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地獄の沙汰も楽しみ次第




「逃げるが勝ち」ソイツが俺の座右の銘。
金は好きだし、財宝集めも大好きだ。だがそれは命あっての物種。死んでしまえば金を使えなくなっちまうんだから、命がヤバい時には迷わず逃げる。
命は大事に、そしてお宝も大事に。このルールを守っている間はそう易々とは死なない……と思ってたんだけどなぁ。

「ええと、俺って何か死ぬような心当たりあったっけな……昔入った遺跡の呪いとかそんな感じのヤツかねぇ」

呪いだとかそういう類なら腐るほど受けている自信があるから、それが原因だと考えればある程度は納得できる気がする。
世界中のありとあらゆる遺跡や廃墟を荒らし回ったツケってやつなのかも知れない。まぁ、さんざん罰当たりなことをしてきたから当然と言えば当然だな。
だけど、どうやらあの死神娘が言うにはまだ復活のチャンスがあるらしい。
要は殺せばいい。さっきの場所に居た連中を半分になるまで殺せば、俺は生き返れる。随分と魅力的…いや、素晴らしすぎる「お宝」じゃないか。

「まだ死にたくないしな……まぁやってみるとするか」
「ほう、お前は殺し合いに乗るのか。単純すぎてつまらんな」
「!?」

思わず振り向くが、誰もいない。後ろにいないということは上か、下か──いた。
白い毛並を持った狐が、民家の屋根から俺を見下ろしている。ソイツはいかにもつまらんというような表情で欠伸をかみ殺すと、ニヤリと笑いながら言った。

「どうした人間。我も魂とやらの一つだぞ?殺さぬのか?」

俺は何も答えられないまま立ち尽くしていた。理不尽な目に遭うのには慣れていたつもりだが、こんなのは完全に想定外だ。
今まで少なくない場所を訪れてきたが、喋る狐なんて一度も見たことがない。ましてやソイツにいきなり話し掛けられたりすれば、誰でも固まる。

「何故黙る。我ほど心優しい狐は他におらんぞ?」

……よし。落ち着くんだロージ。相手はしょせん獣。力じゃ勝てないが、知恵比べならこちらが上だ。
今のところ敵意はなさそうだし、なんとかしてこちらのペースに持ち込んでしまえばいい。

「待て待て、アンタはどうなんだ?殺さなきゃ死ぬんだぞ?怖くないのか?」

俺の質問を聞いて、ソイツはますます楽しそうに笑った。

「怖くないか、だと?馬鹿め、こんな面白そうな場所に来て怖いはずがあるか。地獄か何かは知らんがこんな面白そうな場所、二度と来れまいて。楽しまねば損というものよ」

カカカ、と声を挙げて笑うソイツを見上げる。
“面白そう”とはまた大胆な感情を抱く奴もいたもんだ。大抵は恐怖と不安で縮こまってしまうもんだと思っていたんだが、どうやら世界には不可解な出来事というものがまだまだ転がっているらしい。

「…人間よ。お前は殺し合いに乗るんだろう?」

……しまった。ボンヤリしてたせいではぐらかしたはずの質問へと話題が戻ってしまった。俺としてはこの話題は極力避けたかったんだが、仕方ない。
殺し合いに乗るか?その質問の答えはイエスだ。殺さなきゃ死ぬのが分かっているのに、みすみす死ぬのを待つほど俺はお人よしじゃない。
だが相変わらず人を見下したような笑みを浮かべているソイツを見ていると、どうにも正直に答えてやるのは癪に障る。
それに、下手な答えをすれば殺されないとも限らない。今のところソイツはどうするのか決めていないようだし。
だから少し意地悪をしてやるとしよう。

「ああ、そうかもな。でも俺は勝てないケンカはしない主義でね。アンタみたいな見るからに強そうな獣だとか、ネジの飛んだ殺人鬼なんかとやり合うつもりは毛頭ない。
とりあえずは俺に襲い掛かる奴だけ皆殺し、ってとこかな」

この答えなら、相手が殺し合いに乗っていようといまいと関係ない。
乗っている相手には「襲って来れば殺すぞ」という牽制が、乗っていない相手には「俺は危険人物じゃない」というアピールができる。
話の通じない相手にはどうしようもないが、とりあえずの交渉ならこれでいい。
だが、俺の答えを聞いたソイツは俺を鋭い目つきで睨み付けて言った。

