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「ブラッディ・ワルツ」」(2013/08/24 (土) 15:59:28) の最新版変更点

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**「ブラッディ・ワルツ」 「あらあら……本当に地獄ですわね。こんなに大きな山があるなんて」  赤茶けた荒野の広がる地獄の島――その中央付近にある「針の山」。  およそ高さ10メートルはあるだろう巨大な針を中心に、  大小さまざまな針が密集して半径100メートルほどの広がりを持つ山が出来ているその区画を、  今回のゲームの参加者の一人たる少女の姿をした彼女は見上げていた。   彼女の名はブラッディー・バレンタイン。  人形じみて整った顔、ワインレッドの流麗な御髪、齢15ほどに見える幼げな体にゴスロリ服を纏って。  しかしその実300年の時を生きる吸血鬼のおじょうさまである。 「おかしいですわねぇ……確かに月に一度の鑑賞会では、  わたくしの血液を分け与えてプチ吸血鬼状態にした奴隷人間に様々な拷問を施して、  その悲鳴を聞きながら名品のワインを頂くのが趣味のわたくしですけれど、  あれはわたくしに刺激を与えられない退屈な人間界が悪いのであって、わたくしは悪くありませんし……。  この前なんか御付きのジェームズを裸に剥いたあと、  どれくらいの吸血痕を身体に付けられるか試したら彼死んでしまいましたけれど、  これだってジェームズがあんなにひ弱なのが悪いのであって、やっぱりわたくしは悪くありません……」  小さな体で高い針山を見上げながら彼女はひとりごちる。  全くもって、ブラッディーには身に覚えがなかった。  吸血鬼であり、不死に近い存在である彼女が、「近日中に死ぬ運命」だったらしいことも。  名家のご令嬢であり、誰より気高い吸血鬼だと自認している彼女が、地獄に送られなければいけない理由も。  だから彼女はぐるぐると、首元に人差し指を当てて少し首を傾げつつ歩く。  そして……しばらくそうしてぐるぐるしながら考えたあと、ついに彼女は結論に至った。 「ま、考えていても仕方がありませんわ! せっかくですし、このゲームを楽しみましょう!」  手を叩いて、前向きに思考を切り替えることにしたようだった。  ブラッディー・バレンタイン嬢はつまるところ、こんなふうに気まぐれで、そして無邪気に冷酷なのだった。 +++++++++ 「あら! 美しい剣ですわね。装飾に職人の技を感じますわ。帰ったら部屋に飾りましょう」 「これは……なんなのでしょう? モジャモジャの毛髪の……少しくさいですわ」 「そして最後に――弾丸、ですか。銀ではないから触れますが、ううん、弾だけあっても銃がないと意味ないですわ」  ブラッディーは針山のそばの大地に腰を下ろして、支給されたデイパックの中身を確認した。  ひとつ。飾りの豪華な、観賞用の剣。武器としては特殊な力もないただの剣であるが、飾りのぶん一撃は重いだろう。  ひとつ。アフロヘアーのカツラ。誰のものか全く分からない。が分かりたくもない代物だと彼女は認識した。  最後に出てきたのは、一発の弾丸だった。  これについては、完全に謎だ。銃もないのに弾丸だけ渡されても、といった気持ちである。 「ですが……ふふ、このようなゲームに出てきたアイテムですもの、何らかの意味はあると思われますわ。  知らない場所に分からないこと、モノだらけ……ほんとうに、退屈しないのはいいですわね」  わりとハズレな支給品だ、と感じながらも、  ブラッディーはその確認行為自体に胸を高鳴らせたのか、楽しそうな表情をつくった。  300年生きていると退屈が一番の毒だと彼女は思う。