弾丸の収集家




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 まだガキの頃、世間で流行ってたカードにハマった。
 自分が集めたカードを、周りに自慢したこともよくあった。
 ある時、友達が珍しいレアカードを手に入れた。
 俺は欲しいと思った。
 何をしてでも欲しいと思った。
 そいつが一人の時を見計らって、野球用のバットで襲った。
 滅多打ちにした。
 血まみれで動かないそいつから、カードを奪った。
 俺は満足感を感じた。
 朝学校に行くと、友達は来ていなかった。

 死んでた。

 通り魔に襲われて死んだ。

 担任がホームルームでそう言った。
 俺は罪悪感や罪の意識を感じなかった。
 なぜか気持ちよかった。
 俺はそれから、欲しいものを他人から奪うことの喜びを知った。

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 フィレンツェのアカデミア美術館、内装や外見がそれと同じ作りの美術館。
 壁画や彫刻、それぞれの分野の芸術品が展示されている。
 薄暗いその場所、ロビーにて置かれた男性の巨大な彫刻。
 その前に、男が一人立っている。 

「ダビデ像…… ピエタと並ぶミケランジェロの代表作であるばかりでなく、ルネサンス期を通じて最も卓越した作品の一つ。
 人間の力強さや美しさの象徴ともみなされる作品であり、芸術の歴史における最も有名な作品のひとつと言える。
 ダビデとは旧約聖書においてイスラエル王国の二代目の統治者。
 大理石で身の丈5.17メートルにかたどられたこの像は、ダビデが巨人ゴリアテとの戦いに臨み、岩石を投げつけようと狙いを定めている場面を表現している。
 そして、ルネサンスならではの表現として、瞳が割礼器具のようにハート型に象られていることや、イスラエルの民の証とされる割礼の痕がないことが挙げられる」

 また奇抜な格好をした人物だった。
あちらこちらに髑髏のマークの施されたウエスタンファッションの格好をした男。
 目の前に微動だにせず立ち尽くすダビデ像を見据え、こと細かに象のうんちくを語っている。
 その独創的なファッションセンスとともに、顔にもそれが現れている。
 素顔がわからないほどに顔を白く塗りたくり、その上から髑髏のメイクを施している。
 傍から見たらコスプレか、ハロウィンの仮装に見えてしまうだろう。

だが、違う。

 彼のメイクと素顔は、【象徴】だ。
 自身の姿を印象づけ、周りとは一線をはく存在だとわからせるため。
 死神を連想させる髑髏は畏怖を、ウエスタン衣装は、彼の能力を表すための物。
 彼は強欲な性を持つ【収集家】であり、悪魔と取引をした異能力者。

bullet・collector(弾丸収集家)と呼ばれるコレクター。

「……正確にはその模造品、だが、それは関係ない」

 B・Cは、目の前のダビデ像……の模造品に、右手で触れる。

「俺がほしいと思った、コレクトする理由は、それだけで充分だ」

 その言葉を言い終えた瞬間に、触れていたダビデ像が『消える』。
 正確には、B・Cの右手の中に収まっていた。
 銃の弾丸にその姿を変えて。
 これが彼が弾丸収集家と呼ばれる所以。
 集めることに執着する彼が、偶然にも出会った悪魔に願った能力。

『コレクションの多さ=強さに直結する能力』

 それは、両手に触れた物を任意に、生物無生物問わずに『弾丸』に変え、保存することができる力。

 しばし手のひらの弾丸を弄っていたB・C。
 彼は集める行為そのものを快感に感じる人種だ。
 たとえ模造品だろうと、彼が興味を引けば、どんな物でも手に入れる。
 そこらに落ちている瓶の蓋でも、興味を引けばなんでも収集する。
 能力を得てから、彼はそのスタンスを貫いていた。

 B・Cは、何気ない動作で左手に握る奇妙な拳銃に、新たな弾丸を込める。
 先ほどまでは、左手には何も握っていなかった。
 まるで手のひらから文字通りしみでたように現れたそれ。
 全体的に黒光りし、笑ったような表情を浮かべた銀の髑髏の装飾が施された銃。
 それはこの世のものではなく、悪魔がB・Cに与えた物。
 異様な雰囲気を放つ銃に弾丸を込めると、B・Cの頭に情報が流れ込んでくる。

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【名称】ダビデ像の模造品
【カテゴリ】彫刻
【レベル】12点
【特徴】でかい、かさばる、重い、ヌード。

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 拳銃が弾丸を解析し、その情報を伝えることができるようだ。
 あまりレベルの高くないことには失望しない。
 外見的には立派でも、模造品ならそれなりだろう。
 B・Cはダビデ像の情報を確認すると、その場を離れた。

