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パルプ最後の戦い


値の張りそうなスーツを上品に着こなした女性が、病院を目指している。
その表情はやや苦しそうだ。どこか怪我をしているのだろう。
しかし、病院の前に辿り着いたところで呼び止められる。

「財前さん――私と勝負してもらいます」
少女は、ピンク色の瞳に非情な決意を湛えながら言った。

「ああ。打撲の治療が終わったらな……というわけにも行かなそうだね。先日とは随分顔つきが違う」

「はい――どうしても勝ちたい理由ができたのです」


【パルプ最後の戦い】(第7T、財前vsパルプ)


「ビル投げを失ったあなたに、最早勝ち目はありません。怪我をする前に降参を――」
冷たく宣告する言葉を、財前の掌底が遮った。
素早い踏み込みからの打撃が額を打ち抜く。
脳を揺さぶられ、よろめき後ずさり片膝をつくパルプ。

財前倉持に格闘技の経験はない。
だが、魑魅魍魎が跋扈する経済界で戦ってきた経験と膂力は一流格闘家に比肩しうる。
ミクロ経済界学の応用で体内を流れる氣のキャッシュフローを御して放たれた発剄の威力は御覧の通りだ。

「忠告ありがとう。御陰で不意打ちの機会をもらえたよ――卑怯とは言うまいね?」

発剄の衝撃でパルプの髪留めが砕け、ポニーテールがバサリとほどけた。

「はい。真剣勝負に卑怯などありません。行きます! パルプ☆マジカニカ!」
長い髪を振り乱し、勢い良く立ち上がりながら真魔法を詠唱する!
胸には賞品の少年への熱い想いを込めて!
財前もまた、襲い来る攻撃を受け止めんと精神集中し鋼の意思を燃やす!
マイティ☆エモーション!
熱い想いが暴走し、激しい光が二人の身体の内側から迸り大爆発を起こした!
パルプが纏う光のドレスは爆風で引き裂かれぼろ布のようになる!
女性らしい丸みがイマイチ不足した直線的スタイルが晒される!
財前の上等なスーツとシャツも無惨に破れ素肌が覗く!

「チィッ! 魔法って奴は訳がわからないな!」
長年経済界で闘ってきた財前を以てしても予測不能の魔法攻撃は対処困難!
いや、むしろ経験があるからこそ不可思議な攻撃に虚を突かれるのだ!(スキル「vs闘年」)
財前は警戒してパルプから離れ、体内バランスシートを整えようとした。
しかし――ズドンッ! 財前の足元で光の爆発!
予期せぬダメージに倒れる財前!

「グローリアス☆マイン……あらかじめ罠を配置しています。あなたは魔技で全身の骨を砕かれ敗れ去るのです」

「小賢しい真似を!」
財前は窓ガラスを突き破って院内に退避!
無人の病室を通り抜け、暗い廊下を駆ける!
パルプの魔技トラップ領域を抜け出さねば、まともに闘うことはできない!

「逃げても無駄です! パルプ☆マジカニカ!」
窓の外から叫ぶような詠唱! 追撃の真魔法! 再び両者の体が光の爆発を起こした!
一定距離内ならばマイティ☆エモーションは遮蔽物に影響されない!
財前の衣類が更にダメージを受け、均整の取れたスリムなスタイルが露わになる!

しかしパルプの着衣ダメージは更に深刻だ!
もはやその未成熟な体を覆うのは下着のみ!
妃芽薗学園内購買部で購入した優等生的な白い下着姿となったパルプだが、表情に憂いなし!
マジカニカの加護を疑わず、この脱衣効果が自分を勝利に導いてくれると確信しているのだ。

荒い息を吐きながら手術室に滑り込み、財前は後ろ手で鍵をかける。
体力の消耗が激しい。形勢は圧倒的に不利だ。
(なんとか逆転の糸口を見いださねば……)
照明を点ける。手術台の上で何かが金色に光った。
それは、パルプが普段は腕に嵌めているバングルだった。

バングルから光の弾丸が放たれ財前を撃つ! 遠隔起動魔技トラップ発剄!
「ぐふぅっ!」
壁に叩きつけられ、ずり落ちる財前。

「プリズム☆ブレイク」
廊下で呪文が唱えられると、扉の鍵が虹色の光を発して外側から強制魔技開錠された。
そして扉が開き、白い下着姿の魔法少女がゆっくりと手術室に入ってくる。
手にするラクティ☆ロッドが白い光を冷たく放つ。

「罠は病院敷地内全域に仕掛けてあります――逃げても無駄と言ったはずです」
ロッドを高く掲げ、融資打ち切りを告げる銀行員のような淡々とした口調でパルプは言った。
「油断も容赦も致しません――とどめです。パルプ☆マジカニカ」
三度目の真魔法!
高級マスカラの効果によって一時的に高まった精神エネルギーの総てを注ぎ込んだ必殺の真魔法が放たれる!

