気が済むまで自由を謳って


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言えば、オレは自由に好き勝手やってきたと思うよ。
欲しいもののためにネフィアに潜って魔物と戦ったし、他の冒険者を殺して手に入れたことだってある。
混沌の城っていう恐ろしいところに潜り込む一団についていったこともあるな、
あの時はマジに死ぬかと思った、ていうか、死んでた。
自分ちで目覚めた時はもう爆笑したね、あんなとこ人間が行くとこじゃないわ。

神々から授かるアーティファクトを片っ端から家に並べて、綺麗な女の子侍らせて、そりゃあもう自由で幸せだった。
誰にも縛られずふらふら気の向くままに生きていく、そうして吸う空気は何よりの御馳走。

オレ手先が器用でね、カジノでよくイカサマしてたんだよ。
拍子抜けするぐらいバレないもんだから調子に乗って景品がっぽり手に入れて、ああ本当に楽しかった。

どうして過去形かって?
そりゃ、まあバレたんだよ。イカサマが。
青天の霹靂、藪から棒、なんとでも言えるが、オレにとってそれは初めての失態。
強い装備も経験も、何もかもこの器用さで手に入れて生きてきたのに、いやあショックだった。
そっからかなあ、幸せが全部ひっくり返っちまったのは。

エーテル病……あんたも知ってるだろ?おっかねえ病気さ、あれにかかっちまってね。
気持ちの悪い風の日だったよ、運悪く風を浴びに浴びたオレはびっくり人間も裸足で逃げ出す有り様でね。
ほら、腕が三本、目が四つ、オマケに脚は蹄で頭の上には雨雲が浮いて、触ったポーション皆毒に変えちまう。
ああ、あんたも腕が三本あるの、ご愁傷様。
あん?そういう種族……そっかカオスシェイプか。
成長するごとに腕だの足だの増えるんだっけ?俺三本腕になってから料理が得意になったんだよ。
見た目はともかく便利だよなあ。

あー……話がずれたな、どこまで喋ったかしら……そうそうエーテル病だ。
本来ならカジノで馬鹿勝ちしてたときの抗体ポーションが手元にあるはずなんだが……
全部金になるからって売り払っててどこにもなく。
自慢じゃあ無いがオレはこんなになる前はハンサムでもってもてだったんだぜ?
それが今じゃあこそ泥や乞食レベルの扱いさ。
カジノの件からエーテル病、相次ぐ依頼の失敗、不慮の事故で召喚するモンスター……誰もが体験する不運をフルコースで味わった。

でもめげてらんねえよ、オレはまた幸せに暮らすんだって意気込んで、真面目に生きようと決意したのさ。
ムシがいい考え方と言うかい?実際そのとおりだから返す言葉もないなあ。
ま、オレは不実を改めて誠実に生きたんだ。
すると事態は緩やかに好転していくのよ。
細やかでも金を稼げて、無くした家より小さいが家も手に入れて。
こんな見てくれでも好いてくれる……そんな奇特な伴侶も得た。
結婚なんて今まで散々してきたけども、特別な伴侶と思えたのは彼女だけだ。

以前の無茶苦茶してた頃よりかは見劣りするかも知れねえが、オレはどうしてだか、
今のろくでもないなかの幸福が人生の中で最も守りたいものだと願えた。
自由よりも愛しいものが束縛で、不実より幸福なのが誠実。
皮肉だね、マジに。

彼女との結婚式の引き出物、エーテル抗体ポーション。
オレがまっとうな道を、彼女と歩むための第一歩。
ビンの口から漏れ出る匂いはツンとした薬品、これが祝福の香りかなんて気取って一気に飲み干そうと。










「その瞬間、こんなところにオレは連れて来られた」
トレスと名乗った男の短く重い懺悔……いや、告白は終わる。
異形の目はにこり、と曇りのない笑みを見せてきた。
「聞いてくれてあんがとさん」
その顔は妙に晴れやかで、どこかに消えてしまいそうなくらい、質量を持っていなかった。
ふらふらの男の手から、しとしと毒液が滴る。
クリムエールも飲めやしねえな、と男は指を握りしめた。

「なぜ、なぜそれを僕に話したんだ」
腕が三本ある男は、笑顔の男に問いかける。
「あんたさっき名乗ったとーり、神官さんなんだろ。神官さんってえのは死ぬ前の懺悔聞いてくれるんじゃねえの?」
あっけらかんと、誰が見ても分かる事実を本人が言葉にする。
そう、彼はもう長くはない、エーテル病の所為か、否である。
彼は堕落した装備品をわざと装備していた。
堕落した婚約首輪、それは彼が初めて伴侶に贈ったものと同じで、真逆のもの。
首輪は血をじれったいほどゆっくりと啜る、男の独白を、独白であるべき遺言を吐き出させるのを待つように。

