唸りぶつかり払い合う触手。血に餓えた獣の争いでもなく、恐怖に飲み込まれた暴走でもなく、両者は冷静に、平素の状態で命の奪い合いを行っていた。
「どなたか存じませぬが、きっと名のある王なのでしょう。こんな状況でお目にかかるのは無念でなりませぬが」
感情の籠もらぬ声で、白く濁った半透明な鞭が声を投げた相手が居た場所に振り落ちる。
「ワシも、久方ぶりに礼儀を弁えた魔物に会えて嬉しいぞ」
ぬめりと透けた陽光を受けててらてら光る緑色の触手。束ねて破壊力を増したそれが横凪ぎに迫る。
踏張る足も持たぬはずの魔物は、緑色の触手が体を打ち付けるすんでのところで跳躍し、また平然と佇んだ。
白と金で構成された、ゼリーのような体。胸の部分に黄金の命がゆらめく以外、僅かながら人型を取っているだけの不定形な魔物。
「惜しい、実に惜しいぞ……なあ、このワシ、モルボルキングの下に仕えぬか」
モルボルキングと名乗った魔物の声は、実に残念そうに彩られていた。
「然らばこの狼藉も水に流そう。貴様のようなワシを恐れずそれでいて畏れる勇士、是非とも我が臣として招き入れたい」
食虫植物の口から四方八方に触手が伸びた、恐ろしい風体の魔物は似付かわしくない威厳を持って白と金の魔物へ不遜に打診する。頭上に掲げられた王冠と口振りを見るに、彼は王らしい。
「私ごときにはもったいないお褒めの言葉を賜るとは……」
黄金の胸に手をあてこうべを垂れ、敬服を示す。
「しかし、王よ、モルボルキングよ、残念ながら私が契約する主人はただ一人ゆえ、やはり首を縦に振る訳には行きませぬ」
かぶりをふって拒絶を示す。仕草こそ、高貴なニンゲンのそれなのだが、モルボルキングと違い声には一貫して何の色も混ぜられてはいない。
「では、問答といこうではないか」
ふしゅるるる……毒の吐息を漏らして、モルボルキングは再び攻撃を始めた。魔物もまた、驚きもせず応戦する。
二本の触手が絡みあい、拮抗状態を生み出した。魔物の右腕にあたる部分と、モルボルキングの触手の一本。
「貴様の主人は、どのような者なのだ?」
ゲルの腕はおそらく二本、対するモルボルキングは腕は持たぬが無数の触手を操る。
「金に汚い女にございます。我らモンスターを道具と呼び、毎日金を稼ぐことに執心している者です」
空いた左の腕は、触手が捉えにかかるのをのらりくらりと躱し、ゲルに攻撃が届くことを防いでいる。
「なんと!そのような矮小な女が貴様の主人だと!?悪いことは言わぬ、ワシの下へくるがいい、貴様に相応しき待遇でもって迎え入れてやろう!」
つばぜり合いの様相で絡みあっていた触手がにわかに震える。
「確かにどうしようもないニンゲンです、だが、私を円盤石でこの世に呼び出し、死するそのときまで金を稼ぐ道具と契約をした者なのです」
ジリジリと迫る、立て板に水が流れるような淀みのない台詞。
「それまでは決して、不慮の事故では死なさぬと、固く誓った者なのです」
とうとう左腕も王の触手に拘束され、その半透明の体は虚空に固定される。
「では、その者に売られてしまったのであろう。こんな浅ましいニンゲンの催しに招かれているのが何よりの証拠だ」
顔のない顔が、モルボルキングをじっと見据えた。
「それは有り得ないことです」
ぬるり、真白の体が脱力し戒めを抜け出し、逆にモルボルキングの体を包み込まんと広がる。
「……あれは、あの女は『契約違反』を蛇蝎のごとく嫌っておりました。多分『契約違反』で今の矮小なニンゲンに身を落としたのでしょうね」
以前彼女は、魔物が修行地で負傷して帰ってきたとき、泣きながら、「道具のくせに、ここで勝手に死んだら契約違反だ!死ぬな!」と喚いて病院にまで付き添っていた。
そこに無味乾燥とした声しかなくとも、思い返した彼なりの苦笑が見えた。
「同情も、信頼もありませぬが、今の『契約違反』の状態、王はどう御覧になるでしょうか」
ドーム状に広がった粘度の高い液体のなかで、モルボルキングは考察する。
「分からぬな、ニンゲンのことなんぞ」
が、一瞬で思考放棄した。彼はさしてニンゲンを憎んではいなかった。だからと言って、興味もなかった。
ニンゲンなど、彼が一息ふるえば正体を失い勝手に自滅する馬鹿な生きものでしかなかったのだ。
――1人、例外はいたが。
「私は、あれが捕らえられたか、殺されたのではないかと、考えているのです」
心が見えない声で語られたそれこそが、彼を突き動かす理由であった。
「捕らえられていたならば、契約のために助けねばなりません」
それが契約だから。
「殺されていたならば、死体を確認して契約を終了させねばなりません」
契約は最後まで。
モルボルキングの触手が、体を内側から無数に貫くが、声は変わらない。
「我らを招いた男を問いたださねばすまない。さすれば私のすることは一つ、皆殺しにして生き残りあの男と面会する、これだけです」
「難儀というか……回りくどい男よの。あいわかった!貴様を臣に迎えるのは諦めよう!」
大きな声で宣言し、モルボルキングが触手を蠢かせドームを打ち破り、白い体が破片となって飛び散った。バラバラの体は、雨のように大地に降り注ぐ。
「下賎なニンゲンの忠臣よ、貴様の問いと使命、王を志すワシが直々に引き受けてやろうではないか」
一際遠くに落ちた黄金の命、心を見つめて、王はひとりごちる。
モルボルキングと名乗ったこの魔物は、実のところただのモルボルである。王というものに憧れ、目指していた最中にここに呼ばれた。
頭頂に乗った王冠も、偶々ふくろの中に入っていただけ。
モルボルはそれを見て、王と名乗る男が自身を手ずから討伐しにきた時のことを再度思い出し、この殺し合いの中でも変わらず王を目指そうと決意したのだ。
それを思うと、先刻の魔物を失ったのは惜しかった。初めて、召し抱えられる臣下になり得ただろう魔物。
惜しむべきその亡骸に背を向けて、せめて意志は継いでやろうと歩き出す。
「――いえ、それには及びませんよ」
「な!?」
無色透明の声に振り向けば、きらきらと、どこよりも輝いていたそれを覆い尽くして、四散していた白い破片が集っていた。
人型をしていないそれに呆気に取られた王に隙が生まれる。
「おさらばです、王よ!」
その形はガトリング、ニンゲンが使う武器の一つ。砲身は己、弾丸も己。
彼の、ゲル族の形は本来人型をなしていない。ただ人を真似ているだけ。
体内のコアさえ健在であれば、如何様にでも姿形を変えられるのだ。
「――ハァーイ!!オニーサン達ィ!戦イナンテヤメテワタシト一緒ニえくささいず致シマ、ショォー!!」
「「は?」」
今まさに静かな戦いに決着が!というその時、警戒な音楽とともに第三者が割り込んできた。
余りにも能天気で突拍子もなくて、両者とも戦いや使命を忘れて呆然としている。
「ハァーイ、わんつーわんつーー!!はむノわんつーニモ負ケズニィ!両手両足ヲパンパン!ハイッ!強ク!正シク!美シクゥ!!」
両手両足を持たぬモルボルの王を目指すものとガトリングは、言葉も出せずに音楽を掻き鳴らし歌って踊る奇妙なモンスターをぽかんと眺めていた。
【F-7/草原中央/一日目/昼】
【ゲル(ゲルキゾク)@モンスターファームシリーズ】
[状態]:唖然
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(不明支給品1)
[思考・状況]
基本:自身のブリーダーの安否確認のため全員を殺しモリーと面会する
1:エクササイズ……?
[備考]
オス。金にがめついブリーダーに『道具』として飼われていた。冷徹だが冷血ではない。種族はゲルキゾク(ゲル×ガリ)丁寧な口調で一人称は「私」
【モルボル@ファイナルファンタジー】
[状態]:呆然
[装備]:スライムのかんむり@ドラゴンクエスト
[所持]:ふくろ(中身無し)
[思考・状況]
基本:殺し合いの中でも王になることを目指す。忠臣がほしい。
1:どうなってるんだこいつは
[備考]
オス。ただのモルボルであったが自分を討伐しにきた王を名乗る男に憧れて王を目指している。王らしい尊大な喋り方を心がけていて一人称は「ワシ」
【モッチー(カロリーナ)@モンスターファームシリーズ】
[状態]:スーパーハイテンション
[装備]:ラジカセ@現実(エクササイズなCDが入っている)
[所持]:ふくろ(中身無し)
[思考・状況]
基本:いいからエクササイズだ!!
[備考]
メス。よくわからないがエクササイズに並々ならぬ情熱を抱いている。種族はカロリーナ(特典CDでのみ再生されるモンスター)で片言で喋る。一人称は「ワタシ」
《支給品説明》
【スライムのかんむり@ドラゴンクエスト】
モルボルに支給されたもの。キングスライムがかぶってるアレとおそろい。
【ラジカセ@現実】
エクササイズの番組なんかで出てくるあのラジカセ。アメリカっぽいテンションの音楽が流れる。
最終更新:2017年08月31日 20:14