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「クワイエット・ハンティング」




 苔も生えない赤茶けた荒野。
 見渡す限り生命は死にたえたように何もなく、
 時折申し訳程度に大岩が風景を作るのみの殺風景。
 そんな荒野の一画を、ハリネズミのようにささくれだって尖った黒髪の、長髪の男が歩いていた。
 視線だけで人を刺せるほど切れ味鋭い細長の目は周りなど見ず淡々と前を見ている。
 鼻筋は少しくぼんで口は真一文字。顎は無精ひげもなくすっきりとしているが、眉はない。
 歩き方は少し猫背だがきびきびとして隙がない。
 総合して受ける印象は強面。人を寄せ付けない、全方位の警戒心が感じられた。

「おい、人間」

 黒白縞の囚人服を着て歩く彼に、図々しくも背後から声をかけるモノあり。
 彼が振り向くと、そこには黄色と黒の縞模様を猛らせている一匹の獣がいた。

「おれは虎丸と云う。貴様も名を名乗れ――殺し合うぞ」

 人語を解し、獣より化け物と言ったほうが良いであろうその参加者は、
 彼の放つ警戒心に気付いていながらあえてそのテリトリーに土足で踏み込みに行ったようだ。
 長い時を生きて膨れ上がったその体躯、虎というよりはまるで巨像。
 その性格は巨大な生物ほど温厚という自然界の掟に真っ向から逆らって残忍である。
 対する小さな男は。
 痩せたその首をひょいと傾げ、鞄から獲物を出しながら、真一文字に結んだ唇を解き第一声。

「ククッ。笑わせるなよ 狩られる獣になぜ名を名乗る?」

 挑発した。
 取り出すは全世界のスタンダードにして確かな実力を持つアサルトライフル、AK-47。
 構えて標準を虎丸の鼻先へ。虎丸は動かない。動じないというほうが正しいか。
 代わりに獣は、男から確かに発されていた殺気に、笑顔で牙を見せた。
 ――そこから両者の間に言葉はなかった。獣と一笑された虎丸はならばと野性を開放し、
 囚人は再び口を真一文字に閉じ、ただお互い当然であるかのように戦闘を始めたからだ。
 いいや、それは戦闘ではない。狩りだ。
 ヒトがケモノを、ケモノがヒトを狩らんとす、地獄の狩りの始まりであった。


+++++++++


 牙と爪。そして柔軟な筋肉から躍らせる俊敏な動き。
 かつて本当にただの獣だった時代からずっと繰り返し躰に染みついた獲物のしとめ方。
 それは音もなく跳躍し、気付かれぬうちに喉笛を噛みちぎる静かな狩り。

 無音が轟いた

 巨体が空間を飛び越えたかのような勢いで、次の瞬間にはもう牙を閉じ終えている。
 しかし手ごたえはなかった。興が乗りすぎたか。
 虎丸は狩りの前に獲物に名乗りを上げたことを今さらになって苦笑する。
 囚人服が視界の端にちらり。
 その右手のライフルがいつのまにやら火を噴いている。

 こちらも、無音。

 虎丸は痒みを感じる。つまり側面の毛皮に銃弾が着弾したということだ。
 見れば囚人もまた苦笑していた。それはそうだろう。これで決めるつもりだったのだろうから。
 音無しの銃撃。――虎丸の歴史ある硬い毛皮が並みの銃弾を通さないものでなければ、
 確かにこの一撃で狩りは終わっていたであろう。
 しかし――銃弾は弾かれた。
 おそらくは消音道具で銃声を消した上での不意打ちだったのだろうが、
 失敗に終わった。これでまた、こちらのペース。そして虎丸は、自らもデイパックから道具を取り出す。

 道具の使用は自由。ゆえに獣も道具を使う

 煙玉、と呼ばれる類のものらしい。ひとたび地に落とし刺激を与えれば、
 音もなくその丸い包みから灰白い煙が噴き出して赤茶の荒野を覆い尽くした。
 視界が完全に煙で埋まる。霧の日のように。
 さあて、と虎丸は鼻を澄ます。
 ヒトは視界を奪われると脆いがケモノはそうではない。元より目より鼻を信ずる。
 音を消そうが硝煙の匂いは消せていないことに気付いていた。あとはその匂いを追って噛みちぎるだけ。

