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骨の看護婦と標本の医者の歪んだ目的




 もし、この場にまともな神経の持ち主が居たら、絶叫をあげるか、恐怖で硬直してしまっているだろう。
 全体が赤錆た船内、その通路……そこで繰り広げられているのは、生きたままの人間の解剖だった。
 六本腕という、白衣を着た異形の人体標本が、最初に出会った参加者である、不健康そうに見える太り気味の青年を、一番下側の両手でしっかりと抑え込んでから、上側の二本の腕で、青年の着ているアニメのキャラクターがプリントされているシャツを脱がせにかかっている。
 同時に、別の腕に握った小さな赤黒い手術刀が、恐ろしいまでの手際の良さで、青年の身体を切り裂いていく。
 青年にとっては不運なこの状況、恐怖に硬直しているのか、彼は声も上げない。

『オペレーション1、被験者の皮膚の切開、関節部の切除、及び神経組織の分断を行いまあぁぁす♪』

 人体標本の背中に背負われている、看護婦の格好をした骨格標本が、肌が泡立つような含み笑いを込めた声を発する。
 人体標本は、背中の骨格標本の声に目を細めながら、異常に素早く的確に、手術刀で青年の体を解剖していく。
 驚いた事に、上半身の皮膚を剥がし、筋肉組織が見えている段階まで来ているのに、血は一滴も流れていない。

『なお、一連のオペレーションは被験者の解剖のみが目的のため、麻酔類、薬品などは一切使用せず執刀しまぁす♪』

 ■

 人体標本の、神業と呼べるほど素早く解剖されていく青年。
 自らの体が解剖されていく光景を、恐怖の感情の浮かぶ瞳で見ているが、なぜか声を出すことはおろか、ろくに動くことすら全くできない。
 出来ることは、自分の体を生きたまま解剖する人体標本を見つめる事だけ。

 何で……何でだよ……何なんだよこいつ?!家でネットやってたら、こんなわけわかんねえ場所に連れてこられて…え?あぇ?これ現実か?ぜんぜん痛くねぇ?え?夢?夢オチか?そうだよな?こんなの現実じゃありえねぇもん……そうだよ?これは夢だ。夢なら死なねえよ!そうだよ!!

 今現在、自分の身に降りかかっている出来事を信じられず、夢と考える青年。
 ふと、人体標本の手術刀を振るう腕が止まる。


「死ぬんだよ、君は。」


 は?夢だろ?これ夢だろ?
 夢だったら死ぬはず無いさ?!
 目の前のお前も夢の産物なんだろう?俺の妄想なんだろ?

 青年の心を見透かしたように、人体標本は剥き出しの顔面の筋肉を収縮させ、薄く笑う。

「死ぬんだよ。死ぬことを意識しながら君は死ぬんだよ。自分の体が解剖されているのを感じながら、君は死ぬんだよ。」

 いつの間にか、止まっていた手術刀を持つ腕も動かされ、青年の体を解剖していく。

『オペレーション2、被験者とコンタクトをとりながら解剖を行っちゃう♪これは解剖時の感情の突起を計るためである♪』

 は?は?は?馬鹿じゃねえの妄想の産物が!!俺の妄想ならメイド服で出直しな!!妄想!!妄想!!妄想!!お前は俺の妄想なんだ!夢なんだ!

「夢じゃないんだよ。これは現実だよ。閻魔とかよくわからないけど、これは現実なんだ。君の体を僕達が解剖していることは夢じゃないし、僕のメスが筋肉組織をはぎ取っているのも現実だ。」

 人体標本が喋っている間に、完全に青年の肉体は解体されていた。
 その解体した青年を、人体標本は丁寧に床に並べていく。

『オペレーション3、解剖・解体の終了♪被験者のパーツを並べて、観察を行います♪』

 何時の間にか、全身のあらゆる関節、組織の接合部を綺麗に分離され、最早青年が動かせる場所はいまや目玉だけとなっていた。

 は?は?は?は?はぇ?!覚めろよ夢!起きろ…俺!?これ夢なんだろ?!起きたらいつも通り部屋にい…て、なのはちゃんやまどかちゃ…んのポスター…におはよう…て挨拶して、い…つ…も通りの……

「ほらほら、どんどん意識が暗くなっていくでしょ?自分の個が薄くなっていくでしょ?僕はまだ死んだ事無いから体験した事は無いけど、それが死なんだよ。」

『被験者の意識に暗がりが有り♪死に向かっている様子♪くふ、くふふふ♪』

 は?……ふざ……俺……死?俺が?

