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用心棒はお人よし




 ビアーが陽子を助け出した後、まず最初に行ったのは水場を探す事だった。
 陽子を手錠で拘束し、ガソリンをかけて生きたたま燃やそうとした異常者(姫園炎間)はそのまま放置した。
 経験的に裏に所属する殺し屋やマフィアと面識があるビアーだったが、彼女は悪党には大体二種類のタイプがあると考えている。
少しばかりお仕置きが必要な小悪党か、たちの悪い犯罪を嬉々としてやらかそうとするイカれ野朗。この2つだ。
 人間バーベキューを行おうとしたあの男は後者。完全に頭がイカれているクソッタレだ。
 少々手を抜いたとはいえ、近くは歩き回ることはできないほどは殴った。
 もし気絶している間にあの男が"乗った"参加者に殺されても、自業自得。少しも心は傷まない。因果応報ってやつだろう。
 もちろんしっかりとデイバックは回収しておいた。奴に支給されたガソリンは、奴を殴った時ポリタンクが倒れちまって殆ど零れちまった。
 残った分は助けたヨウコって名前のジャップの服にぶっかけられた分しか無い。勿論絞って集めて使う……なんて事はできないだろう。
 ビアーはおずおずとついて来る陽子を見る。なぜか目をそらされた。
 Japanは平和な国だって聞いた事がある。あたしの住んでたスラムとは違って、治安もかなり良い国らしい。
 ヨウコは顔にもけっこう殴られた跡があった。多分、いや殆どあの男にやられたんだろうが、そんなことは今まで経験したこともないのかもしれないし、ショックだろう。
ましてや危うく火だるまにされそうになったんだし、ショックもそれなりに受けただろう。
 ……でも、あたしを見て顔を逸らすってのは少し傷つくね。
やっぱり怖いのかね?あたしはかっこいいと思うけど。
 裏じゃあ女ってだけでかなりナメられるから、外見の印象ってのは大事だ。
あたしは別にどーでも良いんだけどね、一応タトゥとかしてみようかって手を出したのが始まり。
 これが意外と楽しくて、ついついこんな風になっちゃったけど……
 好きなものこそハマるって言うけど、やり過ぎた感はあるね。別にかっこいいから良いんだけど。
 顔にボディーピアスも、けっこう脅かしには効くんだよね。
 タトゥとピアスを全部入れてからサリーにあった時、腰を抜かしてたわ。
 でも最後には『ビアーにはなんでも似合うから、大丈夫』って嬉しいこと書いてくれたし。……なぜか遠い目をしていた気もするけど、気のせいだろう。

 ビアーは気づかない。陽子が顔を逸らした時、頬を赤く染めていたことを。

 ビアーは付近の民家に押し入り、シャワーを借用することにした。
 家には鍵がかかっていたが、ビアーがドアノブを引き抜いたために意味はなかった。
 プラスチック製のドアノブを苦もなくもぎ取ったビアーに陽子が目を丸くしたのは言わずもがな。
 少しばかり拝借した民家には人気がなく、誰かが住んでいた痕跡は全くなし。
 しかしご丁寧に食器やら本やら調味料やら、小道具は不自然なほど揃われている。

 少しばかり物色してみると、なんとタンスなどに衣類も入っていた。
 少しばかり気味が悪いが、陽子の着替えが手に入ったことはなかなかの成果だ。
 いくらなんでもガソリンまみれの服をまた着せることは論外だし、なによりもそれでは風呂に入れた意味がない。
 他人の家の中を無遠慮に荒らすビアーと、背後からおずおずとそれに続く陽子。

「こりゃあ用意が良いねえ。さがしゃあ家主の隠した貯金まで出てくるかもしれないね」
 陽気な口調で喋るビアー。冗談のように聞こえるが、この民家一つにとってもこの芸の細かさ。
 主催者がシャレのわかる人間なら、用意されているかもしれない。

 「ど、泥棒は駄目ですよ」

 律儀に注意を入れる陽子。声に少しばかり咎めるような響きがある。

「はは、ジョークだよジョーク。人の金をパチっていくような真似はしないよ」

 ビアーはひとまず安心した。人の冗談に注意を入れるくらいの元気はあるらしい。

「とりあえずさぁ、着替えには困らないね。サイズが合ってるかどうかはわからないけど、無いよりはマシだろ?」

 タンスから何枚か拝借してきた女物の衣類を陽子に渡すビアー。

「あたしはしばらく使えるものがないか此処を探るから、まずは風呂に入ってさっぱりしてきなよ、ぐずぐずしてたら匂いが染み込むよ?」

 陽子から漂うガソリン独特の匂い。陽子の体温と外気により気化してきたのだろうか?間近で嗅ぐとけっこう鼻にくる。

「は、はい、分かりました、すいません」

 陽子は自分の状況に気づき、謝りながら風呂に向かう。
 その姿に呆れた視線を送るビアー。助けた時もそうだったが、 ジャップは何かあるとすぐに謝る癖でもあるのだろうか?
 ビアーは民家の探索を続けた。