心の退屈こそが、吸血鬼を殺すのだと。 「ああ。わたしの死因とやらも、きっと長年に渡る、退屈の毒のせいでしょうね。  本当にあれはおそろしいものよ。だってヒトの血は吸えても、退屈からは血は吸えないもの。  それをわざわざこんなスリリングな舞台を用意してくれるなんて、閻魔さんったら優しい御方だわ」  弾丸とカツラをデイパックに仕舞って、剣は抜き身のまま利き手で持つ。  おもむろに背後を振り向いて切っ先を突き付ければ、金髪の男は歩みを止めた。 「そう、本当にお優しくて。いきなり退屈しなさそうな相手を、用意してくれるのですから」 「……ほう、気づいていたか。化物風情が」 「あら神父さま。ご機嫌麗しく……はなさそうですわね?」 「いいや、むしろ昂ぶっているぞ。なにしろあの名家、バレンタインの当主を“裁ける”のだから」 「あら! “裁く”! このわたくしを、貴方が?」  ……支給品を確認しながらも、ブラッディー・バレンタインは周囲への警戒は怠っていない。  ゆえにその男が気配を隠しながらこちらに近づき、  右手に携えた剣で自らを斬り捨てようとしていることなど、とうの昔に気付いていた。  金の髪を撫でつけた背高の神父。  そのしろがねの瞳が矢のごとくこちらを射ている。  おそらくは魔物専門の狩り手。それもなかなかのやり手だ。  ブラッディー・バレンタインは男との面識はないが、相手はこちらを知っていた。  まあ……ユーロで最も有名と言われるバレンタイン家のことなど、  この手の者には基本知識だろうから、一方的に知られていることについては、目くじらなど立てないが。 「わたくし、傲慢な男性はきらいですの」  剣を斜めに振る。びゅんと音を立て、切っ先が通った軌跡が熱を帯びる。  ブラッディー・バレンタインの得意な戦闘スタイルは、剣闘。  幼少期に趣味で始めたものがぐんぐんと伸びて、今や城で彼女に勝てる者はいないほどだ。  3世紀かけて磨いたそれは、当然ヒトのレベルなど超えている。 「人間風情がわたくしを“裁く”など、自惚れもいいところ。  身の程を、教えてあげますわ。そこの針山まで飛ばして――針漬けにしてあげる」 「ほう。聖職者を磔(はりつけ)とはなかなかウィットなジョークだ。60点をあげよう。  だがね、お嬢さん。法律で決まっているのだよ。化け物は――地獄行きが必定だとな」  呼吸乱れず綺麗な動き。やはりなかなかの手腕を持っているらしい神父の動きを、  しかし吸血鬼の緋色の目はしっかりと捉えていた。  こちらに迫りくるその半歩を先取って、7割の力を込めた一閃でまず腕を削ぎ落とし、  悲鳴をあげ後退する金髪をもう片方の手で掴み、針山へと向かって思い切り投げ飛ばす。  たったそれだけの作業を今から行えば終わりだ、と。彼女の経験則は告げる。  熟練しきった彼女の目には。始まる前から戦闘の結果までもがありありと見えているのだった。 「……あら、少し期待したのですけれど。やっぱり、退屈な余興かしら?」  彼女は深く思考することもないまま。未来予測にのっとって、退屈そうに剣を振った。 +++++++++  10分の、のち。  針山の中腹あたりには、全身を針に貫かれ血液を流し続ける一人の死体があった。  腕は片方そぎ落とされてその顔は驚きに染まっている。  だけでなく体のいたるところに細かい剣撃の跡があり、まさになぶられたといった感じだ。  その瞳は、緋色。  もちろん血液が目に集まり充血しているからではない。死んでいるのが緋色の目のほうだからだ。 「ふん。退屈な余興だったな。ウォーミングアップにもならん」  勝者たる神父――ラファエル・キルシュタインは一滴の血も流すことなく、死した吸血鬼を見上げている。  彼が勝ったのは偶然ではない。かといって彼が何か策を練ったかといえばそれも違う。  