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【退場SS】生方キリエ


どうやって部屋まで帰ってきたか、生方キリエはよく覚えていなかった。
気づいた時には既に、布団に包まって瞳から涙を流していた。
「………………」
そう、たしか最初は菊一文字を狙っていた。
だが途中で見失い、めがみと名乗る良くわからない選手と出会った。
勝てない相手では無かった。だが、相手の攻撃はことごとく生方に当たり、そして……
「う、ううう……ぐすっ……ぐすっ……」
そこから先を思い出して、生方はまた泣き出した。
人造魔人とはいえ、生方も女の子である。あんなことになって、心が傷つかないはずが無いのだ。

不意にガチャリと、部屋のドアが開いた。見覚えのある顔がそこにはいた。
「やっほー生方君。元気ー?……って、何やってんの生方君。」
「先輩……」
三越シュウはそのまま、部屋にづかづかと入ってきた。生方は布団に包まれたまま、身を起こした。
「いやー、派手にやられたね生方君。でも、結構セクシーだったよ。」
「………」
生方は三越を殴りたくなったが、そんな元気は残っておらず、思いきりにらめつけるだけに終わった。
「実際まあ、きついよね。視聴率90%だとすると、何億人が見てたのかとかね」
「うぐおおおお……」
生方は顔を真っ赤にし、ベッドに顔をうずめ枕をバスバスと叩く。
「ないっす……マジないっす……記憶を消したい……もうお嫁に行けない……」
「重症だねえこれは。」
三越が生方の頭をぽんぽんと叩く。
「まー、元気だしなよ。取り合えずご飯くらいだったら作ってあげるからさ。まだ食べてないでしょ?」
生方は無言のまま、顔をゆっくり上下に振った。顔は耳まで赤くなっているが、もう泣いてはいない。
「よしよし。何か食べたいものあるかい?何でも作ってあげようじゃないか。」
「……肉じゃがで。」
OK、ちょっとまっててね。そういって三越は外に出て行った。生方はそのままベッドに横たわっていた。
少しだけ、三越のことが好きになった気がした。

◇◇◇

明かりは既に消えており、窓から差し込む僅かな月明かりだけが、部屋の中を照らしていた。
僅かに残った料理のにおいが鼻腔をくすぐる。
ちなみに、三越が作ったのは肉じゃがではなくビーフストロガノフだった。
「本当に大変だったね、生方君。」
生方の名前を呼んでいるが、彼女は三越の隣で寝息をたてている。完全な独り言だ。
ふと、三越の目に、緑色の髪飾りが目に入った。
「懐かしいな。そういえばこれは僕があげたんだっけ。」
手を伸ばし、髪飾りをはずす。生方が「ん……」と僅かに呻いたが、目を覚ますことはない。
先ほどの食事には、いくつか薬を混ぜ込んでおいた。少なくとも、朝まで起きることは無い。
「これは返してもらうよ。もう、必要ないだろうからね。」
三越が髪飾りを手で包み、開いた。そこにはもう、緑の鈴の髪飾りは無かった。

機関が戦闘用の魔人を送り込まなかった理由は二つある。
一つは生方の言っていたように、今回の環境とかみ合っていないこと。
もう一つの理由は、送った魔人がより強力になり、こちらに噛み付いてくるのを恐れたからだ。
そして恐れていた事態は、既に起こりかけている。
「……本当は君を始末するべきなんだろうけど。」
三越が立ち上がった。
「応援すると言ってしまったからね。出来なくなってしまったな。」

三越はもう一度生方の顔を見た。平凡だが、かわいらしい顔だ。三越はそう思った。
「起きたときにはもう、ほとんど忘れていると思う。もう会うこと無いだろう。けど。」
生方の頭をなでる。そのまま、三越は生方の額にキスをした。
「少しだけ、君のことが好きだったよ。じゃあね。」

最後にそう言って、三越は部屋を出て行った。
生方キリエの物語は、ここで終わった。