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「道化と不死者」




騒々しい中、彼は歩いている。
コツ、コツ、コツ、コツ……規則正しい靴の足音がなるが、それは周りの騒音にかき消される。
目深くフードをかぶり、全身の肌を隠している何者か。
肩にデイバックを担ぎながら、騒がしいアトラクションを気にすることもなく、しかしたまに興味深げに見回し、悠然と歩くその男。
何故だろうか?……アトラクションの施設から降り注ぐ光が、この人物を弾いているような、奇妙な印象を受ける。

さて、現在の状況を考えてみてほしい。
今現在、この人物は、首に危険な仕掛けのある首輪をはめられ、殺人という行為を強制される立場にある。
普通なら多少なりとも、警戒や緊張感を持つことが普通ではないか?
しかし、彼はそんな雰囲気は微塵もなく、ぶらぶらと歩く様子を見るに、安心感すら感じている……ようにも見える。

安心感があるということは、裏を返せば『余裕』がある事。
この状況から余裕を見いだせるのは、大きく分けて3つほど考えられる。

1つ、彼が殺し合いの事を本気で考えていない事。または理解できない馬鹿。

2つ、殺し合いという状況でも安心し得る程の、強力な武装でも支給されたか。

3つ、余程死なない自信があるか。


強力な武装を所持しているから?馬鹿だから?……否。
強力な武装ーー想像しうるのは銃火器だが、それらも所持せず、
危機管理意識の足りない、大馬鹿者というわけでもなく、

ごく当たり前に、『死なない確信』がある為に、彼は自信を有し、それが余裕につながっている。



「はじめまして、見知らぬおまえさんよ♪」

そんな彼に、背後から話しかける者がひとり現れる。
騒音の中でも、不思議と聞こえるその声に、振り向く男。
まず彼の目につくのは、にやにやと笑うその顔。
白く塗りたくられた顔に、虚無の黒を宿す瞳。
ボサボサの髪の下、その顔がけらけらと笑う。
肩にデイバックを担ぎ、黒色の多いパンク風ファッションを着こなすその女性は、右手を彼の方に振っている。
両者の距離は十メートルほど、気配を消して近寄っていた道化は、僅かに驚いた様子の彼を見ている。

「お前は誰だ?」
この殺し合いに招かれ、一言も口を聞いていなかった男が、道化に尋ねる。

「お前は誰か?お前は誰か?……そうさね、あたいにとっても、あんたにとっても名を名乗る必要もないさ、名が無いものに名を尋ねることは無粋なのよね」

右手の人差し指を上に上げ、どことなく芝居じみた行動を起こす道化。


「強いて言うならただのしがないクラウン《道化師》さね」
騒がしい遊園地の中で、自らを道化師と名乗る人物。
世間一般のイメージの赤鼻も、風船や馬鹿みたいに大きな靴も履いていない。
しかし、この女性には道化という言葉が一番しっくりと来る。
男は怪しさ満点のクラウンに、それなりの奇異の視線を向ける。
その視線を気に求めず、ゆっくりと男に近づくクラウン。
男は近寄ってくるクラウンをフードの奥で見据えながら、しかし背後に退こうとはしない。
8メートル
6メートル
3メートル、
……僅か2メートルほどに近づいたクラウンは、今日の天気の話をするような軽い調子で男に喋った。


「そしてあんたはさようなら♪」

男は、焼きつくような熱を感じ、その意識を失った。



力が抜けた男の体が、バランスを失い倒れ込む。
喉元から、血のシャワーをまき散らして。
「服が汚れちまうだろ!」
血塗れのナイフを左手に持ち、自身に向かって倒れ込んできた亡骸を蹴り飛ばすクラウン。
その声には、たった今ひとりの人間の喉を切り裂いたとはとても思えない程、罪悪感や罪の意識のかけらも無かった。

「早速早速、やはり偉大な先人の残した知恵は素晴らしいさね。ナイフを発明した奴に乾杯」
戯言を口にしながら、痙攣する男の亡骸から、デイバックを奪い取ろうとするクラウン。
そこで初めて、男のフードに隠れていた素顔を見た。
はだけたフードから覗くそれに、一瞬固まる。

ーー真っ白い、一言で言えばそれだ。
アルビノというやつだろうか?クラウンのメイクとは違い、色素の抜けた肌。
顔全体が、全くの白のみ。
その異質な素顔を見つめ、驚きのあまり固まるクラウン。
男のつけている黒いサングラスが、肌色のためによく目立つ。
しかし、彼女が驚いているのは彼の肌色だけではない。


「いきなり酷いじゃないか」


喉を切り裂かれ、死んだはずの男が喋り、ゆっくりと立ち上がる。
クラウンは驚いていたーー男の喉には、あるべきはずの切り傷がなかったから。
血は、ついていた。でも、喉の傷は綺麗さっぱりと『治っていた』

