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「天国か地獄」」(2013/08/22 (木) 02:55:13) の最新版変更点

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**「天国か地獄」  エンターキーを押したはずだ。  マイクのスイッチも入れてゲームとPCも繋いで。  俺、高山信哉は今からゲーム『アラクタシアの逆転3DS』を実況プレイしようとしていたはずだ。  なのにエンターキーを指で押した姿勢のまま、俺はいつのまにか別の場所にいた。  銀のタイル張りの床、ローマ建築みたいな太い柱と高い壁の部屋。  たくさんの人やら人じゃないなんかやらがひしめく広い広い部屋に。 「え」  どう見ても妖怪みたいな容姿のヤツ。  なんか人間味を感じないというか人形じゃんってヤツ。  どころかそもそも機械じゃねアレみたいなヤツ。  いろいろいる。  仮装パーティー? いやそれにしちゃ異形すぎる。  まるでゲームの中にでも入っちまったみたいだ。なにこれ……発狂しそうになるぜ。  比較的まともに人間に見えるヤツも、それは人の形をしてるってだけで、  見るからに犯罪者です! 殺すの大好き! な顔してるヤツとか、  もう分かるだろフツーの人間とは違いますよぼくたちわたしたち! なオーラが出てるやつが大量に居る。  俺は普通の大学生、単位落とすか落とさないかの瀬戸際で一夜漬けするような普通の大学生なわけで、  ああいう方々とはお知り合いでもないし一生関わらないやつのはずなんですけどね?  いったいぜんたいどうなってるっていうんだ。 「……えーっと。あのすいません、ここどこか分かる? 俺ゲームやろうとしてたはずなんだけど。  しかもソードアートオンライン的なやつじゃなくて普通のRPGなんだけど。協力プレイとか無いヤツ!」 「知らない……でも、頬をつねればここが現実かどうかは分かる……。……。痛い……」 「そ、そうっすか……」  パニックになったときは現状確認。これRPGとかの鉄則。  ということで俺はすぐ隣にいた黒髪ロングセーラー服のJKに話しかけてみました。  JKに話しかけるなんて普段の俺なら緊張しすぎてムリというか逃げ出すところだけど、  なんかこの子ネガティブオーラ出てたし、同類かなと思ったんだ。……でもちょっと電波っぽいぞこれ。 「わたし……斉藤花子。あなたは」 「えっ た、高山信哉って言いますが」 「そう。タカヤマシンヤ……あれを見て」 「?」  眼鏡をかけた黒髪ロングJKは片手で頬をつねった体勢のままもう片方の手で壁の方を指さす。  それは「飛ばされてきた」俺が一番最初に向いていたほうの壁で、根拠はないがたぶん正面の壁だ。  壁には大きく力強い筆文字で、「閻」の一文字が刻まれている。  「閻」。パッとこの文字だけ書かれていても、いまいち何を指してるのだかハッキリしない漢字だ。 「あれは中国の黒古書に記されている閻魔の紋章と一致している。つまり、ここは閻魔に関係ある場所」  そう思って見上げていたら、隣のJKがいきなり俺に答えをぶちかましてきた。  「閻」は「閻魔」の「閻」。言われてみればそんな漢字だった気がする。  中国の黒古書が何なのかは知らないけど。むしろ知りたくないですけれど。  てか、閻魔かあ。  閻魔ねえ。  ……え。  ……ん?  ……ま、待て待てまーてちょっと待って。  「閻魔」に関係ある場所で部屋の中ってことは、よもやここは「閻魔の間」みたいな奴なんです? 「そう考えていいと思う」  ってことはですよ? そこに「連れてこられてる」ってことは? 「そうね。つまり。……“私たちは、死んだのかも、しれないわね”」                【――ようこそ。