「あたしも甘いねえ……ホントに」

本日二回目(一回目は心の中)のセリフをため息混じりに言う。
 いくら目の前で焼き殺されそうになっていたからといって、助けたあとに風呂に入れて着替えも探してやるとは……
 陽子を助けたことに後悔はしない。赤の他人とはいえ見殺しにするのは後味が悪いし、炎間かトンマか知らないが、あのタイプの人間は個人的に大嫌いだ。
 他人の事を考えもせずに己の欲望だけを優先する悪党。多分陽子を焼き殺そうとしていなくても殴っていただろう。
 ビアーは敵には非情だが根は優しく、面倒見が良く、外見の荒々しさと相反するように、聖母のような優しさを持つ人間だ。そんな彼女に救われた人間も多い。
 そんな人柄もあるのだが、陽子に対してはビアーはなぜか放っておけないような気がするのだ。そしてその理由も、ビアーはわかっていた。

「似てるんだよね、サリーとさ」

 そう、陽子は似ているのだ。ビアーの幼なじみであり、厳しいスラムを共に生き延びた唯一無二の親友サリーに。
 黒髪に黄色い肌のアジア系の外見をした陽子と、白人の上銀髪であるサリーとは外見は全く違う。
 しかし、ふたりは似ているとビアーは感じていた。
 外見的なものでは無く、内面的な面で似通っていると。
 陽子とサリーに共通して存在するもの。それは悲しみだ。
ビアーは知らないが、陽子はごく最近に血の繋がった娘を失った。事故でも病気でもなく、ひとりの凶悪犯の畜生にも劣る所業により……
サリーも陽子も、過去に深い悲しみを背負う人間であり、それゆえにビアーは陽子を放っては置けないのだ。

「……まあ、もう少しは付き合っておこうかね」

 陽子は完全な一般人だ。ビアーとは違い、ナイフや銃を持った相手との戦闘経験はなく、喧嘩すらしたこともないかもしれない。
 この殺し合いでは生き残るのは難しいだろうし、そもそも早速殺されかかっていた。
 ひとりで放り出すのは酷だろう。ビアーはもう少し陽子と行動を共にすることに決めた。

「しかし、動いてるうちに喉乾いたね」

 喉の乾きを感じたビアーは、炎間から回収したデイバックと自分たちに支給されたデイバックを合わせて三つ。
 その床においてある中の一つから、水の入ったペットボトルを取り出して飲んだ。


 ビアーが部屋を物色している間、陽子はシャワーを浴びていた。
 ガソリン臭い衣類を脱ぎ、生まれたままの姿で汗と石油をお湯で流す。
 肌に流れるお湯の熱を心地よく感じながら、陽子は命の恩人であるビアーの事を考える。
 そう、命の恩人。ビアーが来なければ陽子はあの異常者に焼き殺されていただろう。
 思い出すだけで体が震える。両肩を抱きしめ、震えを抑える。
 初めてだった。人に殴られるのは……あの男は、抵抗すればするほど心から楽しそうに私を殴っていた。
 まだ殴られた場所が痛む……娘も、あの男と同じ異常な人間に殺されたのだろうか?同じように恐怖を感じただろうか?……感じたに違いない。大人である自分もとても怖かったのだから。
 思えば、不思議なものだ……もう、生きていても疲れるだけだと思っていたし、もう終わらせたいと考えていた。
 なのに、いざ殺されそうになった時、私は死にたくないと思った。
 ピンチの時に助けてくれるヒーローなんて都合のいい物、現実には居ないと思ってた。
 でも、私をそんな危機から救ってくれたヒーローは居た。
 そのヒーロ……ビアーさんの事を考えると、ドキドキッて心拍数が上がって胸が熱くなる。……正直言って今までこんな事はなかった。初めてだ、こんなの。

