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鈍い唸りを上げ、手入れの悪い錆の浮いたダンビラが横薙ぎに私の頬をかすめる。ぼろ布みたいな服の裾をひるがえして、闇雲に襲い来る連撃を、ステップを踏み、身をひねってかわす。敵の接近を許し、ほぞを噛んだ私は足元の土くれを蹴りあげ、野盗が怯んだところを身をひるがえして距離をとる。

「どこを見ている!次はお前だ、腰ぬけ野郎っ!」

自分の目の前にいた一人をしとめたヒューランのリーダーが、足元に転がる男を蹴飛ばして、私の目の前に迫っていた野盗を挑発する。カッとなった野盗が何か叫びながらリーダーに向かう間に息を整え、周りにいる敵の気配を探る。

左後方に一人、もう一人…草むらを右側に大きく回り込んで…たぶん私の後ろで呪文を詠唱しているララフェルの幻術士の少女を狙っている。

私が放った矢が草むらに飛び込むのと入れ替えに刃こぼれしたナイフを構えた野盗が飛び出してくる。動きに全く迷いがない…明らかに手だれだ。

私は腰を落とし、一直線に私に向かって走ってくる髭面の男に向かって弓を引き絞る。その瞬間、周りの景色が視界に入らなくなり、狙いの中心、男の心臓だけに意識が集中していく。全方位に開いていた意識がその一点に向かって急速に閉じていく感覚。

いっぱいまで引き絞っていた弦を離そうとしたその刹那、男が鋭くステップを踏んで直角に方向を変える。向かって右方向に回り込んだのだ。この男、弓の死角を解っている…。

私はとっさに腰を低く落としたまま、前に突き出していた左足を軸に右足を蹴って身体を右方向に回転させる。コマのようにスムーズに回転したその先には驚きに凍りついた野党の髭面が引きつっていた。

私の意識は既に相手の心臓をしっかりととらえている。そして微かにぼやけていたピントがきっちりと合ったその瞬間、限界まで引き絞っていた弦は解放され、心地よい音を耳に響かせて必殺の矢を男の心臓に向かってはじき出す。

「シルファ!危ない!」

幻術士の声。私の背後、既に大ぶりの片刃剣を振り上げた野盗の気配。私は奥歯を食いしばり、強引に後方に向かって仰け反りながら同時に三本の矢を番え、後ろに倒れ込みながら弓を引き絞る。

逆さに流れていく景色の中、恐ろしい形相で剣を振り下ろす野盗の姿と、その背後で必死に呪文を詠唱しているララフェルの姿がスローモーションのように映る。

高らかな弦の音が響くのと同時に、時間の流れが元に戻る。私は仰向けに草の上に倒れ込み、わずかに早く野盗の肩口に食い込んだ三本の矢は相手のバランスを崩して剣撃をそらす。たたらを踏んだ野党の身体がふいに炎に包まれる。ララフェルの呪文が完成したのだ。

身を焼かれる苦痛に地面に転がった野盗のもとに、残りの敵を一掃したリーダーたちが駆け寄る。

…危ない所だったが、何とかしのげたようだ。単純な野盗狩りの仕事だったのだが、戦闘中に出払っていた仲間が戻ってきて挟撃を受けたのだ。私は草の上に尻もちをついたまま、息を整える。

ララフェルの少女が駆け寄り、私の頬の傷に手をかざして回復の呪文詠唱を始めた。最後の一人を片づけた仲間たちが三々五々、私の周りに集まってくる。何とか、一人もかけずに乗り切ったようだ。

「お疲れ様、フォローが遅れてすなかった…」

申し訳なさそうに手を差し出すリーダーの手を掴んで立ち上がる。しかし、今回は仕方がない。前方の敵が多かったため、あの場でリーダー達が後方に走っていたら前線が崩壊して総崩れになっていたところだ。