閻魔の間へ】     その時だった。  俺や黒髪ロングJKのようにざわつきながら現状を確認していた部屋の面々は、  天井から熟年男性声優ボイス並みに渋い「声」が降ってくるのを聞いた。  呆気にとられる。横を見ればJKも口を軽く開けて上を向いていた。少しかわいい図。  「声」は部屋を響かせるほどの低いしわがれた声で、俺たちに向けて言い放った。     【突然だが、これから貴様たちには「半分になるまで」殺し合いをしてもらう】 「な……」 「にぃ!?」  俺とJK、それに部屋に集められた人間人外モンスター全てに動揺が走る。  いきなり閻魔の間に連れてこられたかと思ったら、殺し合い?  死んだんじゃないの俺たち?  というか半分になるまでってナンデ?  そんな絶えない疑問符を見透かしたかのように、「声」は続けた。       【――くわしい説明は、説明役を用意したので、そいつに任せる】  投げやりだった! 「≪はーいチューモクちゅうもく、注目ゥ!!! 説明役の参上だあっ!≫」 「うおおっ!?」  と。いきなり部屋の一画がスポットライトで照らされ、マイクとアンプで増幅されたキンキン声が部屋を震わせた。  一斉に部屋の中のヤツらはそっちを向く。すると空中になんか浮いていた。  悪魔っぽい羽根。  どぎついピンクのツインテール。  なんというか青っぽい肌。そして――そのまんまなイメージの大鎌(デスサイズ)。 「≪どーもみなさん初めましてぇ! 閻魔大王ちゃんから説明役として派遣されてきました、   死神ちゃんです! 三度の飯よりケーキが好き! でも命を刈り取るのはもっと好き!   でもでもさらーに好きなのは……下々の者どもが、命を奪い合う姿だよぉ。……なぁんてね!≫」  きゃはは、と笑ってその死神は空中で一回転した。  なんだこのあざといの。  ブリーチにでも出てきそうな死神だな、と俺が目を瞬かせていると、隣のJKは目を飛び出させていた。 「死神――エレキシュガル!?」 「え、知っているのかJK!?」 「エレキシュガルは冥界の女神で死を操れるの。メソポタミアの神話では悪い神として、  他人の夫を寝取ったり、妹を殺したり、とにかくひどいやつとして描かれているわ。  そして魔術同盟の先月号では、その容姿はピンクの萌えツインテだという話だったのよ……!」 「いや、ちょっとさすがにそれはデマなんじゃ……」 「≪おお! すごいねそこの黒髪JKちゃん! あたしの名前当てるなんて!   でも言いにくいだろうから死神ちゃんでいいよ! じゃあ、説明するよ。オーープン!≫」 「えっ正解なのかよ!?」  俺のツッコミは空を切り、ツインテ死神ちゃんは説明を開始する合図を出した。  ういーん……と、  天井から音を立てて白いスクリーンが降りてきて、そこにスポットライトが映る。  するとパワーポインターで作られたと思われるスライドショーが映し出された。  何? 説明ってパワーポインターでやるの? もうツッコミ追いつかないよ? 「≪ではまず! こちらのグラフをご拝見くださぁい≫」  パッとグラフが映し出される。円形グラフと折れ線グラフ。  折れ線グラフは右にいくほどにどんどん上昇していて、円形グラフは9割ほどが赤、1割が青だ。  赤いところには「地獄行き」青い所には「天国行き」。 「≪はい! この折れ線グラフは、冥界に送られてくる魂の数を年度順に表したもの。   そして円グラフのほうは、死んだ魂の中で、地獄に行く魂と天国に行く魂の割合でーす。   分かります? 年々送られてくる魂の数は増える一方! でもそのほとんどは地獄行き!≫」  パッと次のスライドに移る。大きく「95%」の文字。 「≪それでも受け入れてはきたけれど――現時点でもう地獄の魂許容量(キャパシティ)は95%!   このままじゃ10年後にはキャパ越えしちゃうの。