「できすぎた女」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

できすぎた女」(2013/09/12 (木) 21:40:46) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

**できすぎた女  A.貴方の考えた通りです。 ■ 一人の女性が、監獄の中を歩いている。 ハイヒールが鉄で出来た床を踏むたびに、かつん、かつん、と音が反響する。 場所が地下であるせいか、空気は肌寒い。 女性の吐く息は白く、時折ぶるぶる、と体を震わせることからも分かる。 ぱりっとしたスーツでは、やや心許ない場所だ。 女性は名前を村雨葵(むらさめあおい)という。 年齢は二十三。職業は某有名学校の教師。 幼少期から成績優秀で、有名大学を卒業してそのまま就職した。 両親と妹がいるが、現在は実家住まいの彼らとは異なり、マンションに一人暮らし。 恋愛経験、及び恋愛沙汰への耐性は皆無。 どこにでも居そうな普通の社会人女性といったところだ。 だがそんな葵は、○月×日の△曜日に、不慮の事故により死を遂げることになる。 教師を目指したのは、妹が原因だった。 年の少し離れた妹を持つ葵は、昔から他人の世話をすることが当たり前だった。 いつしか当たり前のことが、好きなことになっていた。 他人の世話をする。 それが転じて、他人を育てる、ということが葵の目標になった。 好きこそものの上手なれ、とはよくいったもので、葵は教育者としての才覚があった。 持って生まれた頭脳と身体能力。 それに加えて、親譲りの――これは妹にも言えることであるが――整った顔立ちも持ち合わせている。 そういった意味では、葵は天に二物も三物も与えられているといえた。 死は完全に平等だ。 分け隔てなく、万人に訪れる。 決して抗うことのできない運命。 それが自分にも訪れた。 それだけのことだった。 葵は落ち着いていた。 落ち着いていられることに、葵自身が驚いた。 普通に考えればありえない話の内容も、すんなりと理解できていた。 どう行動するかも即座に決めることができた。 決めた、といっては語弊があるかもしれない――葵は何も決めていないのだから。 とはいえ、それは葵からすれば、なんら不思議なことではなかった。 自分が死ぬとすれば、その原因は不慮の事故かなにかだろう。 教師になるにあたって受けた健康診断では異常はなかったし、持病もない。 人に恨みを買われないように心掛けているし、防犯もキチンとしているから、殺人という線も薄い。 急な心臓発作で死ぬほど弱いつもりはない。老衰は論外だ。 となれば、地震か雷か火事か、あるいは交通事故かなにかだろう。 いずれにしても確かなのは、自分は死ぬべくして死んだということだ。 そこまで考えたとき連想したのは、古くからの言い習わしだった。 ――死生、命(めい)あり ――人の生死は天命によるもので、人の力ではどうしようもない。 ――天地に万古あるも、この身は再び得られず ――空と大地は永遠に続くが、人生は再びやり直すことはできない。 死に抗うのは間違っている。 二度目の生を望むのも、また然り。 教師として様々な知識を保有する葵の、それが結論だった。 葵は明晰な頭脳を持っているが故に、人生を達観しているところがある。 死んだことは残念で、心残りもないわけではない。 だが、死んだという現実は受け入れるものだという理性が、本能よりも強かったのだ。 この島でどう動くか。 その問いに対する葵の答えは“静観”。 主催者に反抗するつもりも、人を殺して回るつもりもない。 かといって、自殺をするつもりもない。 既に死んだ身として、流れに身を任せる、ただそれだけのことだった。 かつん、かつん、と足音を鳴らしながら、葵は監獄を奥へ奥へと進んでいく。 監獄を探索しているのは、目が覚めたのが監獄の一室ということもあったが、単純に興味が湧いたのも一つだ。 一部屋一部屋を覗き込み、たまに物珍しげに頷く。 もしこの監獄に囚人や看守がいたならば、葵を変人だと思っただろう。 上下左右を鉄に囲まれた、罪人を収容するための施設をじっくりと見る女など、そうそういない。 