私は首を振って答えると、改めて転がった野盗の数を数える。最初に6人、そののち、後方から3人の挟撃を受けたことになる。私達が5人だから、良くしのげたものだ。

「だが、あの体勢からよく当てられるもんだ。弓術ギルドではあんな撃ち方も教えているのか?」

妙な関心の仕方で大柄なルガディンの斧術士が問いかけてくる。聞き方によっては皮肉のように聞こえるが、当人は至極真面目で、裏表のない疑問だと最近気がついた。

私は苦笑してかぶりを振った。さっきのは完全に苦し紛れの一撃で、ちゃんと当たったのは偶然…とまではいわないけど、かなりきわどかったのは確かだ。

「そんなことないよ…さっきのは苦し紛れ。それに、私の弓はどっちかというと狩人上がりだから…」

そうだ、確かに私はグリダニアの弓術ギルドに所属し、いくつかの弓の技を教わったが、私の弓術の基本はあくまで猟師としてのものだ。

何か違うのか?…っと、解ったような、解らないような複雑な顔で髭をさするルガディンを見ながら、私はふと、初めて狩りに参加した時の事を思い出していた。あの時も苦し紛れの一撃で難を逃れたんだっけ…

 

※※※※※

 

あれは確か、私が14歳になったころ。

その頃私は村の狩人のギルドで一通りの弓の使い方、獲物の追い方を学んでいた。村はずれにある弓の練習場で的を狙ったり、紐で引かれた移動する的に矢を当てたりから始め、最近では先輩の狩人について実際の狩りの助手のような事をしていた。

私が助手についたのは、先輩のティリアさん。兄、グノームの幼馴染の女性で、ムーンキーパー族のこの村では唯一、サンシーカー族の血を引いていた。日に焼けた健康的な肌の色は、大理石みたいに色白な肌の多いうちの村の中では凄く目立っていて、子供のころからいじめられたりもしたらしい。

だが、兄とはウマがあったようで、良くうちにも遊びに来ていたため、私も子供のころからよく遊んでもらっていた。

「…ってな訳で、大方の事は身について来ただろうから、今日からは見習いとしてではなく、実戦での狩りに参加してもらう。言っとくけど狩り場に入ったら一切の甘えは無しだよ。あたいら森の住人にとって、これは遊びじゃないんだ」

いつもと違う、厳しい視線に緊張しながら神妙にうなづく。まだ小さかった頃、一度だけ大人たちの狩りを覗きに行って以来、最近助手として狩りに参加するようになるまで二度と狩り場に近付く事はなかった。

それに、助手として働いていたときは狩り場の中でも比較的浅い場所で、ごく単純な小動物を狩る事がほとんどだったので、今回のような本格的に仲間と連携するような狩りは初めての事だ。知らず、私の背筋が伸び、膝の上でにぎりしめた拳に力が入る。

「ははは、だいぶ緊張しているようだな。なに、大丈夫だ。シルファならすぐに狩りの中心を担えるようになるさ!」

女性の隣に立つ兄はそう言って豪快に笑う。ホントに楽観的…というか…肩身が狭い気分で、身を小さくする私の肩を叩き、兄は励ましてくれる。…いや、ほんと、やめて…お願いだから。

「…いい加減にしな、グノーム!お前の担当はあっちの子だろ!」

健康的な額に太い青筋を浮かべてティリアさんが怒鳴る。部屋の隅っこの方では本来兄が担当するはずの新人の子が所在なさそうにこちら見つめていた。心細そうな瞳にちょっと胸が痛くなる。

「いや、俺はただ初めての狩りの緊張をほぐそうと…」

兄の言い訳にますますティリアさんの怒声がヒートアップする。この人、本当に自分が何故怒鳴られているのか解っていないみたい…。

「だから!!それはあたいの役目だっつってんだろ!あんたはとっとと自分の担当の子のとこに行ってやんな!…ほら、悲しそうな顔でこっち見てんじゃないか!」

耳と尻尾を逆立たせ、部屋の隅の子を指さしてティリアさんが怒鳴りつけると、まだ何か言いたそうな兄はしぶしぶと泣きそうな顔で真新しい弓を握りしめたその子が待つ方に向かっていった。