地獄って有限だから、新しく作るわけにもいかないし。   それに魂が多すぎて裁きも大変。……だからここらで、もっと単純明快なやり方にしようとなりました!≫」  パッと次のスライドに移った。  今度はオーソドックスな中見出しとと説明文のページだ。  「一斉に裁きます制度」の見出しタイトルのあとに数個の説明が書かれている。  おそらくもっとも重要なのは、ここなのだろう。全てに傍線が引いてあった。                   ≪一斉に裁きます制度≫  ひとつ。”裁かれる運命の魂”を、人間、妖怪、人外問わずに各セカイから集める。  ひとつ。そいつらに首輪を付けて殺し合わせる。場所は地獄の一画に作った特設会場。  ひとつ。あわれ脱落した=死んだ半分の魂は、裁きとか無しで即刻まとめて地獄行き。  ひとつ。生き残った半分の魂は現世に戻して、種族寿命まで生きたあとに、天国行きとする。 「一斉に……裁く……?」 「半分は地獄行きで、半分は天国行き……だと……?」 「≪はい。これが――新しい閻魔大王ちゃんの裁き方。生前の善行も悪行もかんけいなーい。   一斉に競い合って、殺し合って……“強い魂”だけが天国に行くべきだ! ということよん。   ん、武器はあげます。食料も少々。ただあんまり長引かせたくないので――1日を目安で。   あんまり殺し合いが進まないようでしたら、ランダムにテキトーに首輪爆発させて半分まで減らすんで≫」  補足的にしれっと恐ろしいことを死神ちゃんが言うと、またスライドが切り替わり―― 「≪あ、そうそう。こんなところに連れてこられたって時点でもう分かってると思うんですけど≫」  ――。  そこに映し出されていたのは。  俺とJKがさっき推測したことと、違うようでほぼ同じ文言だった。 「≪みなさんは本来、明日あたりには死ぬ予定だった魂たちなんで、帰りたいとか考えないように!≫」  そのスライドのタイトルは「魂の寿命について」。  ポップな文体で書かれている事実を一言一句間違えず読み上げるのならこんな感じだ。  魂の寿命は現世に生まれた瞬間に決まっている。  たとえ種族――人間やら吸血鬼やらの種族的な肉体寿命がいつだろうと、  寿命10年の魂しか持っていない器は10年しか生きられずに、不慮の事故やら急病で死ぬのだ。  一度死んで妖怪になった場合や、幽霊になった場合。  あるいは不老不死じみた存在になったと気取っていようが、  結局は魂の寿命に従って生かされているだけで、魂の寿命を迎えた瞬間、なんらかの方法で死ぬ。  君たちは明日死んで裁かれる運命だった魂である。  君は、アイスを買いに行く途中にトラックに撥ねられて死ぬはずだった。  君は、ストーブの消し忘れによる火災に巻き込まれて死ぬはずだった。  君は、突然現れた除霊師に勝つことが出来ずに死ぬはずだった。  君は、配線が急にショートして壊れて。君は心停止して。君は明日死ぬ。君は、 あした 死ぬ。 「いやだ」 「……JKちゃん?」  ふざけた文言だと俺は思う。  いきなり殺し合えって時点でふざけてるのに、  閻魔大王だとか死神だとか魂の寿命がどうとか、やっぱり到底現実味のない話だ。  ノーもイエスも言いようがない。  でも隣の黒髪JKちゃんがスライドを見てぽつり呟いたのは明確な拒否の言葉だった。  いやだ、と。少し俯いている彼女のメガネは光の角度で曇って見えない。  ……そして。あれ? なんか、雰囲気が。 ――ヤバイ空気が流れていらっしゃる、ような? 「いやだ……死にたく、ない。まだ死にたくない」 「お、おい」 「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!」 「おおお、落ちつけって!!」 