『ヘイ、ユー。認めちゃいなよ。その熱くたぎった心を!!』

 そう、……私は、ビアーさんに惚れてしまったらしい。
 あの人の事を思うだけで、何とも言えない幸福感と胸のドキドキが止まらない。
 ビアーさんは女性だ。最初に見た時は男性だと思ってたけど、声の調子で分かった。
 もういい年いってるのに、同性にこんな気持ちを抱くなんて、ビアーさんが知ったらどうなるだろう?気持ち悪がられるかな?拒絶されるかな?
 陽子は一人で悶々とシャワーを浴びていた。未だかつて同性に抱いたことはないこの恋心を、いったいどうすべきか悩んでいる。
 しかし当然結論は出ないまま、陽子は風呂から上がった。幸運にもこの家に置かれていた衣類はサイズがぴったりと合った。

「おぉ?サッパリしたかい、ヨウコ?」

 使えそうな品物がないか探していたビアーは、上がってきた陽子に声をかける。
「はい、サッパリしました。ビアーさんも入りますか?」

 風呂に入ったことで元気が出たのか、明るくなった陽子を見て安心したのか、微笑むビアー。
 その笑顔を見て、陽子は風呂上がりで赤くなった顔をさらに赤くさせる。

「あたしは遠慮しとくよ、これ飲んどきな」

 ビアーは床に置いておいた三つのデイバックのひとつから、水の入ったペットボトルを取り出し陽子に渡す。

「あ、ありがとうございます」

 ビアーに礼を言い、キャップを開けて口をつけた陽子。
 喉に流れる冷えた水が、お湯で火照った体に心地よく響く。風呂上がりの水分補給は最高だ。あっという間に殆ど飲み干してしまった陽子。

「……あれ?」

 飲み終えてからあることに気づいた。

「ビアーさん、これ……開いてませんでした?」

 キャップを開けるとき、未開封のボトルを開ける際の独特の音がしなかった。

「ありゃ?ごめんごめん、多分あたしが、開けて飲んだやつ渡しちゃったんだわ」

 ごめんね、先程開けたボトルを渡してしまったことに謝るビアー。しかし陽子の耳にその声は届いていない。


『ありゃ?ごめんごめん、多分あたしが、開けて飲んだやつ渡しちゃったんだわ』

 今、ビアーさんは確かにそう言った。開けた?誰が?勿論ビアーさんが。何のために?水を飲むために決まってる。じゃあ、ビアーさんはこのボトルに……

「…………」

 ペットボトルの口を見つめる陽子。

「(……間接キス?)」

 その考えに至った瞬間、陽子は顔を真っ赤にしてーー

「……きゅう」

ーー倒れた。

「え?!ちょ、ヨウコ?!大丈夫?!どうしたんだい?!」

 びっくりした表情を浮かべるビアー。同然目の前で人が倒れたら誰だって驚く。

「ちょっと!……のぼせちまったのかね?」

 気絶しながらも顔を真っ赤にした陽子を見て、のぼせてしまったと判断したビアー。流石に自分との間接キスのせいで倒れたとは思わなかったようだ。


 コントに見えなくもないふたりの関係は、まだ続きそうだ。


【G-7赤の国民家/黎明】

【宮野陽子】
【状態】顔に青あざと軽傷あり。手首に手錠跡。風呂上がり。
【装備】無し
【所持品】
デイバック×1
ランダムアイテム×3
基本的支給品×1
タオル@現実(デイバックの中にあり、ガソリンが付着)
【思考・行動】
1:きゅう……。
2:この人(ビアー)について行きたい。
【備考】
※風呂に入り服を着替えました。ガソリンのかかった元の服は風呂場に置かれています。どんな服装かは次の書き手さんに任せます。
※ヒーローのように登場したビアーに対して重度の恋心を抱いています。しかし本人はこの気持ちをどうすればいいか決めかねているようです。
※赤の国の民家には電器やガスが通っているようです。(他の施設が同じかどうかは不明)

【ビアー・バーンズ】
【状態】健康そのもの。むしろ良すぎる。 少々唖然。
【装備】
【所持品】
デイバック×2
ランダムアイテム×5
基本的支給品×2
【思考・行動】
1:もうしばらくはヨウコと行動を共にする。
2:殺し合いにむざむざ乗るのはしゃくに障るから無し。
3:ナメた野郎はとりあえず殴る。
4:どーしたんだいヨウコ!?
【備考】
※アジア系に対していらぬ誤解をしています。
※サリーが来ているとは知りません。
※民家のドアノブを破壊し不法侵入。部屋を荒らしました。


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