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**昨日と今日の狭間で 「ふいーっ、学校だるかったなー。二次元がなきゃやってらんないよ、ホント」 「おっ、あの会社また新作かよ。しかも二機種同時発売で連動可能!?気合入ってるなー」 「え、マジかよ!?あれがアニメ化すんの!?おいおい、駄アニメにするのだけは勘弁してくれよ……」 「そういやあの町で主人公と闘ったのって誰だっけ……ちょっと確認するか」 「……っと、もうこんな時間だ。ゲーム実況の続きやらないと」 「マイクOK、カメラOK……んじゃ、そろそろ行きますか」 「戦場を、駆け抜けに!」 ■ 俺が目を覚ましたのは、民家の中だった。 それもご丁寧に、ふかふかのベッドにきちんと寝かされ、良い香りのする毛布を掛けられた状態で。 頭だけを動かして周囲を見回すと、綺麗な花柄の壁紙と、お揃いのカーテンが目に入った。 さらに目線を移動させると、きちんと整頓された机があり、すぐ隣には分厚い本が詰まった本棚が佇んでいた。 少し視線を下げると、床はこれまた可愛らしい色使いのカーペットが敷いてある。 汚いと感じる点はどこにもない、整頓された部屋。 けれどもそんな恵まれた部屋の中で、俺は今この状況が異常だと再認識できた。 あるべきものがない。 使い慣れたゲーム機も。 もう二十回は読み返した小説の山も。 親に無理を言って新調して貰ったPCも。 高校生の頃からコツコツ貯めた貯金で買ったテレビも。 ついさっきまで俺の部屋にあった全てのものが、この部屋には存在しなかった。 ベッドから降りて、カーテンを開ける。 どうやらこの部屋は二階のようで、窓から見える景色は高かった。 俯瞰風景って、そういえば映画が近日公開だったような、と少し思考が脇道にそれた。 外は当然、見たこともない街並み。 道路には子供一人、動物一匹すら見当たらない。 どこか空虚な青い街を、俺はひとりでずっと眺めていることしかできなかった。 エレキシュガル――死神の言っていたことを反芻する。 この島にいる人間が、半分になるまで。俺たちは殺し合わなければならない。 そうしなければ、生きて元の世界には帰れない。 ふと、ゲーム実況のことを思い出した。 まだ始めたばかりの『アラクタシアの逆転』実況プレイ。 視聴者の皆はそれなりに楽しみにしてくれているのに、それを続けることもできなくなるかもしれない。 そう考えると、少し心残りではある。 かといって、殺人に手を染める勇気はない。 オカルトJK――花子ちゃんは、人を殺す決意を語っていたが。 俺には絶対に出来ない。 今この瞬間だって、手はブルブルと小刻みに震えている。 情けないとも思わない。純粋に今の状況が怖い。 どこだか分からない場所。いつだか知れない時間。 普通の民家だとか、外は明るいとか、そういう答えが聞きたいわけではない。 ただただ、困惑していた。混乱していた。恐怖していた。 「……あ」 何分経っただろうか。 一人の女の子が、俺の視界に入った。 デイパックを背負い、拳銃――エアガンだろうか――を手に持って、気怠そうに歩く茶髪の女の子。 アニメのキャラでもおかしくないくらいの美少女には、だけどやっぱり、首輪が嵌められていた。 危険な人間じゃなさそうだし、コンタクトをとりたい。 今のこの状況を落ち着いて話すには、誰か話す相手が欲しかった。 女の子だからと躊躇ってもいられない。 俺はベッドのそばに置かれていたデイパックを引っ掴むと、部屋のドアを乱暴に開けて飛び出した。 ■ 「俺は高山信哉。あー……、大学生だ」 「私はアイレア・オッド。……貴方も首輪を嵌めているのね」 結果から言うと、コンタクトは成功した。 自己紹介なんてしたのは、大学に入って初めてやった合コン以来だ。 確かあのときは散々な結果に終わったが、って、そんなことはどうでもいい。 とにかく状況確認が先決だ。 「えっと、アイレアもここに呼ばれたんだよな。何か心当たりはあるのか?」 「……私は、魔人との決闘を控えていた。認めたくはないけど、近々死ぬ機会があったとすれば、それね」 「……は?」 「くっ……あれだけ準備をしても、ヴェルーゴーには敵わないのね」 魔人?