「死ぬなんて――まだわたし、いっぱいお買い物もしたいし、お化粧もしたいし、  オカルトスポットめぐりだって降霊実験だってミステリーサークル作りだってやってないのに  幸せいっぱい感じたいのにそんな急に明日死ぬ予定だったなんて言われても ふざけてるわ」  一息に言いきって。  JKは俺のほうにバネじみた鋭い動きで首を向けた。  ようやくメガネの奥の瞳が見える。  極限まで開かれたその瞳は紅く血走っていた。 「……わたしは殺すわ。タカヤマシンヤ」 「じぇ、JK」 「殺して生き残る。そうしてようやく過ごしやすくなってきたわたしの人生を謳歌する。  簡単よ。なにも最後の一人になるまで殺す必要はない。半分になるまで殺せばいいんだから。  報復以外で殺すのは初めてだけれど――きっとわたし上手くできるって信じてるわ」  「おま。お前……」 「わたしの名前は斉藤花子よ」 「……!」 「覚えておきなさい。  そしてその名を見かけたらすぐに逃げるがいいわ。わたしはもう止まらない。  でも、人から話しかけられること、あんまりなかったから……あなただけは見逃してあげても、いい」  目を合わせられた。斉藤花子は口元を上げて笑った。  殺気だった目に魅入られて、俺は目を逸らすことが難しくなった。  俺は普通の大学生、単位落とすか落とさないかの瀬戸際で一夜漬けするような普通の大学生で、  だから目の前のなんかかっ飛んでる黒髪JKとおんなじような思考回路はちょっと無理だ。  でも、少しだけ共感はできた。  明日死ぬって言われて死にたくないって思うのは。  どんなやつだろうとなんだろーと、わりと共通するんだなとか。  いや、んな呑気なこと言ってる場合じゃないのは、そりゃあ分かっているんだけどさ。 「≪はい、そろそろ現状は確認できましたか? スタンス、決めれましたかぁ?≫」    それでも死神の声にいざなわれ、俺は花子ちゃんから無理やり目線を外す。  周りには花子と同じように殺す覚悟を決めたヤツ、俺みたいにどうしたらいいか分からないヤツ、  それとまだ主催側の言うことの真偽を確かめているっぽい冷静派に分かれているみたいだった。 「≪それでは今からもう一度、みなさんの意識をシャットダウンしたあと首輪を付けて会場に送りまぁす。   首輪はコレです! 外そうとしたりあんまりゲームの進行を邪魔するようなことしたら、こうですよん?≫」  改めて正面を向けば、会場の動揺なんざいざ知らず、死神ちゃんは進行を続けていた。  どこからか鉄製の首輪を取り出して、その首輪を高く放り投げている。  って――嫌な予感、ヤベ、と手で顔を覆い隠すが早いか、  首輪は大きな音を立てて  爆発して  ものすごい光が会場を覆った――――――――――――。 「≪はい、不意打ちですいませんが、これで説明は終了でーす。それではよい殺陣を≫」  っておい。  もしかして俺、……ここで気絶?         【さて】            【改めて、今回のゲームの主催たる閻魔・慟哭王から言葉を贈ろう】    【今から君たちが送られる会場は地獄の一画にあるとある島だ】              【マグマの海が煮えたぎる過酷な環境だが、内地の気温だけは適温にしておいた】    【さらに、貴様たちの多くに馴染みのある現代風の街も「青」と「赤」の二か所に用意した】           【手は出来うる限り尽くしたつもりだ――経過の報告も定時に行う。その他詳しいことは鞄に同封する紙を見よ】    【だから安心して貴様たちの手で。生き残る半分を決するとよい】                  【――生きる権利を奪い合うための、裁き合いを始めるがよい】     &color(red){≪バトルロワイアル 開始≫}  ---- |  |前話|次話|[[骨の看護婦と標本の医者の歪んだ目的]]| ---- [[本編SS目次へもどる>本編SS目次]] [[トップページへ>トップページ]]
