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七日目の朝 –side Pluto-


「お、おかわりちょうだーい」
「はーい」

天王星ちゃんから空になった茶碗が差し出され、私、冥王星がご飯を盛り付ける。
おかわりをする時、天王星ちゃんはいつも緊張している。
さっきも声が上擦っていた。
理由はなんとなく分かる。天王星ちゃんは今まで働いてるでもなく、かといって学校にも通ってない状態だったので負い目を感じているのだ。
今は世界格闘大会で賞金を稼ごうと必死に頑張ってくれているのだからそんな気負う必要はないのに。事実、私とカロンは天王星ちゃんが無収入だろうが全然気にしてない。

「いっぱい食べてねー。天王星ちゃんは格闘大会で頑張ってるんだから、ちゃんと精をつけてもらわないとね。」

天王星ちゃんが少しでも気が軽くなるように、こんなことを言ってみる。

「ありがとう……。」
天王星ちゃんは小さく呟いて白米を咀嚼し始めた。
小さな口でもそもそと御飯を食べる様子が可愛らしい。
彼女はとても良い子だ。ここ数日は怪我を負いつつもなんとか私達の生活の足しになるようにと、頑張ってくれている。
そんな彼女を私は――――。

◇◇◇

天王星ちゃんは朝食の後、彼女の衛星と交信を始めたようだった。
それを横目に見つつ、カロンが小さな声で言った。

「天王星ちゃん、頑張ってるね。」
「うん、毎度傷だらけで帰ってきて……見てるこっちがハラハラする位頑張ってるよ」
「でも、このままだと計画は……」
「思った以上にタフだったみたいね。“惑星”を侮ってたわ。」

「惑星」という単語を思わず強調してしまったのは、私の中でその単語に思う所があったからかもしれない。
そんな私を見てカロンは少し悲しそうな顔をしながら続ける。

「もし彼女が再起不能になった時は……ゴメン、これは何度も話したことだったね。冥王星ちゃんの覚悟を疑ってるワケじゃないよ。」
「うん、その時は……」

手を強く握りしめる。
彼女が再起不能になったその時には、何より先に優先してやらねばならないことがある。
絶対に機を逃してはならない。
その時は二度も訪れてはくれないような千載一遇のチャンスだと思うから――。

「大丈夫かい? 怖い顔してるよ。」
カロンの声で、はっとなる。思索の海に囚われていたようだ。
「……私がやろうとしていることは本当に良いことなのかな? ううん、良くないことに決まってる。だから、怖くて……」
「あぁ、責め立てるようなことを言っちゃってごめんね。もし冥王星ちゃんが無理そうな
らその時は何もなかったことにしてもいいんだ。僕は冥王星ちゃんの意見に従うだけだ。どちらにしても君のやろうとすることに邪魔なんてしないよ」

と、そこで。

「ひゅーっ!お二人さん何イチャイチャしてるのー?」

どうやら天王星ちゃんが衛星との通信を終えたようだ。たまに私達にするように茶化してきた。

「え、えと……」
「衛星ちゃん達との通信は終わったの?」
私たちは思わず不意を突かれ、しどろもどろに応えることしかできなかった。

「……うん、終わったよ―」

あぁ、これはまずい。天王星ちゃんも不穏な空気を感じ取ったみたい。
最近、彼女は僅かながらも私たちに不信感を抱いているような素振りをみせる。
何か話題を、と慌てて考えていると彼女の頭の包帯に気づいた。

「頭に包帯巻いちゃってどうしたの? 怪我しちゃった?」
「どうもスランプみたいでさー必殺技打てなくなっちゃったんだよねー。だから何でも怪我を一つ治すらしい不思議な包帯ってのを使ってみたんだよね―。今なら必殺技打てそうな気がするよ!」
「そっか、ならいいんだけど。いや、でもスランプで頭に包帯って聞いたこと無いよ!それ間違ってない……?」
「大丈夫大丈夫―。多分治ってるから」

あぁ、もう。本当に大丈夫なんだろうか。彼女はどこか抜けている所があるから心配になる。庇護欲というやつだろうか。これもまた彼女の魅力といえば魅力なんだろう。

「それじゃーいってきますー」
「あ、ちょっと待って……!」
「んー?」

そんな彼女の小さな後ろ姿がたまらなく愛おしくて。
ほとんど衝動的だったといっていいだろう。私は彼女を抱きしめていた。

「え、ちょ、なになに」
「んーん、何でもない。ただ、ムリしないで頑張って欲しいなぁってね。」
「えーなにそれ、ちょっと矛盾してないー?」

自分でも何を言ってるのか分からない。再起不能になってほしいと思いながら大会に送り出したはずなのに。
天王星ちゃんの頑張ってる姿に感化されちゃったかな。

「あはは。……ホント無理だけはしないでね。」
「わかってるわかってるー」
「ならよし。じゃあいってらっしゃい!」
「いってきます!」

バタンと音を立てて扉が閉じた。数瞬、静寂の後にカロンが尋ねてきた。

「さっきのは、本心からの言葉かい?」
「うーん、わからないや。本心からの言葉だったかもしれないし、あるいは違うかもしれない……。ところで彼女がもし最終日まで無事だったらどうする? もはや優勝の目はなさそうだし……」
「さっきも言ったとおりだ。僕は君の意見を何よりも尊重するよ。それに。こう聞いてくる時点で自分の中ではもう答えが決まってるんじゃないのかい?」
「……うん、そうかもしれない。そのときは、何もなかったことにして、暖かく迎えてあげようかな。」
「そっか。君は優しいね」
「そうかな? 再起不能になったら計画は実行するつもりだけどね……。」
「それでも、君は優しいと僕は思うよ。」

そう言って、カロンが私の髪をくしゃっと撫でる。
少し、気分が軽くなった気がした。

【END】