決闘?冗談だろ?なんでこんなに冷静なんだ? 俺の中に生まれた幾つもの疑問は、けれど喉の奥から出てこなかった。 アイレアがとても冗談を言っている風には見えなかった、というのもある。 だが、それ以前に、恐怖を感じた。 こんな場所に連れ去られてきたというのに、アイレアは冷静だった。どう見ても高校生くらいの年なのに、だ。 正直、俺は未だにこの状況に混乱している。 それなのに、会話している相手が、年下の女の子がここまで落ち着き払っていては、俺が変みたいじゃないか。 俺が異常みたいじゃないか。 「これ以上、ここにいるのは危ないわ。一先ず、近くにあるカフェに行きましょう。情報交換はそこで」 「あ、ああ……カフェ?」 「地図を見ていないの?全く、危機感のない」 「す、すまない」 少しのやりとりの後、会話は打ち切られた。 随分気が強いな、と思いながら、俺はアイレアの後ろについて行った。 恐怖はあるが、今はそれどころではないと言い聞かせる。 今はできるだけ状況把握に努めなければならない。 そういえば、デイパックの中身を確認していない。 時間を無駄にしてしまったことを悔やんでいると、アイレアが振り向かずに話しかけてきた。 「貴方、コーヒーは淹れられる?」 「え?えーっと……」 ここで出来ないと答えるのは正直すぎるし、男がすたる。 それに、女の子に見くびられたままなのも癪だった。 つまらないプライドと、内心の混乱を誤魔化す思惑から、俺はこう答えた。 作った声で答えてしまった。 「ああ、家でもよく飲むよ」 そう、と呟いたアイレアの声が少し嬉しそうに聞こえたとき、まだ俺は失敗に気付いていなかった。 ■ コポコポ、とコーヒーメーカーが音を立てる。 青の国の北東に位置する、オアシスカフェに俺とアイレアはいた。 名前の通り、心から落ち着けるカフェだ。 店内の装飾や、かかっている音楽も、落ち着いた雰囲気を醸し出すのに一役買っている。 朝の一杯と称してコーヒーでも飲むのには最適の店だろう。 ただし、今の俺にそんな余裕はなかったが。 「コーヒーはまだ?」 「もう少し待ってくれ……」 催促の声に、俺はカウンターの中から返事をした。 ちらりと様子を窺うと、アイレアは椅子に座って、銀色のエアガンを慰み物にしていた。 はあ、と俺は溜息をついた。 アイレアにはああ言ったが、なにせコーヒーを淹れるのなんて初めてだ。勝手が分からない。 サイフォン?ドリップ?エスプレッソ?何が何やら、さっぱりだ。 それでも、どうにかコーヒーメーカーを起動させ、コーヒーを淹れるという段階まで来られたのは幸運だった。 出来なかったらどうしようかと思った。 熱いコーヒーを淹れるつもりが、肝が冷えるとは。 「まったく、なんでこんなことに」 「何か言った?」 呟いた俺の背後で、チャキ、と拳銃を構える音がした。 アイレアが持っていたエアガンの音だ。 俺が振り向く間もなく、乾いた銃声が連続して響く。 背中、左右の二の腕、首筋。 痛みが身体の各所に走る。 俺は堪らずに屈んで、普段はカフェのマスターがいるのであろうカウンターの陰に隠れた。 「や、止めろ!俺を撃っても意味ないって!」 「試し撃ちよ。使い慣れない銃だから」 「弾の無駄だろ!」 「そうでもないわ」 いきなりコーヒーを作れと言ったり、溜息をついただけで撃って来たり。 理不尽極まる言動だ。 俺はカウンターから頭を出して、更なる抗議の声を上げようとした。 「隙有り」 だが、声を上げる前に、眉間に痛みを感じた俺は、アイレアには勝てないということを実感した。 二発、三発、四発。 寸分も違わぬ眉間の一か所に、連続して銃弾が当たる。 反応が遅れた俺は、バランスを取れずにたたらを踏んだ。 そして床に落ちた何か――恐らく壁に掛けてあった装飾品だろう――を踏みつけて、視界が急激に上に向いた。 カウンターの内部はそう広くない。 故に転んでしまえば、後ろの壁なり戸棚なりにぶつかることは必定だった。 「うおっ!」 ガン、という鈍い音が俺の背後からした。 というか、俺の身体が鳴らした音だった。 そもそもなんでこのような事態になったのか。 立ち上がる気力もなかった俺は、頭の痛みに耐えながら、考えようとした、が。 