**「天国か地獄」  エンターキーを押したはずだ。  マイクのスイッチも入れてゲームとPCも繋いで。  俺、高山信哉は今からゲーム『アラクタシアの逆転3DS』を実況プレイしようとしていたはずだ。  なのにエンターキーを指で押した姿勢のまま、俺はいつのまにか別の場所にいた。  銀のタイル張りの床、ローマ建築みたいな太い柱と高い壁の部屋。  たくさんの人やら人じゃないなんかやらがひしめく広い広い部屋に。 「え」  どう見ても妖怪みたいな容姿のヤツ。  なんか人間味を感じないというか人形じゃんってヤツ。  どころかそもそも機械じゃねアレみたいなヤツ。  いろいろいる。  仮装パーティー? いやそれにしちゃ異形すぎる。  まるでゲームの中にでも入っちまったみたいだ。なにこれ……発狂しそうになるぜ。  比較的まともに人間に見えるヤツも、それは人の形をしてるってだけで、  見るからに犯罪者です! 殺すの大好き! な顔してるヤツとか、  もう分かるだろフツーの人間とは違いますよぼくたちわたしたち! なオーラが出てるやつが大量に居る。  俺は普通の大学生、単位落とすか落とさないかの瀬戸際で一夜漬けするような普通の大学生なわけで、  ああいう方々とはお知り合いでもないし一生関わらないやつのはずなんですけどね?  いったいぜんたいどうなってるっていうんだ。 「……えーっと。あのすいません、ここどこか分かる? 俺ゲームやろうとしてたはずなんだけど。  しかもソードアートオンライン的なやつじゃなくて普通のRPGなんだけど。協力プレイとか無いヤツ!」 「知らない……でも、頬をつねればここが現実かどうかは分かる……。……。痛い……」 「そ、そうっすか……」  パニックになったときは現状確認。これRPGとかの鉄則。  ということで俺はすぐ隣にいた黒髪ロングセーラー服のJKに話しかけてみました。  JKに話しかけるなんて普段の俺なら緊張しすぎてムリというか逃げ出すところだけど、  なんかこの子ネガティブオーラ出てたし、同類かなと思ったんだ。……でもちょっと電波っぽいぞこれ。 「わたし……斉藤花子。あなたは」 「えっ た、高山信哉って言いますが」 「そう。タカヤマシンヤ……あれを見て」 「?」  眼鏡をかけた黒髪ロングJKは片手で頬をつねった体勢のままもう片方の手で壁の方を指さす。  それは「飛ばされてきた」俺が一番最初に向いていたほうの壁で、根拠はないがたぶん正面の壁だ。  壁には大きく力強い筆文字で、「閻」の一文字が刻まれている。  「閻」。パッとこの文字だけ書かれていても、いまいち何を指してるのだかハッキリしない漢字だ。 「あれは中国の黒古書に記されている閻魔の紋章と一致している。つまり、ここは閻魔に関係ある場所」  そう思って見上げていたら、隣のJKがいきなり俺に答えをぶちかましてきた。  「閻」は「閻魔」の「閻」。言われてみればそんな漢字だった気がする。  中国の黒古書が何なのかは知らないけど。むしろ知りたくないですけれど。  てか、閻魔かあ。  閻魔ねえ。  ……え。  ……ん?  ……ま、待て待てまーてちょっと待って。  「閻魔」に関係ある場所で部屋の中ってことは、よもやここは「閻魔の間」みたいな奴なんです? 「そう考えていいと思う」  ってことはですよ? そこに「連れてこられてる」ってことは? 「そうね。つまり。……“私たちは、死んだのかも、しれないわね”」                【――ようこそ。閻魔の間へ】     その時だった。  俺や黒髪ロングJKのようにざわつきながら現状を確認していた部屋の面々は、  天井から熟年男性声優ボイス並みに渋い「声」が降ってくるのを聞いた。  呆気にとられる。横を見ればJKも口を軽く開けて上を向いていた。少しかわいい図。  