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「きわめて受動的な自殺」




 支給された物の中におあつらえ向きにロープがあったので、うまいこと投げてみれば梁に通り、
 輪っかを作るのは初めてだったが、人間やってみれば出来るものだ。
 古ぼけた本でも重ねれば台座となり、蹴飛ばすだけで崩せるならやりやすいだろう。
 ボー・エンザーは両手でしっかりと縄を持って首に通し、そして

「――ま、待つのですッ!!!!」
「ぐおおっ!?!?」

 背後から走り抜けてきた侍の格好をした少女に、その自殺を止められることとなった。


+++++++++


「おぬし……止めるにしてももっとこう、なあ。ロープの方を切ればよかったじゃろうに」
「申し訳ありません! それがし、手元が狂いやすいもので、
 ロープを狙ったら間違えて貴殿の首が飛んでしまうかもしれないと思ったら、その」
「それにしたってなぁ――」

 地図の西側、青の国にある魔法図書館は西洋風の建物だった。
 中はたくさんの本棚、壁にも本棚と本だらけ、
 高い天井からはシャンデリアなどもつり下がっており、魔法がかかっているかのようにおしゃれだ。
 また、三メートルはある大きな本棚と本棚を繋ぐようにして上部に梁がいくつも通っており、
 本棚が倒れるのを防ぐとともに建物の強度も上げている、合理的な構造だ。
 だからボー・エンザーは“改めて”自殺するならこの施設にしようと決めて、
 樹海のようにそびえる本棚の間で、梁のひとつにロープをかけて死のうとした。
 が、“またもや”ボー・エンザーの思惑は打ち破られた。思い通りにいかなかったのだった。

「もういい、ともかくワシはもうさっさと死にたいんじゃから、潔くおぬしがワシの首を斬れよ」
「だ、ダメです! 命を粗末にすることこそ潔くないです!
 それがしは、貴殿に何があったかは存じ上げません。ですがしかし、自殺は!
 自ら命を絶つということは、可能性を捨てることです――そこには相応の覚悟がなければなりません。
 教えてはくれませんか! なぜさっさと死にたいのか。内容如何では介錯を手伝うもやむなしですが……」

 出来うるならばそれはしたくはありませぬ。などとのたまう対面の侍少女。
 自殺を止めるのにロープではなく、梁を刀で切り裂いた。
 見上げれば真っ二つに斬れた梁。
 太いのに綺麗な切り口、ムカつくほどに潔い。
 侍少女は、名をイサギヨWB-07。職業はウイルスバスターだと言う。
 ボー・エンザーは御年60歳でPC世代ではないが、
 ニュースキャスターの職に就いているからその単語には聞き覚えがある。
 しかしウイルスバスターとはパソコンに入ったウイルスを除去するためのソフトのはずだが。

「それは、それがしも不思議に思っています。ソフトであるはずのそれがしに、寿命や魂があったとは……」
「魂は知らんが、2007年というとかなり前じゃから、サービスの終了が寿命という考え方はありじゃろうな。
 ……じゃが、わしからすればモノであることには変わりない。モノに説教などされたくないし、モノに話すべきこともない」
「な……」

 自殺の理由はいろいろある。
 この一年立て続けに不幸が起こったこと、年を取りすぎてなお生きるのに抵抗があったこと、
 TV番組生放送で拳銃自殺というのもセンセーショナルではないかと思ったことなど枚挙に暇ない。
 だがその計画を明日に控えたところでこんな場所に呼ばれてしまった。
 激おこである。
 仕方なく首吊りに変更したにもかかわらずまた邪魔された。
 もはやぶちぶち堪忍袋の尾が切れ丸だ。

「でも、理由を言ってもらわないと、それがしが納得でき」
「話しかけんでくれ」

 ムカつきから子供でもしないほどのしかめ面をしているのに、なおも理由を訊こうとするので、
 イサギヨに対しボー・エンザーはそっぽを向いた。イサギヨは困った顔をした。
 ――この少女もといウイルスバスターソフト、どうやらよく居る正義厨。
 長い髪をひとつ結び、和服にサイバーな意匠の日本刀、
 ウイルスという悪い存在を殺すためのみに働くのだから正義の心を持っていて間違いではないが、
 彼女がそばにいるかぎりボー・エンザーは自殺(きまりごと)が出来ないという非常に迷惑な話であった。

