タブンネを殺すことで、キングスライムの溜飲は若干下がっていた。
殺害、命を踏みにじる行為こそ王たる者の至上の贅沢であろう。
だからといって、先程からの王に対する非礼全てを発散できたわけではない。
先程殺したタブンネを再度踏み潰す。
命への暴虐こそが王の特権だ。
「ちょっと、やめないか」
そんな暴虐の王を戒める狼が一匹。
種族名をケルベロスといった。
その鋭い眼光は心臓の弱い人間ならば、ひと睨みで全身から体液を垂れ流し死亡したことだろう。
だが、キングスライムはその狼の眼光を真正面から受け止める。
自称王は伊達ではないのだ。
「…………命令だと、ボクは王様だぞ!!」
全身を怒りに震わせ、いやスライムだから震えている可能性も存在するが、
とにかくキングスライムは激怒した。改めて、激怒した。
でもタブンネとキンスラはズッ友だょ……!!
「王か…………」
キングスライムの怒りに対し、ケルベロスはただ嘲りの笑みを浮かべるだけ。
「ふん、鎖に繋がれた王がいるものか。俺もお前もただの悪魔に過ぎん」
ケルベロスの挑発に対し、キングスライムは更に怒りを深める。
だが、ケルベロス自身もまた、心の底から煮えたぎる様な憎悪を抑えきれずにいた。
過去に彼に何があったのか、それは今の彼にとって重要なことではない。
目の前に敵がいる、戦う理由はそれだけで十分だ。
「グオオオオオオオオオオオッ!!!」
獣の咆哮と共に、ケルベロスは跳んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおッ!!」
キングスライムもまた、跳んだ。
向けられた憎悪など意に介すことはない、
王が庶民の感情に付き合うことがあるか、いや無い。
如何なる感情を抱かれようが、王は我を通すのだ。
ケルベロスのアイアンクロウごと、その巨体でキングスライムは押しつぶす。
爪は肉体を抉り取り、血の代わりに中身の体液が漏れていく。
だが、それを意に介しはしない。
「王様ナメんなバーーーーーカ!!」
痛みも全て、敵ごと押しつぶしてしまうのだ。
事実、ケルベロスはキングスライムの巨体に潰されている。
やはり、調子が悪かっただけだ。
ケルベロスを下敷きにしながら、キングスライムはほくそ笑む。
が、その二秒後にキングスライムの笑みは消えることとなる。
「通常攻撃では……駄目か」
潰されながらも、ケルベロスの声色は平常なものだった。
下から冠を突き抜けて天まで届くような業火が立ち昇った。
キングスライムに耐性が無ければ即死だっただろう、
だが、幸いにも彼はその耐性のお陰で狼の上から立ち退くだけで済んだ。
だが、ケルベロスに自由を与えたのがいけなかった。
虚空爪激、虚無すらも斬り裂くケルベロスの爪がキングスライムを襲う。
だが、キングスライムはその攻撃を平然と受け止めていた。
「……レベルアップだ!!」
歓喜の雄叫びは、ケルベロスの耳にも障る程の大声だった。
そう、キングスライムも無意識の内に、生きたいという願いがタブンネ殺しのレベルアップで覚えたスクルトを全積みさせていた。
悪魔と補助魔法との相性は悪いのだから、そりゃ攻撃を受け止められるよ、たまげたなぁ。
「王様によりふさわしいスーパーパワー!!」
キングスライムの脳内でファンファーレが鳴り渡る、耳障りな程に鳴り渡る。
ファンファーレの音色は己が新しく覚えた特技の使い方を教えてくれる。
「ア ギ ダ イ ン!!」
「メ ラ ゾ ー マ!!」
物理攻撃が効かぬと見たケルベロスは再度炎を放つ、それに対し、キングスライムもまた、炎で応戦する。
もちろん、己の耐性ならば受け止めることが出来るだろう。
だが、王が煤で汚れるなどあってはならない。