「はぁ…はぁ…まったく…」

まだ狩りも始まっていないの荒くなってしまった息を整えるティリアさんに私は申し訳なさで胸が苦しくなり、小さな声でごめんなさいと呟いた。

兄の私に対する過保護っぷりは年々悪化の一途をたどり、時には村人さえ顔をしかめるほどになりつつあった。

うざったいだけならまだ私が我慢をすればいいんだけれど、現在狩りの中心を担う兄が私に対して特別扱いをするという事があったら、それは村全体の問題となってしまう。もちろん、実際には兄はそう言う事をする人ではないけれど、狩人皆がそう思ってくれるわけじゃない。

「…えーっと…なんだっけ…そうそう、とにかく、狩り場に入ったら絶対に気を抜くな。狩る側が、いつの間にか狩られる側になるなんて事も…」

「危なくなったら、いつでも兄さんを呼ぶんだぞ、兄さん世界の裏側からだってすぐに…」

担当の子に背を向けて熱く語り続ける兄に、ティリアさんが振り向きざま、そばにあった椅子を投げつけて強引に黙らせる。…凄い投擲能力。

飛んできた椅子を顔面で受け止め、白目をむいて倒れた兄をほったらかして、肩をいからせたティリアさんは私と、涙を浮かべておろおろと立ちつくす新人の子の腕をつかむと猟師ギルドを飛び出した。

 

※※※※※

 

村はずれにある森の精霊をあがめる祠で禊を行い、精霊たちに狩り場に入るための許しを請う。そして、狩りの安全と成功を願い祈りをささげると、村の裏口を出て村からも見える大きな木のある広場へと向かう。私がまだ子供の頃、狩りを覗きに行った場所だ。


あの頃の私はまだ森の怖さも知らず、好奇心だけで森に生きるものの禁忌を犯してしまった。あれからもう何年も経つけれど、私を見下ろす月だけはあの晩と何も変わらず、ただ、冷たく青い光を放ち続けている。

狩り場につき、弓や矢の準備をしつつ、狩りの手順を確認するティリアさんに、私とミゥ…兄が担当するはずだった子は緊張の面持ちでうなづく。ミゥは村の反対側に住んでいた事もあり、遊ぶグループがちがっていたためあまり面識はなかったが、線が細くて華奢な体のおとなしい子だった。

「よし、シルファにはもう説明したけど、今回は連携を使った狩りの練習だ。一人が獲物を追いだして群れから引き離し、もう一人が待機している場所まで追い込む。一撃で仕留めにくい相手や、狙いにくい場所から追い出す時にも使うから、良く覚えときな」

私達はガクガクとうなづいて了解を示す。行うこと自体はそう複雑ではない。一つ一つの行動は既に何度も練習を重ねてある。今回はそれを一つに繋げて、状況に応じて行うのだ。

「良いか、動いてる相手を狙うときには、狙いの中心だけに意識を集中するんだ。周りの事なんか、一旦意識からはじき出せ。狭く、狭く集中…な。…よし、まずはミゥ、あんたがおびき出してみな。シルファは向こうの…あの岩の向こうで待機。二人とも風向きには注意するんだよ。不用意に風上になんか立ってみな。脳みそ叩きだすからね!」

茂みを回り込んだ大きな岩の陰に身をひそめる。ピンと尻尾を立てて風向きを確認すると息を殺して気配を消して獲物の接近を待つ。

やがてミゥの放つ矢に追われ必死で逃げてくるマーモットの気配が近づいてきた。私は足を大きく広げて腰を落とし、弓を引き絞って逃げてくるマーモットに狙いを定める。

マーモットは障害物を避け、右へ左へ飛びさすりながら一目散にかけてくる。狙いは心臓。野生動物の生命力は侮れない。胴体などに当てても獲物は止まらず、そのまま森の奥へと逃げ去ってしまう。