「声」は部屋を響かせるほどの低いしわがれた声で、俺たちに向けて言い放った。     【突然だが、これから貴様たちには「半分になるまで」殺し合いをしてもらう】 「な……」 「にぃ!?」  俺とJK、それに部屋に集められた人間人外モンスター全てに動揺が走る。  いきなり閻魔の間に連れてこられたかと思ったら、殺し合い?  死んだんじゃないの俺たち?  というか半分になるまでってナンデ?  そんな絶えない疑問符を見透かしたかのように、「声」は続けた。       【――くわしい説明は、説明役を用意したので、そいつに任せる】  投げやりだった! 「≪はーいチューモクちゅうもく、注目ゥ!!! 説明役の参上だあっ!≫」 「うおおっ!?」  と。いきなり部屋の一画がスポットライトで照らされ、マイクとアンプで増幅されたキンキン声が部屋を震わせた。  一斉に部屋の中のヤツらはそっちを向く。すると空中になんか浮いていた。  悪魔っぽい羽根。  どぎついピンクのツインテール。  なんというか青っぽい肌。そして――そのまんまなイメージの大鎌(デスサイズ)。 「≪どーもみなさん初めましてぇ! 閻魔大王ちゃんから説明役として派遣されてきました、   死神ちゃんです! 三度の飯よりケーキが好き! でも命を刈り取るのはもっと好き!   でもでもさらーに好きなのは……下々の者どもが、命を奪い合う姿だよぉ。……なぁんてね!≫」  きゃはは、と笑ってその死神は空中で一回転した。  なんだこのあざといの。  ブリーチにでも出てきそうな死神だな、と俺が目を瞬かせていると、隣のJKは目を飛び出させていた。 「死神――エレキシュガル!?」 「え、知っているのかJK!?」 「エレキシュガルは冥界の女神で死を操れるの。メソポタミアの神話では悪い神として、  他人の夫を寝取ったり、妹を殺したり、とにかくひどいやつとして描かれているわ。  そして魔術同盟の先月号では、その容姿はピンクの萌えツインテだという話だったのよ……!」 「いや、ちょっとさすがにそれはデマなんじゃ……」 「≪おお! すごいねそこの黒髪JKちゃん! あたしの名前当てるなんて!   でも言いにくいだろうから死神ちゃんでいいよ! じゃあ、説明するよ。オーープン!≫」 「えっ正解なのかよ!?」  俺のツッコミは空を切り、ツインテ死神ちゃんは説明を開始する合図を出した。  ういーん……と、  天井から音を立てて白いスクリーンが降りてきて、そこにスポットライトが映る。  するとパワーポインターで作られたと思われるスライドショーが映し出された。  何? 説明ってパワーポインターでやるの? もうツッコミ追いつかないよ? 「≪ではまず! こちらのグラフをご拝見くださぁい≫」  パッとグラフが映し出される。円形グラフと折れ線グラフ。  折れ線グラフは右にいくほどにどんどん上昇していて、円形グラフは9割ほどが赤、1割が青だ。  赤いところには「地獄行き」青い所には「天国行き」。 「≪はい! この折れ線グラフは、冥界に送られてくる魂の数を年度順に表したもの。   そして円グラフのほうは、死んだ魂の中で、地獄に行く魂と天国に行く魂の割合でーす。   分かります? 年々送られてくる魂の数は増える一方! でもそのほとんどは地獄行き!≫」  パッと次のスライドに移る。大きく「95%」の文字。 「≪それでも受け入れてはきたけれど――現時点でもう地獄の魂許容量(キャパシティ)は95%!   このままじゃ10年後にはキャパ越えしちゃうの。地獄って有限だから、新しく作るわけにもいかないし。   それに魂が多すぎて裁きも大変。……だからここらで、もっと単純明快なやり方にしようとなりました!≫」  パッと次のスライドに移った。  今度はオーソドックスな中見出しとと説明文のページだ。  