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「標本の医者の歩幅は60センチ」




 学校の七不思議によく挙げられる妖怪と言えばなんだろう。
 トイレの花子さん。確かにメジャーだ。音楽室の肖像画。これもままある。
 そしてそれらと同レベルによく挙げられる妖怪と言えば――「動く人体模型」だろう。

『30メートルほど先に窪地を発見♪ そして湿度の若干の上昇♪
 兄さん、兄さん♪ ――どうやらあそこにあるのが、血の池地獄みたいよ♪』 

 ただ今回、この地獄の殺し合いに招かれた「動く人体模型」……もとい「動く人体標本」は、
 そんじょそこらの人体標本よりさらに個性のある妖怪であった。
 まず、腕が六本ある。そして白衣を着ている。
 さらには、背中にナース衣装のガイコツ、骨格標本を背負っている。
 その性質は夜中に学校を走り回るだけのノーマル人体標本とは異なり、異質で異常。
 手術し、解剖し、観察する。人間にとっては害しかなさぬ、化け物の医者とナースなのだ。

『濃厚な血液の匂いを確認♪ 兄さん、どうかな♪ 採取してみたら♪』
「そうだね。“小目的”は達成したからね」

 南の果ての錆びた船にて出会ったニンゲン一名を手ならしに「解体」したあと、
 本表体人は真っ直ぐに北へと向かった。
 理由としてはひとつ。錆びた船の北に、血の池があったからだ。

『ええ♪ 兄さんの歩幅60cmに対して、1998歩♪ 誤差を想定しておよそ1.2km♪
 マス目の端部分を考慮し、この島の地図の縮尺は1マス1km四方と推測できる♪』

 血の池に特に用があったわけではない。
 本表体人が確認したかったのは、地図に載っているこの島の広さだった。
 コンパスを手に北に一定の歩幅で歩くことで、I-4錆びた船からG-4血の池までの距離を測る。
 それにより、間に挟まるH-4エリアの直線距離をおおまかに算出。
 1マスの距離が測れてしまえば、マスで区切られた地図の全体の広さも出すことが出来る。
 無いはずの脳でそれらの方程式をすらすらと弾きだし、けらけらと看護婦は笑う。

『9km×9km=81km^2♪ この島の広さは、およそ80平方キロメートルと概算する♪
 参加人数を40人と仮定すると、2平方キロメートルに1人はいる計算♪
 さらに人が集まりやすそうな場所を狙って回れば、効率は上昇すると思われる♪』
「うん、そうだね」
『ってあらら? もう、別のこと考えてるの、兄さん?』

 血液保存用の試験管に血の池の血をすくいとり、ギョロリと観察しながら体人は曖昧に頷く。
 島の広さを測り終えた体人の頭の中はすでにこれからのビジョンのことでいっぱいで、
 背中に負った看護婦の確認作業はあまり耳に入っていなかったのだ。

「うん」

 手術時以外は寡黙な体人は、わざわざ自分の脳内を後ろの看護婦に伝えることはない。
 それは伝えなくともだいたいの意思は汲んでサポートしてくれるからでもある。

『分かりました兄さん♪ 私は兄のサポートをするナース。何も言わずとも付いていきます♪』

 だから彼女の言葉に体人はこくりと頷くだけで別のことを考えることができるのだ。
 今。本表体人の頭の中には二つのビジョンが平行で映し出されていた。
 ひとつは目の前の試験管の中でゆらぐ血液。
 どうもこの血の池の主な成分は女性の経血のようだ。独特の匂いですぐわかった。
 なぜ経血なのか……少しピンとこなかったが、おそらく血の池自体、そういう罪人が落ちる場所なのだろう。
 そして細かく調べないと分からないが――池を作るほどの量あるということは、複数人の血液が混ざっている。
 つまり、輸血などには使えそうもない。吸血鬼もあまり好まない味だろう。

 もう一つのビジョンはこれからの移動ルート。
 幸いに基本的な手術セットがデイパックに入っていたため一人は「解体」できたが、
 これから先この量ではやはり心許なく、手術用具の確保はまず必須だ。

 つまり向かう場所は決まっているようなもの。が、現在位置からすると少し遠回り。
 もしこの島が予想より広く、寄り道をする時間がなかったら、この回り道は諦めていた。
 しかし今の計算で弾きだした島の広さならば、向かってもよさそうだ。
 橋を挟んで向こう側にある「赤の国」の「病院」。本表体人の当座の目標地はそこである。

 むろん道すがら解体しがいのありそうな人間に出会ったら、それを優先するが。
 本表体人は血の池のほとりから立ち上がり、再び骨格標本を背負うと歩き始めようとした。

『あ、ちょっと待って兄さん♪ まださっきの被験者のデイパック開けてないわ♪』
「……あ、あー。なんでかな。どうも忘れるね」

 しかし骨の看護婦に指摘されて、ようやくさっき拾ったデイパックのことを思い出した。
 本表体人は特におっちょこちょいな訳ではないのだが、どうもこのデイパックについては意識から外れる。

『もしかしてもしかすると、“私たちにとってあまり意識したくないもの”が入っているのかも?』
「少し興味深いね」

 変哲のないように見えるデイパックを少しおそるおそるしながら開けてみる。
 すると……。


++++++++++


 数秒後。ぜぇぜぇと息を吐く、人体標本と骨格標本が血の池のほとりに立っていた。
 人体標本の6つあるうちの1つの右手は熱ごてを当てられたかのようにぐじゅぐじゅに溶けていて、
 早急に治療が必要なようだった。
 こぽこぽ。
 血の池になぜか空包が浮かぶ音がしている。それはさっき体人が投げた、デイパックから漏れた空気の音。

『ま、まさか本当にっ♪ 私たちの天敵が入ってたなんて……っ♪』

 瞼はないが、目をぱちくりさせながらみたいな感じで骨の看護婦がしゃがれた声を出す。
 デイパックの中には三つランダム支給品があった。
 しかし、そのうちの一つが彼ら妖怪にとってあまりにもヤバイ代物だったため、
 すべて確認する前に緊急措置で体人が血の池へとブン投げた。
 ……本当に通りすがりにただ殺されただけの名無しさんのデイパックが、体人たちにダメージを与えたのは、
 ある種の意趣返しともとれるかもしれない。

 そのデイパックに入っていたのは。今ゆっくりと他のランダム支給品とともに湖の底へ沈んでいくのは。
 とある魔物退治専門家の伝家の宝刀にして、異端を殺す牙。


 十字架の剣、と呼ばれる聖剣だった。



【G-4 血の池のほとり/黎明】

【本表体人(ほんひょうたいじん)】
【状態】右手のひとつに火傷
【装備】基本的な手術道具セット(注射器や手術刀、薬品などの詰め合わせ)
【所持品】基本支給品、ランダムアイテム×2(確認済?)
【思考・行動】
1:面白い人間の被験者を探して、解剖する。
2:手術刀などの補充のため病院へ向かう。
【備考】
※会場のおおよその広さを推測しました。

※G-4血の池にデイパック(基本支給品、十字架の剣、ランダム支給品×2)が沈んでいます。


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