髪の毛を逆立てたニキビ面の女子高生が、わざとらしく肩をぶつけてきた。
「痛って~、骨折れたかも」
アーケードがあるメインストリートから一本はずれた裏道。
植村あかりは無視してスタスタ歩み去ろうとした。

「待てよコラ!」あかりの背中にニキビ面の怒声が飛んだ。
ひとつため息をついてから、あかりは振り返りペコリと頭を下げた。
「カネ持ってんだろ?治療費払いなよ」ニキビ面の連れらしき女がニヤニヤしながら言った。
シンナーでも吸っているのか、歯茎が痩せてスキッ歯になっている。
もうひとりもやはりニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべていた。

3人か…。相手を値踏みしながらあかりが言った。「ぶつかってきたんはそっちやろ」
ニヤニヤしている薄気味悪いデブ女が、ほほお、という感じで猫なで声を出した。
「財布置いてきゃ怪我はしないですむのよ。おとなしく出しなって」

タイマンならこんなやつらに負けやしない。だが3対1はさすがにキツい。
浚巡しているうちにスキッ歯が目の前まで近づいてきた。
「痛い目に遭わなきゃ分からねーか?」息が臭い。やっぱりシンナーか。

ゴング。あかりはいったん身体をのけぞらしてから、頭突きをお見舞いした。
「がっ!」スキッ歯の前歯が吹っ飛んだ。


善戦はしたものの、デブ女にのしかかられ、あかりは地面に組伏せられた。
「ちくしょう!このガキ!」ニキビ面が鼻と口、3つの穴から血を流しながら悪態をついた。

デブ女はハァハァと息を荒くしながら告げた。「礼儀を教えてやんなきゃね」
前歯を無くしてもはやスキッ歯でもなくなった女がパチンと折りたたみナイフを取り出した。

「そのきれいな顔、ズタズタにしてやるからよ」歯欠けが凄む。
くそ。卑怯な連中…。1対1なら…。あかりの目は恐怖でナイフに釘付けになった。

「そのへんにしときんさい」あかりからは見えないところから声が聞こえた。
「よってたかってひとりをやるとかみっともないけえ」

そこからの説明は不要だろう。
あかりが1対1なら勝てるとふんだ相手3人が、その広島弁の少女ひとりに叩きのめされたのだ。

足元に転がる3人を爪先で小突いてみるがピクリとも動かなかった。
唖然としているあかりに少女が言葉を投げかけた。
「ここらは危ないけえ。気をつけんさい」
「う、うちひとりでなんとかするところやったのに」
「…ずいぶん過大な自己評価じゃ」
「そ、それは…とりあえずおおきに…」
「ふん…じゃあの」

名前を聞くの忘れた…。決めた。弟子にしてもらう。
あかりは路地裏をあとにしながら、鼻血をグイと袖で拭った。

最終更新:2013年07月13日 16:18