wikiの編集方法についてはこちら
左メニューの編集方法についてはこちら
あるアパートの一室に、トントントンと規則正しい音が響く。
窓から外を見れば今日も今日とて晴れ。
そして美味しそうな香りが漂っている。
周りを見れば、見慣れた机とその上に置かれた蒼白色の仮面が見えた。
「……うにゃー………みくにちかよる…にゃあ……zzZ」
寝ていたロフトから下を覗けば、タオルケットに丸まって寝ているネコ少女とラフな格好にエプロン姿で料理を作っている銀髪の女性、二人の同居人の姿が見えた。
「………むふふ♪」
それを見て、新婚みたいだなぁと妄想に浸る。
「…むふ……おはようございます、王子様♪」
そして、いつものように誰にともなく声を投げかける。
ーーー前川みく、のあ、喜多日菜子の3人の、一週間目の朝であった。
「おはようございますぅ」
「…おはよう、日菜子」
ロフトから降りて、こじんまりしたキッチンに向かっているのあに話しかけると、少しだけ振り返った後に返事が返ってきた。
「今日は何を作ってるんですかぁ?」
「玉ねぎの味噌汁、ベーコンエッグ、ソーセージ、レタスサラダ、ご飯よ」
ウィンナーの焼き加減を調節しつつのあが答える。
この一週間の間に、共同生活するうえでの3人の役割は決まっていた。
まず、のあは主に料理・買い出し担当になった。
記憶喪失ではあるものの、なぜか知識は豊富にありどんな料理でも完璧に作ってみせた。
次に日菜子は掃除と金銭管理担当。
元々一人暮らしをしていて、且つ家主でもある日菜子は更に金銭面においても無一文である他の二人を助けていたりする。
そして、最後の一人というと…。
「みく、そろそろ起きたほうがいいわよ」
「にゃああ……あと半日……」
「みくさん、そろそろ起きないと間に合いませんよぉ?朝ごはん抜きになっちゃうかもしれないですねぇ♪」
「よし起きたにゃ今起きたにゃ。やっぱり朝は早起きするに限るにゃあ」
「一番最後ですけどねぇ……そういえば、もう慣れたんですか?」
「バッチリだにゃ!このみくにかかればなんてことないにゃ!……ただまだ少し恥ずかしいけどにゃあ」
「むふふ………でも、すごくにあってましたよぉ?」
「メイドカフェの制服……むふふ♪」
「最初勧められたときはコイツ何言ってんだにゃとか思ったけどにゃあ」
―――前川みく、資金調達担当であった。
「…できたわ」
「おお!今日もおいしそうだにゃ!早速たべるにゃ!」
二人が会話している間にのあが全て作り終えて、テーブルに人数分並べ終えていた。
―――今日も、一日が始まる。
―――朝ごはんから数時間後。
「それじゃあ、行ってくるわ」
「はぁい♪」
朝ごはんからすぐ、みくはバイトに向かい、のあもたった今買い出しに出かけたことで部屋には日菜子一人となる。
既に習慣となりつつ朝の洗濯は済ませ、日菜子は自分のプライベートスペースであるロフトに座り込む。
机には仮面の他に小さく奇妙な多面体のオブジェ、そして一冊の古びた本が置かれていたが、眺めるだけで日菜子はただ窓から入り込む日差しの心地よさに身をゆだねていた。
―――ピーンポーン…
「……むふ…ふ……♪……んぅ?」
しばらく夢心地とまどろみの中で妄想にふけっていた彼女だが、不意に鳴ったチャイムの音で現実に引き戻される。
「ふあぁ……はーい」
寝ぼけ眼をさすり、するするとロフトから降りて玄関にむかう。
「どちら様ですかぁ?」
ガチャりと、開く。
「ふふ、遊びにきちゃったよ、日菜子ちゃん!」
「…またですかぁ?愛梨さん……むふふ♪」
隠しきれない豊満な体型と、人懐っこそうな笑顔を浮かべ、季節外れの黄色いロングコートを身にまとった日菜子の知り合いである十時愛梨が、そこにいた。
「ところで脱いでいいですか?やっぱりこれ暑いです…」
「とりあえず入ってからにしてくださいねぇ」
立ち話もそこそこに、愛梨を招き入れる。
「…あれ?今日はのあさんもみくちゃんも居ないの?」
