歳の夏。生きにくかった人生の中で、恋に陥りました。

■ ■ ■

炎間の失敗は、最強と名高い用心棒であり喧嘩屋である『ビアー・バーンズ』を知らなかった事だろう。
ニューヨークのスラム街出身であり、
生まれながらにして悪魔的な肉体の強さと戦いの才能を持つ彼女。
8歳の頃、親友の女の子を強姦した6人の男達に報復、
素手で重傷を与え、2名の頭蓋骨を砕き殺害した凄まじい経験があり、
罪を償った後、暗黒街で用心棒及び雇われ喧嘩屋として働いている彼女の事を……
『片手で金属をねじ切る事ができる程の異常な筋力』
『顔面に放たれた銃弾を歯で受け止めた事もある』
まるで、アメリカンコミックキャラのような彼女を、知らなかった事こそが敗因だと、強く主張する。
もっとも、知っていたとしてもなにもできなかっただろうが。

25歳という若さでありながら、様々な組織に勧誘され、その全てを蹴ってなお、無事でいるのは彼女だけだろう。
殺し屋、マフィア、警察……彼女に敵対した者は、すべてが手酷く返り討ちにされている。
そんな彼女は、意外にも殺し合いには乗らなかった。

『ナメた野郎はとにかく殴る』

を座右の銘とする彼女は、このイかれた殺し合いに簡単に乗るほど、軽い人物ではない。
寧ろ、自分が簡単に拉致され、
首輪をつけられているという屈辱を、
あのコスプレ女とその上司に償わせる必要があると結論づけていた。
「(あたしも甘いねえ。……身も知らない奴を助けるなんて。)」

陽子を助けたのは、別に対した意味はない。
只単に、炎間がビアーの基準に引っかかり、『ナメた野郎』と認定されたにすぎない。
生きたままバーベキューにされそうになっていた女を助けても、特に罰は当たらないだろう。

「(……さっきから、やけに熱っぽい目を向けてくるねぇ。なんでだ?)」

自分が助けた女、陽子からの熱っぽい視線をびしびし感じるビアー。
あまり気づいていないが、ビアーは同性に結構モテるタイプである。
親友と呼べる同郷の友人である、とある切り裂き魔も、彼女に惚れている。

これが主人公体質という奴だろうか?

ごく平凡な主婦と、ニューヨークの用心棒。
この有り得ない組み合わせのコンビは、このロワにどんな反応を起こすのか?
それは、まだわからない。

「あんた、名は?」

「はっはい。陽子、宮野陽子です。」

「OK、ヨウコ、まずはシャワーを浴びた方が良いよ。ガソリンまみれはまずいでしょ。」

「あ、すいません。」

「……なんで謝るの?」

「あ、いや、癖でして……すいません。」

「(……アジア系は、みんなこうなのかな?)」

……コントに見えなくもないコンビである。


【G-7赤の国街角/未明】

【宮野陽子】
【状態】顔に青あざ。軽傷。手首に手錠跡。ガソリンまみれ。
【装備】タオル@現実
【所持品】
デイバック×1
ランダムアイテム×3
基本的支給品×1
【思考・行動】
1:ビアーに恋をしました。
2:この胸の高鳴り……。
3:この人(ビアー)について行きたい。
【備考】
※ガソリンまみれでぶっちゃけて臭いです。

【ビアー・バーンズ】
【状態】健康そのもの。むしろ良すぎる。
【装備】壊れた手錠
【所持品】
デイバック×1
ランダムアイテム×3
基本的支給品×1
【思考・行動】
1:殺し合いにむざむざ乗るのはしゃくに障る。
2:ナメた野郎はとりあえず殴る。
3:なんでヨウコ、顔を赤くしてるんだ?
【備考】
※アジア系に対していらぬ誤解をしています。
※サリーが来ているとは知りません。

■ ■ ■

さて、ビアーと陽子がコントのような会話を行っている間、派手に殴り飛ばされた放火魔というと……

「……ピク…ピク…。」

奇跡的に生きていた。

ビアーの『軽め』の拳により、
砕け散ったマスク、その細かい破片が顔を切り刻み、
血まみれな顔が微妙に陥没し、
吹っ飛んだ衝撃で全身を殴打し、
両目が衝撃で軽く飛び出し、
謎の痙攣を起こしてはいるが、

奇跡的に生きてはいた。

 これも、ビアーが手加減をして拳を放ったおかげである。
 もし彼女が本気で殴れば、腰から上が跡形もなく消えるだろう。
 しかし、炎間の受けたダメージは甚大だ。
 脳は衝撃により、ミキサーにかけられたようにシェイクされ、直ぐには間違いなく復帰出来ないだろう。

まあ、この男の過去を知れば、同情する価値は全く無いのだが。

それでも、少し同情を誘う顔になり果てていた。



頑張れ炎間!!たぶん生きてれば良いことあるよ。……多分。


【G-7赤の国街角/未明】

【姫園炎間】
【状態】
全身打撲。顔面陥没。眼球軽破損。 顔にマスクの破片による切り傷。脳に障害が残る可能性有り。
【装備】
無し。
【所持品】
無し
【思考・行動】
1:…ピク…ピク。
2:炎の芸術を完成させる。
【備考】
※意識不明の重体です。



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