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「いただきます」




「ヌゥゥウ……ォオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 轟。
 音。
 と、ともに。雪の塔は根元から崩れ去ったのであった。


+++++++++


 太陽は地獄にはない。
 地獄が明るいのはマグマの熱光と、閻魔総王が太陽の代わりに置いた黒い太陽球が、
 ほのかに赤い光で地表をある程度照らしているからである。
 ちなみにこれは昼の間であり、夜である今は太陽の代わりに月に似たものが空に打ち上げられている。
 ほんのりと赤みのある光を反射して光るその月は、紅い月と呼ばれているものの、
 その色はどちらかと言えば、桃色か、引き裂いた肉の色だ。

「…………」

 靴でも足の冷たくなる雪原。まっしろな一面。
 その景色に足跡を残しながら、虫の居所の悪そうな顔で、スキンヘッドの偉丈夫が空を見上げていた。
 彼の名前は暴れん坊。鬼の三兄弟の長男坊。
 妖怪と人間の共存する都市『東狂』にて、妖怪ヤクザとして日夜起きる争いを鎮める役を担っている者だ。
 荒事になることも多い争いの調停を請け負っている彼らの腕っぷしは、とにかく強い。
 それも三兄弟の中では彼が一番。

 なにを隠そう、さっき雪の塔を破壊した轟音は、
 彼のひとつ拳から放たれた音だったりする。

 地上99階、地下44階。地下最奥には永久氷結した呪いの財宝があると言う巨大な塔であったが、
 無残にも暴れん坊の一暴れによって雪の塔はがれきの山となった。
 どこかのトレジャーハンターも知ったらめそりと泣くだろう。

 そんな彼はおもむろに地図を開く。
 行き先を冷静に検討するためだ。

 ――三男、隠れん坊は怒りより先に恐れが来る。仮に真に怒ったとしても、その怒りは「隠」して行動するだろう。
 ――次男、怒りん坊はふとして怒れば文字通り。ひとたび怒りを得たらそのまま、「怒」り続けるだろう。
 ――長男、暴れん坊はそのあたり強かであった。怒りを保管も定着もさせず、すぐに「暴」れて発散させるのが彼だ。
 地獄の島に着いてすぐ雪の塔を暴れ倒した暴れん坊は、少し冷静になっていた。

「……む」

 暴れん坊の脳に刻まれているのは、雪原の塔を倒したという情報。
 その情報と与えられた地図を照らし合わせることで、彼は今自分がいる位置を把握することができた。
 多少歩みを進めてはいたが、幸いか、がれきの山はまだ視界に移っていた。
 地図では雪の塔は最北端。つまりあちらが北だ。

 だから次に近い施設は――ほかほか温泉。
 場所は――塔に背を向けて、右手の方角に歩めばよい。
 うん間違いない。
 なかなか暴れん坊にしてはスムーズな思考の流れであった。

 ついでに支給品を確認するが、これはハズレであった。
 使えないものばかりだ。「先の切れた延長コード」に、「銃弾1つ」、「不思議な黒い球体」。
 延長コードも銃弾も論外だし、球体は使い道がわからないにもかかわらず、
 ダイヤモンドどころでない硬さで暴れん坊の力でも傷一つつけられない。不思議と言うより不気味だ。
 基本支給品の中の食糧は地図の前に食べてしまった。
 まるで雀の涙を食べたような少なさだった。
 やはり何をするにも先立つものは兵糧。そしてそれを得るには行動、だ。

「……行ってみる、か」

 暴れん坊は温泉に向かってみることにした。
 もしかしたらかわいい兄弟が居るかもしれないし、そうでなくても誰か「強い者」が居ればもうけものだ。
 戦って、暴れる。
 食事の次に、暴れん坊の中で大事なことだ。
 ――鬼の三兄弟長男、暴れん坊は。
 暴れるためならどんな理由でも作り出す。
 いったん冷静になって、考察だってできる。そんな喧嘩大好きな鬼であった。


+++++++++


 そうしてほかほか温泉まで来た暴れん坊だったが――少し目算を誤っていたことに気付かされる。
 暴れん坊の頭の中では、ほかほか温泉は天然ものの、秘境の温泉というイメージだった。
 看板が立っていてその横にもわもわと湯気が立ち込めていて、素材の味を楽しむといえば変だが、
 温泉だけがある場所だと思っていた。
 しかし違った。
 そこにあったのは、わりと本格的な温泉旅館だったのだ。

 そして旅館の扉を開けた瞬間……暴れん坊の鼻が料理の匂いをとらえた。

「!?」

 調理済みの肉の匂い。
 少しのコゲ。
 おそらくベビーリーフかなにかの野菜が添えられている。
 何の肉かは少し分からない。脂肪分は少ない。あるいは調理の過程で油を上手く抜いたか。
 こってりしすぎると確かに胃もたれする、賢明な判断だ。
 そして香辛料の匂い。
 炊けたばかりのごはんの匂いもある。カレーか?
 おそらくそうだろう、そして水気のある出汁の匂い……これも不明。
 味噌汁というよりはスープのたぐいか? だとすればカレーを起点にしたスープと肉のサラダ?
 むむむむむ、もっと近づかねば細かい判別は不可能だ。
 だが分かる。これは料理の匂いだ。しかもかなりの腕前の者が創った、おいしい料理の――――!


