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世界格闘大会最終日、ラ・ピュセル&トラロック&ベル、大会に星を咲かす


中庭に設えられた特設のバトルフィールドが、病院というこの場所を考えるとひときわ異彩を放っている。
魔人格闘家が動きやすいよう充分なスペースをとった空間を中心に、円形に簡易の観客席が並び、マスコミ席もある。
退屈な入院生活に飽きた患者達が賑やかな客席の中にちらほらと混ざり、黒い群衆に白い患者服が点々と斑を作る。

これまでとは少し変わった客層の間を、賑わいの中心に向かってラ・ピュセルと雨衣は歩いていた。
ざわざわ、がやがやとした喧騒を右に避け、左に躱し、ほどなく二人は客席の最前列に辿り着いた。
雨衣はここで足を止める。ラ・ピュセルは軽く頷き、そのまま群衆の視線の中心へと進む。

世界格闘大会8日目。大会最終日。最後の大一番である。
雨衣は、戦場に向かうラ・ピュセルの背中を見送り、どうか格好良く勝てますようにと祈った。
頭の中での祈りを終え、さて席に座ろうと空席を探す雨衣に声がかかったのは、その時であった。

「雨衣さーん! こっち空いてます!」

聞きなれない少年の声。しかし確かに自分の名前を呼んだ。雨衣は首を巡らし、声の主を探した。
客席の最前列に、こちらに向かって手を振る少年がいた。年頃は小学校高学年か、せいぜい中学1年生といったところか。
改めて見ても見覚えのない相手ではあったが、雨衣はひとまず呼ばれるままに少年の元へ向かい、隣の空席に座った。

「この前はごめんなさい」

どなたでしたっけ、と聞こうとした雨衣の言葉に先んじて、少年が謝罪した。
はてな、と首をかしげる雨衣に、ああそうでした分かりませんよねと少年が頷く。

「僕が『ヘタレの方のラ・ピュセル』です」

照れくさそうにそう言った少年を見て、

「ああーーー!!」

雨衣は、得心がいったと大声をあげた。





「私の本当の名前は――」
「ベルよ。よろしくね、雨衣」

大会初日の夜。既に日の暮れた夜空が窓から臨める病室。
アニメや自身が手がける衣装の話で盛り上がっていた雨衣が、最後にラ・ピュセルに対して本当の名前を聞いた時。
囁くように、名前を名乗ろうとしたラ・ピュセルの背後から、突如としてもう一つの名乗りがあがった。

「あっ」
「えっ」

ラ・ピュセルと雨衣が同時に声をあげた。
ラ・ピュセルはまずい、といった面持ちで、雨衣は信じられない、といった面持ちである。
そこにいたのは、もう一人のラ・ピュセルであった。ラ・ピュセルの背後にラ・ピュセル。雨衣は混乱した。

「こんなところにいたのね」
「ご、ごめんなさい」
「覚悟を決めた相手には、相応の敬意と、覚悟を持って相対するべき――なんて、もう言われてしまったわね」
「はい……」

同じ顔が、同じ服装の相手に説教を始めた。
先ほど声をあげた時のまま、あんぐりと口を開けていた雨衣に、後から来た方のラ・ピュセルが頭を下げた。

「驚かせてしまってごめんなさい」

後から来た方――――頼りになりそうな方のラ・ピュセルが、それから現在の状況を語ってくれた。
ラ・ピュセルは姿を継承して、受け継いでいく『名前』である事。
自分がアニメのモデルになったラ・ピュセルで、もう一人は修行中の弟子であり次のラ・ピュセルである事。

「この変身装置を使って、ラ・ピュセルの記憶も少しは伝えてあったのだけれど……まだ未熟でね」
「あーそっかー! 道理でこのラピちんちょっとヘタレだなーとか思ってたんだー」
「あう……」

明日、改めて挨拶に来ると言って、ヘタレのラ・ピュセルを連れたラ・ピュセルが病室を出る際。

「あ! ショックで忘れてたけどいっこいいかな!」
「なんでしょう」

雨衣はグッとサムズアップして、ウィンクした。

「ベルって名前、すっごく似合ってるよ! 鈴みたいな声してるもんね!」



「それじゃ君が噂のファンの少年君だったんだー。だからラピちんってば私はすぐ会えるなんて言ってたんだね」
「僕の名前は岸颯太って言います」
「おーおー颯ちゃんかー。私の知り合いに同じ『そうちゃん』っているけど、君もなかなかイケメンじゃん」

一週間前からを振り返り、雨衣がそういえばと手を打った。

「そうだよ! それじゃお友達の女の子は大丈夫なの?」
「あ……えっと……」

颯太が上体を引くと、颯太を挟んで雨衣と反対側の席に座っていた女の子がこちらに首を伸ばし、会釈した。

「妃芽小雪って言います。あの、ラ・ピュセルといつも一緒にいる人ですよね!」
「おお! あなたが小雪ちゃん! あれ? って事は」
「手術が成功して、今は少しなら出歩けるくらいになりました!」
「わあお! おめでとー! えっ、ラピちんももう知ってるの!?」
「はい。僕がすぐに知らせたんで」

ざわざわとした観客の喧騒が、いっそう強く音色を高めた。
雨衣達が客席で話をしている間に、ラ・ピュセルの対戦相手が試合場に姿を表したのだ。

「ラ・ピュセルー! 頑張ってー!」

小雪の声援に、ラ・ピュセルが振り返る。
颯太と小雪の顔を見比べ、颯太に向かって声を返す。

「颯太! 困難は乗り越えられましたか!」

夏の風に、鈴の音が乗る。
ラ・ピュセルの問いに、颯太は頬を染めて照れながら、小雪の方を窺った。
小雪はそれに気付くと、にっこりと笑って颯太の紅い頬に唇を当てた。

「ひゅー!」

雨衣が歓声をあげ、

「宜しい! これからは貴方がラ・ピュセルです!」

ラ・ピュセルが祝福の言葉を投げかけた。





「なんだか賑やかでいいですねー」
「一部ではそれなりに有名人ですので」
「私も衛星……ゴホン、お友達が応援してくれてますけど、嬉しいですよねー」
「そうですね。励みになります」

観客席から、観る者と闘う者とに隔てられた闘技場の中心。
かつてラ・ピュセルと名乗っていた女騎士と、ほのぼのとした雰囲気を発散する大会最重量級選手、天王星ちゃん。
二人は大会最後を締めくくる闘いとして、互いに申し合い、この場に集った。

「それでは、大会の最後を飾るに相応しい煌めきを」
「よろしくおねがいしまーす!」

二人が向き合い、闘いの幕が開く。
その瞬間。
二人の選手を応援する観客達の大声援が、渦となって立ち昇る。

「せーの」
「「「ベルっちガンバ!!!」」」

割れんばかりの大声援の中。
それでも、ベルの耳には、応援してくれる友人達の声がしっかりと届いていた。





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