「でもそんな簡単には死なないんだ。死ぬ前にとても痛くなると思うよ。でも、君は痛みで喚けないし、暴れることすらできない。何もできないんだよ?なにしろバラバラに解体されているんだからね。」

 人体標本は、並べられた青年を見下ろしながら、暗い通路の床に平らに置いてある耳に向かってそう言った。
 おぞましい事に、人体標本の言葉の通りに青年は生きていた。
 内臓がむき出しになり、関節一つ一つが綺麗に切り離され、筋肉の束が丁寧により分けられて並べられているにもかかわらず、心臓は拍動を、胃腸は蠕動を続け、むき出しの気管に繋がった肺が、呼吸を続けている。

『被験者の内蔵組織の観察♪脂肪分が各臓器にこびりついている事から、食生活の改善を考えた方が良いと予想する♪』

 えっ、えっ、あれ、あれ、あれ?……あがあぁぁあぁぁあぁぁぁ?!おぎがぐあぁぁあげ!?痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃあぁぁぃぁ??!

 執刀中は感じなかった解剖の痛みが、津波のように、ここに来て一気に襲いかかる。
 自由に動かせる唯一の場所である目玉が、せわしなく動く。
 それは、青年にこれが夢ではないと否応なしに確認させるには充分だった。

 えがあああぁぁぁぎぃいいいげああああ?!ぐぎ……が……ぐぶ……が……く………え?

 しかし、その想像を絶する激痛にも暗がりがさす。

『被験者の生体活動の停止の予兆有り♪心臓の拍動のリズムの乱れ確認。』

「良かったじゃないか?意外に速く止まりそうだよ?君の鼓動が。」

 そ……んな……い……嫌だ。死にたく……ないよ
 ……か…みさま……俺の…フィ…ギュアも…あげるから……
 童貞も……卒業しなくても……良いから……仕事探して……親孝行……す……る…か……

 激しく動いていた心臓の動きがしだいに弱まっていき、不意に止まって二度と動かなくなった。

『被験者の心拍停止を確認♪死亡認定♪』

【名無しさん@死亡】

 ■

 人体標本は、生体活動の停止した解剖された青年を見つめながら、下側の腕を伸ばし、あるパーツを拾う。
 それを傷つけないように、丁寧に私物の保存用の薬品の入った瓶にいれ、素早くふたを閉める。

『被験者の眼球パーツを保管♪』

 人体標本が拾ったのは、死ぬ間際の、この世への生の未練の感情がありありと浮かぶ、ふたつの眼球。
 黒い瞳のそれは、ホルマリン漬けにされ、白衣の奥に仕舞われる。
 心なしか、満足げな顔を浮かべる人体標本。

『高水準のサンプルが手に入った、最高のオペでした♪兄さん♪』

 先程までよくは珍しく喋っていた人体標本は、再び無言を貫く。
 基本的に、兄が饒舌になるのはオペをしている間だけだ。
 私は兄のサポートをするナース♪今回のオペもしっかりとサポートできたわ♪

『兄さん♪まだ喜ぶのは速いわよ♪個々にはい~ぱい被験者が居るから、いくらでも解剖できるよ♪』

 その言葉に、顔をゆがませ笑う人体標本。
 それを敏感に感じ取り、背中の骨格標本も笑う。

 同じ妖怪はさすがに駄目だけど、最初にいた場所には沢山の変わった人間が居たわ♪
 みんな、ぜひ兄さんが解剖したくなりそうな変わった被験者ばかり♪
 丁度半分殺せば帰れるみたいだし、兄にとっては解剖し放題のバーゲンセール♪
 私たち兄妹は弱くないから、負けないわよ♪

『ふっ、ふふふふふ♪』
「くっ、くっくっくっくっくっくっく♪」

 不気味に笑う、白衣を着た六本腕の人体標本、それに背負われる看護婦の骨格標本。
 ふたりは、解体された名無しさんをそのままにし、新たな被験者を探しに、音もなく移動を開始した。

『ああ?!兄さん!被験者のデイバック忘れてる!』

「……あ。」

 慌てて戻り、廊下に放り投げられたデイバックを回収するふたり。

 ……少し残念な終わり方だった。



【I-4錆びた船の中/未明:0~2】

【本表体人(ほんひょうたいじん)】
【状態】
名無しさんを解剖・解体しました。
名無しさんのデイバックを回収しました。
【装備】
支給された基本的な手術道具セット(注射器や手術刀、薬品などの詰め合わせ)
【所持品】
デイバック×2
ランダムアイテム×5
基本的支給品×二人分
【思考・行動】
1:面白い人間の被験者を探して、解剖する。
2:この船から出たい。
3:『あれ?手術刀足りなくない?』
【備考】
※船内のどこかの通路に、丁寧に名無しさんの解体死体が並べられています。



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