馬鹿と天才は紙一重、などと揶揄されても、仕方がないだろう。 それでも、監獄に来るのも監獄を見るのも初めてな葵は、ゆっくりと歩き続けた。 もし、葵の理性の箍が外れることがあるとすれば、それは親しい者に関係する事柄だろう。 例えば親類。葵の場合は両親と妹がいる。 例えば生徒。葵は教師として新人ながら担任を持っている。 彼ら、彼女らが危険な状況にいると分かれば、葵も冷静さを失うことは間違いない。 今の葵の冷静さは、自分の親しい者が、現在の自分と同じ境遇にいないと思っている上で成り立っている。 達観しているように見えて、実は愛に溢れている女性。 それが村雨葵という女なのだ。 殺し合いが開始されてから、おおよそ一時間半ほど経ったころ。 葵はとうとう、監獄の最も奥にある扉まで到達した。 今の葵は、デイパックの中に入っていた毛皮のコートを、スーツの上から羽織っている。 途中、階段を何度か降りたため、かなり地下深くまで来ており、寒さが増しているのだ。 体温が下がったために、地肌は普段に比べても白くなっている。 葵からすれば、やっと最後の扉に辿り着くことができた、という気持ちだろう。 扉に鍵のようなものはないことを確認した葵は、自分の背丈よりも高い扉を見上げた。 この先に何が待っているのか。 流石の葵も、緊張からか生唾を飲む。 そして、寒さと好奇心の両方から震える手を、厳めしい扉に掛けた。 ■ Q.罪人を閉じ込めておくべき施設である監獄の扉を、成人女性が一人で開けられると思いますか? 【F-9 監獄/未明】 【村雨葵】 【状態】健康、体温低下 【装備】毛皮のコート 【所持品】基本支給品、ランダム支給品×2 【思考・行動】 1:流れに身を任せる。 2:監獄の奥にある扉を開けたい。 【備考】 ※監獄をある程度探索しました。見落としている所、物があるかもしれません。 ※監獄の地下深くには、重い扉(少なくとも成人女性一人では開けられない)があるようです。詳細は不明です。 ---- **SSリンク |[[「吸血大サービス」]]|前話|次話|[[]]| ---- **このSSの登場人物 -[[村雨葵]] ---- [[本編SS目次へもどる>本編SS目次]] [[トップページへ>トップページ]]
**できすぎた女  A.貴方の考えた通りです。 ■ 一人の女性が、監獄の中を歩いている。 ハイヒールが鉄で出来た床を踏むたびに、かつん、かつん、と音が反響する。 場所が地下であるせいか、空気は肌寒い。 女性の吐く息は白く、時折ぶるぶる、と体を震わせることからも分かる。 ぱりっとしたスーツでは、やや心許ない場所だ。 女性は名前を村雨葵(むらさめあおい)という。 年齢は二十三。職業は某有名学校の教師。 幼少期から成績優秀で、有名大学を卒業してそのまま就職した。 両親と妹がいるが、現在は実家住まいの彼らとは異なり、マンションに一人暮らし。 恋愛経験、及び恋愛沙汰への耐性は皆無。 どこにでも居そうな普通の社会人女性といったところだ。 だがそんな葵は、○月×日の△曜日に、不慮の事故により死を遂げることになる。 教師を目指したのは、妹が原因だった。 年の少し離れた妹を持つ葵は、昔から他人の世話をすることが当たり前だった。 いつしか当たり前のことが、好きなことになっていた。 他人の世話をする。 それが転じて、他人を育てる、ということが葵の目標になった。 好きこそものの上手なれ、とはよくいったもので、葵は教育者としての才覚があった。 持って生まれた頭脳と身体能力。 それに加えて、親譲りの――これは妹にも言えることであるが――整った顔立ちも持ち合わせている。 そういった意味では、葵は天に二物も三物も与えられているといえた。 死は完全に平等だ。 分け隔てなく、万人に訪れる。 決して抗うことのできない運命。 それが自分にも訪れた。 それだけのことだった。 葵は落ち着いていた。 落ち着いていられることに、葵自身が驚いた。 普通に考えればありえない話の内容も、すんなりと理解できていた。 どう行動するかも即座に決めることができた。 決めた、といっては語弊があるかもしれない――葵は何も決めていないのだから。 とはいえ、それは葵からすれば、なんら不思議なことではなかった。 自分が死ぬとすれば、その原因は不慮の事故かなにかだろう。 