交差して超える世界

世界は交差する。
人も魔物も交わって。
その先に見える道へ、歩き出す。

グレイシアは、この殺し合いでのスタート地点に戻ってきた。
メタモンとの出会い、ドラゴンとの戦い。
それらは僅か半日程度過去のことで。
流れ星が墜ちる、きららと。見上げた彼女はすうと息を吐いた。

「どうしよう、このキカイの地図が本当なら」
画面にピクシーの指が触れると、方眼紙のようなマス目が地面に広がった。
地形を読み込み正確な情報が表示される。

「相当入り組んでいますね……」
「ソーナンス……」
目的の場所は明滅している。
だからといって簡単にたどり着けるわけではない。

「虱潰し……と、いきますか?」
グレイシアの提案に勝る提案は残念ながら上がらなかった。
一歩一歩、確実に、彼女たちは洞窟を探索する。
来たばかりの時は気付かなかったが、この洞窟、なかなかどうして不自然だ。
岩肌や、洞窟の構造自体は自然のそれなのに、通る空気、地面に岩の感触は澱みも湿りもなく。
太陽が消え去った今でも、ほのかに明るい洞窟内。

そうして思い出すと、このただの島が……海の上の孤島だと認識していたものに対する違和感が彼女たちの会話にのぼる。
森も、川も、山も、見てきた範囲のそれらはどこか、生命を感じないのだ。
自然で、不自然。
矛盾した感想だが、余りに整然とした印象を与える島にそれ以外の文句は思いつかない。

「あれ、ここ三叉路なはずなのに……」
ピクシーがスマフォと前方を交互に見て眉根を寄せる。
本来三本に分かれていた洞窟の道は、先客ジャックフロストのトラフーリ(物理)により開拓されて四叉路に変わっていた。
勿論ピクシーたちにそれを知るよしもなく。

「……まあ、本来無い道なのでしょう、気にしないようにしましょう」
そこを調べるのは後でいい、グレイシアは断言する。
徒に道を外れて迷子になれば笑い話にもならない。

傾斜がある、まるで山を登っているかのような道筋。
山に向かう洞窟だ、内部から登れても、そう不思議はない。

歩んだその後は行き止まり、行き止まり、最後の道も行き止まり。
いや、どうやら少し様子が違う。
ピッタリと塗り固められたような岩は、天然自然を模しているが一目で異様と判断できた。

「位置としては……うわあ随分歩いたんだ、ここ山の真ん中だよ」
ピクシーは同じような道に狂っていた感覚を取り戻して驚きの声を上げた。
「当初の目的の場所とはズレた……と言うか、高低差の表示がわかりづらいですねこの機械」

スマフォは悪くない、悪いのはアプリである。
「扉、とこの壁を私は見ますが」
「そうだね、ご丁寧に割れ目がまーすっぐ入ってる」

この先には何かがある。
目的に確実性が高まり、気分が高揚した。
だがしかしどう開いたものか。

壊す、という手も無くはないが、あまり会場のものを不用意に壊すと殺処分される可能性がある。
意外と、彼女たちの知らないところでは滅茶苦茶に壊されているのだが、まあ、知るよしもなく。

「ソーナンス?」
ふと、ソーナンスが不思議なくぼみを発見する。
スマートフォンがちょうど収まりそうなくぼみ。
すとんと、収まってしまったスマフォ、次いで静かに左右に割れた扉。

「うわっ、あ……それ、そういう使い方もできたんだ」
元々関係者に支給されていただろう機械、本当の利用方法など数えきれないほどある。
取扱説明書がついていない辺り、事故や偶然で彼女らの支給品に紛れ込んでしまったのだろう。

スマートフォンの画面から離れると、そこには、荒れ果てた研究室があった。
見たことのない機械、見覚えのある機械。
何かを研究していた形跡。
古すぎず、しかし人の気配は随分前に失せてしまったような、そんな空間。

試験管と隣り合う装置に、ピクシーは近づく。
神秘的な雰囲気を持つ台座、そこにぴたりとはまる円盤石。
「モンスターの再生装置……?」

液体に満たされたガラスのゆりかご、散らばるモンスターボール。
配合、悪魔合体、再構築、合成。
交差した世界の技術が、機能を忘れて。

「ミュウ……ツー?それに、ムー?」
石版や書類に書かれた文字も、すべて無意味だと言わんばかりで。
「ねえ、これ」

スマートフォンをもっと大きくしたような機械、コンピューター。
今日日こんなに大きなコンピューターはあまり見ない、もっと言うとどこか古臭さすら感じるコンピューターだった。
パソコンを見慣れているグレイシアとソーナンスはそう感じたが、ピクシーはただただ目を丸くしている。