「じゃあなぜ、なぜ、自殺なんかをしてるんだ」
「そろそろエーテル病フルコンプしちまうのよ、オレ。あっちならともかくここじゃあね」
あと数刻もしないうちに死ぬだろうと、また宣う。

「両極端な生き方をしてきたからよ、やっぱ死ぬ時は自由に死にてえなって」
病気に思いに縛られて死ぬよりは、自由に自分の意志で死にたい。


「神官さんってばさっきからなぜなぜって、もう、聞きたがりさんだなあ」
青白くなる手先、時間は会話するごとにすり減る。
「僕は……僕は神官だ、そうだ。でも、でも!」
こんな理不尽を強いる神を、愛せるのか。
三本腕のカオスシェイプの男、名前はドライ。
彼は敬虔な神の信徒で、神に対する愛を説いて、起立規範に則って生きていた男であった。
目の前で生きてる男とは逆で、自分の意志を殆ど持たず盲目に神を慕って生きてきた。
美しい教会で、汚れを哀しみを憎しみを見ること無く、今の今まで過ごす日々。

疑問を持たず、知らず生きてきた彼は初めて迷う。
心に浮かび上がらなかった疑問が洪水じみて押し寄せる。
彼を、どうして目の前の彼を救えない?
どうして、そんな状況を創りだしたのが神なのだ?
聞きたい、まだこの男の話を聞いていたいし自分の話も聞いて欲しい。
この男の伴侶というものにも会ってみたい、この男の幸せを見届けてやりたい。

出会ったばかりの相手だというのに、動き出した心は止まることなく。

「……ああそろそろやばいな、最後になるんだがよ神官さん」
だらりと腕を下ろし、ぐったりと口端を持ち上げる。
「頼みがあるんだ、オレのやりたかったこと、引き継いでくんねえかな」
「やりたかったこと……?」

ゆらりと天を仰いだ男はそのまま仰向けに倒れた。
慌てて覗きこむと、まだ大丈夫と瞬きをする男の顔。

「こっから元の世界に戻って欲しい、そんで、殺しちまった相手のことを、忘れないでいてほしい」
言葉に詰まる。
この男は健常であれば自分を襲っていたのかと。
「あんたが覚えて……伝えて…………うん……ここで、どこかで生きていたっ……てことを」
力強く、とぎれとぎれに。
「最初に会った奴に託そうって思ってたんだ……んだから、断ってもイイ、けんど、オレのことは忘れないでくれよ?」
空に腕を伸ばした。
どこまでも届くこと無い空に。
「殺した相手のぶんまで生きてくれってことかな……箱庭の……最期の自由ってやつか……中々詩的じゃねーの」
四つの眼は虚ろに、注ぐ光すら差すことのない世界を見つめる。

「こんなの……嫌って、言えるわけないじゃないか、このやろう」
元よりドライは神の意向に従い不敬者を断罪するつもりであった。
自分はそのために連れて来られた駒なのだろうと、本気で考えていた。

しかし、今は違う。

「はは……最期に会えたのが…………あんたで、よか……った」
「忘れない、僕はお前を、今から出会う者達を決して忘れない」
記そう、この殺し合いを生き抜き、そして過ぎていく景色を。
男の持ち物を貰い受け、美しい弓を装備する。
勿論痛みも呪いもない、彼はその弓の正体を知っていた。
彼の信仰する神が賜るアーティファクト、信仰の結晶。

静かに世界を閉じた男に十字を切りかけ、やめる。
ただ、やりきれない視線だけを満たして、ドライは歩みだした。


















「…………もっと、生きていたかった」


「……ッ!!!!」

振り返らず、走る。
言葉を忘れない、刻みこむ、その辛さを、初めて実感する。

「馬鹿野郎、馬鹿野郎、大馬鹿野郎!!!!」
怒鳴って罵倒しなければ、正気を保っていられなかった。


【トレス@イェルス 死亡】


【C-6/北部/一日目・朝】


【ドライ@カオスシェイプ】
【職業:神官】
【技能・スキル:不明】
【宗教:風のルルウィ 】
[状態]:健康
[装備]:★ウィンドボウ
[所持]:基本支給品、形見の鞄×2(不明支給品4アイテム)
[思考・状況] 基本:殺して生き残る。殺した相手のことを忘れない。

【備考】
敬虔な神官だった生真面目な青年。少し小生意気。

【支給品紹介】

★ウィンドボウ
風のルルウィの信仰を高めることで手に入る固定アーティファクト。
エーテル製で電撃耐性、ルルウィの憑依、加速を発動。
速度を高める。