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無題の終わり 未定の始まり




設定する。

「違う」

設定する。

「……違う」

設定する。

「……、違う」

マグマをくみ上げ続ける水車小屋。
その中で男が一人、頭を抱えながらぶつぶつとつぶやいている。
時折舌打ちや、自身をなじる言葉を合間合間に挟む様子から相当悩んでいることがうかがえる。
男の視線の先にあるのは小さな紙。幾度も書かれては消された跡が見える。

ある種異様な光景だ。
男を知る者が現在の光景を見たら驚きのあまり、叫ぶだろう。

あのアイボタルがキャラクターシートを埋めるのにここまで悩むとは、と。

覆面作家アイボタル。
基本、彼が創作で詰まることはない。
アイボタルの生きている世界は現実ではない。
彼が生きているのは常に自分の妄想の中だ。
正確に言えば、本名や年齢を忘れるほどに現実から逃避している。
彼が書く創作物はその妄想を現実に吐き出しただけの副産物でしかない。
そのはずであった。

現在、小屋の中にいるのはアイボタル一人だけではない。
入り口付近にもう一人、外を見張るように男とも女とも見分けのつかない人物が立っている。
その人物こそがアイボタルを悩ませている元凶、無題の物語の未定の主人公。
仮の名を無代ミテイという。


無代ミテイは架空の人物だ。
アイボタル自身に覚えはない。
だが、間違いなく無代ミテイはアイボタルの創作したキャラクターである。
無代ミテイのキャラクターシートに永続的な設定を加えることができるのはアイボタルしかいない。
だからこそ、彼は迷う。

問題は架空の人物であるはずの無代ミテイが現実に存在してしまっているということだ。
どれだけそれらしく設定しても、現実の存在だと思うとどうしても違和感が出てしまう。

アイボタルにとって現実とは価値のないものだ。
それは、死ねば地獄行きのこの殺し合いの舞台でも例外ではない。
むしろ、死後も妄想が続けられると分かっているだけ好ましい状況でもある。
だからこそ、生きている間に決着をつけようと無代ミテイの設定に取り組んだのであるが、
結果はご覧のありさまである。

「……はぁ。なんでお前、『こっち側』に来たんだ」

ため息をつき、問いかけるようにつぶやく。

「『こっち側』には楽しいことなんて何一つないだろうに……」

無代ミテイは答えない。
性格も何もかもが未設定のため、答えようがない。
再びため息をつき、キャラクターシートに向かう。

【性格】
未定。だが、最低限のコミュニケーションはとれる
【経歴】
記憶喪失。過去は未定。
設定されれば思い出す可能性も。

今まで悩んでいたのが嘘のように二項目を埋め、シートを無代ミテイの額に押し当てる。
押し付けられたシートは吸い込まれるように無代ミテイの中に消える。
そして無代ミテイに『設定』が加わる。





マグマが流れる川のそば、アイボタルは一人歩く。
無代ミテイへの設定付加は反映されるのに数十秒かかる。
アイボタルが水車小屋を抜け出したのはその隙に、である。

無代ミテイの設定に特に意味はない。
自分で設定が決められないので他人に任せる、そんな設定をしただけだ。
ふとこぼした疑問に対する答えがほしかった、そんなはずは断じてない、はずだ。

設定を付加し、支給品も無代ミテイが死ににくくなるよう調整した。
ここから先は無代ミテイ個人の物語。
創作者であるアイボタルは関わるべきではない。
かつて読んだ本に書かれていた言葉を実行する。

「さて、どこへいくかな」

一言つぶやき、アイボタルは歩き続ける。
その足取りは彼らしくまっすぐに図書館へと向かっていた。

【E-5 水車小屋付近 / 未明】

【アイボタル】
【状態】健康、妄想中
【装備】なし
【所持品】基本支給品、ランダム支給品×3(確認済み)
【思考・行動】
1:妄想しながら図書館へ向かう
2:暇があれば無代ミテイの設定の続きを考える
【備考】
※支給品は無代ミテイの分を調節した余りです。
※死後の地獄の存在を知ったため、自分が死ぬことにそんなに抵抗がありません。




気が付くと、見知らぬ建物の中にいた。


首をひねり、記憶をたどる。


    【突然だが、これから貴様たちには「半分になるまで」殺し合いをしてもらう】


なるほど、ここは殺し合いの会場みたいだ。


納得して、再び記憶をたどる。


……。


何も出てこない。


唯一思い出せた名前もどうにもしっくりと来ない。


どうやら自分は記憶喪失というものらしい。


手がかりを見つけようと懐を探ると、一枚の紙が出てきた。


何か書いてあるようだが、読めない。


誰かに会ったら見せてみてもいいかもしれない。


近くにあったデイバックを探ってみる


支給品らしきものが二つ、手掛かりになりそうなものはなかった。


これで手詰まり。


さて、これからどうしたらいいだろうか。


未定の物語が今幕を開ける。


【E-5 水車小屋 / 未明】

【無代ミテイ(仮)】
【状態】健康、記憶喪失
【装備】なし
【所持品】基本支給品、無代ミテイのキャラシート、ランダム支給品×2(確認済み)
【思考・行動】
1:さて、どうしよう
【備考】
※支給品は無代ミテイが生き残るためにアイボタルが調節しています。
※キャラシートに書き込むことで誰でも設定を付加できます。


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