 美術館の中を歩き回り、興味を引いた芸術品をてきぱきと弾丸に変える。
 そんな単純作業を繰り返し、一時間ほど立った頃には館内のほとんどの芸術品が弾丸になっていた。
 大量の弾丸を銃に込めながら、いつの間にかロビーに戻ってきたB・C。
 興味を持った品を集め終えた後、彼はようやくこの状況について考え始めた。
 しかし、考えることは殺し合いに巻き込まれたことでは無い。
 いやそれも一応考えてはいるが、それよりもコレクターとして重要な事がふたつあったのだ。
 死神を名乗るエレキシュガルと、奇妙奇天烈な人ならざる参加者たち。
 どれもこれも、ぜひ一端のコレクターとして収集したいと思うに至るほど、興味深い連中だった。
 何よりも、明らかに並のレベルでは無い強者と思える人外もいた。
 自我がある者を弾丸に変えた場合、B・Cには絶対に反逆しない忠実な手下になる。
 あの場にいた人外をコレクションに加えたら、また一歩コレクターとしてのレベルが上がるだろうし、何よりも自慢になる。
 だが、しかし、今気がかりになるのはそれではなく……

 銃に込めていたコレクションが、根こそぎ無くなっている事だ。

 通常弾丸に変えた物を銃に込めると、B・Cの任意なしには絶対に取り出せない。
 勿論、自分で出す気もない。
 だと言うのに、無くなっている。
 自分の身を守る兵隊になるコレクションも、すべて根こそぎ無くなっている。
 何年もかけて集めたコレクションが無くなっている。
 B・Cの心には静かな怒りと焦りが広がる。
 能力者であるB・Cから数時間離れた場合、コレクションはもとの姿に戻ってしまう。
 能力が解けてしまう前に、回収しなくては。
 あの死神には、コレクションになってもらうことで帳消しにしてやろう。
 素早く思考を巡らせたB・Cは、一度銃を消し、自分のデイバックを調べ始める。
 事実、現在丸腰に近い彼だが、それでも安心しうるだけの理由がある。
 強くてレアなコレクションを得るため、世界を旅し、あらゆる人外を弾丸に変えてきた経験。
 当然、死線をくぐり抜けた数などひとつやふたつでは効かない。
 彼は生身でも十分強い。
 触れただけで勝ちうる能力を備えていることもあるだろうが……
 狙った品を収集仕損じた事は、今まで一度もなかったのだ。

 当面の目標はーー

 レアな参加者とエレキシュガルをコレクトする。
 会場内にあるコレクションを回収する。

 これに決まった。

「そのためには、少々手札が少ない。強力な支給品でもあれば嬉しいのだが……」

 デイバックの中身をさぐりながら呟くB・C。
 ふと、指先に何やらザラザラしたものが触れる。
 弄ってみると、何やら箱のような物らしい。
 感触としては木材のように思える。
 それをデイバックから取り出してみると、予想通り木材質の箱だった。
 外見的にはまるで宝箱のようだ。
 ところどころに飾りが施され、かなり年季が入った代物に見える。

「これは……呪いの類がかけられてるな」

 経験上オカルト知識に詳しいB・Cは、それにかなり強力な呪いがかかっていることがわかった。
 見たところ……鍵の役割を持つ呪いだと推測する。
 これは無理矢理開けることは出来ないだろう。
 おそらくは能力で弾丸に変えることもできなさそうだ。

「興味深いな……」

 B・Cは収集家としての性か、箱の中身を猛烈に見たくなった。
 箱を細かく観察し、弄くり回し、ひっくり返し、呪いの穴を探す。
 そして見つけた僅かな綻びをつき、徐々に守りを突き崩す。
 何重にも強力な呪いが掛かっていた箱だが、それを的確に攻略する。
 何十分か時が過ぎ、根気良く続けるうちに……

 カチッ!

 小気味よい音を鳴らし、箱の呪いが解けた。

「開いたか……」

 一仕事おえたサラリーマンのような、やり遂げた表情を浮かべるB・C。
 さっそく箱の中身を見ようと、蓋を開ける。





 ドンガラガッシャアアアアアアアアンッ!!!!!!





「ブギぶっ?!」

蓋を開けた瞬間、凄まじい衝撃がB・Cを襲う。
 開いた箱から勢い良く飛び出した中身がその場に溢れる。
 装飾品や貴重品、箱に収まっていたのは大量の財宝だった。
 その全てが金、または金細工の代物。
 それはとあるアイルランドの妖精たちが、先祖代々溜め込んできた物だった。
 呪いによって押し込められていた財宝は、止まることを知らずに出てくる。

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 しばらくして、やっと勢いが収まった。
 博物館のロビーには、見事に巨大な財宝の山ができていた。
 横幅、縦幅数メートルはあるだろうか?
 何百年もかけて溜め込んでいた財宝が、幾年かぶりに外の空気に触れる。
 その壮大な山の下、B・Cは……

「………………」

 大の字になり、屍のように気絶していた。


【C―1美術館/未明】

【bullet・collector(B.C)】
【状態】健康、気絶、
【装備】悪魔銃(支給品ではなく自前の能力)
【所持品】基本支給品、レプラコーンの宝箱(開封済み)ランダム支給品×2
【思考・行動】
1:………… 
2:レア・強そうな参加者のコレクト。
3:対主催、エレキシュガルをコレクトしたい。
4:弾丸を回収したい。
5:興味を引いたものを弾丸に変えてコレクトする。
【備考】
※現在気絶中
※ダビデ像、及び多数の美術品を弾丸に変えて銃に込めています。
※悪魔銃は自由に具現化可能。
※閻魔の間にいた参加者の顔を覚えています(特徴的な人物のみ)
※美術館は地図に記載されていません。


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最終更新:2013年10月04日 23:34