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「昨日と今日の狭間で」(2013/08/29 (木) 01:41:11) の最新版変更点
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**昨日と今日の狭間で
「ふいーっ、学校だるかったなー。二次元がなきゃやってらんないよ、ホント」
「おっ、あの会社また新作かよ。しかも二機種同時発売で連動可能!?気合入ってるなー」
「え、マジかよ!?あれがアニメ化すんの!?おいおい、駄アニメにするのだけは勘弁してくれよ……」
「そういやあの町で主人公と闘ったのって誰だっけ……ちょっと確認するか」
「……っと、もうこんな時間だ。ゲーム実況の続きやらないと」
「マイクOK、カメラOK……んじゃ、そろそろ行きますか」
「戦場を、駆け抜けに!」
■
俺が目を覚ましたのは、民家の中だった。
それもご丁寧に、ふかふかのベッドにきちんと寝かされ、良い香りのする毛布を掛けられた状態で。
頭だけを動かして周囲を見回すと、綺麗な花柄の壁紙と、お揃いのカーテンが目に入った。
さらに目線を移動させると、きちんと整頓された机があり、すぐ隣には分厚い本が詰まった本棚が佇んでいた。
少し視線を下げると、床はこれまた可愛らしい色使いのカーペットが敷いてある。
汚いと感じる点はどこにもない、整頓された部屋。
けれどもそんな恵まれた部屋の中で、俺は今この状況が異常だと再認識できた。
あるべきものがない。
使い慣れたゲーム機も。
もう二十回は読み返した小説の山も。
親に無理を言って新調して貰ったPCも。
高校生の頃からコツコツ貯めた貯金で買ったテレビも。
ついさっきまで俺の部屋にあった全てのものが、この部屋には存在しなかった。
ベッドから降りて、カーテンを開ける。
どうやらこの部屋は二階のようで、窓から見える景色は高かった。
俯瞰風景って、そういえば映画が近日公開だったような、と少し思考が脇道にそれた。
外は当然、見たこともない街並み。
道路には子供一人、動物一匹すら見当たらない。
どこか空虚な青い街を、俺はひとりでずっと眺めていることしかできなかった。
エレキシュガル――死神の言っていたことを反芻する。
この島にいる人間が、半分になるまで。俺たちは殺し合わなければならない。
そうしなければ、生きて元の世界には帰れない。
ふと、ゲーム実況のことを思い出した。
まだ始めたばかりの『アラクタシアの逆転』実況プレイ。
視聴者の皆はそれなりに楽しみにしてくれているのに、それを続けることもできなくなるかもしれない。
そう考えると、少し心残りではある。
かといって、殺人に手を染める勇気はない。
オカルトJK――花子ちゃんは、人を殺す決意を語っていたが。
俺には絶対に出来ない。
今この瞬間だって、手はブルブルと小刻みに震えている。
情けないとも思わない。純粋に今の状況が怖い。
どこだか分からない場所。いつだか知れない時間。
普通の民家だとか、外は明るいとか、そういう答えが聞きたいわけではない。
ただただ、困惑していた。混乱していた。恐怖していた。
「……あ」
何分経っただろうか。
一人の女の子が、俺の視界に入った。
デイパックを背負い、拳銃――エアガンだろうか――を手に持って、気怠そうに歩く茶髪の女の子。
アニメのキャラでもおかしくないくらいの美少女には、だけどやっぱり、首輪が嵌められていた。
危険な人間じゃなさそうだし、コンタクトをとりたい。
今のこの状況を落ち着いて話すには、誰か話す相手が欲しかった。
女の子だからと躊躇ってもいられない。
俺はベッドのそばに置かれていたデイパックを引っ掴むと、部屋のドアを乱暴に開けて飛び出した。
■
「俺は高山信哉。あー……、大学生だ」
「私はアイレア・オッド。……貴方も首輪を嵌めているのね」
結果から言うと、コンタクトは成功した。
自己紹介なんてしたのは、大学に入って初めてやった合コン以来だ。
確かあのときは散々な結果に終わったが、って、そんなことはどうでもいい。
とにかく状況確認が先決だ。
「えっと、アイレアもここに呼ばれたんだよな。何か心当たりはあるのか?」
「……私は、魔人との決闘を控えていた。認めたくはないけど、近々死ぬ機会があったとすれば、それね」
「……は?」
「くっ……あれだけ準備をしても、ヴェルーゴーには敵わないのね」
魔人?決闘?冗談だろ?なんでこんなに冷静なんだ?