「一斉に裁きます制度」の見出しタイトルのあとに数個の説明が書かれている。  おそらくもっとも重要なのは、ここなのだろう。全てに傍線が引いてあった。                   ≪一斉に裁きます制度≫  ひとつ。”裁かれる運命の魂”を、人間、妖怪、人外問わずに各セカイから集める。  ひとつ。そいつらに首輪を付けて殺し合わせる。場所は地獄の一画に作った特設会場。  ひとつ。あわれ脱落した=死んだ半分の魂は、裁きとか無しで即刻まとめて地獄行き。  ひとつ。生き残った半分の魂は現世に戻して、種族寿命まで生きたあとに、天国行きとする。 「一斉に……裁く……?」 「半分は地獄行きで、半分は天国行き……だと……?」 「≪はい。これが――新しい閻魔大王ちゃんの裁き方。生前の善行も悪行もかんけいなーい。   一斉に競い合って、殺し合って……“強い魂”だけが天国に行くべきだ! ということよん。   ん、武器はあげます。食料も少々。ただあんまり長引かせたくないので――1日を目安で。   あんまり殺し合いが進まないようでしたら、ランダムにテキトーに首輪爆発させて半分まで減らすんで≫」  補足的にしれっと恐ろしいことを死神ちゃんが言うと、またスライドが切り替わり―― 「≪あ、そうそう。こんなところに連れてこられたって時点でもう分かってると思うんですけど≫」  ――。  そこに映し出されていたのは。  俺とJKがさっき推測したことと、違うようでほぼ同じ文言だった。 「≪みなさんは本来、明日あたりには死ぬ予定だった魂たちなんで、帰りたいとか考えないように!≫」  そのスライドのタイトルは「魂の寿命について」。  ポップな文体で書かれている事実を一言一句間違えず読み上げるのならこんな感じだ。  魂の寿命は現世に生まれた瞬間に決まっている。  たとえ種族――人間やら吸血鬼やらの種族的な肉体寿命がいつだろうと、  寿命10年の魂しか持っていない器は10年しか生きられずに、不慮の事故やら急病で死ぬのだ。  一度死んで妖怪になった場合や、幽霊になった場合。  あるいは不老不死じみた存在になったと気取っていようが、  結局は魂の寿命に従って生かされているだけで、魂の寿命を迎えた瞬間、なんらかの方法で死ぬ。  君たちは明日死んで裁かれる運命だった魂である。  君は、アイスを買いに行く途中にトラックに撥ねられて死ぬはずだった。  君は、ストーブの消し忘れによる火災に巻き込まれて死ぬはずだった。  君は、突然現れた除霊師に勝つことが出来ずに死ぬはずだった。  君は、配線が急にショートして壊れて。君は心停止して。君は明日死ぬ。君は、 あした 死ぬ。 「いやだ」 「……JKちゃん?」  ふざけた文言だと俺は思う。  いきなり殺し合えって時点でふざけてるのに、  閻魔大王だとか死神だとか魂の寿命がどうとか、やっぱり到底現実味のない話だ。  ノーもイエスも言いようがない。  でも隣の黒髪JKちゃんがスライドを見てぽつり呟いたのは明確な拒否の言葉だった。  いやだ、と。少し俯いている彼女のメガネは光の角度で曇って見えない。  ……そして。あれ? なんか、雰囲気が。 ――ヤバイ空気が流れていらっしゃる、ような? 「いやだ……死にたく、ない。まだ死にたくない」 「お、おい」 「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!」 「おおお、落ちつけって!!」 「死ぬなんて――まだわたし、いっぱいお買い物もしたいし、お化粧もしたいし、  オカルトスポットめぐりだって降霊実験だってミステリーサークル作りだってやってないのに  幸せいっぱい感じたいのにそんな急に明日死ぬ予定だったなんて言われても ふざけてるわ」  一息に言いきって。  JKは俺のほうにバネじみた鋭い動きで首を向けた。  ようやくメガネの奥の瞳が見える。  