傲慢でなければ、スライムの王ではなれないのだ。
炎は衝突し爆発四散。
閃光が周囲一帯に広がった、ケルベロスもキングスライムもその輝きに目を背けざるをえない。
視力を取り戻したのは、キングスライムが先だった。
「王様をバカにした者は…………死刑!!」
死刑執行は己の手で行わなければならない、キングスライムの巨体が宙を舞った。
「…………ああ、死刑だ」
この瞬間を待っていたとでも言いたげに、ケルベロスは袋から石を取り出す。
デカジャの効果が込められた石が、キングスライムの鉄壁の守護を打ち消していく。
「お前がな」
キングスライムの巨体が再度宙を舞った。
カウンター……いや、猛反撃だ。
「ピギーッ!」
悲鳴と共に、キングスライムの肉体は再度液状化する。
だが、もうきあいのハチマキは存在しない。
しかしキングスライムは未だ死んではいなかった、レベルアップによって最大HPが上昇していたのだ。
彼は液状化した状態のまま再び動き出す。
そして、河の中へ飛び込んだ。
それは下賤の者に命を取らせない王としてのプライドか、あるいは、生き残るために体がはじき出した計算か。
どちらにせよ、ケルベロスは彼の命を奪うことはできなかった。
最も、河の流れがキングスライムを殺すかもしれないが。
【D-7/河/一日目/日中】
【キングスライム@ドラゴンクエスト】
[状態]:肉体損傷(大)魔力消費(中)
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(拡声器@現実)
[思考・状況]
基本:主催者を粛正する
1:モリーをたおすために下僕を集める
2:王様であるボクに無礼は許さない
[備考]
オス。キングに生まれたというだけで偉そうにしている。頭が悪い。一人称は「ボク」。
昔、彼は飼い犬だった。
ただの何の変哲もないシベリアンハスキーだった。
だが、ある日悪魔によって彼の飼い主が殺され、彼もまた重症をおった。
彼の命を救ったのもまた、悪魔の力だった。
邪教の館の主に実験台として拾われた彼は、悪魔と合体することで、魔獣ケルベロスの力を手に入れた。
それ以来彼は、「デビルバスター」──悪魔を破壊する者として、日夜悪魔と戦い続けている。
何年、何十年戦ったか、そんなこと彼は意に介さない。
彼が死ぬその日まで、彼は悪魔を殺し続けるのだ。
何故ならば、彼は自分を飼っていた飼い主家族のことが大好きだったのだから。
憎悪が彼の心を埋め尽くす。
だからこそ、
「ゆっくりと、眠れ」
ケルベロスはタブンネの為に地面に穴を掘り、その中に彼を埋めた。
タブンネもまた、ケルベロスにとっては破壊の対象であっただろう。
それでも、彼はタブンネがキングスライムを治療する様子を見てしまったのだ。
憎悪の炎を荒れ狂わせるほどに、彼は元々愛を持っていたのだ。
だから、裏切られた彼を野ざらしにしておくのは躊躇われた。
「満足だったか、これで?」
タブンネ……という声は、きっとケルベロスだけに聞こえたのだろう。
「悪魔殺すべし、慈悲はない」
言い聞かせるように、何度も呟く。
モリーなど関係ない、むしろ感謝するべきだろう。
この狩場に連れてきてもらったのだから。
「俺もお前も……ただの悪魔だ」
【D-7/橋付近/一日目/昼】
【魔獣 ケルベロス@女神転生シリーズ】
[状態]:健康 肉体損傷(小) 魔力消費(小)
[装備]:無し
[所持]:ふくろ(空)
[思考・状況]
基本:悪魔を殺して回る、慈悲はない。
[備考]
雄、一人称俺。
元はただのシベリアンハスキーだったが、飼い主一家が殺され、
その後、謎のアクマソウルと合体して、デビルバスターとなり、悪魔を殺して回るようになった。
最終更新:2017年08月31日 20:14