空間が歪み、パルプの頭上に召喚されたのは……おなじみマリンモンキーの巨大ぬいぐるみ!
「ウソ……きゃああぁーっ!」
押し潰されるパルプ! 本大会三度目の自爆魔法ファニイ☆ファンブル! なんという不運!

(――この時を待っていた!)
秩序の守り手に敗れデッド・キャット・バウンスを失った時点で、財前倉持が優勝する可能性はほぼゼロとなった。
だが、たとえ賞品の少年に全裸に剥かれても、LoverSuitの女に全裸に剥かれても、財前は戦線離脱しなかった。
長年培ってきた相場勘が、まだ損切りすべきタイミングでないと告げていたからだ。
いずれ流れがプラスに転ずる時が来る、そう読んで屈辱に耐え続けた。

今こそ清算の時!
財前は渾身の発剄を黒い巨大ぬいぐるみに叩き込む!
打ち込まれた氣のエネルギーはぬいぐるみを伝ってパルプへと流通!
マリンモンキーの縫い目が流れるエネルギーに耐えきれず断裂! ぬいぐるみ爆散!
大量の綿が手術室に舞い踊る!

「げほっ、げほっ。おかしい……こんな展開は絶対におかしい……」
舞い散る綿の中、青色の血を吐きながら魔法少女がよろよろと立ち上がった。
「これじゃあ、第5ラウンドの攻撃順が戦闘結果と逆になってる……」
「……まあ、そんなミスもあるさ。気付いたのがレス投稿後だったんだから仕方ないだろう」
「そうだね……」
「じゃ、続けようか」
「はい」

血が混じった咳をしながら、パルプは呼吸が苦しくなるのを感じていた。
鰓付近の血管に損傷を受け激しく出血しているのだ。
これでは正確な呼吸を必要とするマジカニア語による精神集中チャント☆ブリージンができない。
財前は苦しげなパルプの様子を慎重に値踏みしながら気力を整えている。

パルプはグローリアス☆ボマーを撃とうとしたが……精神集中できず不発!
勝算ありと見て取った財前は更に発剄を打ち込む!
吹き飛ばされたパルプは手術道具を乗せたカートに激突!
銀色の器具が飛び散る!

間髪を入れず財前の発剄!
人工心肺装置を薙ぎ倒して吹き飛んだパルプは反撃できない!

財前は太極拳のような動作で精神収支を整える!
そこにパルプはボロボロの精神を編んで必死のグローリアス☆ボマー!
財前の腹部をロッド突きが襲いその先端で光の球が爆裂!

財前吐血!
だが倒れず反撃の発剄! パルプを壁に叩き付ける! 壁にヒビが入る!
ダウンも許さず更に発剄! 壁のヒビが広がる!
更に発剄! 三連壁コンボ! 遂に頑丈な手術室の壁が砕けた!
病院の中庭に弾き出され倒れたパルプは、そのまま立ち上がることができなかった……勝者、財前倉持!

冷たい雨が降り出し、傷付き倒れたパルプを濡らした。
湿度が高くなって、痛めた鰓での呼吸が少し楽になる。
(また負けちゃった……でも、次こそは勝つ! あの人に逢うために!)
パルプの瞳はまだ輝いている。
そして、明日の戦いのためにパルプは立ち上が……れない!!

(えっ……嘘……身体が言うことを聞かない……!?)
全身がピクリとも動かない。
首の後ろからゾワゾワと悪寒が広がってくる。

「たぶん……マリーはんの聖なる力やな。一日遅れで効いてきたんやと思う」
使い魔のリミラヴが言った。
「もう戦うのは無理やな。お疲れさん。よう頑張ったと思うで」

「そんな……私はまだ……どうして……どうしてマジカニカが私を裏切ったの……?」
雨に打たれて横たわりながら、パルプは大粒の涙を零し、泣いた。

「たぶん、姫はんが負けた方がマジカニアにとって良いことだったんやろうなぁ」

「えっ……なんで……?」

「リミラヴの役目もこれで終了や。色々辛い目にあわせてしもうたな。堪忍してや姫はん」
リミラヴは、寂しそうな、ほっとしたような、悲しそうな顔で言った。
「リミラヴはな、姫はんのこと、本当に大好きだったんやで。それだけは信じてや」

「……何を言ってるの? 全然意味がわからないよ……?」

「……」
水色のマリンモンキーは、質問には答えず黙って背を向けた。
そして、動けぬパルプをその場に残したまま歩き出した。

「……? 待ってリミラヴ、どこに行くの?」
長年共に歩んできた使い魔の背に、パルプは呼び掛ける。
だが答えは無く、その背はだんだん小さくなってゆき、雨の中に消えた。

パルプは独り、雨の中に残された。
身体は動かない。
なぜマジカニカは私を裏切ったの?
どうしてリミラヴは私を見捨てて行ってしまうの?
もう……何も……わからない……。

(『パルプ最後の戦い』おわり)