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夜の闇の中、甲高い金属音を響かせ、重々しい甲冑を纏った一団が駆け足で通りすぎる。私は脇に避けて一団に道を譲ると彼らの行く先を見つめた。おそらくナインアイビーに現れた帝国軍の一団の迎撃に向かうのだろう。何事か大声で喋りながら、彼らはカーラインカフェの前を抜け、そのまま夜の森へとかけ出していった。

村を出たあと冒険者となった私は、色々な出会いと経験を繰り返すうち、いつの間にかグリダニアを、そしてエオルゼアを守るために戦うようになっていた。それは多分、幾つかの幸運と…おそらくは成り行きからのことだと思う。

私はもともと正義感というほどのはっきりしたものを持っているわけじゃない。もちろん、子供の頃はヒーローに憧れていたけれど。冒険者になってからは、日々の生活と好奇心に背中を押されて、ただ走り続けてきただけ。多分そうだ。

だからこんな成り行きでもなければ、きっと私が角尊、カヌ・エ・センナ様にお目通りをすることもなかったと思うし、こんなに困難で重要な作戦を任されることもきっとなかったのだろう。多くの犠牲を払ったカストルム・ノヴムでの電波塔破壊作戦もどうにか成功し、ネール・ヴァン・ダーナスの野望も阻止することができた。

でも…ダラガブは止まらなかった。遅すぎたのか、それともネールの怨念なのか。日に日に巨大になっていくダラガブは、もはや昼間の太陽を大きく上回る大きさで、このエオルゼアを不気味に見下ろしている。

空には稲妻が走り、風は渦を巻いて埃を舞い上げている。帝国軍は執拗にエオルゼアに侵攻し、噂ではウルダハの街にはみたこともないような魔獣が群れをなして闊歩しているという話だ。

私は夜道を歩きながら、今までの旅の途中で出会ってきた人々のことを思い出してみる。依頼をこなしている時に出会った漆黒の甲冑に身を包んだミッドランダーの女性、初めての街で戸惑っている時に声をかけてくれたサングラスがトレードマークの陽気なローエンガルデ。ウルダハで出会った喧嘩っ早いララフェルの斧使いに古風な喋り方のミッドランダーの男性、そして依頼を受けたことから友人になった真紅のローブを纏ったミコッテの呪術師。他にも数えきれないほどの出会いがあった。みんな、今頃はどうしているんだろう、その一人ひとりの顔を頭の中で思い描きながら川の畔を歩いていく。

私は街の中心部を離れ、ゆっくりとゆるい坂を登っていく。グリダニア幻術学園の門を入って
校舎の脇をぬけ、重厚な図書館の扉を開いて中に入った。

薄暗い廊下を抜けて書庫に入ると、カウンターで燭台の明かりを頼りに分厚い本を読んでいた小柄なミコッテが顔を上げ、私の顔を見て少し微笑む。

同じ村出身のミゥは足が不自由だ。私と一緒に狩人の訓練を受けている時に、狼の群れに襲われ、脚を痛めてしまった。今ではこの学園の図書館で司書をしつつ、幻術を学んでいる。

「どうしたの?こんな時間に」

「うん、ちょっとね。顔を見に来たんだ」

ミゥは苦笑すると本を閉じ、お茶を入れるために席を立つ。彼女は杖をついて生活しているから、最初は大変だろうと思って手伝おうとしていたけれど、本人としてはむしろ特別扱いされるのは嫌らしい。私は片隅にあるテーブルセットのソファに腰を下ろしてミゥがお茶を入れるのを待った。

やがて香りの良いお茶を淹れたミゥが向かい側に座る。熱いお茶が苦手な私は、カップのお茶にフゥフゥと息を吹きかけて冷ましながら何を話そうかと考えていたが、なかなか言葉は口から出てこなかった。そもそも何を言おうとしているのかすら、自分の頭の中ではっきりとしてはいない。

「ずいぶん大きくなったね」

言葉の出ない私に代わってつぶやいたのはミゥ。窓の外、闇の中で禍々しく光るダラガブのねっとりとした赤い光は、木々の間を透けてこの図書館からも臨むことができた。もうその表面にある模様や刺々しい突起物までがはっきりと見えるくらいにまで落下してきている。