単純に、この結果は実力差から来たものだ。いや正しくは、経験の差、か。 「確かに剣術の腕だけ見れば、お前のほうが上だったかもしれんな、バレンタイン。  しかし、ワインを飲んでヒトをいじめて暮らしながら、余興で行う“試合の剣術”では“殺しの剣”には勝てぬのだ」  要は、ベクトルの違いだ。  ブラッディー・バレンタインが極めていたのは城の中で兵士と行う、あくまで試合形式の剣術。  そこに命の奪い合いの要素はなく、極めてしまえば相手の動きから次の行動を読むことすら出来る。  “型”が存在するからだ。  しかし闇バチカンの戦闘員として魔物たちと“殺しの剣”を交えてきたラファエルの動きに“型”は存在しないからだ。  常に状況に合わせてスタイルを変え、勝ちではなく殺害を目的とするそんな剣。  名家の吸血鬼として城で大事に育てられた「箱入り吸血鬼」は、そんなものと相対したことがなかった。  ゆえに見誤った。自分の中の常識で相手を計ってしまったことが、吸血鬼の敗因である。  まあ……闇バチカンの戦闘員の中でもいちばんの狂信者であり、  一部ではその名を聴くだけで失禁する者もいるというこの男の名を知らなかったことも、敗因に含めるべきだろうが。 「十字架の剣や火炎放射器があれば、灰塵に帰すこともできたのだがな……まあ良い。  あと何匹かは知らないが、生命の数が半分になるまで“化け物を裁ける”のだ。素晴らしいゲームだ」  落ちていたブラッディーのデイパックと剣を拾い、ラファエルは振り返ることなく歩を進めた。  化け物狩りの彼は化け物を狩り続ける。たとえそれが地獄であろうと、変わることはない。 【E-6 針の山/未明】 【ラファエル・キルシュタイン】 【状態】無傷 【装備】豪華な剣、シンプルな剣 【所持品】基本支給品×2、ランダム支給品×2、アフロヘアーのカツラ、弾丸 【思考・行動】 1:化け物を狩る。 2:十字架の剣や火炎放射器を探し、より化け物を狩れるようにする。 【備考】 ※弾丸はとある収集家によって弾丸に変えられた「何か」の可能性があります。 その場合数時間後に元のモノに戻ります。 +++++++++  ラファエルがその場を去った後。  針の山に突き刺さった吸血鬼の死体からは、血がいまだに流れ続けていた。  まるですべての血が抜けてしまう勢いで。  ――いや、実際にいま、全部の血が抜けたところだ。  “それ”は針をつたい、地に血だまりを作る。そしてバブルスライム的な感じでズルズル動き始めた。 (……大変なことになりましたわ……まさかいきなり肉体を失うことになるなんて。  吸血鬼の弱点にもさらに無防備になってしまうし……なにより、あんな大口叩いておいて、は、はずかしいっ)  ブラッディー・バレンタインは特異な体を持つ吸血鬼であった。  一般の吸血鬼とちがい、実は彼女の本体は血液そのものなのである。  ゆえに肉体が滅びても血液だけで生存可能なのだ。本人としては、美しくない生き方だが。 (とにかく栄養を取って、肉体を再生させませんと。うう、まだまだわたくし、未熟でしたのね。  あんな簡単に、わたくしを屠る人間がいるだなんて――た、退屈はしませんけれど、ちょっと予想外よっ!)  ズルズルズルズル……。  なんとなく涙を流しているようにも聞こえる音を出しつつ歩を進める彼女の明日はどっちだろうか。 【E-6 針の山/未明】 【ブラッディー・バレンタイン】 【状態】血液状態 【装備】なし 【所持品】なし 【思考・行動】 1:栄養を得て、とりあえず肉体を取り戻す 2:まだまだわたくし、未熟でしたわ……! ---- **SSリンク |[[骨の看護婦と標本の医者の歪んだ目的]]|前話|次話|[[狂った兵器]]| ---- **このSSの登場人物 -[[ブラッディー・バレンタイン]] -[[ラファエル・キルシュタイン]] ---- [[本編SS目次へもどる>本編SS目次]] [[トップページへ>トップページ]]