教師になるにあたって受けた健康診断では異常はなかったし、持病もない。 人に恨みを買われないように心掛けているし、防犯もキチンとしているから、殺人という線も薄い。 急な心臓発作で死ぬほど弱いつもりはない。老衰は論外だ。 となれば、地震か雷か火事か、あるいは交通事故かなにかだろう。 いずれにしても確かなのは、自分は死ぬべくして死んだということだ。 そこまで考えたとき連想したのは、古くからの言い習わしだった。 ――死生、命(めい)あり ――人の生死は天命によるもので、人の力ではどうしようもない。 ――天地に万古あるも、この身は再び得られず ――空と大地は永遠に続くが、人生は再びやり直すことはできない。 死に抗うのは間違っている。 二度目の生を望むのも、また然り。 教師として様々な知識を保有する葵の、それが結論だった。 葵は明晰な頭脳を持っているが故に、人生を達観しているところがある。 死んだことは残念で、心残りもないわけではない。 だが、死んだという現実は受け入れるものだという理性が、本能よりも強かったのだ。 この島でどう動くか。 その問いに対する葵の答えは“静観”。 主催者に反抗するつもりも、人を殺して回るつもりもない。 かといって、自殺をするつもりもない。 既に死んだ身として、流れに身を任せる、ただそれだけのことだった。 かつん、かつん、と足音を鳴らしながら、葵は監獄を奥へ奥へと進んでいく。 監獄を探索しているのは、目が覚めたのが監獄の一室ということもあったが、単純に興味が湧いたのも一つだ。 一部屋一部屋を覗き込み、たまに物珍しげに頷く。 もしこの監獄に囚人や看守がいたならば、葵を変人だと思っただろう。 上下左右を鉄に囲まれた、罪人を収容するための施設をじっくりと見る女など、そうそういない。 馬鹿と天才は紙一重、などと揶揄されても、仕方がないだろう。 それでも、監獄に来るのも監獄を見るのも初めてな葵は、ゆっくりと歩き続けた。 もし、葵の理性の箍が外れることがあるとすれば、それは親しい者に関係する事柄だろう。 例えば親類。葵の場合は両親と妹がいる。 例えば生徒。葵は教師として新人ながら担任を持っている。 彼ら、彼女らが危険な状況にいると分かれば、葵も冷静さを失うことは間違いない。 今の葵の冷静さは、自分の親しい者が、現在の自分と同じ境遇にいないと思っている上で成り立っている。 達観しているように見えて、実は愛に溢れている女性。 それが村雨葵という女なのだ。 殺し合いが開始されてから、おおよそ一時間半ほど経ったころ。 葵はとうとう、監獄の最も奥にある扉まで到達した。 今の葵は、デイパックの中に入っていた毛皮のコートを、スーツの上から羽織っている。 途中、階段を何度か降りたため、かなり地下深くまで来ており、寒さが増しているのだ。 体温が下がったために、地肌は普段に比べても白くなっている。 葵からすれば、やっと最後の扉に辿り着くことができた、という気持ちだろう。 扉に鍵のようなものはないことを確認した葵は、自分の背丈よりも高い扉を見上げた。 この先に何が待っているのか。 流石の葵も、緊張からか生唾を飲む。 そして、寒さと好奇心の両方から震える手を、厳めしい扉に掛けた。 ■ Q.罪人を閉じ込めておくべき施設である監獄の扉を、成人女性が一人で開けられると思いますか? 【F-9 監獄/未明】 【村雨葵】 【状態】健康、体温低下 【装備】毛皮のコート 【所持品】基本支給品、ランダム支給品×2 【思考・行動】 1:流れに身を任せる。 2:監獄の奥にある扉を開けたい。 【備考】 ※監獄をある程度探索しました。見落としている所、物があるかもしれません。 ※監獄の地下深くには、重い扉(少なくとも成人女性一人では開けられない)があるようです。詳細は不明です。 ---- **SSリンク |[[「吸血大サービス」]]|前話|次話|[[「きわめて受動的な自殺」]]| ---- **このSSの登場人物 -[[村雨葵]] ---- [[本編SS目次へもどる>本編SS目次]] [[トップページへ>トップページ]]

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: