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「うぃーっス・・・イテテテテ」
「あ、どぅーだー!おひさしブリーフ!」
「お、どうした?やっと退院か?」

だるそうに1年の教室に入ってきたのは先日、鈴木香音に挑んで大怪我をした工藤遥だ

「どぅー!会いたかったよー!二ヒヒヒヒヒ!」
「痛ってぇ!やめろ!触んなゴルァ!」

工藤遥にじゃれつき、完治していない身体を容赦なく抱き締めたり肘打ちを入れたりしているのは佐藤優樹
入学して日は浅いが様々な逸話を持つモー商始まって以来の問題児?である

「随分無茶してくれたじゃねーか。フツーいきなり九鬼に喧嘩売るか?バカだろ?」
「うっせ腰抜け!『鞘師を倒す!』とか宣言しといてなんもしねぇおめぇよりマシだ」
「あ?物事には順番ってもんがあんだよ、そもそもおめーが何も考えないで突っ込んでいったせいで
 ナマタとか出てきて大変だったんだぞこっちは」

工藤に愚痴るメガネに青ジャージの小兵は石田亜佑美
九鬼の鞘師に匹敵すると鳴り物入りで他校から転校してきた実力者・・・らしい

「おっ、喧嘩ったのかナマタと?」
「いや・・・」
「あら、退院したのどぅー?ちゃんと九鬼さんとは話つけといたから安心して」

いきなりひょいっと現れた細身の女は飯窪春菜。
その恐るべき社交力でその場その場で誰の味方にでも変貌する『無敵』の人物だ

「話つけたってって何だよ!」
「あー、ストレートに『今回の件は工藤個人の暴走であり私達には何の関わりもございません。九鬼様方に弓引く気などございません』と」
「・・・相変わらず最っ低だな」
「最低だけどグッジョブ!はるなん」
「ぐっじょーぶ!ウヒヒヒヒヒ」

ビシッ!と石田と佐藤が飯窪に親指を立てる
ふぅーっ、と大きな溜息をついて頭を掻きながら教室から出ていこうとする遥

「お?どうした?九鬼に詫びでも入れにいくのか?それとも逃げんのか?」
「逃げねーよバカ!あのクソデヴにリベンジに決まってんだろ!」
「がんばって~!ちゃんと傷薬と包帯用意しとくから」
「死ぬなよ・・・いや、もう死んだみたいなもんか」

無責任に手を振る飯窪、手を合わせ南無~と祈る石田
ここまでは天鬼組によくある風景・・・だった

「あ、どぅー!もしかしてクソデヴってすーずっきさんのこと?」
「他に誰が居んだよ!」
「すーずっきさんならまーが鬼ごっこして・・・」
「うっせ邪魔だ!鬼ごっこの話とかまさにどぅーでもいい!」
「あ、待ってどぅー!」

ぽよん

後ろの佐藤の方を向きながらガラガラッ!と教室の戸を開けて
出ようとした遥は柔らかな何かにぶつかった

「あ、なんだテメ・・・?!」

サッとその何かの方を向いた遥の顔色が一瞬にして変わり
言いかけた啖呵も途切れる

そこにあったのはキッチリ上品に着こなした制服の豊かな胸、遥より一回りは大きい巨大な壁

「お邪魔いたしますわ、天鬼組の皆さん」

いわゆる一般的なモー商の不良生徒達とは異なる、上品で穏やかな佇まい
誰が見ても、それが誰であるのか人目で分かる異彩をモー商内で放つ人物

「譜久村・・・さん・・・」
「あらどぅー、退院おめでとう」

遥に気付いたその人物、チームエッグ時代の先輩~譜久村聖は柔らかい微笑みを遥に向けた
・・・が、少し紅潮したその顔にはいつもの穏やかさとは違う感情が混ざっているように見える

チームエッグ時代に何回かだけ見たことがある・・・怒っているときの譜久村聖

一瞬、遥の中に寒気が走ったが先程の挨拶からして、ターゲットは自分じゃない
・・・じゃあ誰だ?

「佐藤さんというのはどなた?」

いつもの口調・・・しかし明らかな怒気を言葉に含んでいる
まー!お前何をしたんだ?

「はいっ、私がまーちゃんですっ!こんちくわ!」

元気よく挨拶する優樹
その後ろで飯窪春菜が教室後方のもう一つの戸からそーっ、と逃げ出そうとしているのが見える

「おい!待・・・」

遥が声を掛けようとしたその瞬間

ドカーン!!!