 無音を轟かせ、獣は跳ぶ

 さらに鋭いその跳躍をもし観る者がいれば、コマ落ちした映画のフィルムに見えただろう。
 一で身をかがめ、二ではすでに獲物の前で牙を閉じている――正しく完璧な狩りの動作だった。
 問題はまたもそれが空を切ったことだ。正確には、囚人服を噛んだ。
 硝煙の匂いはあえてつけられていたのだ。       その服に、囮のために。

 背後から気配

 虎丸は振り向く。振り向いたのがいけなかった。
 すでに晴れかけた煙の中で黒い影が獣の眼球に銃口を押し当てた。
 完全消音サイレンサー。Mr田中博士が開発し闇に葬ったはずの危険すぎるアサルトパーツ。
 確かにそれが囚人の銃にカスタマイズされていたのをもう一方の目が確認するうちに、
 無音が鳴り、火花が襲い。

「グォオオオオオオオアアアアアアアルルルルル!!!!!」

 戦域に初めて本当に轟いた音は、しゃがれた獣の醜い咆哮であった。


+++++++++


 囚人、ガイル・バッグウェルは見下ろした。
 巨体である故完全に見下ろす姿勢にはならない。見下す、といったほうが正しいか。
 眼球から脳を撃ち抜かれ、赤い涙を流しながら横たわる虎丸の姿が彼の足下にある。
 その体躯はもうぴくりとも動かない。人語を解す化け虎は死んだのだ。

「ガイルの旦那ァ、ほら言った通りちゃんと撃てたでしょ。これであっしのこと信じてくれますか」
「……信頼はしない。だが、評価はしてやる。星五つだ」

 死んだ虎と喋れる訳はない。ではガイルは今、何と喋っているのか?
 答えは簡単だ。ガイルが手に握る銃。AK-47は意思を持ち喋る特別なAK-47なのである。

「お前が最適なタイミングでオレを動かしてくれたお陰でこの虎を殺せたのは事実。オレはその事実を評価するだけだ」
「うひょ、お堅いっすね旦那ァ。でもまあいいっすよ、あっしは撃てればそれでいいんで」

 種明かしをすると、ガイル・バッグウェル単体では虎丸に勝つことはできなかった。
 彼は恐ろしい犯罪経歴を持つ凶悪な囚人ではある。
 が、その運動能力は人並み。
 あるいは獄中生活で制限された行動を続けていたから人並み以下かもしれない。
 たった二の動きで人を噛みちぎる虎丸の凶暴な牙を避け、銃弾を撃ち込むには遠い能力値だ。
 そんなガイルの幸運は虎丸に出会う前にAK-47と同盟を組んでいたこと。
 AK-47は銃でありながら意思を持ち、何の魔術か、ある程度空中を浮遊して自力で移動が出来る。
 ゆえにその移動意思をガイルに伝えることで、ガイルに回避行動を促すことができたのだ。

「あっしこれでも“武器”なもんでね。
 匂いなんかよりもっと鋭い“殺気”を読めば、どっから攻撃が来るかなんて御見通しですよぉ。
 でも服を囮にするたあ、さすが旦那はドS戦術使いますねぇ!? あのままカウンターも出来ただろうに!」
「より予想を裏切られない確実な方法を選択しただけだ」
「あっは! 本当に“裏切られるのが、お嫌いな方だ”!」

 表情を変えず銃の言葉を受け流しつつ、ガイル・バッグウェルは振り返って再び、
 全方位への緊張を崩さない独特の歩きを再開した。
 向かう先は当面は赤の国。堅実に食料を調達し、その後は監獄にでも籠るつもりだった。
 両親に捨てられ、仲間に裏切られて投獄された彼は、何より裏切られることを恐れる。
 それは仲間にでも、社会にでも、運命にでも――自分にさえ。
 ガイル・バッグウェルは自分すら信用していない。あるのはただ五段階評価だ。
 今の戦いは、星四つ。悪くはない。
 だがずっとこのような戦いが続くか、続けられるかといえば。そこまで自分を信じられない。
 ならばゲーム終了まで籠っているのが定石だ。