だから、狙うときには心臓か、もしくは脚の付け根を射抜いて動きを止めなくてはならない。そう教えられていた。

私は必死にマーモットの小さな心臓に意識を集中しようとするが、獲物は左右に跳ねまわるうえ、木の枝や茂みが邪魔をして一向に狙いが定まらない。

獲物が自分の前を通過しようとした時、もう間に合わなくなると思い放った矢はマーモットのはるか頭上を通過して茂みの奥に消えた。

そうやって交代しながら月が傾く頃までマーモットなどを追い続けた私達は、くたくたに疲れた身体を大きな岩に預けてお弁当を食べた。華奢な身体のミゥはやはり身体があまり強い方では無いようで、本当はグリダニアに出て幻術士になりたいと言っていた。

でも、幻術の教室に入るためにはそれなりのお金が必要だし、たくさんの妹を抱えたミゥの母の事を考えると、一日も早く自分が狩人となって生活を支えないといけないと言って寂しそうに笑っていた。

ご飯を食べて少し元気が出た私達は狩りを再開する。少しずつ二人の息も合い始め、数頭のマーモットをしとめた頃、森の入口、あの広場の方が騒がしくなった。狩人の怒鳴り声や子供の泣き声が聞こえたことから、またどこかの子供が森に忍び込んだのだろう。

私は自分の事を思い出して苦笑したが、ティリアさんは目尻を釣り上げた。確かに、森のしきたりももちろんだし、私やミゥのような初心者の矢はどこに飛ぶか解ったものではない。

「少しの間二人でやってな、…いや、休んでてもいいや。ちょっと行ってくる。…良いね、無理はするんじゃないよ」

そう言ってティリアさんは広場の方に戻る。私達は顔を見合わせたが、狩りにも慣れ始めたのと、ようやく息が合って連続で数頭のマーモットをしとめられるようになってきたところだったので、ここで休んで勘を失いたくはなかった。

私達は再び配置につき、今度は私がマーモットを追いだす役になった。じっくりと風向きを測り、茂みに身を潜めて少しずつ接近する。丸々と太ったマーモットはのんびりと茂みの中で木の実をかじっていた。

このまま狙撃した方が早いのかもしれないが、今日は連携の練習だ。しかも、どちらかというと、逃げてくる獲物をしとめる方が主眼なのかもしれない。

慎重に息を殺して狙いを定め、マーモットの足元に矢を放つ。獲物が驚いてこちらを向いた瞬間、茂みを飛び出して次の矢を番えて迫る。マーモットが脱兎のごとく駆け出す先に矢を放って逃げる方向をコントロールし、ミゥが待つ地点に向かって追いたてていく。

さすがに茂みの中では4本足のマーモットには追いつけず、徐々に距離を置かれていきながらも、うまく獲物を追いたてられたことに安堵した瞬間、前方で鋭い悲鳴が上がった。

悲鳴の主を確認する必要もなかった。茂みを抜け、私は一気に加速してミゥのもとへと向かう。大きな岩を回り込んでミゥが待つ開けた場所で私を待っていた光景は、唸り声を上げる4頭の狼と、そのうちの一頭の顎に足をくわえられて振りまわされているミゥの華奢な体だった。

意識があるのかないのか、ミゥは抵抗らしい抵抗もできず、まるで子供に弄ばれる人形のようにぐったりとしたまま振りまわされていた。私の脳裏に、あの日の自分の姿がオーバーラップする。

私は大声を上げて突進し、でたらめに矢を放って周りの狼を追い散らす。そしてそのままの勢いで、驚いてミゥを離した狼に体当たりをして弾き飛ばす。思い切り肩を入れて当たったはずだが、軽々と立ちあがった狼は、忌々しげに唸りを上げると、私達の周りを回り始める。

私は荒い息を整えて弓を構え、尻尾を立てて周りを威嚇しながらミゥの様子を見る。ぐったりとして蒼白になったミゥの身体のあちこちには深い噛み傷が血をにじませていた。

まずい。身体が冷たくなってきている。早く村に運んで治療をしないと命も危ないかもしれない。だが、一頭でも勝てる見込みのない狼が4頭もいて、周りを取り囲まれている状況では私もうかつには動けない。