**「ブラッディ・ワルツ」 「あらあら……本当に地獄ですわね。こんなに大きな山があるなんて」  赤茶けた荒野の広がる地獄の島――その中央付近にある「針の山」。  およそ高さ10メートルはあるだろう巨大な針を中心に、  大小さまざまな針が密集して半径100メートルほどの広がりを持つ山が出来ているその区画を、  今回のゲームの参加者の一人たる少女の姿をした彼女は見上げていた。   彼女の名はブラッディー・バレンタイン。  人形じみて整った顔、ワインレッドの流麗な御髪、齢15ほどに見える幼げな体にゴスロリ服を纏って。  しかしその実300年の時を生きる吸血鬼のおじょうさまである。 「おかしいですわねぇ……確かに月に一度の鑑賞会では、  わたくしの血液を分け与えてプチ吸血鬼状態にした奴隷人間に様々な拷問を施して、  その悲鳴を聞きながら名品のワインを頂くのが趣味のわたくしですけれど、  あれはわたくしに刺激を与えられない退屈な人間界が悪いのであって、わたくしは悪くありませんし……。  この前なんか御付きのジェームズを裸に剥いたあと、  どれくらいの吸血痕を身体に付けられるか試したら彼死んでしまいましたけれど、  これだってジェームズがあんなにひ弱なのが悪いのであって、やっぱりわたくしは悪くありません……」  小さな体で高い針山を見上げながら彼女はひとりごちる。  全くもって、ブラッディーには身に覚えがなかった。  吸血鬼であり、不死に近い存在である彼女が、「近日中に死ぬ運命」だったらしいことも。  名家のご令嬢であり、誰より気高い吸血鬼だと自認している彼女が、地獄に送られなければいけない理由も。  だから彼女はぐるぐると、首元に人差し指を当てて少し首を傾げつつ歩く。  そして……しばらくそうしてぐるぐるしながら考えたあと、ついに彼女は結論に至った。 「ま、考えていても仕方がありませんわ! せっかくですし、このゲームを楽しみましょう!」  手を叩いて、前向きに思考を切り替えることにしたようだった。  ブラッディー・バレンタイン嬢はつまるところ、こんなふうに気まぐれで、そして無邪気に冷酷なのだった。 +++++++++ 「あら! 美しい剣ですわね。装飾に職人の技を感じますわ。帰ったら部屋に飾りましょう」 「これは……なんなのでしょう? モジャモジャの毛髪の……少しくさいですわ」 「そして最後に――弾丸、ですか。銀ではないから触れますが、ううん、弾だけあっても銃がないと意味ないですわ」  ブラッディーは針山のそばの大地に腰を下ろして、支給されたデイパックの中身を確認した。  ひとつ。飾りの豪華な、観賞用の剣。武器としては特殊な力もないただの剣であるが、飾りのぶん一撃は重いだろう。  ひとつ。アフロヘアーのカツラ。誰のものか全く分からない。が分かりたくもない代物だと彼女は認識した。  最後に出てきたのは、一発の弾丸だった。  これについては、完全に謎だ。銃もないのに弾丸だけ渡されても、といった気持ちである。 「ですが……ふふ、このようなゲームに出てきたアイテムですもの、何らかの意味はあると思われますわ。  知らない場所に分からないこと、モノだらけ……ほんとうに、退屈しないのはいいですわね」  わりとハズレな支給品だ、と感じながらも、  ブラッディーはその確認行為自体に胸を高鳴らせたのか、楽しそうな表情をつくった。  300年生きていると退屈が一番の毒だと彼女は思う。心の退屈こそが、吸血鬼を殺すのだと。 「ああ。わたしの死因とやらも、きっと長年に渡る、退屈の毒のせいでしょうね。  本当にあれはおそろしいものよ。だってヒトの血は吸えても、退屈からは血は吸えないもの。  