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「折り鶴の檻は壊される。逃げても、無駄だ」





 それから、俺はなにもしなかった。

 魔物ハンターの少女アイオア・レッドを追いかけることもせず、
 他の誰かを探しに行ったり、殺し合いに生き残るために辺りを見まわったりもせず。
 それはまるで夏休みの宿題を最後に回して一日中畳の上でごろごろしてた少年時代みたいに。
 このあとどうなるかなんて考えもせずに、オアシスカフェにとどまり続けた。

 壁際奥の席に座って、
 さっき自分の淹れたおいしくないコーヒーの残りを時々カップに注いで、
 すすって、飲んで、またカップに注いで、
 気紛れにすすって――コーヒーが無くなったら、
 適当にお手ふきの紙を取って、
 紙と布の中間くらいの材質のそれを上手く四角くして折り紙みたいにして、
 どうにか作り方を覚えている、鶴とか渡り船とか、
 花とか箱とか、カエルとか……適当に、なんでもよかった。
 暇をつぶすために、俺はひたすら折り紙を折って遊んで、
 一時間、二時間。
 エンターキーを、押せないままに。


++++++++++++


『わしはこのふざけた殺し合い、反対じゃ! 同意するものは――集え!』 

 ぼうっと鶴を折るだけになった数時間後、
 拡声器で発せられたらしい、仲間を募る声がした。
 俺はそれでも動かなかった。
 だって七十六羽目の鶴を折っていて。
 これを千羽折り終えるまで動けない。
 そういう自分ルールをかけていた、いや、そんな呪いにかかっていたからだ。
 ばかげてると自分でも思う。
 でも、テーブルの上にはお手ふきの紙で作った折り紙の生き物が檻のようにして俺を囲んでいて、
 いつのまにかもう自分の意思では、その檻から出られなくなっていた。


++++++++++++


 山のように鶴が増える。
 百十六。
 百十七。
 鶴たちは俺に地面から羽ばたくことを許さない。


++++++++++++


 百四十二。


++++++++++++


 百六十五。
 花子ちゃんはどうしているだろうかと、ふと考える。
 ちょっとトんでる思考を持っていた子だった。
 でも死にたくないって気持ちは、普通の女の子だった。
 人を殺しているのだろうか。やはり。……思えば俺は。彼女を止めることが出来なかった。
 百六十六。


++++++++++++


 二百。


++++++++++++


 二百十九。
 アイレアちゃんはどうしているだろうかと、ふと考える。
 さっきの声のほうへ向かったか、あるいは向かわないのか。
 どちらだろうと、強く生きていくのだろうと思う。そういうことができる子だった。
 だからきっと、俺はついていかなくて正解だった。……本当に?
 二百二十。


++++++++++++


 本当は、ついていかなきゃって思ったんじゃないのか?


++++++++++++


 二百、五十二。










「はぁ、疲れたピコ。どうにも大変なことになってるみたいピコねぇ。
 あの“破壊”っぷりはちょっとPicoにゃ真似できねーピコ。誰ピコ、あんなん野に放ったの……」

 小さく、音がした。
 次いで入店のベルが鳴ってだれかがオアシスカフェに入ってきた。
 俺は首を動かしてそっちを見た。
 そこに居たのは、赤色の髪を小ぶりのツーサイドアップにしたちんまい幼女だった。
 小さな体に似合わない、大きなピコピコハンマーを抱えていた。

「ん」
「あ」

 目が合う。
 幼女のくりくりとしたかわいらしい栗色の瞳がこちらを見てひょっと驚いた。

「……折り鶴? なにしてるピコ、お前」
「え」
「もしかして、ずっとそれ折ってたピコ? え、ばかじゃねーの? ……頭大丈夫ピコ?」
「えっえっ……えっと」

 幼女に思いっきり頭を心配された。
 二百五十三。
 あ、やべえ、手が勝手に鶴折ってる。
 俺はなにか言い訳をしようとして、しかしコーヒーはずいぶん前に飲み切ったから、
 喉が張り付いていて上手く言葉を紡ぐことができなかった。

「へぁっ、その……だぬぁ」

 自分でも分からないような声が出て。そしたら幼女は、キレた。

「ああ!? ちゃんと喋れピコ!」

 巨大ピコピコハンマーを振りかざしながら――幼女は一瞬で距離を詰めてきた。
 折り鶴の檻が敷かれたテーブルの直前まで。
 大きくそこで床を踏むと、幼女はすっと息を吸って、