私は威嚇の声を上げ、狙いを定めて矢を放つが、それはことごとく的をそれ、狼の足元やはるか後ろの立木につき立った。

その時、背後から茂みの中を近づいてくる大きな影に気がついた。私がその影に気を取られた瞬間、私の死角にいた狼が私めがけて牙をむいて飛びかかってきた。

だが、私は逃げる事は出来ない。足元には意識を失ったミゥがいるのだ。その時、唐突にティリアさんの言葉が頭に浮かんだ。

「良いか、動いてる相手を狙うときには、狙いの中心だけに意識を集中するんだ。周りの事なんか、一旦意識からはじき出せ。狭く、狭く集中…な」

まるでスローモーションのように迫りくる狼の並んだ牙に視線を集中する。やがて意識は狭まり、周りを回る狼の唸り声も、草を揺らす風の音も、周りの景色さえも意識から消えていく。私を取り巻く景色が急速に前方の一点に集約していく気配。

狼の牙が私の間合いの内側に入る直前、ビン!っと澄んだ音色を奏でて矢が放たれる。

小ぶりな弓から飛び出した矢は私の喉を食い千切ろうと迫る狼の口に並んだ前歯の中心に命中し、黄ばんだ歯の破片をまき散らす。

甲高い悲鳴を上げて跳びさすった狼は、一旦怯んで首を振るが、すぐにまた体勢を立て直して、今度は周りの狼と同時に飛びかかってくる。そして、背後から迫る気配も一気に間合いを詰めて突進してくるのが解った。

その時、私の身体が勝手に動いた…というのは言い過ぎだろうか。私はとっさに高く跳びあがり、全方位に向かって矢をばらまく。かつて狩りの助手についたときティリアさんが放って見せた弓の技。アローへリックス。

一度見ただけだったからティリアさんのように美しい光の軌跡も描きはしなかったし、矢の飛び方もバラバラ、実際に威力をもった矢はほんの数本だったかもしれないけど、ドーナツ型の範囲でばらまかれたうちの何本かは確実に狼の厚い毛皮、そして背後の茂みから迫っていた影にも突き刺さった手ごたえがあった。

しかし、一旦は潮が引くように距離をとった狼たちだったけど、着地に失敗して手首と足首をひねってうずくまった私達の周りに、再び唸り声を上げ近づいてくきた。

私は歯を食いしばって身を起し、迫る狼を睨みつけたけど、もはや弓を構える事も出来ない。

やがて勝利を確信した狼が涎を垂らしながら飛びかかってきたその時、耳がツンとなるような衝撃波を放ちながら目の前まで迫った狼の身体に矢が突き刺さり、その巨体を向こうの岩のそばまで弾き飛ばす。

直後、驚いたとなりの狼の心臓にも鋭い矢が根元まで突き刺さり、あっという間に2頭の狼がしとめられた。

「シルファ!ミゥ!無事かい!?」

弓を構えて駆けてきたのはティリアさんだった。私は安堵しかけたが、私の背後にまだ2頭の狼が残っていた事に気づいて慌てて振り返る。

そこには既に射抜かれて事切れた2頭の狼が倒れ、茂みの中の陰も消え去っていた。…いつの間に…。

それから私達は狩人達に保護されて村に戻って手当てを受けた。幸い気を失っていたミゥも命に別条はなく、無事に隣のベッドで意識を取り戻した。私達は手を取り合い、ボロボロの身体で無事を喜び合った。

傍らには心配そうな顔をしたティリアさん。私達を二人きりにした事に責任を感じているらしく、浮かない表情だ。

「二人とも、ほんとに済まなかったね…あたいが傍を離れちまったばっかりに…」

私達はそろって首を振る。あの時は仕方がなかった。森に忍び込んだ子供たちはまだ他にもいて、とにかく最優先で保護しなければならなかったのだそうだ。実際、あの狼たちが狙ったのが子供たちだったら助からなかっただろう。

