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**負けたら失う ++++++++++  鼻に感じる火薬の匂いが心地よい。  彼方此方で爆発が起き、顔のすぐ横に銃弾がかすめる。  頬が切れた、痛くはない。  寧ろ笑みが浮かんでくる。  お返しとばかりに鉛玉をくれてやることにする、グレネードはサービスだ。  あっという間に血が降り注ぐ。  汚い花火だ。  数メートルも離れていない距離にいた味方が、頭をふっ飛ばされた。  ああならないように注意しなければ。   「余裕だねぇ、笑っちゃって」  私とコンビを組んでいる男が、苦笑しながら呆れてる。  しっかりと愛用の機関銃を乱射しながら。  余裕?余裕などないぞ。この状況を生き抜くのに必死だ。   「長年コンビを組んでんだぞ、それぐらいわかるよ」 ……ほんとかどうか疑わしいものだ。 こいつと私がコンビを組んで数年、今ではそれなりに戦場で名が知られている。  ちゃらちゃらと軽薄そうな印象の男だが、その戦闘技術は本物だ。  最初はモメることはあったが、今では安心して背中を任せることができる。  悔しいので本人には言わないがな。 「そんな顔をしかめるなよ、美人が台無しだぜ」  美ッ美人だと?この私が? 「はは、照れてんのか?顔が赤いぜ」 照れてない!!断じて照れてない!!  あの時は、自信があった。  だから、油断していたのかもしれない。  今まで、どんな戦場でも生き抜いてきたという慢心。  それが油断となり、"負け"に繋がった。 「避けろおぉぉぉ!?」  その言葉が、私が聞いたあの男の最後の声。  次の瞬間には、全身を襲う熱気と衝撃。  右手に焼きつくような熱を感じた。  私は意識を失った。  目が冷めたときは、全てが終わっていた。  基地の医療用の簡易テントのなか、私は満身創痍だった。  心が張り裂けそうな気持ち……その言葉の意味が初めてわかった。  右手を失ったことに対してではない。  あの時、至近距離に砲撃を受けた。  長年組んでいた相棒は、私をかばってひき肉になってしまった。  そう、ひき肉……原型がわからないほどに吹っ飛んでいたそうだ。    あいつとの思い出は、血の匂いと火薬があふれる戦場か、または共に安酒を飲んだ記憶しかない。  あの男の存在は、意外なほどに大事なものだと気付かされた。  柄にもなく、私は考えた。  私は考えた。  考えて、考えて、考え抜いた。  なぜこんな心が痛むのだろうか?この喪失感はなんだ?  初めて殺しをした時だって、これほどひどくは無かったのに。  考え抜いた私は、結論を得た。  私があいつを失ったのは、"敗者"になったためだ。  あの時、あの瞬間に、一瞬でも油断してしまった。  その時点で、私は戦場では敗者。  敗者はそれ相応の対価を払わされる……それだけの事だ。    結論を出した。  あいつが使っていた銃……それはなぜか原型をとどめていた。  今その銃は、私の体と一つのパーツとして一体化している。  手術を受けた……実験的なもので、安全の保証はないものだったが。  四肢を欠損した軍人のための、機械製義手。  神経と義手をつなぎ、自由自在に動かすことが可能の技術。  私にその手術の話が来た時、条件を出して承諾した。  あいつの使っていた銃を、義手に使う。  相手方は難色を示したが、最終的には承諾させた。    私はジャスティン・ショット。  ただのしがない傭兵だ。  マグマが渦巻く海に荒野の中、一人の傭兵がいた。  髑髏を刺繍した年季の入った軍服姿。  失った右手には、黒光りする義手をつけている。  それはまるで、アニメの人型二足歩行ロボットの腕部分に似てる。  五本の指部分、爪の部分に銃口があり、銃の機能を持つそれ。  神経と直結された義手は、ジャスティンの思うように動く。  ジャスティンは、傭兵だ。  金され払えれば、どんな人間にも雇われる。  もっとも、ジャスティンには例外があるが……  殺しには抵抗はない人種、彼女の経歴を知っていれば、他者は殺し合いに乗るかと考えるかもしれない。  だが、彼女は殺し合いには乗らなかった。  カミソリのような鋭い眼光を放つジャスティン。  彼女にとって、首輪を付けられ、殺し合いを矯正される状況は限りなく"負け"に近い。  『敗者には生きる資格が無い』  それが彼女の絶対的なルールであり、守るべき法だった。  ジャスティンは狂人だ。  たとえ自分の雇い主だろうと、ジャスティンが敗者だと判断すれば、何時でも右手の義手で排除してきた。  現状限りなく負けに近い状況の中、勝者に位置づけられる主催陣営に従うことは、彼女が狂信する己のルールが許さなかった。  まかり無しにも傭兵をやっているのだ。  何時でも、死ぬ覚悟はできている。  おそらく、この殺し合いを企画したのはかなり巨大な組織だろうがーー 「私は負けていない……負けることは許されない」  彼女には、関係がない。  負けない事こそが、何よりも大切なのだから。    デイバックを肩に担ぎ、敗者になることを許さないと誓った傭兵が、歩き出した。 【D-1荒野/未明】 【ジャスティン・ショット】 【状態】健康、義手破損0% 【装備】神経と繋がっている黒塗装の義手 【所持品】基本的支給品×1 ランダム支給品×3 【思考・行動】 1:対主催 2:"敗者"にはならない。 3:敗者に生きる資格は無い。 【備考】 ※思考がやや危険。自分が敗者と判断した相手を殺害する可能性あり。 ※右手の義手は銃撃が可能。 ※自分が敗者になったと判断した場合、自殺するかもしれません。 ※デイバックを確認していません。 ---- **SSリンク |[[弾丸の収集家]]|前話|次話|[[「いただきます」]]| ---- **このSSの登場人物 -[[ジャスティン・ショット]] ---- [[本編SS目次へもどる>本編SS目次]] [[トップページへ>トップページ]]

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