「……ほーう?、Mr.ホワイトマンよ、あんたはてっきり死後の地獄ライフに行ったと考えてたんだけどね……」
左手に持ったナイフを構え、興味深げにするクラウン。
聞き方によっては侮辱とも取れるあだ名を気にする風もなく、
「俺は不死なのさ」
無表情のまま言い放つ白い男ーーイリス・ハンニバル。
「へえ……」
確実に喉元を切り裂き、殺した筈の男。
しかし、溢れていた血はそのままに、切り傷は見当たらない。
それどころか、自分の喉を切り裂いた相手を前に涼しげにしている。

「さぁて……攻撃してきたって事は、始末しても文句は無いな?」
懐から、支給されたアイテムーーカッターナイフを取り出し、刃を出すイリス。
その様子を見て、道化は…

「Mr.ホワイトマン……お前さん、退屈していないか?」

面白い玩具を見つけた子供のように、笑顔を浮かべる。
ピク……表情の乏しいイリスの顔が、微かに動く。

「……なぜそう思う?」
些か興味を持ったのか、それとも気まぐれか、尋ねるイリス。
「みればわかるさ。いかにも退屈してますと書いてるような顔だぜ」

「あたしは、このイベントを楽しみたいんだが……パンチが足りないと思わないか?」

「イベントを盛り上げるのはあたいの役目……いや~ん、でも悲しきかな。機材が足りない」

「個人的にはガソリンや爆弾や銃火器があれば良いんだけどよ、無いものは仕方ないじゃん」

「そこでだ。退屈そうなMr.ホワイトマン……」

「自称不死で真っ白なあんたに提案だ」







「この殺し合い、気が狂うほど楽しまないか?あたしとふたりでね」



イリスにとって、死とは漠然としたものだった。
生まれながらの彼の得意体質ーー肉体に持つ『幹細胞』と言う特殊な細胞により、どんな致命傷も致命傷たり得ない彼には……
首を切られようが、銃で撃たれようが、細胞が正常に機能すれば、すぐに治る。
そんな彼は、常に刺激を求めている。
不死の肉体を持つものとして、快感を得られる人生の娯楽は、意外と少ない。
どれも『飽きる』からだ。
体質故に、常人よりも長く生き続け、自分の出生のルーツすら忘れているイリスは、
人生に、半場飽きていた。
刺激のない人生など、なんら楽しくもない。
一風変わった刺激を感じるため、死にたがりを集めて『人間狩り』を行ってもみたが、それすらも最近飽きてきていた。
突如呼ばれた殺し合いの中でも、それはあまり変わらない。
不死の自分が死ぬ運命だったというのは驚きだが、
半数を殺せば生還?実につまらない。
殺し合いを行うなら、もっと派手にやるべきではないか?
クラウンの言葉は、割と的を射ていた。
不死としての自信を持つイリスには、半数を殺せば終了の殺し合いなど、物足りない。
自分が『殺される』事などありえない。『殺す』事にも飽きている。
ぶらぶらと歩きながら、これからどうやって暇を潰すか考えていたイリス。

「お前は、俺の退屈を埋められるか?」
刺激を求める不死者は、邪悪な道化に尋ねる。

「あたしを誰だと思ってる?……あんたの『才能』なら、このサプライズを会場大爆笑に持っていける」
愉快な滑稽な虚構な悪意な奇抜な異常な道化は、

「あたしはクラウン……道を化かす女さ」
右手を差し出す道化師、顔一杯に笑顔を浮かべて、彼女は笑う。

「俺はイリス……イリス・ハンニバルだ」
道化の右手を握り、握手する不死者。
幾ら不死でも、一度殺された相手を受け入れる辺り、彼も壊れている。


今ここに、奇しくも過去の無い者同士の同盟が結ばれた。


【H-6地獄遊園地/未明】

【クラウン】
【状態】健康
【装備】サバイバルナイフ(血塗れ)
【所持品】基本支給品×1、ランダム支給品×2
【思考・行動】
1:この殺し合いをクラウン風にコーディネートする。
2:イリスと行動を共にする。
【備考】
※殺しに対して抵抗のない人格破綻者です。
※イリスの不死性を知りました。

【イリス・ハンニバル】
【状態】健康、フード姿、サングラス、喉元あたりに血が付着、
【装備】カッターナイフ
【所持品】基本支給品×1、ランダム支給品×2
【思考・行動】
1:刺激を求める。
2:クラウンと行動を共にする。
3:「この服お気に入りだったのに……」
【備考】
※殺しに抵抗はありません。
※細胞が生きてさえいれば、どんな肉体的損傷も再生します。
※高温の場所や気温は避ける傾向あり。


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