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Battle Cinderella~姫騎士たちの散華~


†††


「――――」
施設に備えられたTVから、とめどなく実況の絶叫が響く。
今まさに各地で転校生と称される乱入者と大会参加者たちの試合が行われんとしていたのだ。
その様子は次々とTVに映し出され、視聴者達のボルテージも最高潮に達していた。

ここでもか。
三越シュウは、軽く息を吐くと周囲の様子をそれとなく観察する。

場所は某病院のロビー。
フロワーは青を基調としたフロワーリングがされている。なんでも昔は白一色だったらしいが、
青のほうが精神安定の効果があるということで最近はこちらのほうが主流らしい。

だが今、それは何の効果も発していないように見えた。患者達は興奮も露わにTVに映し出される
世紀の出し物にくぎ付けとなっていた。もはや全国各地、皆、同じ状況だろう。

(――まあ、自分はあまり落ち着いてはいられない立場にいるわけなのだが)

ここまで今回のミッションが難航するとは三越も思っていなかった。
原因の一つはあの綾鷹と言う女だ。あの女は転校生が倒される現場に必ず居合わせ、素早く
彼女達を確保し自分達の手の出ない場所に隔離していったのだ。

(――なら別の場所で倒されたもう片方の転校生を確保すればいい。)
具体的にいえば”秩序の守り手””狂気の魔女”2名。

これも失敗。
三越の口の中に苦いものが混じる。
ある意味、こちらのほうが被害が大きかった。
確保できないどころか現場に向かった諜報員の音通がプツリと切れ、再び彼らが戻ることはなかったのだ。

スズハラの狙いが完全に掴まれている。まさかという思いだった。

今回のスズハラ機関の目的は「転校生級存在の誕生プロセスの解明」ではあったが、
それは『少年の確保』を意味するものではなかった。
彼らに与えられた任務は、最低一人の「転校生」の確保そしてその人物に纏わる詳細な
情報を入手すること、それだけだった。

各機関が目の色を変える『賞品の少年』など後回し、いや入手など論外だった。
寧ろ少年自体どこか組織が手中に収めたほうがスズハラには都合のいい展開といえたからだ。

自分達は本体がなくとも容易に謎を解明できる。
要は―――真実を確定できる情報だけでいい。真実など『名推理』すればいいだけの話だからだ。

スズハラにおいてはなまじの真実より名探偵の推理のほうが優先される。

他の既存組織では決してまかり通らない異常な理屈。それがこの組織では平然と幅を利かす。
必要なのは名探偵が推理に必要な材料だけで有り、凡百の真実など塵芥に等しいのだ。

実は愉快ではないが、苦難の末ターゲットを手に入れた組織。そこがその謎を、解明し実用化に
こぎつけた頃には彼女たちの組織は悠々その対応策を編み出し終えているのだ。

そして
蹂躙される。
”Joker”を掴んだその組織は謀略の果て、スズハラによっていいように『虐殺』されるのだ。

三越は音もなく、ロビーを抜け、病廉へと入る。

だが、そのセオリー外の動きを相手に読まれた。異常に輪を掛けた異常である。
あの軽空母以外にもこちらの動きを察知し動いている者が居る。今となっては明白だった。
そしてそいつに関しては存在の尻尾どころか影すら拝めていない状態だ。

「―――陽動役と実働隊。我々と同じというわけか」

そしてここにおいて転校生戦の同時多発である。完全にこちらを誘っているといえた。

流れる様にそして極めてサイレントに廊下を移動する彼女は白衣を纏っていた。
軽く衣を翻し、胸元のIDカードを確認する。

「―――――だが、生憎と私には判る。”彼女”の居場所が。だから」

三越シュウは彼女が放つ特有の周波をキャッチすることができる。

万が一を予想し、彼女の上司によって仕組まれたもう一つの策、闘い敗れたキリエ自身を
野に放ち回収『対象』と化す。
そして、囚われたのならあの少女を回収するのだ。


「使命は果たさせてもらう」

そう彼女に記憶された『ログ』を見れば、名探偵はそれだけで真実を解き放つ。
そして、いつものスズハラが始まるのだ。
その為には自分は彼女を取り戻さなければいけない。

†††

客観的に見て、三越シュウ始め、今回のスズハラの諜報員に落ち度はなかったといえる。
彼らは自身の実力を見誤ることなく過分に発揮し、十全にことに当たっていた。

ただ、もう少し深く突っ込んで考えるべき点も幾つかあったかもしれない。
例えば、あの傲慢な性格の女王様が何故、陽動役などと言う役回りに徹して
いるのか等。
適性云々はあるだろう、しかし通常、囮や陽動というものは実力が劣るものがするものだ。
彼ら自身、シュウとキリエの両者の関係を見れば、明らかだろう。

そしてスズハラの諜報員は何故一人も帰らなかったのか。何故、今も持って相手の影すら掴めなかったのか
彼女は現地入り以降、今回の”相方”と連絡すら取ってないのだ。
それでも彼女は相方がへまをするなどと微塵も考えていなかった。

綾鷹の態度が如実に答えを示していた。

『下手の考え休むに似たり。』と

今回の”相方”は、彼女を含め全員の上手を平然と行くような輩なのだ。
彼女がこいつとなら面白そうだしと、うっかり識家の仕事を請け負ってしまうような輩。
彼女は最初から相方に合わせるのは無理と割り切ってニヤニヤ笑いながら事態を楽しむことにしていたのである。







そして







三越の背後で金貨が一枚、宙を舞った。


────────── 三越シュウ VS Traveler of Venus ―──――開始



                           ( Battle Cinderella~姫騎士たちの散華~了)