「俺からも謝らせてくれ。そもそも俺がきちんとミゥについていれば、こんな事にはならなかっただろう…」

深い憂いを含んだ…これは兄の声だ。声は私達の向かい、カーテンが引かれたベッドから聞こえた。薄いカーテン越しに大柄な人が横たわっている影が見える。

「兄さん…どうしたの、怪我でもしたの?」

少し心配になってカーテンの向こうに問いかけると、兄はばつが悪そうに言葉を濁した。

「いや…別に…ティリアに投げつけられた椅子が鼻にあたってな…」

兄のとぎれとぎれの言い訳を聞いていたら、ティリアさんが堪え切れないように笑って、カーテンを引きあける。

「おら!女々しく隠れてないで言ってやんな!あのアローへリックスもどき、なかなか良かったってさ!」

カーテンの向こうの兄の姿を見て、私は驚いて口をあんぐりと開け、ミゥは真っ赤になって目をそらした。

兄はうつ伏せでズボンや下着をずり下ろし、むき出しのお尻を高く突き出すようにして、ベッドの上にうずくまっていた。お尻にはまだ少し血がにじんだ包帯がぐるぐるに巻かれていた。

「うおおおぉぉ!!こら、ティリア!何をする!!さっさと閉めろ!」

ティリアさんは心底おかしそうに笑いながら、カーテンを閉じた。それでようやくあの時、背後の草むらに迫っていた影の正体が解った。背後にいた2頭の狼を倒したのが誰なのかも。

 

※※※※※

 

「…えっと、つまり向かってくる敵を打ち倒すというよりは…獲物を逃がさずにしとめるのが得意…というか…」

昔の事を思い出し、少し懐かしい気分になりながら、考え込んでいるルガディンに説明してみる。自分でもなんだか解ったような、解らないような説明だ。実際のところ、両者はこと戦闘における技術としてはそう大きくは違わないのだろう。

むしろ、そこに至るまでの心持や、技術としても戦闘に入るまでの敵の補足の仕方や敵の追い方、有利な地形への追い込み方などが違うんじゃないかと思う。

全員の治療が終わり、野党の一団をしとめた証を手に入れた私達は、陽が落ちる前に街に戻れるよう、急ぎ足になる。この時間ならちょうど晩御飯の少し前にはグリダニアに戻れるだろう。街に戻ったら久しぶりにミゥを尋ねてみようか。そして、できれば一緒に食事をしたいと思った。

ミゥは今、グリダニアの幻術教室で幻術を習う傍ら、司書として教室に併設された図書館で働いている。

あの後、比較的怪我の軽かった私と兄は程なく退院する事が出来たが、全身を噛まれ、足の付け根を咥えられたまま酷く振りまわされたミゥは、脚の神経をやられてしまったとかで、もう狩りに出る事は出来ないという診断だった。

退院してしばらくの間村の中で杖を使って歩く練習をしていたミゥが、ある日私のもとを訪ねてきた。グリダニアの幻術教室に入れる事になったそうだ。詳しくは聞いていないが、兄とティリアさんで入学金を持つ事にしたらしい。

「歩くのは大変になっちゃったけど…私、これからは好きな事をして生きていけるから…うれしいんだ」

そう言って微笑んだ彼女は、兄とティリアさんに何度もお礼を言って、それからしばらく後、グリダニアに向かって旅立っていった。

その後、私が村を出てグリダニアに住む様になってから時折会っては食事をしたりする関係が続いている。

私はあの日以来、少しずつ弓の技を覚え、今ではこうして冒険者となって狩人としてではなく、弓術士として弓を持つ事も増えてきているが、多分、根っこは変わっていない。

あの日、初めて感じた意識が前方に集中していく感覚。一旦狙いがついたら決して外す事はない、狩人の目。

普通の人から見たら狩人も、弓術士も同じなのだろう。もちろん、弓術士には狩人に無い、戦いに対する技術がたくさんあり、冒険者となった私はそれに助けられて生きている。

でも、それでもやっぱり、あなたの職業は何?そう聞かれたら私は胸を張ってこう答えるだろう。

私は狩人。森の狩人よって…。