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これは彼女がベリ工入学当初の出来事である。
当時の彼女は、これといった武勇伝もなく′墜天使・嗣永′、′大巨人・熊井′といった通り名もなかった。
ベリ工の覇権を争う面子の中では、地味メンであり格下扱いされていた。
そんなある日。

「千奈美、あんたベリ工戦争参加するの?」
ベリ工戦争。それは、ベリ工内で催される強者決定戦。
今年のベリ工戦争優勝の最右翼である嗣永桃子は、親友の徳永に問いかけた。

「しないよ。ウチはアンタみたいに鉄パイプで他人の頭殴るような図太い神経も持ってないし、熊井とか須藤のように体格にも恵まれてないし。うーん、何ていうの?勝つビジョン?それが見えないもん。」
嗣永はふーんと言って少し笑った。それは親友をボコらなくて済む安堵の表情にも見えた。

「まぁでも一応アンタもベリ工生なんだからね。点数稼ぎで狙う奴はいるかもしれないし。アンタは喧嘩弱いんだから気をつけなさいよ。」

そう徳永に言って、嗣永は夜の街に消えた。

「分かってるよ。そんなこと…。でも、ウチには何もない…。」
喧嘩が弱い。嗣永の最後の言葉が徳永の頭を駆け巡った。
せっかくベリ工に入学したのにこのままじゃジリ貧だ。何か一発デカイことをやらないと…。

そんな事を考えながらとぼとぼと街を歩いていた。

ふと、曲がり角で誰かにぶつかった。
「痛ッ!痛いなぁ。ちゃんと前みて歩け!」
言ってから徳永はぶつかった相手を見た。いや、見上げた。
そこには天にも届かんばかりの女が立っていた。
大巨人・熊井友理奈であった。

大巨人・熊井…。
その圧倒的なフィジカルをベースにベリ工の中でも実力はトップクラスと思われており、嗣永桃子と同じく今年のベリ工戦争の優勝候補である。
「私は前を見ていたわ。前を見てなかったのはあなたでしょ。そしてぶつかった方が謝るべきでしょ。大体…」
熊井が長々と正論を語り出した。

徳永は思った。この女を倒せばベリ工内で地位を築けるんじゃないか?夢のような高校生活を送れるんじゃないか?
倒す。徳永はそう心に決めた。じゃぁ倒すためにまず何をする?どう動く?
「~そう思います。以上。」
熊井の講釈が終わった。
「うるせー、いいから謝れ!このデクノボー!」
徳永が考えた手段。只の悪口…。
「…なんですって!」
しかしこれが熊井の冷たい頭にカチンときた。

ドヒュッ!
熊井が16文近い足で徳永の顔面目掛けて前蹴りを放つ。
間一髪でしゃがんで避けた徳永。すると熊井の放った16文の前蹴りがそのままま16文の踵落としに変化した。

ドカッ!
熊井の踵落としは徳永の肩を直撃した。
瞬間、徳永は肩にある熊井の脚をガッチリホールド。そのまま担ぎ上げた。
徳永「オラァ!」

巨人は倒れた。受け身を失敗し後頭部をしこたま大地に打ち付けて。

徳永は勝った。
彼女自身気づいていなかったが、熊井の踵落としは徳永の脳天を狙ったものだった。技の連絡変化としては満点である。
しかし、徳永の視認性の悪さにより狙いどころを誤ってしまったのだ。
そして徳永の長い手によってホールドされた熊井の脚は彼女に受け身を取ることを許さなかった。

こうして徳永千奈美は、′熊殺し′、′ベリ工の黒豹′の異名を持つようになる。
そして後々ベリ工の戦力として、なくてはならない人間となっていく。

彼女は何もない人間などではなかった。
彼女は夜の闇に紛れる夜専用ステルスと、美しく長い手足を持っていた。


徳永伝 完