私は黙ってお茶をすすりながら、その赤い光に照らされたミゥの横顔をただ見つめていた。線の細いミゥの横顔は、赤い光りに照らされていつもの少し物憂げな表情から、どことなく狂気をはらんだような様子にも見え、私は少しだけ不安になった。

そんな不安を振り払うように、カップを置いた私は立ち上がると窓の桟に手をかけて外を眺めた。高台にある図書館からはグリダニアの街が一望できた。夜に沈んだ街は、いつもならいくつかの街灯が灯るくらいのはずだが、ここ最近は厳戒態勢が敷かれ、街のあちこちに双蛇党の党員や鬼哭隊、神勇隊の隊員たちが篝火を焚いて待機していた。

風に乗って、どこか遠いところから歌が聞こえている。どこかで聞いた歌。そうだ、これは初めてグリダニアを訪れた時、トレントに襲われて角尊に助けられた時、やはり空の上から聞こえていた歌だ。今耳に届く歌声は切れ切れで、高く低く、まるで神話にあるセイレーンの歌声のようにエオルゼアの大地に届いていた。私は外を眺めたまま、おそらく私の背中を見つめているのだろう、ミゥに語りかけた。

「…ね、ミゥ」

「うん?」

「きっと大丈夫だから」

「…うん、そうだね」

明日、ダラガブ落下を阻止する最後の手立てとなる賢者ルイゾワの秘術が行われる。三国の同盟軍はその秘術を成功させるため、モードゥナ南のカルテノー平原を抑えなければならない。帝国軍はここを攻略するため、既に大軍を送っていることが確認されているから、明日は大きな戦いになるだろう。私も、その戦に参加することにしていた。

明日は森の狩人でもなく、冒険者でもなく、双蛇党の英雄でもなく、ただの一兵士として戦争に参加するのだ。正直、生きて帰れる見込みはないかもしれない。ルイゾワ様の秘術だってあれだけ大きなダラガブを本当に止めることが出来るのかどうか…わからない。

「私は待ってるよ、シルファが帰ってくるのを…ここでずっと」

小さな、だけどしっかりとしたミゥの言葉に、一時呼吸が止まる。やはりミゥには解っていたんだ。私が作戦に参加すること、この戦いが絶望的なものであること、そしておそらく、秘術の成功さえ危ういということも。私はただ黙って禍々しく燃える偽物の月を見つめていた。

 

◇◇◇

 

薄暗い碩老樹瞑想窟の中は、子供や老人でいっぱいだった。わたしは配られたお弁当を二人分手に取ってもどったが、そこで待っているはずの友達の姿はなく、玩具やら絵本やらが散らかしっぱなしになっていた。

「かなたちゃん、かなたちゃん!」

わたしが友達の名を呼びながら狭い洞窟の中を探してまわると、入口のそば、高いところにある、わずかに外が覗ける通風用の横穴によじ登った見慣れたおしりが見えた。

「もう、かなたちゃんったら、ここにいてねって言ったのに」

わたしも壁をよじ登り、かなたちゃんと並んで外に見える夜の森を眺めてみる。いつもならお月さまの青い光に照らされているはずの森の木々は、不吉なうす赤い色に染まって見えた。かなたちゃんは何故かとりつかれたように森を眺め続けている。

「…どうしたの?お弁当、もらってきたよ」

帝国が攻めてきた。ママニャはそう言っていた。わたし達子供やお年寄りたちは皆、この洞窟にあつめられ、勝手に外に出てはいけない決まりになっていた。かわりに街の中には大勢の兵隊さんたちがウロウロして、夜でもあちこちに篝火が焚かれていた。

でも、かなたちゃんの頬を照らしているのは篝火の明かりじゃない。空に浮かんだ真っ赤な星。ううん、もう星なんて大きさじゃない。お月さまの番犬と呼ばれていた小さな星は、いまではもう手が届きそうなほどに大きくなって、このグリダニアを押しつぶしてしまいそうな、そんな様子になってきていた。