「……殺さずとも生き残れるのなら、出来うる限り殺しはしなくていい。
 生き延びたあと、寿命まで確実に生き延びれるのなら、そこで思う存分殺せばよい。だろう?」
「ひゅー、しびれます旦那。約束ですよぉ、一緒にあっちに帰ったら、あっしで殺してくださいね!」

 綴られたルールを逆手に取り、
 ガイルは生き残ってから鬱憤を晴らす方向で計画を立てたのだった。
 それはAK-47がほれ込むのも分かるほどに、冷静な判断力。
 言い換えれば狡猾さ。それこそが、ガイルの最も恐ろしく、また強みである精神性。


 ――――――――――――――――――ざり


 だが。ここは地獄だ。
 魑魅魍魎が跋扈するこの地で、そう簡単に計画通りに行くと思ったら、大間違いである。


 ……ぎぎぎっ。ぎぎっぎぎっぎぎぎぎぎがぎぎぎぎがぎぎぎぎぎっぎっぎぎぎぎぎちっ!!!



+++++++++++


 不気味な音にちらと後ろを見返した時、
 ガイル・バッグウェルはこちらに飛びかかってくる虎丸の姿を眼球に捕らえた。
 それは野生の本能。
 でなければ最後のひと絞りの力。
 凶暴たるその性気で現地住民には神格化すらされている虎丸の怒りを込めた虚動だった。
 ガイルは呆然として動けなかった。AK-47も言葉を失った。
 こちらに飛んでくる牙をスローモーションで眺めることしか出来なかった。

 眼から赤い涙を流すその首が、ガイル・バッグウェルの頭部を包み込んだ。
 生ぬるい口腔内の感触と温度が囚人を包み込み、そして、牙が―――――――










「……力尽きた、みたいっすね」

 AK-47がほっと胸をなでおろしながら呟く。牙は、刺さらなかった。
 ゆったりと、ガイルの頭部を口に含んだまま虎丸の体から力が抜けていく。 
 口からごぼり、獣臭い血液のシャワーが溢れたかと思えば、口は外れて今度こそ巨体は地に伏した。
 それはそうだ当たり前だ、眼球から脳髄をライフル弾でかきまぜられて生きているほうがおかしいのだから。
 だが。

「――ククク」「……旦那?」

 だが、その最後の本能的動作は、ガイルの命を脅かしたのは事実で。
 ガイルにとってその事実は、スイッチを入れるのに十分だった。

「こいつ、騙したな。オレを騙した。死んだフリしてやがった。騙してやがったぞ。
 信用できない。信用できないぞ。裏切りやがって。裏切りやがって。……殺してやる」


【虎丸 死亡】


【I-7 荒野/未明】

【ガイル・バッグウェル】
【状態】健康、上半身裸、血まみれ
【装備】AK-47(参加者)
【所持品】基本支給品、ランダム支給品×2
【思考・行動】
1:監獄にでも籠城して生き残り、その後鬱憤を晴らす
2:誰も裏切らせない。最初から自分すら信用しなければよい。
3:赤の国で食料を調達

【AK-47】
【状態】バッチリ
【装備】完全消音サイレンサー
【所持品】なし
【思考・行動】
1:ガイルの旦那についていく
2:できればガイルの旦那に信用されたい
【備考】
※本人自身が武器なのでAK-47に基本支給品はありません。
※武器の勘で殺気を感じ取り、攻撃の方向をだいたい読み取れます。
※無限の弾薬を持っています。



 ……それから一時間の間、ガイルはAK-47の無限の弾薬を惜しみなく使って、
 虎丸の身体が万が一にも動かせなくなるまで、その死体を殺し直し、破壊し尽くした。



※I-7の虎丸の支給品と死体は大きく損壊しました。


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