それをわざわざこんなスリリングな舞台を用意してくれるなんて、閻魔さんったら優しい御方だわ」  弾丸とカツラをデイパックに仕舞って、剣は抜き身のまま利き手で持つ。  おもむろに背後を振り向いて切っ先を突き付ければ、金髪の男は歩みを止めた。 「そう、本当にお優しくて。いきなり退屈しなさそうな相手を、用意してくれるのですから」 「……ほう、気づいていたか。化物風情が」 「あら神父さま。ご機嫌麗しく……はなさそうですわね?」 「いいや、むしろ昂ぶっているぞ。なにしろあの名家、バレンタインの当主を“裁ける”のだから」 「あら! “裁く”! このわたくしを、貴方が?」  ……支給品を確認しながらも、ブラッディー・バレンタインは周囲への警戒は怠っていない。  ゆえにその男が気配を隠しながらこちらに近づき、  右手に携えた剣で自らを斬り捨てようとしていることなど、とうの昔に気付いていた。  金の髪を撫でつけた背高の神父。  そのしろがねの瞳が矢のごとくこちらを射ている。  おそらくは魔物専門の狩り手。それもなかなかのやり手だ。  ブラッディー・バレンタインは男との面識はないが、相手はこちらを知っていた。  まあ……ユーロで最も有名と言われるバレンタイン家のことなど、  この手の者には基本知識だろうから、一方的に知られていることについては、目くじらなど立てないが。 「わたくし、傲慢な男性はきらいですの」  剣を斜めに振る。びゅんと音を立て、切っ先が通った軌跡が熱を帯びる。  ブラッディー・バレンタインの得意な戦闘スタイルは、剣闘。  幼少期に趣味で始めたものがぐんぐんと伸びて、今や城で彼女に勝てる者はいないほどだ。  3世紀かけて磨いたそれは、当然ヒトのレベルなど超えている。 「人間風情がわたくしを“裁く”など、自惚れもいいところ。  身の程を、教えてあげますわ。そこの針山まで飛ばして――針漬けにしてあげる」 「ほう。聖職者を磔(はりつけ)とはなかなかウィットなジョークだ。60点をあげよう。  だがね、お嬢さん。法律で決まっているのだよ。化け物は――地獄行きが必定だとな」  呼吸乱れず綺麗な動き。やはりなかなかの手腕を持っているらしい神父の動きを、  しかし吸血鬼の緋色の目はしっかりと捉えていた。  こちらに迫りくるその半歩を先取って、7割の力を込めた一閃でまず腕を削ぎ落とし、  悲鳴をあげ後退する金髪をもう片方の手で掴み、針山へと向かって思い切り投げ飛ばす。  たったそれだけの作業を今から行えば終わりだ、と。彼女の経験則は告げる。  熟練しきった彼女の目には。始まる前から戦闘の結果までもがありありと見えているのだった。 「……あら、少し期待したのですけれど。やっぱり、退屈な余興かしら?」  彼女は深く思考することもないまま。未来予測にのっとって、退屈そうに剣を振った。 +++++++++  10分の、のち。  針山の中腹あたりには、全身を針に貫かれ血液を流し続ける一人の死体があった。  腕は片方そぎ落とされてその顔は驚きに染まっている。  だけでなく体のいたるところに細かい剣撃の跡があり、まさになぶられたといった感じだ。  その瞳は、緋色。  もちろん血液が目に集まり充血しているからではない。死んでいるのが緋色の目のほうだからだ。 「ふん。退屈な余興だったな。ウォーミングアップにもならん」  勝者たる神父――ラファエル・キルシュタインは一滴の血も流すことなく、死した吸血鬼を見上げている。  彼が勝ったのは偶然ではない。かといって彼が何か策を練ったかといえばそれも違う。  単純に、この結果は実力差から来たものだ。いや正しくは、経験の差、か。 「確かに剣術の腕だけ見れば、お前のほうが上だったかもしれんな、バレンタイン。  