「みくさんはバイト、のあさんは買い物にいってますねぇ」
「なーんだ、ちょっと残念…ふぅ、暑かったぁ」
「えーと…お茶でも飲みます?」
「あ、じゃあ頂いちゃおうかな」
着ていたコートを早速脱いだ愛梨に、冷蔵庫のなかから冷えた麦茶と二つのコップを持って行く。
「ん…ふぅ……最近また暑くなってきたよね」
「もうそろそろ夏になりますからねぇ…そういえば、今日はどうしてきたんですかぁ?」
「うーんとね、お買い物してたらすっごく綺麗な黒猫見かけてね、なんにもすること無かったから追いかけてみたら近くまできたんだ」
「黒猫ですかぁ…そういえば、最近よく見かけますねぇ」
そのまま、何気ない会話に興じることになった。
「そういえばさ、日菜子ちゃん最近ちゃんと学校に行ってる?」
「むふふ……一ヶ月前から病欠扱いですよぉ?」
「ダメだよ!もう…」
「大丈夫ですよぉ……そこのあたりは、しっかり整合性をとってますからぁ」
「そういう問題じゃないんだけどなぁ」
嘆息、それがどこか、姉というものがいればこんな感じなのかなと日菜子に思わせた。
「むふ……でも、確かにそろそろ顔を見たい方が居るのも事実ですから、明後日くらいからはまた行きますねぇ」
「そうしなよ?…あ、そうそう!私この間ネバーディスペア見かけたんだよ!」
「むふふ、噂の最強部隊をですかぁ?」
「うん、こう……すごかったんだよ!ドドドドドゴゴゴゴゴって感じで!
「それじゃあよくわからないですよぉ?…そういえば、日菜子もつい2?3日前にアイドルヒーロー同盟の方が戦っているのをみましたよ♪」
「ええー!…いいなぁ……どんな人だったの?」
「えーっと…たしか、ナチュラル・ラヴァーズでしたからぁ…」
「相葉夕美ちゃんだね。おんなじくらいの歳だし、何回か一緒に仕事したこともあるんだ♪」
楽しそうに、懐かしむように、だけど少しさみしそうに、そう言った。
「……愛梨さん、やっぱり、後悔してたりしますかぁ?」
「……ううん。確かに、もしかしたら私も一緒にいた未来もあったんだろうけど…後悔はしてないよ!…それに、トップアイドルなんて、私にはちょっと似合わないよ」
「そんなことはないですよ。愛梨さんは間違いなく輝いてましたからぁ♪」
「……ありがとう、日菜子ちゃん」
「いえいえ?♪」
「………『七つの大罪』が本格的に動き始めたよ」
「ですねぇ…『異星人』も更に動き始めましたし、『妖精』もどうやら探し物をしているみたいですよ?」
「『アンダーワールド』はまだ本格的には動かないって話だし『神様』達は干渉する気はあまりないみたい」
「『自然』は…ちょっとよくわかりませんねぇ。後はまだ様子見と言ったところでしょうかぁ」
「……となると、やっぱり最初に来るのは…」
「『フェス』ですねぇ……気づいている人は少いみたいですけど、力をもったカースが二体もいますからぁ……時間はないと思うますよ?」
「……大丈夫、かな?」
「思ってたよりも、皆さんお強いですからきっと大丈夫ですよ♪……それに、私たちも動きますから、ね」
「……うん、そうだね!…そろそろ、帰ろうかなあ」
思っていたよりも、過ぎていた時間を確認して愛梨は立ち上がると、再びコートを羽織り、二人でまた玄関へ。
「むふふ…愛梨さん、ありがとうございました♪」
「ううん、日菜子ちゃんこそ」
「あ、そうそうそうですぅ」
「ん、なあに?」
「……『黄衣の王』さんにもよろしく伝えてくださいねぇ♪」
ちらりと、コートを見やりながら日菜子はそのワードを口にした。
「うん!日菜子ちゃんの王子様にもね!」
「はい♪……むふふ」
「それじゃ、またね」
一瞬だけ、強い風の奔流に晒され思わず目を閉じ。
再び開けた時には、日菜子の目の前から愛梨は消えていた。
「……さぁ、お掃除しておきましょうかぁ」
今日も、世界はいつも通り進んでいた。
続く?
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。