「……馬鹿者め。お前はそれで良いのか」
「なに?」
「お前はそれで楽しいのか、と聞いておるのだ大馬鹿者。強者とは戦わぬ?襲い来る者だけを殺す?これほど興が削がれる答えもあるまい。
殺し合いに乗るのならば堂々と皆殺しにすれば良いものを、何を躊躇っておるのだ。……フン、どの道貴様のような半端者は真っ先に死ぬだろうな」

先程までの飄々とした雰囲気は一瞬にして掻き消え、ソイツは冷徹な瞳で俺を見下していた。
だが、そこまで言われちゃ俺も黙ってはいられない。

「なんだと?じゃあアンタはどうなんだよ。面白いとか楽しいとか、自分の命が懸かってんのにふざけてるだけじゃないか!!」

俺が怒鳴り返すと、ソイツは静かに笑みを浮かべる。
あのニヤリとした笑みとはどこか違う笑み。

「その通りだ人間。だが、楽しめぬ生のどこに価値があるというのだ?殺されぬよう怯えながら慎重に行動し、ようやく生き返れたとしよう。だが、いずれ死ぬ。
例え行き先が天国であると保障されていても、だ。人間の寿命は短い。ここで必死になったところで、精々数十年しか持たぬ。
ならば今この瞬間を楽しんだ方が得というものではないのか?自分の好きなように、楽しみたいように生きる。それこそが生の楽しみというものよ。
……さて人間、もう一度訊こう。お前はどう動くのだ?」

そうか。生き返ったところで、俺は不老不死になれる訳じゃない。何時か死ぬんだ。
その事実を改めて認識した今、どう動くか問われる。そう簡単には答えられるものじゃない。

「少し、待ってくれ。…そうだ。参考までに訊いておくが、アンタの言う楽しみってのは何なんだ?」

俺が訊くと、ソイツは嬉しそうに尻尾を揺らして答える。

「フフ、そうだな……当座はあの閻魔とやらの計画の邪魔をしてやるとしよう。我はどうにも天邪鬼な性分故、“殺し合え”などと命令されれば逆のことをしてやりたくなるのでな。
そのあとは色々だ。面白そうな輩を追ってみるのも良いし、手頃な連中を化かして回るのも楽しそうだ。そうして殺し合いの方が面白そうなら殺し合いに参加する。
…どうだ人間。これが好きに生きるという楽しさよ」

楽しそうに話してはいるが、とんでもない計画だ。いや、計画ですらない。
全てが気分次第、行き当たりばったりの不確実極まりない行動指針。
だが、このプランなら退屈はしまい。俺の本能がそう言っていた。
そうさ、俺はトレジャーハンターだ。確実な生き方なんて望んじゃいない。欲しいのはスリルとお宝に溢れた生き方だ。
なら、今この瞬間を楽しもう。

「決めたよ。俺はアンタに付いて行く」
「ほう?気が変わったか…」

さほど驚きもせずにソイツは俺を眺めると、突然姿を消した。

「あれ?」

ふと、目の前に着物を着た白い髪の女が現れた。俺に質問する隙も与えぬまま彼女は息が掛かりそうな距離まで近づくと、

「ひょっとして我に惚れたか?」

とんでもないことを言い出した。
同時に、その言葉で全てを理解する。

「!?お前、さっきの…!?」

俺が声を掛けると同時に女は空中に飛び上がり、あの白い狐へと姿を変える。
喋る上に姿まで変化させるあたり、ますます訳が分からなくなってきた。

「ククク、やはり人間は馬鹿だな。騙し甲斐がある」

呆気に取られている俺を尻目に、狐は言う。

「我は亡狐。1500年生きた仙狐よ。人間、お前の名は何だ?」
「…俺はロージ。トレジャーハンターだ。よろしく頼むぜ、女狐さん」
「ああ、よろしく頼むぞ。コソ泥よ」

冷静に考えてみれば、殺し合いの場所で楽しもうなんて考えは馬鹿げている。いや、もはや狂気の沙汰と言っていい。
だが、人生を楽しもうと思うのなら時にはこうした狂気も必要なのかもしれない。
何を考えているのか全く分からない女狐を横目で見ながら、俺は少し苦笑いをした。



【E-2 路上/未明】

【亡狐】
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】基本支給品、ランダム支給品×3
【思考・行動】
1:自分のやりたいように行動する
2:とりあえずは閻魔の邪魔をする
【備考】


【ロージ】
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】基本支給品、ランダム支給品×3
【思考・行動】
1:人生を楽しむ
2:亡狐と行動する
【備考】



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