夜を歩く


時折、私を異常だと言う人間が居る。
それは紛れも無い事実であるのだから、特に弁解はしない。
確かに、私の体は、おかしい。
陽が昇る頃に目覚め、陽が沈む頃に眠る。それが普通の人間の習性である。
しかし、陽が沈む頃に目覚め、陽が昇る頃に眠る。それが私なのだ。
物心着いた頃から、ずっとそうであった。ずっと、普通の人間とは違う時を生きていた。
幼かった私が目覚める頃には、もう同年齢の人間はそれぞれの住まいに帰って。
私はただ、薄暗い庭でひとり遊びを続ける毎日を過ごしていた。
誰ひとりとして自ら以外の人間を見かけることが出来ない、というのは存在を知ることが出来ないということと同意儀で、大袈裟な話、世界に自分以外存在していないかのような錯覚に囚われる事もあった。
そして、今もそれは変わらない。
変わった事は、何時の間にか重力を操作し、幻想を見る事が出来るようになったこと位である。そして私は毎晩、電線を歩き続けて寂しさを紛らわすようになった。
あまりにもそれは非現実的で、嗚呼、明晰夢でも見ているのだと当初は思い込んでいた。
だが、冴えきった思考と、冷たく肌を撫でる風と、僅かにたわむ電線が、これが現実だと訴えており、私自身、この夢物語の様な現実を受け入れるしかなかった。
朝が来る迄、陽が夜明けを呼ぶ迄、只一人街灯の明かりと月を眺め往く。
恐らく明日も、私は夜を歩くのだろう。
心中の激しい渇望を、惑わすのだろう。