電源は、わずかだが残されていた。
ここが放棄されてそこまで時間が経っていない場所だと伺える。
それなのに何故ここまで警戒が薄いのか、怪訝そうにグレイシアは周囲への警戒を強めた。
しかし、その答えはすぐさま、目前の機械が教えてくれた。
それは先の、不自然な自然に対する解答でもあった。

クロスオーバーモンスター闘技場。
そう銘打たれた企画、祭典。
モリーが半日前に宣った開催の声に至るまでの交差した道のり。

旅の扉を経て、異世界の技術を取り入れ建てられた計画は会場作りから入念に構想されていた。
モンスターが万全を期して戦え、なおかつスケールは大きく、過ぎないイレギュラー要素を盛り込む。
会場たる孤島は最初、モンスターだけが暮らす未開の島であった。
その島からモンスターを追い出し、または捕獲し、あろうことか自然を、島を人のモノに作り変えた。

注視すれば気づく程度のいびつな自然。
その最初の標的にして拠点となったのが島の中心にあるこの山だった。
升目状にきっかり区切られた地図は、単に区分がわかりやすいようになっているだけではない。
実際そのように切り抜かれ、どうとでも動かすことができるのだ。
海洋人工島、ある世界の科学者はそう呼んでいた。
それに倣い、彼らは手中に収めた島に名を付ける。
『海洋人工島エデン』と。
かの科学者の世界の幻獣の名だそうだ。
人が、人たちだけで創りだした世界。

絶句する、そこまでして自分たちが集められたのかと。
こんな、こんなことのために世界は交わったのかと。

本来ここはモンスターの監視の拠点になる予定であったが、飛空艇の技術の発展により舞台が変転。
施設の大半を空へと移したために中途で放棄されていたのだ。
この催しが終われば本格的に廃棄する予定だったのだろう。

島以外にも人間の業は及ぶ。
人工ポケモンミュウツーの再現。
神話の存在であるムーの再生。
霊的侵略兵器の開発。


「ムーを……造ってたんだ」
ようよう出た言葉は、割れて欠けた何枚もの円盤石に墜ちる。
人間が伝説を追いかけて、実証しようとした成れの果て。
「ムー?」

「昔の……神話みたいなのに出てくるすっごい悪いモンスターだよ」
存在すら定かではない悪の龍。
「それが、もしも完成していたら大変なことになるのでは」
ミュウツーも、グレイシアが聞く限りでは驚異的存在だった。
それに並ぶようなモンスターを人間が従えているのか。

だが、ピクシーは首を縦にはふらない。
「多分だけど、失敗してると思う」

「ソーナンス?」

「こんな言い方すると、変だけどさ、人間に制御できるようなムーはムーじゃないんと思うんだ」
そもそも、と言葉は続く。
「人間が……一方的に、無理やり従えちゃうようなやり方じゃあアタシ達は強くなれない」
コンピューターは答えない。
機械は演算するのみ、心の指数は測れないのだ。

「だって、アタシ達は人間に命令されなくたって、人間より強い」
人間が思うより、モンスターはずっと恐ろしいのだ。
「人間と一緒に……なんていうのかな、心が交差した時、一緒になれた時に、初めてもっと強くなれる」
ムーは人間とは決して交わらず、人間を配下に置いて世界を滅ぼしたモンスター。
絶対に隷属はしないし、したとすればそれは人間に扱える程度に劣化したレプリカだ。
強大な悪を御しきれるほど、一つの種族は完璧じゃない。

共に手をつなぎ、交わり、初めて大きな力を扱えるようになる。
ブリーダーとモンスターの関係がまさしくこれなのだ。
「少し……分かるような気がします」

グレイシアはミュウの石版を見据え、ゆっくりとまばたきする。
自由を捉えて思うがままにした結果。
生まれでたものは、全てを否定し人間の手元から離れた。

「ソーナンス……」
人との繋がりを無くした寂しさ、信じたいと願う力、確かにそれは他者があるから生まれるものだ。
「旅の扉をもっと機械的にした……ターミナルってのでアタシ達はここに連れて来られたんだね」

山の中の明確な図解。
どうやら、この丁度真下にその装置はあるようだ。
「エレベーターのようなものもあるようですし、このまま」

グレイシアの言葉は、鳴り響いたアラーム音に奪われた。
まさか、モリーたちに見つかってしまったのだろうか。
歯噛みするも、体に以上は出ない、では、何が?