とド派手な音と共に教室後方の戸が吹っ飛び、飯窪春菜を直撃する

「どげぇっ!」

戸の下敷きになり、カエルのように無様に潰れる飯窪

「何っ!?」

サッ、と戸の方に身構える石田

「佐藤優樹っていう奴はどこにおると!!!」

扉を蹴破った張本人は2つ先の教室まで聞こえそうな大音声でこれまた優樹の名を口にした

生田衣梨奈・・・通称、ナマタ。
軽々と扉を蹴破り、飯窪の身体ごと吹っ飛ばしたことからもわかるように
恐るべき怪力の持ち主である。

ポンポン・・・コイツらが揃うなんて・・・

「おい優樹!お前一体何を・・・」

遥の言葉を、今度は譜久村聖の言葉が遮った

「佐藤さん、香音ちゃんを押したというのは本当ですか?」

押した?押したって何だ?なんで押したぐらいでコイツらそんなに怒る?

「はいっ!押しました!」

まったく悪びれず、優樹が笑顔で答える
シーン・・・と一瞬であるがあるが静寂の間が流れた

「なんで押したの!!!」

その静寂を打ち破ったのは遥がかつて聞いたことがない、聖の絶叫混じりの怒声

「うるぁああああああああああああああああああああああああああ!!!」

その怒声とほぼ同時に、ナマタが雄叫びを挙げて後方から優樹に向かって走り出した

「くっ!」

その迫力に石田も身構えたまま動くことが出来ない
優樹も譜久村さんの方を向いたまま微動だにしない・・・これはアカン!
一瞬にして間合いを詰め、ナマタは勢いごと優樹を粉砕するかのように後ろから拳を放った

「うるぁ!」

しかし・・・優樹はまるで後ろに目でもついてるかのように軽やかなステップでスッ、とその拳から身を避わす

「えっ!?」

そのままの連続ステップ・・・まるでバレエのような動きでくるり、と優樹はナマタの背後に回り込んだ。
そして・・・

「どーん!」

押した・・・優樹がナマタの身体を両手で思いっ切り後ろから押した・・・押したってまさかこれのことか!?

「おーっ、とっとっとーとー???!!!」

突撃の勢い+押された勢いでナマタはそのまま聖に物凄い勢いで突っ込んでいく
これは・・・避わせない!
遥の脳内には聖がそのままナマタのタックルを食らって粉砕される絵しか浮かばなかった。
しかし、現実は遥の予想のナナメ上をいくものだった。

すっ、すっ、すっ・・・譜久村聖は佐藤優樹のそれとは違う、まるで日本舞踊のようなステップで
立ち位置を微妙にずらし、ガッ!とすれ違い様に両手でナマタの手首を掴んだ
ここでフクムラロック!?いや、ちがう!

ぽーん!

次の瞬間、ナマタ・・・生田衣梨奈の身体が宙を舞った
手首を極めてからの合気投げ・・・譜久村聖の得意技
『ぽんぽん』の片方の『ぽん』の由来でもある

どがっ!床に叩きつけられるナマタの身体
すぐにサッ、と抱き起こす聖

「ごめんえりぽん!でもこうしないとえりぽん壁に突っ込んでた!」
「酷かよみずき・・・でも大丈夫っちゃ。こんぐらいの投げ、なんちゃあないけん」
「無理しないで寝てて。アイツは私が殺るから」

ナマタを床に寝かせ、ゆっくりと聖が立ち上がった
ゆらっ、とその周囲には陽炎のようなものが見える

優樹に背を向けたまま顔だけ向けて聖が呟く

「さっきみたいに・・・香音ちゃんを押したの?」
「はい!」

優樹は相変わらず笑顔だ。コイツ・・・やっぱイカれてんだろ

「なんで?なんで押したの?」

また同じ質問。無駄っスよ。コイツに理屈なんか通用・・・

「どぅーの仇です!」

えっ・・・!?
おいおい!何言ってくれちゃってんだよお前!
ハルの仇って・・・ちょ、待てよ!おい!

「仇・・・?」

再び聖の背中に陽炎がゆらめき始めた

「なら・・・」

ゆっくりと優樹に身体を向ける聖

「私が香音ちゃんの仇を取っても問題なしってことね!!!」

カッ!と目を見開いて譜久村聖は佐藤優樹への宣戦布告を叩き付けた。
やっべー・・・全面抗争にしてもこの人とだけは戦いたくねー。。。

遥は自らの微妙な立場を鑑みつつ、ここからの展開、マッチアップに頭をフル回転させる。

まずクソデヴは今までの譜久村さんの口ぶりからするともうリタイアしてる?
ナマタは今は寝てるけど絶対立ち上がってくる・・・ハルとだーいしと2人がかりでなんとかなるか?
譜久村さんは・・・まーは譜久村さんに勝てるのか?全然読めねー。
鞘師が出てきたら・・・アウト臭いけどアイツは絶対出てこないだろう
なんせ校内のことには全然関心なさそうだから

「いきますわよ!」
「ウヒヒヒヒヒ!」

遂に始まった九鬼と天鬼の抗争。
だがこのとき、この抗争が思わぬ方向へと飛び火することを遥達は予想していなかったのだ。
 

 

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