「ひっく……えっぐ……悲しいなあ……でも、美味しいなあ!」
「…………なんだ、お主……?」


 匂いを追って旅館の一室の扉を開けた暴れん坊は、愕然とした。
 そこには。女学生が居た。
 しとしと と とめどなく涙を流しながら、
 かつ美味しそうに、机に並べた豪華な食事を食べている。
 くせのある金髪のツインテールを垂らした、バッチリとメイクを決めた、
 その女学生は――。
 血まみれの制服を着て、

 悲しそうに、

 可愛く、

 もぐもぐと。

「……何を、食べている……!」
「みなこちゃんだよ。…………あんた、誰?」


 人肉料理を、食べていたのだ。  


【B-4 ほかほか温泉 黎明】 

【暴れん坊】
【状態】健康、擬態、驚愕
【装備】なし
【所持品】基本支給品、先の切れた延長コード、銃弾、ダークマター
【思考・行動】
1:暴れる。
2:兄弟たちが心配。食べ物もほしい
3:おいおい何だこれは


※A-5 雪の塔は崩壊しました。



++++++++++


 あのね子供が好きなのあたし
 無邪気でけなげでかわいくてちょっと不器用でね
 そのくせえっへんっていきがったりして
 純粋に自分を信じきってる そんな子供が好きなの

 未来が開けてるっていうのかな?
 楽しい今がずっと続くってなんにも疑わずに思ってて
 いつか死ぬなんてぜんぜん考えてもなくて
 汚れてなくて 腐ってなくて 足りないところだらけなのに壊れてない

 そんな子供を見てるとあたし守りたくなる
 母性本能って言うのかな? とにかく守ってあげたくなる
 泣いてる姿なんか見るととくにどうしようもなくなって
 ぜんぶほっぽりだして抱きしめちゃう だって傷をつけたくない

 完璧な白さを持っているこの子たちを黒に染めたくない
 完全な透明さを持っているこの子たちを朱に交わらせたくない
 綺麗すぎる部屋には0.1ナノのホコリでも汚れになる
 だからあたし子供にだけは嫌味もいわないし 子供の前で人を食べたこともなかった

 でもね あたしが最初に出会っちゃったのはかわいい女の子だった
 よりによってこんなときに すごいかわいい女の子に出会っちゃったんだ
 優先順位が 優先順位ってもんが あるって言ってるのに……
 あたしは 喰院を 世界のいちばん上に置いてるから どうしてもダメなのどうしても

 殺す しか な かった

 これでも人じゃないなりに人が好きだった 食べるのは悪人だけって決めてたし
 殺したら一部は持ち帰って おいしくおいしく料理して
 「いただきます」って懺悔して食べてたんだ
 でもね これは例外だよ 例外だよ とくべつなの イレギュラーなのっ 喰院くん

 喰院くんが来てるからあたしは殺すしかない 殺しつくして君に尽くすの
 だってあたしは世界のすべてより喰院くんのことが好きだから
 ……来てるんだよね喰院くん なんとなく分かるよ
 だってあたしの心こんなにドキドキしてる バクバクしてる 心臓が君の存在を 覚えてる

 だいじょうぶだよ喰院くん
 君のお腹がへるまえに こんなゲーム終わらせるから。

 あ 女の子の名前は殺す前にちゃんと聞いたよ 四肢をえぐって拷問して聞いた
 よしわらみなこちゃん 初めてあたしが殺す女の子
 目玉は大切に取って置いて いつかお墓をつくってあげるって約束したの
 死ぬまでずっとみなこちゃんは泣いてたから  聞いてなかったかもしれないけど

 いつもは一部だけなんだけど みなこちゃんはフルコースにしてあげたよ
 ケバブにビビンバ カルパッチョ 余ったからビーフシチューとブロック肉のスープもね
 脳みそもミキサーで混ぜてデザートにして冷蔵庫に入れてある
 髪から爪まで残さず食べるの それが食人鬼としてあたしができる唯一の償いだから

 悲しいなぁ 苦しいよ 涙で味がすこし辛いね
 でもね でもね 喰院くん それ以上にね すっごくおいしいの……
 年頃の女の子 ちょっと生意気で反抗的でそのくせ
 ちょっと刃物でおどかしただけでおびえておとなしくなっちゃうよわっちいところとか

 食べ ちゃった くらい 可愛かったんだ。
 おいしいくらいに 愛しかったんだ。

「……何を、食べている……!」

 そうしてすこし天国にトリップした気分で 悲しくおいしい食事をしてたら
 いきなり扉が勢いよく開いて 知らない人が入ってきた
 誰だろう? ってちょっといらつきながら横を見たら びっくりした、鬼だったんだ。

「みなこちゃんだよ。…………あんた、誰?」

 2メートルはありそうな大きな男、しかもヒトに擬態した状態でこれだからそうとう上級。
 内心ああ、やばいなと思った。だって妖怪としての格が違う。
 もしかしたら向こうから見たらあたしのことなんてヒトと同じくらいにしか見えないかもだし、
 そしたら いやそうでなくたって この現場を見られた以上もう言い逃れなんて出来ないあたしは殺人者。

 向こうにとっては何のためらいもなくひねりつぶせて 塵も残さぬことができる状況だ。

 でもね喰院くん あたし逃げないよ
 ここで死んじゃうかもしれないけど 喰院くんを殺すかもしれないやつの前であたしは逃げない
 あたしのすべてを使ってこの鬼を殺す 喰院くんがこんな地獄から帰れるように殺す
 それがあたしの幸せだし まだみなこちゃんにごちそうさまって 言ってないから。

「――誰でもいっか。さ、殺し合おう?」

 あたしはまだ驚いてる鬼さんを後目に 擬態を解除して口火を切った。


【B-4 ほかほか温泉 黎明】 

【赤目のデュオ】
【状態】擬態解除、血の気
【装備】フォークとナイフ
【所持品】基本的支給品×1 ランダム支給品×3
【思考・行動】
1:喰院くんのためになることをする
2:出会った奴全員殺す。
3:子供は殺したくないけど、出会ったら殺す。





「いただきます」





【吉原美奈子 死亡】


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