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魔法騎士 ラ・ピュセル 第五十七話



――――――


「お師匠さまぁー!」

ショートカットに猫耳を揺らす、可愛らしい少女が悲痛な叫びをあげる。
メガネの奥の紅い瞳を涙に濡らし、きらびやかな衣装に身を包んだ少女が駆け出そうとする。
少女が目指す先には、カラフルな民族衣装に彩られた、こちらも小さな体躯の少女。

「バジルさん! 待ってください!」
「ですが! お師匠さまが……!」
「どうか、ここは私に任せてください」

しかし、猫耳の少女、バジルの行く手を、ラ・ピュセルが阻んだ。
バジルの肩に両手を置き、その潤む紅い瞳を、ラ・ピュセルが見つめる。
ぐずるバジルに、説き伏せるように語りかける。

「貴女のお師匠様は、私が相手をします」
「ですが……!」
「弟子である貴女よりも、貴女のお師匠様と同じ、
 真っさらな一人の武人という、対等な立場である私が相手をする方が良いでしょう」
「で、弟子だからこそ! 私がお師匠さまを止めなければならないのです!」
「バジルさん。師匠というものは、倒すべき相手ではありません。越えるべき存在なのです」
「ラ・ピュセル様……」

涼春機関との闘いも佳境。鏑木諒子の助力によって、公園に偽装された敵秘密基地へと乗り込んだラ・ピュセル。
そこで出会ったのが機関にさらわれた武術の師匠を探しにきた少女バジル。
そして、進む二人を迎え撃ったのが機関の手によって改造人間へと変えられたバジルの師、クェル・クスであった。

「あなたも クェルの特訓を?」

改造されてなお、かつての記憶を頼りに動くクェル。
その身体を突き動かす原動力は、武術家として存分に腕を振るう事の叶わなかった無念。
そんな悲哀を背負った存在を、邪悪な野望の道具に使わせる訳にはいかない。ラ・ピュセルが進み出た。

「いいえ。私は一人の武人として、貴女に決闘を申し込みます」

公園に風が吹く。
草が揺れ、木々が揺れ、涙に揺れる瞳に見守られ――――

「わたしはクェル クェル・クス
 エモノは棍と この身体
 あなたが決闘 望むなら
 この身に懸けて 引き受けた!」
「私はラ・ピュセル。身につけたアイキと、必殺のコスモビームを持って――――参る!」

二人の武人が、駆け出した。


――――――


緑に広がる草原の上を鮮やかな色彩が毬のように跳ねる。
小さな手足に力を漲らせ、甲高い風切り音と共に、クェルの握る樫の棍が上空から振り下ろされた。
圧倒的破壊力を宿したその棍の先を、躱すではなく、掴み取るべくラ・ピュセルは腕を伸ばした。

瞬間、二人の気合いの篭った掛け声がぶつかる。
直後、クェルの身体がラ・ピュセルの腕の先を軸に弧を描き、地面へと激突した。
攻撃の勢いそのまま武器ごと投げられたのだとバジルが理解した頃には、クェルは間合いを取って体勢を立て直していた。

距離を取ってなお緊張したまま、咳き込むクェル。
クェルを投げ飛ばした方のラ・ピュセルも無事ではない。棍の先を受けとめた指先が赤く腫れあがっている。
互いの力量を把握しあい、そう何度もぶつかり合う事にはならないだろうと、両者が勝負を決せられる隙を窺う。

「煌け!」

その時。この距離ならば自分が有利。必殺のビームを持つラ・ピュセルが判断を下し、動いた。

「コスモビィーム!」

怪我のない腕を地面と水平に突き出し、指先を過たずクェルへと定め、ラ・ピュセルのビームが放たれる。
輝く白い光の筋がクェルの身体を捉え、包み、吹き飛ばす。
決まった。決まってしまった。まばゆい光に目を細め、バジルはそう思った。

だが、次の瞬間、その光の中から唸りをあげて小さな影がラ・ピュセルへと飛来した。
正体は公園の地面を抉って作りだした石礫。躱せず、ラ・ピュセルがそれを喰らい体勢を崩す。
直後、薄れて消えた光の中から、畳み掛けるようにクェルが飛び出した。

それは野生の強靭な生命力と柔らかな身のこなしによって必殺のコスモビームを直撃しながら耐え切ったクェル。
棍を振るって石礫を弾幕に、残る力の全てを込めてラ・ピュセルへと突貫していた。
クェルが伸ばした棍とラ・ピュセルの身体が重なる。決着もまた、瞬く間の出来事だった。

「お師匠さま!!」

重なる二人の影に、バジルが思わず叫び声をあげていた。
草原を撫でる風。木々を揺らす風。零れて落ちた涙。
お互い寄りかかるように重なりあっていた二つの影。その一方が、ゆっくりともう一方の腕の中へと倒れた。


――――――