とはいえ、大人たちはなんだかピリピリとして落ち着かなかったけど、わたしたち子供はどこかわくわくするような、こうやってみんなでお泊りをすること自体を楽しんでいたような気がする。だから、普段から真面目な顔なんてほとんどすることがないかなたちゃんが、どこかを見つめたまま動かないことに、わたしは強い不安を覚えていたのだ。

「ね、かなたちゃん、どうしたの?わたしが全部食べちゃうよ?」

「うたが聞こえる…」

「え?」

「おそらの上からうたが聞こえるにゃ…」

とり憑かれたようにそう繰り返すかなたちゃんを、私はただ見つめることしかできなかった。

 

◇◇◇

 

眠れない夜が明け、私は冷たい水で顔を洗って身支度を整えた。部屋はもう片付けてある。部屋を出るとき、私はなんだかんだで長く過ごして、最近では自分の家のように感じていた止まり木の部屋を改めて眺めると、静かにドアを閉じた。

カーラインカフェで食事をしていると、大きな手で背中をどんと叩かれ、口に入れようとしていたソーセージが皿の上に落ちる。思わず間抜けな声を出した私が振り会えると、見慣れたルガディンの戦士がニヤニヤと笑いながら私を見下ろしていた。冒険者となってから何度も仕事を共にこなして来た、今では信頼の出来る仲間だ。

みるとあくびを噛み殺しながら宿の支払いを済ましているミコッテのモンクやララフェルの白魔道士、そして純白の鎧に身を包んだヒューランのナイトたちがやってくるところだった。みな、今日の戦に参加する者たちだ。

「おはようシルファ、よく眠れたかい?」

相変わらず戦場には向かない、やわらかな物腰のナイトが微笑む。私が苦笑して答えようとしたら、突然モンクに腕を掴まれた。

「きゃー!なにこれ、可愛いじゃん!どうしたの!?」

彼女は私の手首に巻かれた青い編み紐を見つめてまくし立てる。これは昨夜、ミゥにもらったものだ。彼女のお手製で、私は青、彼女はピンクとそれぞれの髪と同じ色に編み込まれていた。

「これは昨夜、友だちにもらったんだよ。お守りなんだって、必ずまた会えるようにって」

「へぇ~、いいなぁ~あたしも欲しいなぁ!…むしろそんな事言ってくれる人が!」

「違うって、…幼馴染の…女の子だよ」

「んもう!隠さなくったっていいってばぁ~!」

どうもこの子は何でもかんでもそっちに持って行きたがる癖がある。彼女は空想の中の素敵な男性と抱き合っているつもりなのか、自分の体を抱きしめてクネクネと悶えながらしきりに、いいなぁ!と繰り返した。

ふと気がつくと複雑な顔をしたナイトと目があう。私が首を傾げると、彼は少し戸惑ったように首を振ると、運ばれてきたジョッキを手に取る。

「みんな、いよいよ出発だ。…苦しい戦いになるかもしれない。でも俺達は今までやり遂げてきた。…それはこれからも同じだ」

そう言ってテーブルを囲んだ一人ひとりに目を向け、最後に私の目をじっと見つめて高くジョッキを掲げる。私たちもそれに習ってジョッキを掲げた。皆、口元に笑みが浮かんでいたが、目は笑っていない。多分私も。

「エオルゼアに十二神のご加護を!…乾杯!」

「乾杯!」

稲妻が轟く空の下をチョコボが駆ける。グリダニアの、そしてエオルゼアの運命を掛けた戦いの場に向かう私達を、遠い空から細く響く歌声が見送っていた。

 

 

 

 

 

<解説>

旧FF14サーバダウンの当日にはたった一度きりのゲーム内イベント、カルテノー平原での防衛戦がありました。これはその前夜、いよいよ最後を迎えるFF14に興奮して眠れず、つい筆を執り、衝動的に描いたものです。

本シリーズのシルファはあくまで一冒険者でありたいので、メインストーリーのようにエオルゼアを代表する勇者様的な事にはならないことになっていますが、この話の中ではメインストーリーの方に合わせてあります。

また、途中で語り手が変わりますが、この部分は「魔法少女シャイニーかなた」(文藝部では未発表)の語り手たまきと、主人公かなたという子供のミコッテです。こちらも早めに掲載したいですが、これはかなりの書き直しが必要ですね^^;