世界格闘大会の異常な環境 または私は如何にして困惑するのを止めて全力逃走するようになったか


「どうしたものか・・・私ではこの大会を闘いぬくには力不足なのか?」

庵 白彩は宿泊施設で出場者の詳細なリストを見ながら困惑していた。
以前から世界格闘大会には様々な選手が集い
独特過ぎるスタイルを持つ者もいるということは知っていたが
実際にこの場に立って改めて思い知らされたのである、
「Z市はまだまともだった」と

業曇流剣術の最大の武器は駆永流移動法の異常な速度にあり
奥義である破流式跳躍は普通の武術者同士の闘いにおいては相当強力である。
しかし、その異常な速度を失えば業曇流剣術は只の剣術に成り下がってしまう
よって何らかの術で相手の動きを止める、もしくは自分に速度で勝る相手は業曇流の天敵となる。
「そうなった場合、私の技量では勝ちを掴み取ることは難しいな・・・」
また、MAP兵器が如き無茶苦茶な攻撃に対しては幾ら何でも為す術が無い、
「そもそもこれは女性限定の"格闘"大会じゃなかったのか!?
 ビルを丸ごとぶん投げたりビームで焼き払ったり
 炭酸ガスで葬り去るのは何か違うんじゃないのか!?」
ある意味天敵よりも厄介なこの常識を外れた参戦者達と
闘わなければいけないことに白彩は唸りつつ頭を抱えた。

ではどうするのか?
業曇流剣術の強さを広めるためには負けて無様な姿を晒す訳にはいかない
死闘の末惜敗するのならばともかく、
「相性が悪かったので手が出ませんでした」
「MAP兵器で塵芥のように潰されました」
では業曇流の評判はガタ落ちである。しかし必ず闘いの時はやってくるのだ!

そこで、急に何かを閃いた彼女は顔を上げその名案を叫んだ、
「・・・そうだ、そいつらと遭遇しなければいいんだ!」
彼女の閃いた名案はおおよそ誇りある武人のものではなかった
「この大会は対戦相手が決まっていないんだったな、
 つまり天敵を避けながら闘えば何の問題もない!
 そうだこれは逃走ではない、戦略だ・・・」
しかし彼女の脳内に強敵と闘い己を研鑽するという思考は既に存在していない、
道場存続の危機と世界格闘大会という異常な環境の前に
武人としての思考は頭の隅へと消えてしまったのであった。



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最終更新:2013年11月10日 23:39