俺の中に生まれた幾つもの疑問は、けれど喉の奥から出てこなかった。
アイレアがとても冗談を言っている風には見えなかった、というのもある。
だが、それ以前に、恐怖を感じた。
こんな場所に連れ去られてきたというのに、アイレアは冷静だった。どう見ても高校生くらいの年なのに、だ。
正直、俺は未だにこの状況に混乱している。
それなのに、会話している相手が、年下の女の子がここまで落ち着き払っていては、俺が変みたいじゃないか。
俺が異常みたいじゃないか。
「これ以上、ここにいるのは危ないわ。一先ず、近くにあるカフェに行きましょう。情報交換はそこで」
「あ、ああ……カフェ?」
「地図を見ていないの?全く、危機感のない」
「す、すまない」
少しのやりとりの後、会話は打ち切られた。
随分気が強いな、と思いながら、俺はアイレアの後ろについて行った。
恐怖はあるが、今はそれどころではないと言い聞かせる。
今はできるだけ状況把握に努めなければならない。
そういえば、デイパックの中身を確認していない。
時間を無駄にしてしまったことを悔やんでいると、アイレアが振り向かずに話しかけてきた。
「貴方、コーヒーは淹れられる?」
「え?えーっと……」
ここで出来ないと答えるのは正直すぎるし、男がすたる。
それに、女の子に見くびられたままなのも癪だった。
つまらないプライドと、内心の混乱を誤魔化す思惑から、俺はこう答えた。
作った声で答えてしまった。
「ああ、家でもよく飲むよ」
そう、と呟いたアイレアの声が少し嬉しそうに聞こえたとき、まだ俺は失敗に気付いていなかった。
■
コポコポ、とコーヒーメーカーが音を立てる。
青の国の北東に位置する、オアシスカフェに俺とアイレアはいた。
名前の通り、心から落ち着けるカフェだ。
店内の装飾や、かかっている音楽も、落ち着いた雰囲気を醸し出すのに一役買っている。
朝の一杯と称してコーヒーでも飲むのには最適の店だろう。
ただし、今の俺にそんな余裕はなかったが。
「コーヒーはまだ?」
「もう少し待ってくれ……」
催促の声に、俺はカウンターの中から返事をした。
ちらりと様子を窺うと、アイレアは椅子に座って、銀色のエアガンを慰み物にしていた。
はあ、と俺は溜息をついた。
アイレアにはああ言ったが、なにせコーヒーを淹れるのなんて初めてだ。勝手が分からない。
サイフォン?ドリップ?エスプレッソ?何が何やら、さっぱりだ。
それでも、どうにかコーヒーメーカーを起動させ、コーヒーを淹れるという段階まで来られたのは幸運だった。
出来なかったらどうしようかと思った。
熱いコーヒーを淹れるつもりが、肝が冷えるとは。
「まったく、なんでこんなことに」
「何か言った?」
呟いた俺の背後で、チャキ、と拳銃を構える音がした。
アイレアが持っていたエアガンの音だ。
俺が振り向く間もなく、乾いた銃声が連続して響く。
背中、左右の二の腕、首筋。
痛みが身体の各所に走る。
俺は堪らずに屈んで、普段はカフェのマスターがいるのであろうカウンターの陰に隠れた。
「や、止めろ!俺を撃っても意味ないって!」
「試し撃ちよ。使い慣れない銃だから」
「弾の無駄だろ!」
「そうでもないわ」
いきなりコーヒーを作れと言ったり、溜息をついただけで撃って来たり。
理不尽極まる言動だ。
俺はカウンターから頭を出して、更なる抗議の声を上げようとした。
「隙有り」
だが、声を上げる前に、眉間に痛みを感じた俺は、アイレアには勝てないということを実感した。
二発、三発、四発。
寸分も違わぬ眉間の一か所に、連続して銃弾が当たる。
反応が遅れた俺は、バランスを取れずにたたらを踏んだ。
そして床に落ちた何か――恐らく壁に掛けてあった装飾品だろう――を踏みつけて、視界が急激に上に向いた。
カウンターの内部はそう広くない。
故に転んでしまえば、後ろの壁なり戸棚なりにぶつかることは必定だった。
「うおっ!」
ガン、という鈍い音が俺の背後からした。
というか、俺の身体が鳴らした音だった。
そもそもなんでこのような事態になったのか。
立ち上がる気力もなかった俺は、頭の痛みに耐えながら、考えようとした、が。
