紅茶と幻覚剤


駄目ですね、最近作り笑いをする場面が増えました。…何かを装う事は私の十八番、気づかれない自信があるのでそこはよしとしましょう。確実に、この思いは、気づかれない。誰も感づくことは出来ないでしょうから。
懐かしくも思い出したくなかった記憶、まだ私が私でない時、同じ感情を抱いた気がします。体の内面を強烈な酸で焼かれているような、喉に胃酸が逆流してしまった時の様なあの感覚…。まだ私の中にこれ程にまで強い情が残っていた。否、強い情だからこそ残ってしまったのか……どちらだとしてもさほど変わらないでしょう。
私は…ある男性を慕っております。………「男性」、ですよ?かつての私なら最高の喜劇として笑い飛ばし、飽きれば忘れ去っていたでしょう。しかし、何故でしょうかね……笑えない。今回だけは笑えないのです。当初は単なる暇つぶしの為にこの家に仕えておりました。そういえば、採用条件の緩さには呆れを通り越して笑えましたね。度々彼を罵って、侵入者には手厚い歓迎を施して、それだけの日々でした。

彼女が、あの女が来るまでは。

彼女が彼の屋敷に訪問し、談話するたびに私は冗談半分で二人をからかいました。
『…お二人は、どういう関係で?』と。
若干狼狽する彼が滑稽で、それを見てくすりと笑う、そう、始めはそれだけでした。
しかし、彼女が彼に合う回数が増える度、逆に彼が彼女に会わない日には残念そうにため息をつく事に気づく度、
『…お二人はどういう関係で?』
いつしか私は内心で笑うのをぴたりと止めておりました。代わりに体内を焦がすような不快な感覚が付いてきました。
……あの女は、私よりも長くあの方の傍には居ないのです。私よりもあの方のことを知らないのです。なのに何故……何故私よりも。近い場所に。居るのでしょうか?ねえ?いつしか私は、彼女に。あの女に相談されるのでしょうか。彼が好きな紅茶の銘柄など、彼のことを?私は易々とあの女に彼の情報を、私しか知らないであろう事を、話さなくてはならないのでしょうか。そんなに、そんなに不愉快な日がいつか訪れるのでしょうか。

…今、私の目の前には紅茶があります。私が入れました。彼の、ご主人の為に。そして、ついでにその隣の女に。私には生成した物質に幻覚作用を与える力が、例えば、幻覚作用を付与した角砂糖を、ミルクを、この眼前の紅茶に入れ、彼の世界から彼女を消し去ることが、そして、あの女の世界から彼を消し去ることが、いっそ心を壊してしまうことが、出来る力があるのです。




……………なにも、そこまでやるつもりはありませんが。



……………やるつもりはない、ということにしておきたいのですが。

















お詫び


凸之助さん宅のまいさん本当にごめんなさい。
あけちさん宅のノエルさんもすみません。
名前は載せておりませんが御二人のつもりで書きました。
Eisはあんなですが処刑本人は二人の末長い幸せを願っております!!