極限まで開かれたその瞳は紅く血走っていた。 「……わたしは殺すわ。タカヤマシンヤ」 「じぇ、JK」 「殺して生き残る。そうしてようやく過ごしやすくなってきたわたしの人生を謳歌する。  簡単よ。なにも最後の一人になるまで殺す必要はない。半分になるまで殺せばいいんだから。  報復以外で殺すのは初めてだけれど――きっとわたし上手くできるって信じてるわ」  「おま。お前……」 「わたしの名前は斉藤花子よ」 「……!」 「覚えておきなさい。  そしてその名を見かけたらすぐに逃げるがいいわ。わたしはもう止まらない。  でも、人から話しかけられること、あんまりなかったから……あなただけは見逃してあげても、いい」  目を合わせられた。斉藤花子は口元を上げて笑った。  殺気だった目に魅入られて、俺は目を逸らすことが難しくなった。  俺は普通の大学生、単位落とすか落とさないかの瀬戸際で一夜漬けするような普通の大学生で、  だから目の前のなんかかっ飛んでる黒髪JKとおんなじような思考回路はちょっと無理だ。  でも、少しだけ共感はできた。  明日死ぬって言われて死にたくないって思うのは。  どんなやつだろうとなんだろーと、わりと共通するんだなとか。  いや、んな呑気なこと言ってる場合じゃないのは、そりゃあ分かっているんだけどさ。 「≪はい、そろそろ現状は確認できましたか? スタンス、決めれましたかぁ?≫」    それでも死神の声にいざなわれ、俺は花子ちゃんから無理やり目線を外す。  周りには花子と同じように殺す覚悟を決めたヤツ、俺みたいにどうしたらいいか分からないヤツ、  それとまだ主催側の言うことの真偽を確かめているっぽい冷静派に分かれているみたいだった。 「≪それでは今からもう一度、みなさんの意識をシャットダウンしたあと首輪を付けて会場に送りまぁす。   首輪はコレです! 外そうとしたりあんまりゲームの進行を邪魔するようなことしたら、こうですよん?≫」  改めて正面を向けば、会場の動揺なんざいざ知らず、死神ちゃんは進行を続けていた。  どこからか鉄製の首輪を取り出して、その首輪を高く放り投げている。  って――嫌な予感、ヤベ、と手で顔を覆い隠すが早いか、  首輪は大きな音を立てて  爆発して  ものすごい光が会場を覆った――――――――――――。 「≪はい、不意打ちですいませんが、これで説明は終了でーす。それではよい殺陣を≫」  っておい。  もしかして俺、……ここで気絶?         【さて】            【改めて、今回のゲームの主催たる閻魔・慟哭王から言葉を贈ろう】    【今から君たちが送られる会場は地獄の一画にあるとある島だ】              【マグマの海が煮えたぎる過酷な環境だが、内地の気温だけは適温にしておいた】    【さらに、貴様たちの多くに馴染みのある現代風の街も「青」と「赤」の二か所に用意した】           【手は出来うる限り尽くしたつもりだ――経過の報告も定時に行う。その他詳しいことは鞄に同封する紙を見よ】    【だから安心して貴様たちの手で。生き残る半分を決するとよい】                  【――生きる権利を奪い合うための、裁き合いを始めるがよい】     &color(red){≪バトルロワイアル 開始≫}  ---- **SSリンク |  |前話|次話|[[骨の看護婦と標本の医者の歪んだ目的]]| ---- **このSSの登場人物 -[[高山信哉]] -[[斉藤花子]] -[[エレキシュガル]] -[[慟哭王]] ---- [[本編SS目次へもどる>本編SS目次]] [[トップページへ>トップページ]]

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