「ぼうっとしてないで、さっさとコーヒーを淹れなさい。情報交換はその後よ」
上から掛かった声は、どこまでも容赦のないものだった。
銃声に急かされて、俺はあたふたと立ち上がり、食器棚の方へ向かった。
そして、溜息をもう一つ。
初対面の年下の女の言いなりになっている自分が、どうしようもなく情けなかった。
■
「ダサいカップね。……それに、まずいわ」
「……ごめんなさい」
■
コーヒーを飲み終えて、情報交換も終えた俺とアイレアは、すぐにカフェを出た。
これはアイレアの提案で、一つの場所に留まるのは危険が多いから、とのことだった。
魔人ハンターという職業は眉唾物だが、少なくとも俺より警戒心はある。
会話をしていてそう感じたからこそ、俺はアイレアに素直に従った。
混乱していた頭が、少しは落ち着いたというのもある。
しかし、アイレアは続けて、その頭を揺さぶる発言をした。
「それじゃ、また会いましょう」
「……は?」
このときの俺自身の顔は、きっと阿呆みたいだったと思う。
それくらい、予想外な一言だった。
アイレアは俺の顔を一瞥すると、言葉を続ける。
「一日を目途にこの殺し合いは終わる、死神はそう言っていたわ。
貴方はここから生き延びたいんでしょう?それも、自分の手では人を殺さずに。
私に言わせれば甘っちょろいけど、貴方の行動にケチをつけるつもりはないわ。頑張って」
「じ、じゃあ!別に一緒に行動しても……」
俺は必死に、アイレアを引き留めようとしていた。
別に惚れた腫れたとか、そういう邪な気持ちがあった訳じゃない。
ただ、真偽はどうあれ地獄と称されたこの島で、一人で行動することの心細さを想像してしまった。
それ故に、アイレアを引き留めた。
「私の目的は、生き残ることもそうだけど、最優先事項は魔人の討伐。
経験から肌で分かるの。この島にも魔人の類がいる。私はそれを探して討つつもり。
魔人の討伐に一般人の貴方がいては足手まといになる。最悪死ぬ可能性も。それは私としても不本意」
「…………」
真剣な表情で語るアイレアに、俺はまともな反論が思いつかなかった。
確かに、アイレアの銃の腕前はすごい。俺からすると、すごいとしか言い表せない。
そして俺には、魔人?とかと闘えるすごい技術はない。
いざ魔人と戦う時に、俺がいては足手まとい、いや、はっきりいって邪魔だろう。
だったら、俺はこれ以上反駁せずに、おとなしく引き下がった方がいい。
「だから、理解して。ここで別れましょう」
「……そう、だな」
いや、だとしても。
それはそうだが。
俺はそれでも。
そうだけど。
「……もう一度言うけど、私は魔人を探しに行くから、死にたくなければ、くれぐれもついて来ないことね」
俺が黙っている間に、アイレアはそう念を押して、俺に背を向けた。
非現実の中で、一人でいるのは心細い。
かといって、アイレアについて行くわけにもいかない。
ごちゃごちゃした俺の心中に、当人ではないアイレアが気付くはずもなかった。
デイパックを背負い、エアガンを片手に持った人影が、だんだんと小さくなっていく。
俺は、棒立ちのままそれを見送ることしか出来なかった。
【E-3 オアシスカフェ付近 / 未明】
【高山信哉】
【状態】健康、不安
【装備】なし
【所持品】基本支給品、ランダム支給品×3
【思考・行動】
1:生き延びたい
2:どうしたらいい?
【備考】
※アイレア・オッドと情報交換をしました。
【アイレア・オッド】
【状態】健康
【装備】銀のエアガン、銀のBB弾(たくさん)
【所持品】基本支給品、ランダム支給品×1
【思考・行動】
1:魔人を探す
2:魔人を討つ
【備考】
※高山信哉と情報交換をしました。
※E-3オアシスカフェの店内が、少し荒れています。
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**このSSの登場人物
-[[高山信哉]]
-[[アイレア・オッド]]
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