 そうボー・エンザーにとって自殺とはもはやきまりごとだ。
 変えることのできない予定なのだ。
 イサギヨWB-07が正義厨ならば、ボー・エンザーは予定厨。
 自殺の理由も色々あることはあるが結局詰めてしまえば一言「もう決めたことだから」としか言いようがない。

「じゃが、それでは納得してくれまい」
「?」

 そこでボー・エンザーは一計を案じる。
 デイパックの中にはロープの他にも面白い物が入っていた。
 大衆に向けて発信する職に就いていた自分に、この支給品は確かにおあつらえ向きだったかもしれない。
 悪いが本来の用途とは別で使わせてもらう。気持ちが真逆なだけで正しい使い方なのだろうけど。

「イサギヨとやら。おぬし、わしを死なせるつもりがないのなら。
 当然この殺し合いには反抗しておるのじゃろ? 当然誰も死なせるつもりはないのじゃろう?」
「え、ええ、もちろんですとも」
「ならば――わしはおぬしに協力してやろう。
 あるいは試練かもしれんがな。さあ、これからわしを、死なせるなよ?」

 ボー・エンザーはそう言って。
 デイパックから拡声器を取り出すと、おもむろに魔法図書館の出口に向かって歩き始めた。


++++++++++


『マイクテスト。マイクテスト。わしの名前はボー・エンザー。しがないニュースキャスターじゃ。
 わしは老い先短い。この殺し合いで例え生き残ってもどうせ長くは生きられんじゃろう。
 じゃがだからこそ――だからこそわしは死を覚悟してこの拡声器を握らせてもらう。
 若人よ! 未来ある者たちよッ! わしはこのふざけた殺し合い、反対じゃ! 同意するものは――集え!』 


++++++++++


 それはきわめて受動的な自殺。
 嘘八百のきれいごとで、正義ではなく悪を集める行為。
 拡声器による対主催チーム結成のよびかけ。
 自分を殺してしまうためにみんなの犠牲になりにいく「正義厨では反論できない」やり方だった。

「い、潔いですな、ボー・エンザーどの……そこまでして死にたいのですね」
「ああそうじゃ。さあ改めて、どうするイサギヨとやら。
 といっても、おそらくおぬしのすることは決まっておろうがな」
「ええ」

 皮肉に笑うボー・エンザーの意地悪な問いかけに、頷きをひとつ返して。
 ――魔法図書館入り口前。拡声器を持って無防備に突っ立つボー・エンザーの前に、
 ウイルスバスター(にんげんのみかた)は凛とした佇まいで刀を構え、彼を守る体制を整えた。

「潔く。貴殿が創ったピンチをチャンスに変えてごらんに入れましょう。
 拡声器で集まった善人を全員守る。――集まった悪人を全員成敗する! それがしは、それだけ!」


 人を守るためにつくられたヒーローは機械的にただそうするしか、ない。


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 つまり当然、すべてを破壊するためにつくられたデストロイヤーもまた、


『(ひ、人の、人の声、向こう、向こうだ、人、破壊、破壊、破壊、破壊、
  破壊、破壊、壊して、壊す、人、もの、全部――壊す壊す壊す壊す壊す!)』


 そうするしかないといったように、拡声器から放たれた「音声」に反応して、いる。



【F-2 魔法図書館前/黎明】

【イサギヨWB-07】
【状態】データ破損率0%
【装備】サイバー日本刀
【所持品】基本支給品、ランダム支給品×2
【思考・行動】
1:ボー・エンザーを守りきる
【備考】
※電脳世界の住人ですがなぜか現実に出てきています。

【ボー・エンザー】
【状態】死にたがり
【装備】拡声器
【所持品】基本支給品、ランダム支給品×1、ロープ
【思考・行動】
1:拡声器で悪人を呼び、殺してもらう


【G-2/黎明】

【Many arms(M-A023)】
【状態】破損無し、健康。
【装備】無し
【所持品】無し
【思考・行動】
1:生存者全てを殺し、自爆する。
2:F-2のほうに音反応。
3:精神が発狂しています。
【備考】
※熱反応があり、よく動く物体を生物と認識します。
※音でも反応するので注意



※黎明時にF-2で拡声器が使用されました。声が周り1エリアくらいに拡散して聞こえたかも。


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