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「来たんだね」
私の周囲にたむろしていたカースたちが次々と核だけになり落下してカチン、カチンと音を鳴らす。
「大量のカースが現れた地点を探せば見つかると思ってた…」
「待ってたよ、ウサミン星人」
空を見上げるとそこにはホログラム投影された一人の少女。
『――――――……♪』
「初めまして、『歌姫』、カースを浄化するあなたも凄く興味深いけど――」
「―今はあなたの後ろにあるやつのほうが興味あるかな?」
「うん、テクノロジストの血が騒ぐよ」
リンはホログラムの背景のように空に浮かぶ宇宙船を見て呟いた。
「き、君はいつの間に私の宇宙船に入り込んだんだ…?」
私の前には一人のウサミン星人。心なしか怒っているように見える。
「うわっ、思ったより重いねこれ」
しかしながら私はそれどころではない。目の前には歌姫が着ていた不思議な服、というよりもスーツと言ったほうがいいのだろうか。
「ねぇ、これなんて言う名前なの?」
「……ニューロ・インターフェース・スーツだ…」
「凄い凄い、うわっ、スカートの中結構メカメカしいんだね」
直接足を傷つけないように工夫された電子部品を見て楽しくなってくる。
やっぱりこうじゃなくちゃね。
アンダーワールドじゃこうは行かない。あそこでは遊び心も工夫も足りない。
「まぁ、ただのアイドル衣装ではないからな」
「……そうではない、君は一体いつの間に宇宙船に…」
ハッとして我を取り戻すウサミン星人。
「『歌姫』だってこの宇宙船に住んでる訳じゃない気がしたからね」
「だから彼女を降ろす時にテレポーターに彼女に気づかれないように後ろから飛び込んだだけだよ?」
「…無茶苦茶な…!テレポーターの存在に気づいていたのか?」
「『歌姫』にはウサミミがないからかな?なら帰るところくらいあると思って探らせてもらったよ」
「…ははっ、それはそうだな」
「だよね」
私は困惑していたウサミン星人の顔が綻んだのを見て安心する。
「君は一体なんなんだ?」
「特に何をする訳でもないのになぜ私の宇宙船に…?」
ウサミン星人は心底不思議そうな顔で私に尋ねる。
「私は…うん、ただの通りすがりのテクノロジストだよ?」
「…テクノロジストとは何だ?」
「もっとも、私が何年も前に捨てた故郷での…だけどね」
「…そうか」
「私が興味あるのは『歌姫』と宇宙船、危害を加える力も意味もないよ」
「そのようだな、本当に君には『歌姫』とは違って特になんの力もないようだな」
ウサミン星人には能力の有無を調べる手段でもあるのかと驚嘆する。
「…手厳しいね、私だって持てるなら欲しいけどね?」
「私も『歌姫』の肩代わりが出来るならいつでもしてやるさ」
「…そんな渋い声で歌われて浄化されたらカースもなんとも言えない気分だろうね」
「……違いないな」
私はなぜか演歌を熱唱する目の前のウサミミを想像する。
「…ないね」
「そんなにないか…」
ウサミン星人のウサミミが垂れ下がる。
その姿を見て自然と笑いがこみ上げる。
「一回目はウケるけど三回目から飽きられるタイプかな?」
「そ、そうか…」
「まぁ、とにかく私が見たいのはこの宇宙船だって分かってくれたかな?」
「ははっ、…珍妙な友人が出来たものだ…軽く案内くらいは構わないかもしれないな」
「…へぇ?」
…友人か…思ったよりフレンドリーなウサミン星人だ……。
「着いて来るといい、今から私が喋ることは一人言だ」
そう言って歩き出すウサミン星人。
「そういう事情なの?」
「なに、技術の漏洩をあまり堂々とすると上から睨みが来るからな」
「宇宙人も面倒なんだね?」
「君たちほどじゃないさ」
「私はそういうの捨てたから…」
「いつまで経ってもしがらみというのは追いかけてくるものさ」
「へぇ、大人なんだね?」
「はは、これでも様々なものに揉まれてきたからな」
「様々なものって?」
「私たちの故郷にも色々あると言うことさ」
「…聞かないでおいてあげるよ」
「それはありがたいな」
「しかしなぜ君は、歌姫が居ない時に来たんだ?」
「その口ぶりだと大分私たちのことは分かっているのではないのか?」
「…彼女が居る時にいきなり私が来たらあなたはどうする?」
「歌姫を守るために……」
そこまで言いかけてウサミン星人は得心する。
「君を攻撃しただろう…でしょ?」
「…その通りだ」
苦笑いを浮かべるウサミン星人。
「それとね、私はリン、君なんて名前じゃないんだ?」
「そうか、リン、最初は君を変な闖入者程度にしか思っていなかったが思った以上に頭が回るようだ」
「…あはは、本当に失礼だね」
…変な闖入者自体は修正する気ないんだね。
その時だった。
銀色の軌跡が光の線を放ちながら迫ってきたのは。
「危ない!」
私はウサミン星人を思い切り突き飛ばす。
「ぐっ!」
バランスを崩して倒れたウサミン星人の首のあった場所を銀色の閃光が通り過ぎる。
「外してしまったか」
「まぁいい、ウサミン星人は殺してしまっても構わないと聞いているしテレポーターを無理やり動かすよりは簡単な仕事だろう?」
私の前にはナイフをだらりとぶら下げるように持つ女。
でもそれよりもその女が首から下げている物……。
「特殊偏光グラス!?」
なぜアンダーワールド人がウサミン星人を狙う!?