起動されたコンピューターが警戒をけたたましく叫ぶ。
画面に映るのは……光だ。夜の月で太陽で死で。
その光がこちらに向かってきている。


「――まもるッ!!」

グレイシアは咄嗟に鉄壁の防御を張る。
本来自分を覆う程度の防壁を、無理矢理に三体分に広げて。
十字の死は、その防壁にめり込み、吹き飛ばそうとする。
まるで意図していない攻撃に、彼女たちは消されかねない。

逃げよう、そう叫んだのはピクシーだったか。
だが、ダメだとグレイシアは脚を踏ん張る。
よしんば直撃を避けたとして、この下にあるものがどうなるのか。

自分たちが帰る希望であるターミナルが、木っ端微塵に消失してしまう。
だからといってピクシーとソーナンスを巻き込んでいいのか、そんなわけはない。
逃げて、刹那とも永遠とも思える遣り取り。
存外、今生の別れとはきらめく流れ星程度のものなのだな、グレイシアは薄く微笑む。
瞼の裏に、同じように自分を助けた主人の笑顔が浮かんだ。

――流れ星は、燃え尽きること無く、輝いた。
幾重にも幾重にも交差する。
出会い、別れ、共に過ごし、編みこまれる。
それはクロスオーバー。
重ねて超える、世界の限界。

砕けそうなまもりに別のまもりが差し込まれた。
格子状の光は、強く強く、死を退けんと瞬く。

「逃げろと、言ったでしょう!!」

「無茶言わないでよ、逃げられるわけ無いじゃん!!」

正論か、強がりか。

「そう……だよ」
初めて聞く声に、窮地だというのに時間は遅く感じられた。
「ぼくだって……同意したり……尋ねたりするだけじゃなく……ちゃんとぼくの意思で……!!」
「ソーナンス、あんた普通に喋れたの!?」
「今はそんなことを言ってる場合じゃないでしょう!?」

3つの力は融合する。
個々の存在として、互いを助けるために。
十字に対して三体で創りだした、それより多い守りの網。

「もうやぶれかぶれよ……ええっと、パルプンテ!!!」



世界を視認できたのは、そこまでであった。








気づいた時、彼女たちは誰も居ないターミナルの前に倒れていた。
健在である機械に、グレイシアは喜び、すぐに二体を気にかけ周囲を見回す。
すべてが終わった、地獄が旅立った大地。
その場所に立つものがいるとすればそれは生者、これからを歩むもの。

「……まもれた、みたいですね」
焼け野原のような惨状は、いつかグレイシアが逃げ出した結果のようで。
「いたた……生きてる……」
ピクシーも、なぜか嬉しそうに痛みを享受していた。
あちこち傷んで疲れたけれど、生きている。
そうして実感する、前を向いて死にたくないと言える自分を。
生きて、生きてまた彼に会いたいと願う自分を。

「あれ、ソーナンスは?」
声も姿もない三体目。
もしや、と背筋に薄ら寒いものが駆けていく。

「ソーナンス!」
「ソーナンス?」
「そ、ソーナンス!って言ったほうが……いい?」

虚空から声がする。
まさか霊的存在になってしまったのか。
いやそんなわけがあるか。

すう、と魔法が切れたように、実際魔法が切れたのだが、ソーナンスは姿を表した。
パルプンテが起こした奇跡。
それはレムオルの呪文であった。
彼女らは透明の存在となり、まもるでやわらげた光に直撃することもなく、ターミナルを守り通せたのだ。
故にこの場所から旅だったものは透明な生に気づくことはなかった。

「よかったぁ……アタシ達、やったんだね」
これで、帰る道が見えた。
そう安堵した瞬間。
真夜の、天空から、聞きたくない声が響いた。


「ボーイ達……まずは、ご苦労と言っておこう」



此れより天地は逆しまとなる。
それは魔物の攻勢か、人間の攻勢か。
図面が見せた裏側と、消え失せる帰り道。
全てが交わるときは、近い。

【D-5/ターミナル跡/二日目/深夜】



【グレイシア@ポケットモンスターシリーズ】
[状態]:ダメージ(中)疲労(大)
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(空っぽ)
[思考・状況]
基本:誇りに懸けて、必ず主催者を倒す
 1:アリスから離れる
 2:メタモン……


【ピクシー@モンスターファーム】
[状態]:疲労(大)
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(空っぽ)
[思考・状況]
基本:生きて帰りたい
 1:皆と一緒に行動する
 2:メタモンが気がかり

【ソーナンス@ポケットモンスター】
[状態]:疲労(大)
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(空っぽ) 、スマートフォン@真・女神転生4
[思考・状況]
基本:ソーナンス!
 1:ピクシーのそばにいてあげたい。
 2:ソーナンス……ばっかじゃダメだよね

※この島の仕組、ターミナルの存在を確認しました。

No.85:レナモンの唄 ~Memories Off~ 時系列順 No.81:闘技場完成
No.74:黄昏の影を踏む グレイシア No.87:ハルモニア
No.74:黄昏の影を踏む ピクシー No.87:ハルモニア
No.74:黄昏の影を踏む ソーナンス No.87:ハルモニア

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最終更新:2017年08月31日 21:16