「ぼうっとしてないで、さっさとコーヒーを淹れなさい。情報交換はその後よ」 上から掛かった声は、どこまでも容赦のないものだった。 銃声に急かされて、俺はあたふたと立ち上がり、食器棚の方へ向かった。 そして、溜息をもう一つ。 初対面の年下の女の言いなりになっている自分が、どうしようもなく情けなかった。 ■ 「ダサいカップね。……それに、まずいわ」 「……ごめんなさい」 ■ コーヒーを飲み終えて、情報交換も終えた俺とアイレアは、すぐにカフェを出た。 これはアイレアの提案で、一つの場所に留まるのは危険が多いから、とのことだった。 魔人ハンターという職業は眉唾物だが、少なくとも俺より警戒心はある。 会話をしていてそう感じたからこそ、俺はアイレアに素直に従った。 混乱していた頭が、少しは落ち着いたというのもある。 しかし、アイレアは続けて、その頭を揺さぶる発言をした。 「それじゃ、また会いましょう」 「……は?」 このときの俺自身の顔は、きっと阿呆みたいだったと思う。 それくらい、予想外な一言だった。 アイレアは俺の顔を一瞥すると、言葉を続ける。 「一日を目途にこの殺し合いは終わる、死神はそう言っていたわ。  貴方はここから生き延びたいんでしょう?それも、自分の手では人を殺さずに。  私に言わせれば甘っちょろいけど、貴方の行動にケチをつけるつもりはないわ。頑張って」 「じ、じゃあ!別に一緒に行動しても……」 俺は必死に、アイレアを引き留めようとしていた。 別に惚れた腫れたとか、そういう邪な気持ちがあった訳じゃない。 ただ、真偽はどうあれ地獄と称されたこの島で、一人で行動することの心細さを想像してしまった。 それ故に、アイレアを引き留めた。 「私の目的は、生き残ることもそうだけど、最優先事項は魔人の討伐。  経験から肌で分かるの。この島にも魔人の類がいる。私はそれを探して討つつもり。  魔人の討伐に一般人の貴方がいては足手まといになる。最悪死ぬ可能性も。それは私としても不本意」 「…………」 真剣な表情で語るアイレアに、俺はまともな反論が思いつかなかった。 確かに、アイレアの銃の腕前はすごい。俺からすると、すごいとしか言い表せない。 そして俺には、魔人?とかと闘えるすごい技術はない。 いざ魔人と戦う時に、俺がいては足手まとい、いや、はっきりいって邪魔だろう。 だったら、俺はこれ以上反駁せずに、おとなしく引き下がった方がいい。 「だから、理解して。ここで別れましょう」 「……そう、だな」 いや、だとしても。 それはそうだが。 俺はそれでも。 そうだけど。 「……もう一度言うけど、私は魔人を探しに行くから、死にたくなければ、くれぐれもついて来ないことね」 俺が黙っている間に、アイレアはそう念を押して、俺に背を向けた。 非現実の中で、一人でいるのは心細い。 かといって、アイレアについて行くわけにもいかない。 ごちゃごちゃした俺の心中に、当人ではないアイレアが気付くはずもなかった。 デイパックを背負い、エアガンを片手に持った人影が、だんだんと小さくなっていく。 俺は、棒立ちのままそれを見送ることしか出来なかった。 【E-3 オアシスカフェ付近 / 未明】 【高山信哉】 【状態】健康、不安 【装備】なし 【所持品】基本支給品、ランダム支給品×3 【思考・行動】 1:生き延びたい 2:どうしたらいい? 【備考】 ※アイレア・オッドと情報交換をしました。 【アイレア・オッド】 【状態】健康 【装備】銀のエアガン、銀のBB弾(たくさん) 【所持品】基本支給品、ランダム支給品×1 【思考・行動】 1:魔人を探す 2:魔人を討つ 【備考】 ※高山信哉と情報交換をしました。 ※E-3オアシスカフェの店内が、少し荒れています。 ---- **SSリンク |[[「標本の医者の歩幅は60センチ」]]|前話|次話|[[「道化と不死者」]]| ---- **このSSの登場人物 -[[高山信哉]] -[[アイレア・オッド]] ---- [[本編SS目次へもどる>本編SS目次]] [[トップページへ>トップページ]]

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