「なんで地上侵略を狙うアンダーワールド人がウサミン星人を…?」
「おや、君は私たちについて詳しいようだね?」
「詳しいも何も…!」
私はアンダーワールド人だと口走りそうになる口を閉じる。そうか、私はまだ偏向コンタクトレンズのお陰でアンダーワールド人だとバレてない…!
私はウサミン星人を庇うように立つ。
「私の目的はウサミン星人、邪魔さえしなければ君を殺しはしないさ」
「リン、退くんだ!ヤツの狙いは私だ!」
後ろでウサミン星人がなにか叫んでいるが無視する。
「…アウトレイジが言う不殺ほど信じられないものもないよ?」
「はははははっ!」
女は楽しくてたまらないといった風に笑う。
「いやぁ、君は本当に何者なんだい!特殊偏向グラスだけじゃなくて私たちの身分制度ことまで知っているなんて!」
どうせこんなこと任されるのはアウトレイジとあたりをつけただけだが当たったみたいだ。
「……」
私は沈黙を貫く。
「…喋らないのかい?なら……」
「君も死んでしまうね?」
瞬く間に女の手が閃きナイフが私に向けられれる。
でも、充分だ、私がポケットに手を入れる時間さえあれば。
『炎よ!』
その瞬間女と私を隔てるように炎の壁が生まれる。
「くっ!」
女は燃え盛る激しい炎を目視して目を痛めたのか慌てて首から下げていた特殊偏光グラスを掛ける。
「アンダーワールド人は目が弱いんだから光には注意しないとねっ!」
「リン、逃げるぞ!」
私の手を引くウサミン星人。
「うんっ!」
私は魔力を使いきって光を失った魔法のビー玉を投げ捨てて走りだす。
私たちはバタバタと盛大に足音を鳴らしながら走る。
「リン!これからどうする気だ!」
「地上に出れるレベルの資金とか援助があるようなアウトレイジなんて聞いたこと無いよ!」
「アウトレイジとはそもそもなんなんだ!」
「…無法者!アンダーワールドの暗部!」
「…ア、アンダーワールドだとっ!?」
説明している時間はない……!
「ふぅ、君たちには驚かされるな…」
ありえない跳躍力で後ろから床を跳ねるように迫ってくる女
「『コンバットモジュール』…!?取り付けるの高いのに…!」
「ウサミミ!私のショルダーバッグに小型化したプラズマバスターがあるからっ!」
「ウ、ウサミミだと!?」
心外なあだ名を付けられて不服そうなウサミン星人をスルーする。
「大体なぜそんなものを持って……!」
困惑するウサミン星人、改めウサミミに残り少ないビー玉の入った巾着だけを取り出してバックをウサミミに放り投げる。
「後で頼んでビー玉の追加分貰いに行かなくちゃかな!」
何か手土産でも持って…なににしよう…?
『水よ!』
水流が女目掛けて飛んでいく。
「…遅いっ!」
ふわりと水流を避けながら壁を蹴って女はこちらに飛んでくる。
「これでいいのかっ!」
ウサミン星人がプラズマバスターを女に向け放つ。
「…ふっ!」
今度は床を蹴りプラズマバスターを避ける、女はそのまま天井にナイフを突き立てぶら下がった後に華麗に着地する。
「…君は本当になんなんだ?」
女は心底不思議そうな顔で訪ねてくる。
「なんだろうね?」
「…友人って言ってくれた人を放っとくのも気分が悪いからね、それに……」
まだ宇宙船の中、見せて貰ってないしね?
「…どちらにせよ能力者がウサミン星人を守っているなどと聞いた覚えはない」
…能力者?何のこと……?
「炎を生み出し、水を操る…どちらにせちよクライアントからの情報にはないイレギュラーのようだね」
あぁ……そうか……。
――この女はビー玉の力を能力と勘違いしてるんだ。
……なら…。
「…緊急のサインは出したよ、もうじきここに沢山の仲間がここに転送されてくるだろうね?」
今だけは嘘吐きになろう。
「……どちらにせよ今回は退かせて貰うよ、クライアントに報告しなくてはいけないからね?だが……」
「次はないよ?」
そう言って女は微笑み立ち去っていった。
「な、なんとかなったね、ウサミミ…」
私は床にへたりこむ。
「リ、リン!私はウサミミ呼び決定なのか…?」
だってウサミミだし…。
「それよりウサミミ、あの女が帰ってくるまでに『歌姫』を保護しなきゃ!」
いつあの女が帰ってくるかも知れない。
「あぁ…そしてその後は…」
……その後…?
「宇宙船の掃除だな……」
魔法で生み出した水流により水浸しになった船内を見てウサミミはぼやいていた。
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