「お前がそんな不毛なことしてる間にッ! 外は大変なことになってるピコッ!!」

 巨大なその槌を、全く躊躇することなく振り下ろした。
 Pico!!
 と大きな音がしたのもつかのま。
 俺が作り上げていた檻は、テーブルごとバラバラにクラッシュしたのだった。

「……なっ」
「このように。Picoのハンマーはどんな障壁だろうがプログラムだろうが、クラッシュさせることができるピコ。
 代わりにランダム支給品はなかったけど、これがあればなんだろうと“破壊”して終わらせるピコ。
 だから慢心してた。テキトーにこのクソゲーぶっ壊して帰るかって感じだった……でも逃げてきたんだピコ」

 ピコピコ幼女は俺のパーソナルスペースに土足で踏み込むと自分語りを始める。
 一人称がPicoで語尾がピコってピコピコ言いまくりだな、とかツッコむ暇もない怒涛の勢いだ。
 床にバラバラになった机は見ればレゴブロックみたいにパーツに分かれている。
 不思議な壊れ方だ。
 ということはこの幼女は、そのハンマーは人の理を超えたなんかで――でも幼女は逃げてきたらしい?
 なんで? いや、なんでじゃない考えろ、考えろ。
 何でも何もない。それは。この幼女より強くて危険なのが近くにいたからだってことに決まってる 

「人が死んだピコ」

 その結論にたどり着いたと思ったら、さらにひどい新情報が追加された。

「え」
「さすがに拡声器の声は届いてたピコ? あれは魔法図書館からだったんだピコ。
 Picoはとりあえず様子見で、近くの家の屋根から覗いてたピコ。
 けっこう人集まってたピコね。
 でもPicoは、にっくきウイルスバスターのやつもいたし、ちょっと合流する気にはならなかったんだピコ。
 そしたら【アレ】がやって来て――すべてを。壊していった。
 もう、あそこは完全に崩壊したピコ。巻き添えで、何人かやられるのを見たピコ。たぶん死んだ」
「え、え」
「建物が一瞬でがれきになる瞬間見たことあるピコ? クソ意味分からねえ展開だったピコ。
 なにあれ完全にチートクラスだピコ! 閻魔だか死神だか知らねーけど加減ってもんを知らないピコね」

 俺は脳内でピコピコ幼女の言葉を反芻する。
 ええと、要は……拡声器に誘われて集まった人たちが。
 なんかすげえのに施設ごと破壊されて死んだ?
 そんな、ゲームの中みたいな出来事が現実にあるとは思えなかった。
 だからなにが「起きているかもしれない」かを推測するのに、時間がかかる。
 絶望が後回しになる。

「お前――信じられないって顔してるピコね。ちょっと来るピコ」
「おい」

 ぐいと手をひっぱられてオアシスカフェから出ることになっても、俺はまだ、その意味を理解できないでいた。


++++++++++


 それから。俺は図書館近くの屋根の上に昇らされて、強制的にその惨状を幼女に見せつけさせられた。

 ――魔法図書館は崩壊していた。

 文字通り、言葉通り、がれきになって粉みじんになってしまっていた。
 図書館がそこにあったと言われても信じられない。
 人がここに居たらしいだなんて、もっと信じられない感じに壊れていた。

 でも俺は。信じるしかなかった。
 だって、そこには“あった”から。

「あ」
「……おいどうしたピコ、クズニート。あれ、知ってるヤツだったピコ?」
「あ……ああ、あ。あああ」

 がれきとなった施設の端のあたりに、落ちていたのを見てしまったから。







 女の子の左腕。

 誰かのデイパック。

 そして――銀色の、エアガン。


「アイレア、ちゃん」

 そうだった。
 その可能性は、鶴を折りながら考えていたってのに。
 俺にすら忠告してくれたあの娘が、拡声器を使うなんてバカなことする奴に、
 忠告しないはずがない。そっちにいかないはずがないのに。



 ――そう。間違いなく、それは。
 俺が数時間前に別れた、アイレア・オッドのもの、だった。



【F-2 魔法図書館跡地/早朝】

【高山信哉】
【状態】健康、絶望
【装備】なし
【所持品】基本支給品、ランダム支給品×3
【思考・行動】
1:嘘だ
2:嘘だろ?
【備考】
※アイレア・オッドと情報交換をしました。

【PicoPico.2008】
【状態】健康
【装備】電脳ピコピコハンマー
【所持品】基本支給品
【思考・行動】
1:このクソゲーを壊す
2:クソニートに現実を突きつける


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