しかし、ワインを飲んでヒトをいじめて暮らしながら、余興で行う“試合の剣術”では“殺しの剣”には勝てぬのだ」  要は、ベクトルの違いだ。  ブラッディー・バレンタインが極めていたのは城の中で兵士と行う、あくまで試合形式の剣術。  そこに命の奪い合いの要素はなく、極めてしまえば相手の動きから次の行動を読むことすら出来る。  “型”が存在するからだ。  しかし闇バチカンの戦闘員として魔物たちと“殺しの剣”を交えてきたラファエルの動きに“型”は存在しない。  常に状況に合わせてスタイルを変え、勝ちではなく殺害を目的とするそんな剣。  名家の吸血鬼として城で大事に育てられた「箱入り吸血鬼」は、そんなものと相対したことがなかった。  ゆえに見誤った。自分の中の常識で相手を計ってしまったことが、吸血鬼の敗因である。  まあ……闇バチカンの戦闘員の中でもいちばんの狂信者であり、  一部ではその名を聴くだけで失禁する者もいるというこの男の名を知らなかったことも、敗因に含めるべきだろうが。 「十字架の剣や火炎放射器があれば、灰塵に帰すこともできたのだがな……まあ良い。  あと何匹かは知らないが、生命の数が半分になるまで“化け物を裁ける”のだ。素晴らしいゲームだ」  落ちていたブラッディーのデイパックと剣を拾い、ラファエルは振り返ることなく歩を進めた。  化け物狩りの彼は化け物を狩り続ける。たとえそれが地獄であろうと、変わることはない。 【E-6 針の山/未明】 【ラファエル・キルシュタイン】 【状態】無傷 【装備】豪華な剣、シンプルな剣 【所持品】基本支給品×2、ランダム支給品×2、アフロヘアーのカツラ、弾丸 【思考・行動】 1:化け物を狩る。 2:十字架の剣や火炎放射器を探し、より化け物を狩れるようにする。 【備考】 ※弾丸はとある収集家によって弾丸に変えられた「何か」の可能性があります。 その場合数時間後に元のモノに戻ります。 +++++++++  ラファエルがその場を去った後。  針の山に突き刺さった吸血鬼の死体からは、血がいまだに流れ続けていた。  まるですべての血が抜けてしまう勢いで。  ――いや、実際にいま、全部の血が抜けたところだ。  “それ”は針をつたい、地に血だまりを作る。そしてバブルスライム的な感じでズルズル動き始めた。 (……大変なことになりましたわ……まさかいきなり肉体を失うことになるなんて。  吸血鬼の弱点にもさらに無防備になってしまうし……なにより、あんな大口叩いておいて、は、はずかしいっ)  ブラッディー・バレンタインは特異な体を持つ吸血鬼であった。  一般の吸血鬼とちがい、実は彼女の本体は血液そのものなのである。  ゆえに肉体が滅びても血液だけで生存可能なのだ。本人としては、美しくない生き方だが。 (とにかく栄養を取って、肉体を再生させませんと。うう、まだまだわたくし、未熟でしたのね。  あんな簡単に、わたくしを屠る人間がいるだなんて――た、退屈はしませんけれど、ちょっと予想外よっ!)  ズルズルズルズル……。  なんとなく涙を流しているようにも聞こえる音を出しつつ歩を進める彼女の明日はどっちだろうか。 【E-6 針の山/未明】 【ブラッディー・バレンタイン】 【状態】血液状態 【装備】なし 【所持品】なし 【思考・行動】 1:栄養を得て、とりあえず肉体を取り戻す 2:まだまだわたくし、未熟でしたわ……! ---- **SSリンク |[[骨の看護婦と標本の医者の歪んだ目的]]|前話|次話|[[狂った兵器]]| ---- **このSSの登場人物 -[[ブラッディー・バレンタイン]] -[[ラファエル・キルシュタイン]] ---- [[本編SS目次へもどる>本編SS目次]] [[トップページへ>トップページ]]

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