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黒幕会議


光量の抑えられた灯りが、絨毯の敷かれた床と、壁に掛けられたフラワーアレンジメントをしっとりと照らす。
いかにも高級なホテルといった趣きの廊下。落ち着いた雰囲気の漂うその一角に、革張りの重厚な扉が一つ。
全ての物音を閉ざすその扉の内側で、今日この日、密やかに物語の黒幕達が会議を進めていた。





「では始めようか」

ガラス製テーブルを挟んでゆったりとした革張りソファーが二つ。
机の上には沢山のクッキーが入ったボウルが中央に置かれ、会議参加者それぞれのカップがそこここに置かれている。
毛足の長い絨毯に足先を沈め、テーブルの脇に立つその人物が、ソファに座る参加者達を見回して会議開始を宣言した。

議長、ぶかぶかのパーカーに鉢巻き姿。いかにも業界人のいでたち、三越シュウ。
右のソファにはこの部屋の主であるラ・ピュセル。そして衣紗早雨衣。
左のソファには無垢なる導き手、クェル・クス。その弟子、バジル。そして鏑木諒子。

これは物語を作る黒幕達の会議。
密やかに行われた舞台裏の饗宴。
世界格闘大会には直接まったく関係ない、そんな出来事。

「OVA版『ラ・ピュセル』の企画会議だ」





――やっぱズガガーっとエフェクトとかつけて派手にやっちゃうんだよね!
――アニメ用に脚色はするさ。敵もそれらしく悪の組織でも用意しようかな。
――ちょっと待った! ところでアンタ誰なのさ? 大会では見ない顔だけど。
――私のアニメの制作をしてくれた方ですよ。今回の大会に私を参加させてくれたのもこの方の手配でした。
――ふーん、ま、いいか。
――クェルは何を すればいい?
――私はお師匠さまと一緒に出して頂ければ。
――シリーズのラスボスとか、構成はどんな感じになるの? 私はいい役あるかな?
――確かに巨悪役を選手の方にするのも申し訳ないでしょうか。
――ねえ、私の店の宣伝って出来るの? そんな話聞いてきたんだけど。
――タイアップは以前のアニメでもやっていましたから。今回も実在のお店を出しても問題ない……ですよね?
――クッキーひとつ いただきます。
――そーだ! ラピちんどうせなら敵組織の内輪もめとかでさ、三つ巴戦とかやったら盛り上がるんじゃないかな!
――ラスボスの話ですか?
――敵は強大だった! だが、所詮は悪の組織、結束が脆い! ラ・ピュセルがそこに辿り着いた時、敵は内戦中だった!
――なんともこれは 美味しいな。
――お師匠さま、気に入られたのならこのクッキーは私も持っていますから後でおすそ分け致しますね。
――私は派手に殴りあう感じでやらせてもらえりゃなんだっていいよ!
――大会でもそれっぽいイベントを演出しましょうか。
――ん? ラピちんの頷いたのってどの案の話ー?
――ちょっと話にまとまりが無さ過ぎますね……。

パン、パン――と手を打ち鳴らす乾いた音が部屋に響き、会議をしていた面々が一斉に顔をそちらへ向けた。
難しい顔をした三越が、仁王立ちした状態で見返していた。
流石に話が混沌とし過ぎていたか。そう考えるラ・ピュセルと、他の面々に、三越は言い放った。

――よし、敵組織の名前は涼春機関にしようか。

ああ、これはこのまま勢いで全てが決定されるな。ラ・ピュセルがそう確信した瞬間であった。





世界格闘大会が終わった後日、そっと世間に発売されたOVA版『魔法騎士 ラ・ピュセル』全8話。
そこそこ売れたその作品の売上は、友情出演となった各大会選手達へと少しだけ分配される事となった。
その祝勝会の席。奮発して良い材料を買ってきたという三越お手製のビーフストロガノフは、とても好評であったとか。